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お気に入り登録とアクセス数が急に桁外れになったと思ったら、ランキングにいたんですね。ビックリな順位に自分の目を疑いました。姉の目で見ても間違いでは無かったそうですが。
読みに来てくださった方には感謝感激雨霰です。
閑話03 空も飛べるはず?(ディルナン視点)
リザイルの串焼きを食べさせてから、昨日食わせてやれなかったニャーダの実をデザートに与えた。
しばらく格闘しても実が割れずに、眉をハの字にしてショボンとする姿に己の失敗を悟る。あの小さな体にあの実は大きく、固すぎる。割るだけの力があるはずがない。
実を割りついでに中の果肉もナイフで小さめに切ってから渡してやると、やたら目をキラキラさせていた。どうやら甘い物、果物は好きらしい。
今までの食事量から考えれば当然だが、食べきれなかった分はオレの腹に入った。



仕事があるのだから、いつまでも此処にいる訳にもいかない。昨日ざっとしか片付けていなかった周りを片付け始めると、ユーリも一緒に片付けてくれた。オレの腰にも届いていない小さな体でブランケットを畳んだりと、自分で出来る事を探してちょこまかとよく働く。

「ユーリ、お前、行く宛は?」

片付けがながらユーリに問い掛けると、無いと首を横に振る。

「そうか、分かった」

この後のユーリの事も考えておかないとマズイ。



片付けた荷物を亜空間に収納すれば、小さな手で拍手された。まぁ、子供はあまり見ない魔術だろう。

「さて。」

此処からは大事な話しになる為、しゃがんでユーリと目線を合わせた。

「此処は危ないから、行く宛が無いならオレと来い。衣食住はどうにかする」

片付け終わるまでずっと考えていた事を告げると、ユーリが「いーの?」
と遠慮がちに返して来た。
聡明すぎるのも考え物かも知れん。この子供は我が儘を言う以前に甘える事をほとんどしない。

「当たり前だ。チビ一人ぐらい大した負担にならん」

他に比べてかなり良い収入を得ているのだ。遠慮など必要無いというのに。
こいつが自分から甘えないなら、俺が甘やかしてやろう。
ユーリは頭を撫でられるのが好きらしく、撫でてやると気持ち良さそうにはにかむ。なので、頭を撫でておいた。
そのまま城に戻る旨を伝えると、一瞬不思議そうに「お城?」と返してきたが、すぐに納得した顔になる。オレの仕事を思い出したらしい。

「上手くいけばお前をオレの部隊に入れる。しっかり生きて食ってける様に仕込んでやる。ダメでも、城の近くに集落がある。オレが信頼する保護者を付けるぐらいは出来る」
「美味しいの、いっぱい!?」

考えを伝えてやると、物凄い勢いで食いついてきた。この辺りはやはり子供で、食い物につられている。思わず笑った。





「ただ、城に戻る前に一つユーリに確認しなきゃならん事がある」
「あい」

そう、連れて行く前に確認が必要だった。真剣な表情で伝えると、キリッとして返事をするユーリだが・・・「あい」って可愛いな、おい。顔がにやけそうになるがぐっと我慢する。

「魔術レベルだ。使った記憶は?」
「ないです」

確認すべき事柄を告げると、はっきり答えながら首を横に振る。
万が一強大すぎる力を持つ様であれば相応の対処が必要になる。そして、それはユーリにとって大きな枷となる事は間違いない。連れて行く前に確認が必要だった。

「じゃあ、まず火を出してみるか。
手を合わせてみろ。その中に炎を思い浮かべて、ゆっくり開くんだ」

魔術はイメージが重要だ。魔力を大量に身の内に宿す魔族に、人間の様なまだるっこしい呪文なんぞ必要が無い。
魔術の扱い方を導いてやると、言われた通りにユーリが実践する。

「出たー」

しばらくしてユーリが手を開くと、そこには本当に小さな吹けば消えそうな炎が出現した。火の属性はほとんど適正が無い表れ。
だというのに、初めての魔術を成功させ、それは嬉しそうに笑って炎を差し出してくるユーリ。
あぁ、いつだったか城の食堂で誰かが小動物の可愛らしさを熱弁してたな。そうだな。出来ただけでこんなに喜ぶ姿を見たら可愛くて堪んねーよ。魔術の能力的にはダメダメでも、この可愛らしさだけでオッケーだろ。

その後、風・土・水・雷・闇と他の属性の適正も確かめさせたが、火と似たり寄ったりだった。唯一、水の属性だけは適正があるが、水は決定的攻撃力に欠ける。ユーリは魔族としては弱小の部類に入るだろう。だと言うのに、本人は

