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  強欲の迷宮 作者:ZのR
ごめんなさい……今回でエロまで持ってくつもりでしたが途中で力尽きました。
もともと今回書き始めるのが遅かったのが原因なんですけど
(これ書いてるの30日の23時半)平日1日、実質3時間程度のしかも携帯執筆では不可能だと判断して投稿します。
……勢いだけで突っ走って執筆放り出すのを予防するには定期的な更新を心掛けるのがいいと思うわけですよ。


多数のお気に入り登録をいただいておりますが、そろそろ見限られそうで内心ビクビクしてるZのRです。
虚無のごとき瞳
 それは一瞬の出来事だった。
 幅広の街道をゆく大商隊、逆方向――とある国家の都市――へ向かう者に鉢合わせする可能性が皆無なのと、何より来るであろう野盗の襲撃に備えて何列にも並んで進む馬車とそれを囲む護衛の探索者達。
 その集団に向けて一斉に矢が放たれたのは。

『喰らえ』

 確実に護衛と商隊に被害を与えるはずの矢は、しかしその言葉が放たれると同時に失速し、力なく地に落ちた。
 まるで言葉の通り、勢いを喰われたかのような矢の様子に、襲撃者達の間に動揺が走るが、すでに賽は投げられている。
 襲撃者、鉱山都市へ向かう商隊を狙う野盗達は一斉に森の中から飛び出し、まずは邪魔な護衛を片付けるべく各々手に持った獲物を振り上げ――

『刻め』

 再び放たれた別の言葉に、今度は首を飛ばされた。
 一人ではない。
 真っ先に飛び出した十数人、その首が一斉に飛んだのだ。
 何が起こったのか分からない、そんな顔を張り付けたままの首が地に落ち、遅れて首から上を失った胴体が深紅の噴水を上げた。
 これにはさすがに後続の野盗達も足を止めた。
 が、護衛の探索者達も思考が停止していた。

「て、敵襲ー!!」

 やっと我に返った探索者が上げた声に、他の探索者達もそれぞれ獲物を構える。
 しかしこの時すでに、野盗の襲撃は終わっていると言っても過言ではなかった。

「降伏しろ、逃げる者は殺す」

 淡々と告げるのは、この場に居る者の中で唯一動じていない男、カイトだ。
 抜き放ち右手に構えた刀からは白銀の光が放たれ、左手に持った鞘は逆に周りの光を吸い込むかのように漆黒に包まれている。

「ひっ!」

 野盗の一人が踵を返して逃走しようとするが、カイトが刀を振るうとその首が飛んだ。
 明らかに間合いの外であるにも関わらず。
 首を失った死体が数歩歩いて、思い出したかのように血を噴き倒れた。
 野盗達は恐慌状態だ。
 悲鳴を上げて逃げようとするが、その悲鳴が途絶えていく。
 途絶えざるを得ない。
 逃げる素振りをするだけで首を飛ばされるのだから。
 やがてそこには武器を放り出して降伏する者と、首を無くして倒れ伏す死体と、恐怖を張り付けたまま絶命した生首しか残って居なかった。
 周囲はどす黒いほど鮮血に染まり、むせ返るような臭気がただよっている。
 と、その地獄絵図を作り上げた張本人が、今度は最初に野盗達が飛び出して来たのとは反対の森へと駆けていく。
 やがて森の中からも悲鳴が上がり、その悲鳴が途切れるのを繰り返された。
 どうやら狭撃する作戦だったようだが完全に失敗に終わった。

 戻ってきたカイトはやはり一滴の返り血も浴びていなかった。
 その右手に持った刀すら、少しも血に塗れておらず、ただただ月光のごとき白銀の光を放つのみであった。
 悲鳴が聞こえていなかったら、まるで人を殺してきた後には見えない。
 しかし気のせいか、周囲に漂う血臭がわずかに濃くなったようにも思えた。
 きっと森の中も鮮血で溢れ、生首と首なし死体が無数に転がっているのだろう。
 と、カイトが刀身を鞘に収めると刀の光も鞘の闇も消え、彼はソレを腰に差すと馬車の荷物を漁り始めた。

「……降伏したヤツの拘束くらい、手伝ってくれてもいいんじゃないか?」

 取出したのは荒縄。
 そして言葉を掛けられ、やっと他の探索者達も動き始めた。
 もっとも、この10分にも満たない間に起こった出来事に、未だ理解が追い付いていないようではあったが。

