西日本新聞

夫の遺作漫画 単行本に 大牟田市の三隅真記さん

2011年03月02日 14:31
 ■「健の夢かなえたい」 編集に参加 「誰かの心を明るく」
 
 2008年12月、漫画家を目指しながら夢半ばにして亡くなった大牟田市の三隅健(たけし)さんの妻真記さん(30)が、三隅さんが書き残した漫画の編集作業に参加し、単行本「ムルチ」として、小学館から出版した。夫は何を考え、何を伝えたかったのか-。漫画のせりふを一言ずつかみしめながら編集作業にあたった真記さんは「健が残していった思いを、一人でも多くの人に届けたい」と願う。
 (大牟田支局・小原紀子)

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三隅健さんの作品「ムルチ」(小学館出版)より
 「すごいバランスで生きてんのよ、ほんときせきだと思わない?」

 三隅さんの遺作となった漫画「ムルチ」の巻末に掲載されているわずか2ページの短編漫画「空」。その中で、ビル屋上の柵の上に立った少女のせりふが、真記さんの心に迫ってくる。

 「健の漫画は、前向きに明るくいこうというストーリーではない。誰もが抱える孤独感や寂しさを描きながら、だけど自分だけじゃないんだと共感できる安心感というか、優しさを描きたかったんじゃないかな」

 「ムルチ」は、B6版、154ページで860円。「七色岬」「ブルーハワイ島」などのタイトルで、現実と空想が入り交じった不思議な世界を描いた短編6編からなる。全作品の随所に、三隅さんが生まれ育った大牟田の街をモデルにした風景が描かれている。

 本のタイトルになった「ムルチ」は、人間が触れると1週間で死んでしまう架空の動物。短編の中では、ムルチを捕りにいった高校生が、ムルチを抱いた少女と出会い、弱っていくムルチのすみかを一緒に探す物語だ。

   □   □

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三隅健さんの遺作となった単行本「ムルチ」を手にする真記さん
 三隅さんは、幼いころからプロの漫画家になるのが夢で、いつも紙と鉛筆を持ち歩き絵を描いていたという。中学生時代、教科書の端に書いた「パラパラ漫画」(連続漫画)は教師にも好評だった。地元の大牟田高校卒業後は、福岡市のデザインの専門学校に通い、仕事をしながら漫画を書き続け、月刊誌などに投稿。08年7月、小学館の月刊誌「IKKI」で新人賞を獲得した。

 半年後の12月30日、IKKIの編集者から「新人の漫画を単行本化する企画が通った。彼の漫画をぜひ薦めたい」と連絡があった。しかし、三隅さんはその前日、34歳の若さで亡くなっていた。

 真記さんは、夫の夢をかなえようと、単行本化するための編集作業に携わった。漫画を読み返すことは、夫の死を突き付けられるつらい作業でもあったが、「健が伝えたかった孤独の中にもある安心感や温かさを、代わりに届けてあげたい。彼は漫画で世界や誰かの心を変えられると信じていた。きっと誰かの心を少しでも明るくしたかったんだと思う」との一心で作業を続けた。

 せりふ一つ直すことにも時間をかけ、考えた。作業を続けるうちに、生前は気付かなかった、漫画を書くために費やした夫の努力と才能を思い知らされた。

   □   □

 漫画は2月から小学館の企画に賛同した全国の書店に並ぶ。三隅さんの母や兄弟も、暇を見つけては九州各地の書店を回り、営業活動をしているという。

 「家族が一つになって彼の夢をかなえることができた。きっと本人が一番喜んでいると思う」

 夫の夢をかなえた漫画を手に真記さんがほほ笑んだ。


=2010/03/02付 西日本新聞朝刊=

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