社説

大震災1年 沿岸漁業の再生/計画のスピードアップ図れ

 水揚げしようにも岸壁は沈み、容易に接岸できない。目前に豊かな海が広がるというのに思う存分漁に出られない。三陸の浜は焦りの色を濃くしている。
 政府は10年間で総額23兆円を復興対策に当てる。当初5年間を「集中復興期間」と位置づけ、予算の約8割を投入する。
 水産業の再生計画も固まった。それでも不安が先立つのは、漁業者は高齢化が著しく、後継者不足にあえいでいるからだ。
 宮城県では2003年、漁業就業者は1万1449人だったが08年には9753人と1万人を割った。半数は60歳以上だ。
 先細りの危機に今度の災禍が重くのしかかる。東北4県で278の漁港が被災し、損壊した漁船は2万6000隻に上る。
 とりわけ宮城県の被害は深刻だ。全142港が被災し、主要4漁港の昨年1年の水揚げ量は前年のわずか3割。加工場は600カ所以上が被害を受け、再開したのは4割にも満たない。
 復興計画は10年後には図面上では完成しよう。だが、新たな担い手へ確実に引き継がれなければ、再興はおぼつかない。
 現状への危機感が宮城県の「水産業復興特区」構想の背景にある。養殖業の漁業権開放を打ち出し、民間資本の力も借りて再生を目指す。漁業権は事実上、漁協が独占してきたため漁業者には反発が強いが、構想が掲げる「原型復旧ではなく再構築」の理念は共有できよう。
 将来ビジョンは創造的で魅力あるものでなければならない。そのためには漁業者が自ら主導権を握ることが先決だ。基幹産業である沿岸漁業では、個人経営からグループによる協業化に移行し、省力化や収益性の向上、資源管理に取り組み、加工と流通を手掛ける6次産業化も視野に入れたい。こうした構造改革こそが、新たな担い手と活力を生み出す原動力になろう。
 新たに降りかかった課題もある。市場の反応である。
 宮城産カキは養殖場が壊滅的な被害を受け、生産量は約400トンと例年の10分の1にとどまる見通しだ。宮城産に代わって広島、兵庫、北海道など他県産の流通量が増えた。その中で希少な宮城産は争奪戦になるのではないかとみる向きもあった。
 ところが引き合いは予想外に弱かった。「被災地救済の追い風が吹いたのは最初の1カ月だけだった」と仲買業者は言う。
 生産者支援で浜値を高めに固定したため、安い他県産との価格差が拡大した。宮城産の安定供給は困難とみたバイヤーも多く、仕入れを敬遠した。
 風評も逆風になった。基準値を超える放射線は検出されていないものの、消費地では原発事故の影響を過剰に受け止める傾向が続いている。
 市場で高い評価を得てきたカキですら厳しい目にさらされている。復興が遅れれば、産地間競争の中で埋没しかねない。
 岸壁のかさ上げや加工場再建など復旧のスピードを上げてほしい。完全復旧までの過渡期の販売戦略を構築し、消費地との関係を密に保つ努力も必要だ。

2012年03月10日土曜日

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