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2012年3月21日(水)付

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原発賠償指針―生活再建へ国も役割を

東京電力福島第一原発の事故で住民に避難指示が出ている区域は、再び住める時期のメドに応じて近く三つに再編される。それを前に政府の損害賠償紛争審査会が追加指針をまとめた。精[記事全文]

国際離婚条約―外務省の責務は重い

ハーグ条約に参加するため、国内の手続きを整える法律案がこのほど閣議決定された。国際結婚が破綻(はたん)し、一方の親が無断で子を連れて出国してしまったとき、その子をいった[記事全文]

原発賠償指針―生活再建へ国も役割を

 東京電力福島第一原発の事故で住民に避難指示が出ている区域は、再び住める時期のメドに応じて近く三つに再編される。それを前に政府の損害賠償紛争審査会が追加指針をまとめた。

 精神的な損害では、引き続き「1人月額10万円」が基本となる。放射線量が年20ミリシーベルト以下の「避難指示解除準備区域」に自宅がある人には月ごとに支払う。20ミリ超から50ミリの「居住制限区域」では2年分の240万円、50ミリ超の「帰還困難区域」では5年分の600万円をまとめて払い、避難が想定より長引いた場合は追加する。

 自営業者やサラリーマンの所得に関する賠償は、個々の事情に応じて続けることにし、打ち切りの時期は示さなかった。不動産は、帰還困難区域では事故前の価値の全額を賠償する。

 審査会は「現時点で決められる基準は示した」としつつ、積み残した項目が多いことも認めている。必要に応じて見直しや検討を続けてほしい。

 東電にも改めて注文したい。指針は被害者の多くに共通する損害への賠償を速く進めるのが狙いで、あくまで最低基準だ。指針が触れていない項目の賠償を渋ったり、機械的に指針の水準に賠償額を抑えたりすることは許されない。

 審査会での検討では、被害者ごとに異なる損害賠償について基準を示すことの難しさが浮き彫りになった。代表例が、放射能汚染への心配から自主的に避難した人への賠償だろう。

 審査会は昨年末、福島県内の23市町村、約150万人を対象に、事故から年末までの分として「子どもと妊婦は1人40万円」などと決めた。原発からの距離や放射線量などに基づく判断だったが、対象からはずれた残り26市町村が反発。政府が拠出して県につくる基金で対応する方向となっている。

 審査会は1月以降の分について市町村ごとの線引きをやめ、「少なくとも子どもと妊婦は賠償の対象となりうる」とだけ示した。事故との因果関係に基づき判断するという審査会の役割が限界に直面したと言える。

 今後、避難先から自宅に戻る人が増える一方、戻れない人、あえて戻らない人に分かれていく。戻れない・戻らない人は、避難を続ける人、新たな土地で再出発する人に分かれる。被害者が多様化し、賠償の基準づくりはさらに難しくなり、支払いに時間がかかるのは必至だ。

 東電による賠償を基本としつつも、被害者の生活再建のために、国が直接、支援に乗り出すことを考える時ではないか。

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国際離婚条約―外務省の責務は重い

 ハーグ条約に参加するため、国内の手続きを整える法律案がこのほど閣議決定された。

 国際結婚が破綻(はたん)し、一方の親が無断で子を連れて出国してしまったとき、その子をいったん元の国に戻したうえで、どちらの親が子を育てるかを決める。それが条約の考えだ。

 法律案には、子の心やからだに害悪がおよぶ場合などは例外的に元の国に戻さなくてもいいこと、その判断は東京か大阪の家庭裁判所がおこなうこと――などが書き込まれた。

 家庭内暴力をふるう夫から日本に逃げてきた妻たちの経験をふまえ、他国の取り組みも参考にした規定だ。おおむね妥当な内容と評価できる。

 政府が昨春、加盟方針を打ちだし、法制審議会などで検討を重ねてきた。非加盟のままだと日本人が子を連れ去られた際に国として適切に対応できないことも指摘され、条約への理解は深まっていると思われる。

 だが、依然として不安を抱く人は少なくない。対象となる案件は年に数十件ほどと思われるが、実際にどんな運用イメージになるのか。国会での審議を通じて、ていねいに説明していくことが欠かせない。

 なにより大切なのは、手続きにかかわる公務員や法律家が制度への理解を深めることだ。

 裁判所は、多くの家庭内トラブルを解決してきた経験をいかし、親の都合ではなく「子の利益」を常に念頭において、判断を積んでいく必要がある。

 慣れない課題に取り組まねばならないのが外務省だ。

 子を連れ去られたという外国からの訴えを受け、自治体や学校にも協力を求めて子を捜す。話し合いで解決できないか、双方の親に働きかける。子を元の国に送り返した後も、最終結論が出るまで、その子が問題なく生活しているか目を配る。

 そんな役割を担う。大使館や総領事館では、夫婦間の争いに悩む在外日本人の相談もふえるだろう。要員の確保や研修に万全を期してもらいたい。

 とはいえ、政府や裁判所のできることには限界がある。

 文化や慣習が異なる国際結婚では、夫や妻との関係がうまくいかなくなったとき、事態はより深刻になりがちだ。

 万一の場合を考え、現地の法制度や保護のしくみを知っておくべきだし、裁判や話し合いの席で役に立つ記録を残しておく作業も必要になろう。

 子と自分を守るために何をすべきか。一人ひとりの覚悟と準備が問われる時代だということを認識しなければならない。

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