「アンタ、一体……」

 探索者の一人が降伏した野盗を拘束するカイトに声をかけようとするが、振り向いたカイトの顔を見るなり口をつぐんだ。
 後に他の探索者達が彼にその時の事を聞こうとしたが、その探索者は何を思い出したのか顔を真っ青にするだけで何も語ってはくれなかった。

 降伏した野盗を全員拘束した後、カイトは一度奴隷達を乗せた馬車を見に行き、戻ってきた時には元の無表情だった。
 だから多分、野盗を壊滅させた時のカイトの表情を見たのは、当の野盗達と一人の探索者と奴隷達だけだろう。



「やあ、お疲れ様」

 鉱山都市へ無事帰還して、明けた翌日の朝。
 カイトは探索者ギルド本部へ来ていた。
 前回同様応接間へ通され、やはり部屋ではギルド本部長のロドニー氏が待っていた。

「昨夜はお楽しみだったかい?」

「ノーコメント」

 ロドニー氏のからかうような口調に、カイトは答えるのを拒否する。
 あまり答えを気にしていなかったのだろうか、あるいは社交辞令のつもりだったのか、ロドニー氏はあまり追求してこない。

「まあいいさ、それよりも君のおかげでずいぶん助かったよ」

 はっきり言ってカイトの強さはロドニー氏の予想のはるか上だった。
 予定では多少の被害を出すが無事盗賊を撃退し、その被害によってカイトは買った奴隷を回収される。
 あとは帰還後にその奴隷を改めて渡して恩を売り、以後の行動をある程度コントロールできるようにするつもりだったのだ。

 あては外れたが、しかし当面の問題が片付いたのは事実だ。

「これが追加の報酬だ」

 そう言ってロドニー氏が差し出した袋。
 受け取って中を確認すると、中に入っているのは小振りな晶貨が数十枚。

「1万ルクス、ってとこか」

 ちなみに通常の報酬はランクと同様先払いでもらっており、今までの迷宮での稼ぎのほぼ全てと一緒にフィリスの代金として支払っている。
 なので現在ほぼ無一文、無事帰還した翌日だと言うのに早々に迷宮へもぐって宿代だけでも稼ぐ必要がある状態だったのだが、これで当面の懐状態は安泰だ。

 もっともフィリスを手元にとどめておくために、つまりはランクを維持する為にそう何日も迷宮探索をサボるわけにも行かないが。

「ああそうだ、野盗の残党狩りなんて仕事を引き受ける気はないかい?」

「ないな。 これっぽっちも、まったく。」

 カイトはロドニー氏の提案を、無表情ながらどこか嫌そうに断った。
 そして腰に差していた刀を鞘に収めたままロドニー氏の眼前へ持っていく。
 よく見れば刀はカタカタと微細に振動していた。

「ただでさえ『コイツ等』の機嫌が悪くなってる。
これ以上ヒトの血を見せる訳には行かない」


――――――――――――――

 その日の夕方、部屋のドアが開く音でフィリスは目を覚ました。
 朝、目を覚ましたカイトからやっと開放されて、出掛ける彼の後姿を見送るとともにベッドに伏せ、今まで寝ていたのだ。
 入ってきたのは当然カイト、その手には紙袋を抱えている。

 ところでフィリスが昨晩、何をされたか覚えているだろうか?
 全裸にされて一晩中抱きしめられていた、確かにそうだが言いたいのはそこではない。
 目を覚ましフィリスを放した後、すぐにカイトは出掛け限界だった彼女はすぐに眠りに落ちたのだ。

 ……つまり、現在進行形で彼女は全裸のままだったりする。

 それを把握したフィリスは、自分の方を見ているカイトに枕をぶん投げ、あわててシーツに潜り込んだ。
 昨夜は明かりが消されていたし、羞恥よりカイトに対する恐怖が大きかった。
 今も恐怖はあるが、それは羞恥によるパニックで塗り潰されている。

 奴隷とは、つまるところ身分である。
 それまで普通の人間として生きてきた者が、金か何らかの事情かで奴隷へと落とされモノとして取り引きされる。
 自分の主となった者に逆らう事はできないし、どのように扱われても抗議すらできない。
 しかし買い取った商人も、主でさえもその心まで所有する事はできない。
 奴隷が心を許せる存在だけは、その奴隷が自分の意志で決める事ができるのだ。

