すでに述べたように、ジャーナリストしてのブランドを築ける。多くの固定ファンをつかめば、大メディアの看板を使わなくても仕事ができる。津田大介(ツイッターのフォロワー20万人)や佐々木俊尚(同15万人)は組織に頼らずにフリーランスとして活躍する代表例だ。
もっとも、米コロンビア大学ジャーナリズムスクールでソーシャルメディアの実践を教えるスリー・スリーニバサンは「記者にとってのツイッターは自分のブランド構築にとどまらない。情報収集手段としての価値にこそ注目すべき」と指摘する。
第1に、情報源を開拓できる。福島原発事故に伴う避難生活の実態について書くならば、実際に避難生活を送る人たちのツイッターをフォローし、インタビューを打診できる。ダイレクトメッセージで連絡先を教えてもらえれば、取材を申し込める。
第2に、取材協力を仰げる。大震災の影響から各地でガソリンが不足しているといううわさを聞いたが、自分の足で確認する時間がないとしよう。そんなとき、ツイッターで協力者を募り、うわさが本当か各地のガソリンスタンドを訪ねてもらうこともできる。
第3に、読者の反応を得られる。書いた記事へリンクを張れば、フォロワーからコメントを投稿してもらえる。自分の記事でどこが足りなくて、どこが分かりにくいのか把握できるわけだ。記事を書く前にアイデアをぶつけ、反応を探ることも可能だ。
以上は、いずれも匿名性の陰に隠れていては享受できないメリットだ。ジャーナリストとしての実戦的スキルを高めるうえで、ツイッターなどソーシャルメディアの潜在価値は大きいといえよう。
それだけではない。ジャーナリストとしての根源的な軸足を定めるうえでもソーシャルメディアの可能性は大きい。権力に近い記者クラブに依存する取材からの脱皮を促すかもしれないのだ。
記者クラブに常駐していると、記者会見や記者懇談、ブリーフィング、資料配布などで朝から晩まで権力側の話を聞かされ、知らず知らずのうちに「権力の応援団」になりかねない。消費税増税の話が出ても、首相官邸や財務省が発信する情報を伝えるのに忙しく、街中に飛び出して消費者や納税者の話を聞くことがなかなかできない。
記者クラブが「権力側が発信する情報の洪水」だとすれば、ソーシャルメディアは「非権力側が発信する情報の洪水」だ。個々の記者がソーシャルメディアをうまく活用し、一般読者の声、つまり消費者や納税者の声にも耳を傾けるようになれば、脱「記者クラブ的報道」にもつながるといえよう。
その意味でツイッター解禁は第一歩だ。個々の記者が権力側に加えて非権力側が発する情報の洪水も浴びるようになるのだ。一部新聞が一部記者に限って解禁しているのではスピードが遅すぎるぐらいだ。
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