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新たに原発への規制をになう原子力規制庁の発足が、野田政権が目指す4月1日から大きく遅れる見通しとなった。自民党など野党が一連の法案に反対しているためだ。3月も半ばを過ぎ[記事全文]
整備新幹線の未着工3区間(北海道の新函館―札幌、北陸の金沢―敦賀、九州・長崎ルートの諫早―長崎)をめぐって、工事認可に向けた手続きが最終局面を迎えている。民主党が09年[記事全文]
新たに原発への規制をになう原子力規制庁の発足が、野田政権が目指す4月1日から大きく遅れる見通しとなった。
自民党など野党が一連の法案に反対しているためだ。3月も半ばを過ぎたのに、審議入りのめどすら立っていない。
反対派の主張は主に二つ。
一つは、法案の提出が今年1月末にずれ込み、審議の時間が短すぎる点だ。福島第一原発事故の調査結果がまとまらないうちに決めるのは拙速だという意見もある。
もう一つは、より本質的だ。政府案のように、環境相の傘下に外局として置かれると、政治の介入を受けやすい。米国などの例にならい、政府から独立した委員会にすべきだ、とする指摘である。公正取引委員会と同様の組織が想定されている。
これらの主張には耳を傾けるべき点も多い。
福島の事故対応では、当時の菅首相が細かい点に口をはさみ状況を混乱させた。米原子力規制委員会(NRC)のような分析力と権限を持つ組織があれば……と思う人は多いだろう。
だが、こうした混乱の根本には、原子力安全・保安院や原子力安全委員会に、能力も責任感も欠けていたため、政治家が前面に出ざるをえなかったという事実がある。委員会方式にしただけで独立性が担保され、対応力が高まるともいえない。
なにより、新組織への移行が遅れれば、喫緊の課題である新たな安全基準づくりなどが宙に浮いてしまう。
理想を追うより、まずは原発推進の経済産業省と一体化していた規制行政を分離し、一元化することを急ぐべきだ。
そして、安全基準を根本的に改める。電力会社やメーカーに依存せず、的確な助言ができる能力を身につける。不当な政治介入を防ぐためには、それこそ国会で厳しく政府を監視してもらいたい。
政府や国会の事故調査委員会から得られる新たな知見も採り入れる。一定の体制が整った時点で、組織のあり方を改めて議論してはどうか。
新組織といっても、当面は大方の職員を保安院などからの移籍・出向に頼る。だから、トップはもちろん、主要なポストにも外部から安全性の確立に強い意思をもつ人材をすえる。国内だけでなく、海外から人材を招くことも検討すべきだ。
やるべきことは、はっきりしており、かつ山積している。野党側も、よもや「政局にらみの先送り」ではあるまい。審議を急いで欲しい。
整備新幹線の未着工3区間(北海道の新函館―札幌、北陸の金沢―敦賀、九州・長崎ルートの諫早―長崎)をめぐって、工事認可に向けた手続きが最終局面を迎えている。
民主党が09年の政権交代後に示した着工への5条件のうち、投資効果と収支見通しを見極める作業である。
国土交通省の試算によると、投資効果は3区間とも1.1程度。つまり、収益や時間短縮などのメリットは、投じた費用をわずかに上回る程度だ。
学者で作る委員会がチェックし、「国交省は堅めにはじいている」とお墨付きを与えたが、首をかしげざるをえない。
1兆7千億円近くを投じる北海道新幹線では、東京と札幌が約5時間で結ばれる。関東〜道央の鉄道客は将来、一日あたり5500人と見込む。
だが、首都圏と北海道の間では格安航空会社(LCC)が相次いで就航する。所要時間と料金の総合力で対抗できるのか。疑問が残るが、委員会は「航空サービスの将来動向は不透明」と素通りしてしまった。
北陸と九州・長崎では、安さを武器に利用客を増やしている高速バスとの競争が問題提起された。ところが、調査データの不足を理由に、委員会で深いやりとりはなかった。
高速鉄道と航空、長距離バスをどう組み合わせるべきか。そうした視点を欠く国交省の縦割り行政と、その国交省が人選した委員会の限界である。
整備新幹線では、開通した区間で運行主体のJRから貸付料が入る。政府はこれを未着工区間の建設に回す。今後30年で少なくとも1兆円近くに及ぶ。
この貴重な財源を整備新幹線の特定財源であるかのように扱ううえ、不足分には国と地方の税金が投じられるのだ。
3区間の総工費は、これまで2兆7500億円とされていたが、通常は10年程度の工期を北海道で24年に延ばすのに伴い、3兆100億円に増えた。
早くつなげてこそ利用されるのに、あえて先延ばしするのは一年ごとの支出を抑えるためだ。国交省は財政難への対策と説明するが、国と地方の苦境はそんな小手先でしのげる段階をとうに過ぎている。
野田政権は、高齢化で増え続ける社会保障費にあてるため、消費税の増税法案を近く国会に出す構えだ。反対論が根強いなか、成立にこぎつけるには、国民の理解が不可欠である。
それには、歳出を絞り込むのは当然のことだ。野田首相に覚悟を問いたい。