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閑話05 北の~魔王城には~♪(エリエス視点)
午前の穏やかな日差しの中、何時もの様に仕事を進めていました。何だかんだと書類で執務机は埋め尽くされていきますので。
私はエリエス。ここ、北の魔王城の書類部隊の隊長を務めています。
書類部隊は北の魔王城の申請の為の書類を一手に引き受ける部隊で、形式的なものは最終決定権を有し、例外的及び重要案件については篩とも言うべき役目を負っています。その為、書類部隊は十ある内勤部隊-非戦闘系部隊-の中で最多人数を誇っています。



「------誘拐------!」



…今、外から聞き捨てなら無い単語が聞こえましたね。同じ執務室にいた副隊長のマルスも何事かと反応してますし。方角的に城門でしょうか。

「…マルス、状況確認に行ってきます。至急の物だけ処理をお願いします」
「了解です。お気を付けて」

席を立ち、マルスに指示を残して外に向かいますが制止されませんでした。恐らく、私が行かなければマルス自身が行く気だったのでしょう。



城門に辿り着くと、そこには鬼の形相のディルナンがいました。私の中では調理部隊を束ねる冷静な男と言う印象だったのですが、激怒して外警部隊の騎士---城門の衛兵でしょうか---の頭を鷲掴みにして軽く持ち上げています。
何があったのか分かりませんが、ディルナンの左腕に抱き上げられた実に可愛らしい幼子が怯えて震え上がっていました。これは放っておけないでしょう。
気配を絶ってディルナンに近付き、その背に思い切り拳を叩き込んで差し上げましたよ。別にストレス発散など兼ねていませんよ?
その衝撃で物の様に締め上げられていた騎士が落ちましたが、そんな事は知りません。むしろ、助けて差し上げたんですから、感謝して頂きたい位です。

「何をしているのです?ディルナン。子供が怯えているでしょう」
「…エリエス」

注意すると、ディルナンが憑き物が落ちたかの様に普段通りの表情に戻り、振り返りました。それと同時に子供が私に気付いたらしく、震えながら視線を向けて来ていました。ディルナンの様に怯えさせてはいけませんね。

「こんにちは」
「こんちはー」

笑顔を心掛けて声を掛けると、はにかんで子供が挨拶を返してくれました。きちんと躾けられている子供に微笑ましさを覚えていると、恥ずかしかったのか、ディルナンにへばり付いてしまいました。

「ふふ、可愛らしいですね」
「可愛いだろ」

思わず和んでディルナンに声を掛けると、彼も和んだらしく微笑んでいました。なんとまあ、珍しい。
ですが、さっきの叫び声といい、一体何があったのでしょう。目で合図すると、即気付いた辺りは流石と言いますか。

「ユーリが気持ち良さ気に眠ってたってのに、この阿呆が人の話も聞かずに訳の分からん事を叫んで叩き起こしてくれやがってな。極刑もんだろ?それで締め上げてたんだが、お前に殴られて止めた」
「あぁ、さっきの誘拐云々の叫び声がそれでしたか。寝ている子供を叩き起こすとは確かに極刑モノですね。ですが、子供を怖がらせてはいけません。やるなら、見てない所でお願いします。教育にも悪いですし」

簡単に状況を説明していてまた怒りが沸いてきたらしいディルナンですが、その気持ちは分かります。子供は沢山食べて寝て成長するのが仕事ですからね。可愛らしい子供の仕事を邪魔したなど、聞いていた私も腹立たしくなって来ましたよ。
地に落ちていた外警部隊の阿呆に視線を向けると、何やら顔色を悪くしましたが自業自得と言うものです。

「今なら見てないし、イケるか」

子供がへばりついて見ていないのを良い事に、ディルナンが阿呆の背中を踏みつけるとミシッと骨の軋む音がきこえました。悲鳴も上がりますが、無視。

「イケますね」

同意すると、ディルナンが足をどかしてくれました。それに甘えて踏みつけ、おまけに体重も掛けて差し上げましょう。悲鳴は無視です、無視。

「うぇ…」
「「”うぇ”」」

そのままもっと踏み躙ってくれようかと思っていたのですが、子供から小さな声が上がったのに気付きました。

「痛くしたらダメなのー」

見てはいなくても音で泣き出してしまった子供に慌てました。こんなのを踏みつけている場合ではありません。叩き起こされたと言うのに、こんな阿呆を庇うなんて心根の優しい子なのですね。

「あー、この程度で痛む様な柔なヤツはこの城にはいないから大丈夫だ、ユーリ」
「そうですよ。明日にはピンピンしていますから、泣かなくていいのですよ」

ディルナンが背中を、私が頭を撫でながら慰めつつ、遠巻きにしていた外警部隊に即刻あの阿呆を片付ける様に視線で命令を飛ばします。それに気付いて慌てて動く騎士達にディルナンも納得の表情。証拠を残さず、しっかり子供のフォローをすれば大丈夫です。同じ轍を踏むなどしませんよ。



しばらくして嗚咽を残しつつも顔を上げた子供をディルナンが世話を焼いていました。そんな優しそうな表情も出来たのですね。新しい発見です。
落ち着いたのか、辺りを見回す頃には何もある筈も無く。周囲の外警部隊の方々には黙ってる様に子供の見えていない所で笑っておきます。そして、不思議そうにしつつも最後に私に視線を向ける子供には、意識してにっこり笑顔を向けました。己の笑顔の効果は把握してますから。周囲の外警部隊には鞭ばかりでなく飴も与えておかないとでしょう?

案の定、子供は疑問を失った様で何よりです。さり気なくディルナンが微かに頬を引き攣らせていましたが、使えるものは使ってこそですよ。合理的に仕事をしなくては。
北の魔王城の最恐隊長と言われるエリエスお兄様は書類部隊、事務員さん達のドンです。どうでもいい設定ですが、接近戦では自分の拳と足、中距離戦になると、ローブの下に隠されている鞭が繰り出されます。きっと部下はひっぱたかれ過ぎてM属性が多いと思われます。南無。

今回も読んでいただき、ありがとうございました。
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