AIJ投資顧問による企業年金消失問題に絡み、社会保険庁などから厚生年金基金への大量の天下りが背景にあると指摘されたが、10年9月に当時の長妻昭厚生労働相が基金の役職員選任を公募にするよう通知した後も、少なくとも4人の社保庁OBらが基金側に再就職したことが分かった。通知は法的拘束力のない「お願い」として出されたため実効性を伴わず、その後も天下りが実質的に続いている実態が判明した。(社会面に「年金消失」)
10年9月以降の再就職が判明したのは▽日本ばね工業厚生年金基金事務長(元社保庁総務課長補佐)▽東京都電設工業厚生年金基金専務理事(元兵庫社保事務局長)▽東京都報道事業厚生年金基金常務理事(元厚労省年金局事業企画課監査室長)▽東京薬業厚生年金基金専務理事(元社会保険業務センター情報管理部長)。ただし、4基金はAIJに基金の運用を委託していない。
10年の通知前、長妻氏は厚労省に調査を指示し、09年5月時点で399基金に国家公務員OB646人の天下りが判明。長妻氏は10年9月3日、厚労相名で各基金理事長らに「国と関係団体の関わり方の疑念を払拭(ふっしょく)するため」「公平公正な採用」として公募を行うよう通知した。
日本ばね工業基金の常務理事は「天下りでなく人物本位の採用。通知も承知の上で理事会を経て判断した。公募でぽんとくるより、OBは即戦力となる」と説明。東京都電設工業基金の理事長は「公募はしていない。(OB受け入れは)前から」と話した。東京都報道事業基金の常務理事は「前任者が理事長と相談して決めた。通知は知らなかったが、自分には運用経験もある」と語った。
東京薬業基金の理事長は「覚えてないが、(公募を)やったんじゃないか。やって確か(応募者がOBの)1人だけだったということで」と話している。
AIJの年金消失問題では社保庁OBのネットワークが被害を拡大させた側面があると指摘され、厚労省特別対策本部は3月末までに現在の天下りの実態などの調査結果を公表するとしている。【野倉恵】
毎日新聞 2012年3月21日 東京朝刊