15歳児(日本では高校1年生)を対象にした経済協力開発機構(OECD)の「生徒の学習到達度調査」(PISA)は、国際的な学力テストとして有名です。その大人版の国際学力テストが実施されることになりました。「大人になってまでテストの点数で評価されたくない」と一部で批判の声もあるようですが、テストの趣旨などをよく読むと、PISAと同様に、単純な学力テストではないようです。
≪大人版国際学力テスト≫の正式名称は、「国際成人力調査」(PIAAC=ピアック)といいます。単に知識の量を測るのではなく、課題を見つけて考える力、知識や情報を活用して課題を解決する力など、「実社会で生きていく上での総合的な力」と定義された「成人力」を測定するもの、と説明されています。子ども対象のPISAも、習得した知識・技能をどれだけ活用・応用できかるかを測定するもので、その考え方は、現在の学習指導要領の目標である「生きる力」の育成と重なっています。PIAACも、大人の「生きる力」を測定するものと言えそうです。
日本では、今年8月から来年1月にかけて、住民基本台帳からランダムに抽出された16〜65歳以下の男女のうち、テストに同意した5,000人を対象に、調査員が自宅に訪問して、1対1でテストを実施します。問題は、「読解力」「数的思考力」「ITを活用した問題解決力」の3分野で、▽グラフを見て増減を答える▽インターネットから条件に合うサイトを検索する……など、学力テストというよりは、日常生活に必要な常識テスト、といった感じになっています。国立教育政策研究所が作成した例題がありますので、関心のあるかたはご覧ください。
ところで、なぜ大人を対象に、このような国際学力テストをするのでしょう。もちろん、国別のランクをつけて、子どもに続いて大人の学力を競うわけではありません。OECDによると、各国の「成人力」を把握するとともに、学校教育や職業訓練などの成果が、社会人などにどのような効果を上げているのかを検証するためのデータを得ることが、ねらいの一つとなっています。
また、テスト参加者には、収入、学歴、職歴、生涯学習の活動状況などを併せて聞くことで、「成人力」が雇用状況や収入など個人の生き方に、どのような影響を与えているのかも調べることにしています。つまり、学校教育や職業訓練が本当に役に立っているのか、「成人力」が雇用や収入に関係しているのかなどを、知ることができるというわけです。
調査参加国は、日本・フィンランド・米国・韓国など、26か国となっています。調査結果の公表は、2013(平成25)年の予定です。やや先の話ですが、どのような結果が出るか興味深いですね。PISAによる子どもの学力は国際的に上位クラスでも、PIAACによる大人の学力は下位クラスだった、なんてことになっては困りますが……。
1958年茨城県生まれ。法政大学法学部卒。
日本教育新聞社に入社、教育行政取材班チーフ、「週刊教育資料」編集部長などを経て、1998年よりフリー。現在、「内外教育」(時事通信社)、「月刊高校教育」(学事出版)など教育雑誌を中心に取材・執筆活動中。
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