 奴隷を持つ探索者達はそれを知っているからこそ、なおさら自分の奴隷をモノとして扱う。
 奴隷である限りどれだけ長く接しようと、彼女達の心は自分のものにはならないのだから。

 だから奴隷として探索者ギルドに買い取られるまで、普通の少女だっただろうフィリスがそんな行動を取ってもおかしくはない。
 身分は奴隷に落とされても、心は売られる前と変わらない。
 人並みの羞恥心も持っていれば、自分の身体を玩具のように扱われる事に恐怖するただの少女のままである。

 『魔法』の存在しないこの世界では、ヒトの意志を操ったり、心を書き換える事はできないのだ。


 ただ、だからと言って自分の主に枕を投げつけたフィリスの行動はまずいだろう。
 彼女もその自覚があるらしく、潜り込んだシーツからおそるおそる、頭だけ出してカイトの様子を伺う。
 投げつけられた枕をしっかりキャッチしていたカイトは、その枕をベッドに戻し、亀のように頭だけ出しているフィリスに手をのばす。
 フィリスが反射的にビクッと震え、目をギュッと閉じるがかまわずその金髪に触れ、

「……なんにもしないから、そんなに怯えんな」

 そのまま優しく頭を撫でる。
 と、きゅるるるるっと音が鳴ると同時にフィリスの顔が真っ赤に染まった。
 何の音かはおして知るべし。
 彼女は宿に連れ込まれてから丸一日、何も口にしていない。
 しかもカイトの持ってる紙袋から、いい匂いが漂ってきていたのだ。
 カイトは苦笑するように口を笑みの形にすると、

「ほら、これ着て飯にしよう」

 とフィリスの前に白い布地の服を置いた。
 シーツの中から両腕も出して広げてみると、ゆったりとしたワンピースだった。
 簡素な作りだが上等な生地を使ってある。

「……こんな、いい……んですか?」

 慣れていないのか一瞬言い淀んで敬語に直す。
 そして自分は奴隷なのに、と続けようとするが、

「ほほう、主人の厚意を無駄にするのが奴隷の心得なのか?」

 そう問われれば従うしかない。
 しかし着ようとして、皺や汚れを付けずに着るにはシーツから出るしかない事に思い至る。

「あ、あの……」

「ん、どうした?」

 見ないで欲しいと言おうとして、カイトが別の笑みを――ニヤニヤ――している事で悟る。
 顔を再び赤くして、渋々シーツから出て渡された服を着る。
 その一部始終をカイトはしっかり見ていた。

「悪いな、サイズが分からなかったからそんなのしか買ってこれなかった」

 確かにフィリスの身体には少々大き過ぎて、だぶついている。
 だが昨日まで着ていた布切れよりは遥かにましだ。
 ギルドに買われた時に着せられた、胸と腰しか隠せていないボロボロのアレは服とは呼べない。
 もっともそれはギルドが意図したもので、彼女達に自分が奴隷であり人間扱いをされないと自覚させる為の措置なのだが。
 そしてフィリスが服を着おわるのを見届けると、カイトは紙袋から取出したものを彼女に渡した。
 それは焼きたてなのか、ほのかな温かさを持ったパンだった。
 蜜をたっぷりかけてあるそれは、食欲をそそる香ばしい香りを漂わせていて。
 ちぎった欠片を躊躇いがちに口に運ぶと、蜜の甘さとバターの風味が口いっぱいに広がった。
 熱い雫に視界が歪む。
 よく考えればまともな食事をとるのは何日ぶりだろう。
 ギルドに買われれて鉱山都市に着くまで彼女達は、彼女はろくな食べ物も与えられていなかった。
 探索者に買われる奴隷達は、ほんの一部を除いて長くは『保たない』。
 ならばそんな「消耗品」に余計な金はかけられないとばかりに、食事は朝と夕にわずかな具のスープを与えるのみだった。
 泣きながらパンを口に運び、ようやく落ち着いた時にはカイトの買ってきたパンは全部無くなっていた。
 ちなみにカイトは紙袋に入っていた果実を齧っただけで、パンには手を付けていない。

