INTERVIEW 次代の介護を創る35

No.35 現場のいい仕事

介護の仕事の楽しさを広める。

スタッフみんなが熱くなれる環境を創りたい

日本介護福祉グループ(茶話本舗)
直営事業本部 開設事業部 部長

高橋 萌

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20代にして日本介護福祉グループ(茶話本舗)の開設事業部部長を務める高橋萌さん。何も知らず飛び込んだ介護業界だったが、今では「この仕事が天職!」と言い切る。人に興味があり、大学では心理学を学んだ。新卒で不動産関連の会社に勤めたが、「もっと深く人と関わる仕事がしたい」と考え始めた頃、同社に出会った。入社して2年、介護職から施設長、エリアマネジャー、開設事業部部長と、異例ともいえる速さで、次々と新しいステージを楽しんでいる高橋さんに、仕事の魅力を聞いた。

「施設長やりたいです!」。まっさらで飛び込んだ介護業界

介護業界との出会いはまったくの偶然。転職情報サイトへ登録したところ、最初に紹介メールが送られてきたのが、日本介護福祉グループだったんです。正直、介護業界のことは何も知らなくて、「年配の女性が多くて、自己犠牲的な優しい人が多い仕事なんだろうな」くらいのイメージでした。それが、面接に行って驚きました。オフィスにはスキンヘッドの男性がいて、さらに面接に出てきたのは、今どきのファッションの若い男性(現・直営事業本部長の麻生でした)。「なんだろうこの会社?」と、頭のなかは???マークでいっぱいでしたが、「日本の介護の問題、今の限界に挑戦する」という熱い思いに圧倒され、また、ケアに関する「生活リハビリ※」という考え方を聞くうち、自分がやりたいことのイメージがはっきりと浮かんできたんです。それは、「自分のおじいちゃん、おばあちゃんに、こう過ごしてもらいたいと思うようなことができる場所を作りたい」というもの。施設長になれば権限が与えられて、好きなように事業所づくりができると聞き、「やってみたい?」との質問に、「施設長やりたいです!」と即答していました。この業界には若くても、未経験でも、責任ある仕事を任せてもらえるチャンスがあるんだと感じましたね。
※生活リハビリ=日常生活の動作をリハビリテーションととらえ、家事や趣味など生活のなかで身体を動かしながら身体機能の維持・回復をはかり、高齢者が現在の能力に応じて自立した生活が送れるようケアを行うこと

「これでスタートが切れた」と思えた瞬間

とはいえ、介護についてはまったくの新人ですから、はじめは介護職員として仕事を覚えることからスタート。新小岩の茶話本舗デイサービス江戸亭という事業所に配属になり、先輩について1日の流れを覚えていきました。初日から利用者さんと話をして過ごすのが楽しくて楽しくて。しかも、その様子を見た先輩が褒めてくれるので、「これが仕事になるんだ!」と驚きとともに手ごたえも感じていました。ところが、一ヵ月ほどたった頃、入浴拒否をされるご利用者さんの入浴のお手伝いを任され、転機が訪れました。私としてはいつも先輩がやっているように誘導したつもりだったのですが、「あなた騙したわね!」とおっしゃって、まったく受け付けてもらえなかったのです。その時、楽しく話をしてくださるからといって、それは表面的な部分で、本当に信頼されていたわけではなかったんだと思い知りました。そこで、まずは自分のことをよく知ってもらおうと普段から接点を多く持つようにしました。しばらくして、「あなたなら大丈夫ね」と言っていただけた瞬間、「これでやっとプロとしてのスタートが切れた」と感じることができました。ご利用者さんと心を結ぶことができたこの瞬間が、私の原点です。

入社3ヵ月で施設長に

入社してわずか3ヵ月、「江戸亭は高橋に任せる!」との上司の言葉とともに、施設長に着任。「自分に務まるのか?」という不安もありましたが、チャンスだという思いもありました。やるからには責任ある仕事をしたいと考えていたからです。施設長の仕事は、一言でいえば、“施設づくり”。スタッフのまとめ役から、数字の管理、ケアマネジャーさんとのやりとり(営業活動)まで、すべての権限と責任が与えられます。事業所内でのことはすべて判断できなくてはならないので、ご利用者さんが服用されている薬についてまでも必死で勉強しました。とにかく初めの3ヵ月は、自分自身が知識を吸収すること、日常業務を回すことだけで手一杯。しかし少しずつ、余裕が生まれてくると、事業所全体の課題が見えるようになってきました。当時、江戸亭は、ベテランの職員もいましたが、全体としては非常に若いスタッフが多い事業所でした。そのため、経験不足や自信のなさから、いつの間にか自分で自分の限界を決めてしまう傾向がありました。例えば、苦手なご利用者さんを作ってしまい、それがご本人にも伝わって負のスパイラルに入ってしまう。料理が不得意で積極的になれず、昼食づくりをいつも同じスタッフが担当している。といったことなどです。「ご利用者さんに喜んでもらうためには、まずスタッフ自身が仕事を楽しめなくてはならい」そう感じた私は、どうすべきか頭を悩ませました。

スタッフが熱くなれる環境を創りたい!