「出来たのー」

満足気に額の汗を拭っていた。可愛らし過ぎる反応に思わず噴出するのを堪え切れない。

「おにいちゃま?」
「いや、何でもない。良く出来たな」

純粋な瞳に見上げられ、咳払いして誤魔化す。ついでに褒めるべく頭を撫でておいた。






「やるべき事はやったし、戻るか」

満足するまでユーリの頭を撫でた所で立ち上がり、何時もの様に指笛を鳴らした。
不思議そうに首を傾げるユーリ。

「すぐに来る」

きっと驚くだろう。
?を頭に浮かべるユーリの前に、待っていたヤツが降り立った。



白い毛並みに黒い縞模様の入った全長3mにもなる希少魔獣、タイガス。
野を、空を猛スピードで駆ける上に風属性の魔術をも行使する肉食系の上位種。言葉を理解出来る知能を持つが気性が荒く獰猛で、己が認めた存在にしか従わない孤高の存在。タイガスはタイガルと言う種の進化系魔獣だ。タイガルは黄色の毛並みに黒い縞模様でタイガスよりも一回り小さく、空を駆ける事は無いし、知能が低ければ魔術も行使出来ない。
この『深遠の森』で発見し、丸一日の激闘の末に捕らえたオレの騎獣で、傷だらけになりながら時間を掛けて調教した。名はレツと付けた。



そんなレツと、レツを見たユーリがどんな反応をするか、ただ見守る。手を出すつもりは一切無かった。



ユーリはポカンとレツを見上げる。いきなり現れたレツの大きさに呆気に取られていた。怯えは見えない。

一方のレツはと言うと…
ユーリの匂いを嗅ぎ、いきなり顔を舐めた。「うやぁっ」と驚きの声を上げるユーリを更にベロベロ舐め、後ろに転げたユーリにじゃれつきながら喉まで鳴らしている。
…お前、タイガスだよな?ネリアか。

あまりの体格差にあぷあぷしているユーリを流石に見兼ねて助け出し、抱き上げる。顔がレツの唾液まみれだった。

「レツ、気に入ったのはいいが甘え過ぎだ」
「がるる」

注意すると、不満気な鳴き声を上げる。どうやら、ユーリがかなり気に入ったらしい。牙を剥き出して威嚇するお前をオレに慣らすのに掛かった時間は一体何だったんだ。
それはともかく、唾液まみれのユーリの顔を拭いてやり、乱れた髪を撫で解かし、服の汚れを払って整えた。

「ユーリ、コイツはレツ。オレの騎獣のタイガスだ」
「…”きじゅう”?」

知らない言葉を復唱するユーリに、騎獣の何たるかを説明する。

「空飛んじゃうのー?」
「レツは翼を持たないから正式には駆ける、だな。レツみたいな外見で空を駆けないのはタイガルだ」

タイガスの存在を知らなかったらしく、タイガルと混合してたらしい。道理で驚きはしても怯え無かった訳だ。

「レツ、しゅごい」

目を輝かせてレツを褒めるユーリに、レツが右前足で顔を洗う。照れてるな、お前。
……お前、本当にタイガスだよな??獰猛でありながら賢い、孤高の希少魔獣たる姿が欠片も見当たらないんだが。これまでのレツとのギャップに頭痛さえした。



「レツ、城に戻る。ユーリも乗せるぞ」
「がぅ」

命令を出すと、全く嫌がりもせずに伏せるレツに呆れ果てる。お前、そんなにユーリが好きか。
ユーリを抱えたまま飛び乗ると膝の上にユーリを乗せ直し、首回りの獣具に収めていた手綱を出す。

「おにいちゃまー」

出発準備をほぼ終えた頃、ユーリがオレを呼んだ。見下ろすと、ユーリがもじもじしながらオレを見上げていた。

「もふもふ触りたいの。…め?」

上目遣いに「め?」とおねだりされて衝撃が走る。下手な雷属性の魔術よりも効いた。
ユーリの初めての甘えだった。レツの毛並みに触りたい?ダメと言えようか。いや、絶対言えまいっ。
この程度、叶えるしかないだろ!

そっと脇に手を差し入れてレツの上に下ろしてやる。

「う?…ほあー、もふもふぅ」

レツの毛並みに触れ、幸せそうに頬擦りするユーリ。レツのヤツ、また喉を鳴らしてやがる。もう呆れを通り越して色々諦めた。
城の周りの集落の若い女達が「萌えとはつまり、胸キュンです!」と力説していたが、コレか。今の今まで全く意味が分からんかったが、レツで戯れるユーリで理解した。そうか、コレが「萌え」か。
しばらくして満足したのか、ユーリがオレの膝の上に戻ってきた。ニコニコ笑顔で。さっきまでの頭痛がウソの様に消えた。凄ぇ癒された。

「…出発するぞ」

後ろからユーリをしっかり抱き止め、手綱を操るとレツが駆け出し、空へと上昇していく。
一路城を目指して、レツを走らせた。
[補足説明]
ネリア=猫。子猫サイズで、愛玩動物として高い人気を誇る弱小魔獣。性格は寂しがり屋の甘えん坊でいたずら好き。魔大陸にて愛好家多し。

ディルナンさん、開いてはいけない扉を着々と開いてはおります。基本的に気に入ったモノ以外への関心が薄い魔族として生を受けて325年、彼は今日初めて「萌え」を知りました。ぷっ(噴出)


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