入社2カ月で過労自殺した和民店員・森美菜さんの父・豪さんと母・祐子さん。
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入社2カ月後に自殺した居酒屋「和民」の正社員、森美菜さん(当時26歳)の労災認定が報じられた今年2月21日、ワタミの渡邉美樹会長がツイッターで「彼女の精神的、肉体的負担を仲間皆で減らそうとしていました」「労務管理できていなかったとの認識は、ありません」などと発言し、炎上した。美菜さんの両親が会社に提出させた資料などによると、15時間勤務でも休憩は30分しか予定されておらず、また、休日と睡眠時間を削らせるように組まれた研修など、勤務環境は精神障害の発症後にも、さらに過酷さを増していたことが分かった。遺族から提供を受けた社内資料をもとに、「生きていられるわけがない」と両親も憤るワタミの労働実態を報告する。(給与明細3ヶ月分は末尾よりダウンロード可)
【Digest】
◇時系列
◇「生きていられるわけないじゃないか」
◇15時間勤務でも休憩30分のスケジュール
◇「これは、スタンダードでしょうか?」
◇配属1カ月目から残業100時間以上
◇始発待ちで2時間待機、睡眠時間減少
◇一番最初に難しいポジションをやらせる
◇「休みが休みでないんだよね」
◇配属1カ月で精神障害に
◇死亡前日に日用品購入、生きる意欲の本も
◇時系列
2008年04月01日 | ワタミフードサービス入社 |
2008年04月11日 | 京急久里浜駅前店配属 |
2008年05月中旬 | 精神障害発症 |
2008年06月12日 | 自殺により死亡 |
2008年08月19日 | 横須賀労基署に労災申請 |
2009年07月09日 | 横須賀労基署が業務外認定 |
2009年08月24日 | 神奈川労災審査官に審査請求 |
2012年02月14日 | 神奈川労災審査官により労災認定 |
◇「生きていられるわけないじゃないか」
美菜さんは2008年4月1日にワタミフードサービスに入社。10日間の研修を受け、4月11日から神奈川県横須賀市にある居酒屋「和民」の京急久里浜駅前店に配属となった。同店は現在、改装して黒い看板の和民に業態転換しているが、美菜さんが会社に提出したレポートでは「私の勤務しているのは赤和民の方」と書いている。(※赤看板=旧来型の和民、黒看板=「居心地の良さ」を押し出し高級感を演出した和民)
京急久里浜駅前店は三浦半島の東側にあり、海の向こう側には千葉県の鋸山がある。社員は店長、副店長、美菜さん、美菜さんと同期入社の男性社員Aさんの4人。このほかにアルバイトがおり、労災の決定書では従業員数39人となっている。
ワタミ本社へは、乗換駅となる京急蒲田駅まで京浜急行の快特列車で50分ほど。横浜には快特で40分、品川までやはり快特で1時間という距離だ。大都市から離れ、それほど大きくない駅前の店舗だが、午後5時の開店から平日は午前3時まで、週末や休みの前日は午前5時まで。入社前はシフト制と説明されていたが、正社員は開店前から閉店後までずっと店にいなければならないのが実態だった。
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5月4日から8日のワークスケジュール。休憩が30分しか予定されていないことが分かる。上は会社作成、下は森さん作成。![](/contents/081/780/034.mime1) |
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美菜さんの死後、両親がワタミフードサービスに強く要求して作成させたのが、美菜さんが毎日、何時から何時まで何をしていていたのかを示す資料とグラフだ。これを見ると、開店1時間前の午後4時から閉店30分後の午前3時半まで、午前5時閉店のときは午前5時半まで、ほぼ毎日12時間を超える勤務を強いられていた。
労災の決定書には社員の「基本シフト」は午後4時から午前1時までと書かれているが、「基本シフト」通りの日は1日もない。休憩時間もすべて取得したことになっていたほか、午後3時前に出勤しても午後4時までは「自主出勤」と扱われていた。さらに、勤務終了後は電車がなく家に帰れない時間が抜けて落ちていたり、休みの日の研修会や会社行事のボランティアが「自己啓発」になっているなど、多くの疑問があった。
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5月4日から8日のワークスケジュール。休憩が30分しか予定されていないことが分かる。一番下は5月と6月の勤怠打刻データ。![](/contents/081/780/034.mime1) |
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会社の資料に加えて、美菜さんがつけていたノートやメモ、複数の同僚への聞き取りをもとに両親はこのグラフを修正、美菜さんの労働実態を明らかにしていった。分かったことは、「生きていられるわけないじゃないか」(両親)と思えるほど過酷で、社員を追いつめる勤務実態だった。
◇15時間勤務でも休憩30分のスケジュール
労災の決定書によれば、京急久里浜駅前店の店長は労基署の聴取に、勤務時間は「開店時間より1時間前から」と説明しているが、副店長は聴取で「平日が15時から3時30分、週末が15時から5時」と話している。同店の同期社員Aさんも、「店長から開店2時間前に出勤し準備をするように言われた」と述べている。
美菜さんの勤怠打刻データを見ると、たとえば5月31日は出勤と退勤の打刻が午後3時と午前5時で、実働11時間、休憩2時間になっている。実働と休憩を足しても1時間足りないのは、午後3時に出勤しても午後4時までの1時間が計上されていないからと見られる。
午後3時過ぎに打刻をした日もあるが、5月4日と5日、振替休日の6日は連続して午後2時10分から15分に出勤の打刻をしており、4日と5日は午前6時に退勤の打刻をしている。午後2時15分から午前6時までは、時間数にすると15時間45分もある。これほど長時間働いても、休憩は30分しか予定されていなかった。
1日ごとのワークスケジュール表(右記)を見ると、スタンダードな休憩時間がどのように予定されていたか分かる。この表には、何時から何時まで誰がどのポジションを担当するか30分区切りで記されており、実際にどうだったか、客集の見込みや実績、1人1時間あたりの売り上げ、その他の特記事項なども記されている.....この続きの文章、および全ての拡大画像は、会員のみに提供されております。
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レポートの作成についての指示。3枚目は遺族作成のレポート保存時刻の一覧。配属2カ月で11本ものレポートを書いている。![](/contents/081/780/034.mime1) |
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「ボランティア研修」の資料。「研修」と書かれ、店舗勤務を入れないようにする指示もある。![](/contents/081/780/034.mime1) |
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(上)美菜さんのノート。「体が痛い、体が辛い、気持ちが沈む、早く動けない、どうか助けて下さい」と書かれている。(下)渡邉美樹ワタミCEOの弔電。![](/contents/081/780/034.mime1) |
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