「それ、気に入ったか?」

 いつもの無表情だが、少し不機嫌そうなのは自分が買ってきたパンを全部、フィリスが食べたせいだろうか。

「……あ、あのその」

 あうあうとフィリスが慌てるが、カイトはそんな彼女の手を掴み、口に寄せた。

「ひゃうっ!!」

 ピクンとフィリスが身体を震わせるがかまわず、彼女の手に付いた蜜を舐めとっていく。
 手の蜜を舐めとり終わると今度は頬。

「や……んんっ!!」

 そのまま少しずらして唇で唇をふさぐと、彼女の口の中に舐めとった蜜や涙を流しこんでやる。
 思わずはき出そうとするが、唇を離したカイトは彼女の口を手でふさぎ

「飲め」

 と命令した。

「俺は別にお前を哀れに思ったから、同情したから買ったわけじゃない」

 口をふさぐ手から逃れようと、イヤイヤをするように首を振るフィリス。
 しかし息が苦しくなったのか、目に再び涙を浮かべて口の中のものを飲み下した。
 白い喉が上下するのを確認したカイトはやっと手を離し、咳き込みながら大きく息をするフィリスに顔を寄せ、囁くように言葉をつむぐ。

「別に他の連中(探索者)とは違って傷を付けるつもりはないがな。
――買った以上は『夜の相手』はしてもらうし、他にも楽しませてもらう」

 こんな風に、とフィリスの顔を自分に向け、再び唇を重ねる。
 彼女にとってはセカンドキスだ、ファーストキスはさっき奪われた。

 今度は長く、しかも濃厚に。
 舌を使って口をこじ開け、無理やりフィリスの舌と絡み合わせる。

「んんん!!むぅっ!!」

 そのまま器用に彼女の舌を引きずり出して自分の口の中で味わうように愛撫する。
 やっと離してもらえた時には、フィリスは息も絶え絶えになり上気したように顔を真っ赤に染めていた。
 しかしカイトが再び手を伸ばすと、ビクッと振るえて身を縮こまらせた。
 怯えるフィリスに、カイトはため息をついて提案をした。

「賭けをしないか?」

 その瞳に怯えの色を宿したまま、フィリスはカイトを見上げる。

「その賭けにお前が勝てば、俺はこれ以上お前に何もしない。
 望むのなら、金が貯まり次第奴隷からも解放してやる。
だが俺が勝ったら、以降お前にする事を拒む事をやめろ。
それが条件だ」

 くどいようだが奴隷は身分であり、つまるところ金さえ積めばその身分から解放する事もできる。
 しかもギルドの調整が入って割高になっている奴隷購入の値段より遥かに安い。
 しかし解放の手続きを取れるのはその奴隷を所有するものだけに限り、そもそもこの街で奴隷を持てるのは一定以上の功績を納める探索者だけである。
 その探索者達が、高い金を出して買った奴隷を解放するか。
 答えは否であり、極一部の例外を除いてまずない。
 その奴隷に飽きたり壊したりした場合、普通の探索者は売り飛ばすか捨てるか。
 この「捨てる」と言う事の説明は時期を見てする事とする。


 カイトの言った「解放」の言葉に、フィリスは過剰に反応した。
 無理もない、この街では自分の所有する奴隷には何をしても許されるのだから。
 今はまだ抵抗しても何もしてこないが、目の前にいるのは襲撃してきた盗賊をあっさり全滅させるような男なのだ。
 その時の事を思い出す度にフィリスは全身を震わせる。
 事が終わった後、おそらくは自分の様子を見に来たカイトの金の目は、誰も映していなかった。
 まるで目に映る全てがモノにしか見えないように、自分を見ているはずの彼の瞳には何の感情も浮かんでいない。
 それはおよそ、血の通った人間には到底できないような空虚な目だった。
 それを思い出しただけで、いままで忘れていた恐怖が戻ってくる。
 自分に傷を付けるつもりはないと言ったが、いずれ抗った事を後悔させられるような事をされないとも限らない。
 だから

「賭け、とは?」

 そう問うた。
前回のあとがきでアンケートとらさせていただいた結果ですが、
フィリスの扱いは純愛・ハード調教と言う事になりました。

いや、ちゃんと書けるかどうか不安ですが、力の限り頑張ります。


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