そこでまず、「職員が自分に自信が持てるように、どんな小さなことでもいい、自分でやりたいことを考えてもらおう。そしてそれをみんなが実現できるようサポート役に徹しよう」と決め、個人面談で目標を話し合うことにしました。特定のご利用者さんに苦手意識をもっているスタッフとは、「昼食の時、ご夫婦の馴れ初めを聞く」という目標を決めたり、料理が苦手なスタッフのためには、他の事業所と共同で料理研修を企画したりもしました。(他事業所のスタッフと交流する機会の少ないスタッフにとって、とてもいい情報交換の場になっていて、今でもこの料理研修は続いています)。そして、どんな小さなことでも実行できたら褒めて、また一緒に次の目標設定を行うといった具合に、一人ひとりと真剣に向き合いました。すると、徐々に職員一人ひとりの意識や行動が変わっていったのです。例えば、認知症のため参加をあきらめていたお孫さんの結婚式に、職員が自ら付き添いを申し出て、出席が実現したこと。発語(=言葉を発すること)が見られないご利用者さんに対して職員が根気よく話しかけたことで、「おはよう」の一言が、二言になり、三言になり、お話される時間が増えていったこと。この時は、ご自宅に電話をかけてご家族に声を聞いていただくと、「おばあちゃんの声を聞いたの何年ぶりだろう」と電話越しにとても喜んでいただけました。見学にいらしたご家族やケアマネジャーさんに、「みなさん生きいきと楽しそうに働いていますね」と言っていただくことも増えていき、「成果がダイレクトに返ってくる、施設長の仕事とはこんなに楽しいものなのか」と充実感でいっぱいになりましたね。

この仕事の楽しさをもっともっと広めたい

施設長時代に常々上司と話していたのは、「こんなに素晴らしい介護という仕事が、世間的に『3K』などと言われているのは悔しい!この楽しさを広めたい」ということ。その想いと江戸亭でのスタッフ育成の実績を認めてもらえたのか、現在は、直営事業本部開設事業部の部長として、新規事業所の統括を任せてもらっています。ミッションは大きく2つで、新事業所の開設準備と、オープン後半年までの事業所の運営サポートです。2011年11月にオープンしたばかりの習志野亭は、20代の男性施設長(将来、看護師の彼女と2人で介護施設を経営したいと、勉強のために他業界から転職)を筆頭に、若手スタッフ中心の事業所です。運営は順調ですが、スタッフの経験が浅いため専門知識が充分でないことが今の課題。江戸亭での経験を踏まえ、施設長と話し合って、事業所内研修を実施するなど全体のレベルアップに取り組んでいます。また新たに新事業所の施設長同士の情報交換会も開催。新事業所ならではの同じ悩みを持つ者同士、コミュニケーション頻度が高くなり、いいサイクルが生まれつつあります。開設事業部は前例がなくすべて手さぐりですが、自分たちで創っていける面白さがあります。茶話本舗はいつも今の実力以上の課題を与えてくれる。そこをクリアしていくことが、大変だけど楽しいのです。今後は、社内だけでなく社外も含めた情報交換・コミュニケーションの場を創って、いい仕事をどんどん広めて行きたいですね。

学生のみなさんへ

私にとって介護の仕事は「天職」。ご利用者さんと関係が結べたと実感できた瞬間がすごく嬉しくてはまっちゃいました。週に2~3日は、どこかの事業所に顔を出していますが、ご利用者さんの笑顔を見るのが一番の楽しみ。でも今は、「現場の楽しさを知っているからこそ、多くの事業所に関わることで、この仕事の楽しさをより強く発信できるはず」と信じ、マネジメント職として、スタッフを熱くすることで、ご利用者さんの笑顔を増やしていきたいと思っています。介護業界は、私も含め、若手が工夫してやっていけるチャンスのある業界だと思います。学生のみなさんにもぜひこの楽しさを知ってもらえたらと思います。

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