社長室にはいすがあるみたいなんだが
ITProに出ているキヤノン電子の訪問記が一部で話題になっていて面白そうだったので、ちょっと見てみることにした。このキヤノン電子の社長の酒巻久氏は『椅子とパソコンをなくせば会社は伸びる!』(祥伝社)なる本を出版されている。で、記事のタイトルもこう。
で、ITPro記事によると、
秩父工場内には,応接室など一部を除き,会議室にも,開発部門や管理部門のオフィスにもいすがない。もちろん,社長室にもないという。
ほおお。
『椅子と~』によると、会議室からいすを撤去したことで会議への集中力が高まり、年間の会議時間が半減した。またオフィスでも、立つことで社員同士のコミュニケーションが密になり、問題解決の精度やスピードが劇的に改善したという。いす代も不要になり、いすをなくした分スペースが節約されるなど「いすをなくすことのメリットは計り知れない」(酒巻社長)。
記事には、従業員の方々が実際に立ったまま事務作業を行っているような写真が載っている。ほほお。このオフィスで車いすの利用者が働くのはなかなかたいへんそうだなぁ。背の高い車いす、なんてものがあるんだろうか。
で、さらにすごいのは、工場内の廊下に青く塗られたゾーンがあり,「5m 3.6秒」と書いてあるところ(写真)。ここにはセンサーが設置してあって、5mを3.6秒以内で通過しないと警報が鳴るのだと。つまり時速5kmってわけね。曰く、
「広い工場なので,移動に費やす時間がバカにならない。社員に歩くスピードを体得してもらうための仕掛け」(酒巻社長)
写真を見ると、「急ごう、さもないと会社も地球も滅びてしまう。」とある。ちなみにこれ、同社の「環境保証」のスローガン(参考)。ふつう、スピードを重視しすぎると環境が、という方向性で語られることが多いと思うので、これはなかなかユニーク。足の不自由な人にとってはなかなかつらいだろうが、「さもないと地球が滅びてしまう」とあってはいたしかたあるまいなぁ。しかしこちらの社員さんがゆっくり歩くと地球が滅びてしまうとは、どんだけセカイ系企業なんだろうね。
いやそんなことはどうでもよくて。
気になったのは、「社長室にもいすがない」というくだり。ほんとかよ?と。記者氏は実際に見たんだろうか。
じゃあというわけで、われらがグーグル様にご登場いただいて、「キヤノン電子 社長室 いす」みたいなキーワードでイメージ検索してみた。ひっかかったものをいくつか。
「給与を上げれば原価は下がる」 (Venture Factory News@WEB)
・写真
あれ?これ、すわってるよね?
「目黒発 vol.19 失敗を語り合う風土づくり」
・写真
この写真のキャプション:酒巻氏の自室にある椅子やデスクの上には、書籍や資料が山積されている。「立ち会議」は、社長室の中から、もう始まっている。
あれあれ?これもすわってるみたい。この「酒巻氏の自室」の写真は、見たところ社長室のようでもあるんだが、ちがう部屋なんだろうか。「自室にある椅子やデスクの上には、書籍や資料が山積」って、いすの上に書類や資料を載せて、そのまた上に座ってるのか?それとも、そもそも書類や資料を山積みにしてそれをいす代わりにしてるのか?
「賢者 「深彫り」一覧」
・写真
この写真のキャプション:社長室で天井を見ながら音楽を聴きます
・写真
この写真のキャプション:とにかくたくさん本を読むそうです
あれれれ?
うーんよくわからん。「社長室」とはっきりキャプションに書いてあるんだが、このときはなぜかいすがあったのかなぁ。それとも、取材対応のためにわざわざいすを運び込んだんだろうか。とするとこの椅子、それまでどこにあったんだろう?従業員が使うようないすでもないよなぁ。あっそうか。先代の社長が使ってたいすをどこかにしまっておいたんだな。で、この日だけ出してきたと。
でも、これがもし実際には社長室であったとすると、あれか?この社長さんは、社長室でいすに座ってくつろぎながら音楽を聴いたり、マンガ(リンク元記事参照)を読んでたりするのだろうか?いや別にそれ自体悪いとは言わないんだが、それは「いすのない従業員のオフィス」やら「急ごう、さもないと会社も地球も滅びてしまう。」やらと整合的なんだろうか。・・まああれだな、社長ともなると、「のだめカンタービレ」やら「神の雫」やらを読むのも仕事のうちなんだろう。「たった2工程で間違えるなー!」とか怒鳴ってるのかな。「目覚めよ社員」とか言ってるのかな。
ちなみに私は、つねづね教授会は立ってやろうとか言ってるし、5mならおそらく2秒そこそこくらいのスピードで歩いてるしというわけで、この社長さんのご主張に近いことを自分では言ったりやったりしているのだが、すべての人にそれを勧めようとは必ずしも思わない。業務効率を向上させることはぜひ必要だとも思うし、そのために立って作業することはけっこう有効だろうとも思う(確か「立ち机」というものが存在する。ゲーテが愛用してたんじゃなかったっけ。実際、いいものがあったら自分でも買いたいと思ってるくらい)んだが、だからといって通常の机やいすが不要になるとは思わない(ゲーテの家にもふつうのいすはあったんじゃないかな)から、立って仕事すれば省スペースになるという発想はない。
まあ、こちらの社長さんは、このやり方で、「いすをなくした2000年から2007年の8年間で,経常利益率が9.7ポイント改善した」のだそうだから、実績はあるわけだ。ええと、この時期は日本経済が構造改革から景気回復に向かった時期にもあたるんだが、まあこういうときは、改善は経営者の功績、悪化は外部環境のせいと考えるのが「空気を読んだ」大人の態度というものだからな。
ともあれ、私のみるところ、キヤノン電子の社長室にはいすがあるようなのだが、実際のところはどうなんだろうか。ご存じの方、この目で見たという方、ぜひご教示いただきたく。
※2009/05/24追記
アクセス解析をみたら、こちらからリンクされてることがわかった。この会社が2本社体制をとってるから、いすのある社長室といすのない社長室があるのではないか、という推測らしいのだが、ちょっとちがうような気がする。工場の生産作業で立ち仕事があるだろうというのは誰にでも想像がつく。ポイントは、事務作業も立ってやるというところにあるわけで、事務仕事が少なからずあるであろう社長の部屋にもいすがないということで徹底してるよね、というのが元記事の趣旨だった。その意味では、東京のオフィスにもいすがないであろうとみるのが自然だろう。そもそも社長の仕事が工場にいるときと事務所にいるときとでそうちがうということもなかろうし、ちがう作りにする必要もない。まあ、要するに、実際に事情を知ってる人に聞かないとわかんないね、ということだな。
あとこの方、これに関連して、自分の気づいたことを他の誰も指摘してないことをさして「集合知のある種の限界を示している」と書いてるけど、これも面白い。自分だけは「集合知」の外側にいるってわけだ。まあインセンティブ問題については昔からいわれてることだけど、集合知におけるこういう「部外者意識」というか「上から目線」というか、そういうものについては、別途考えてみたい。
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Comments
この記事が何を言いたいのか全然分からない
社長室では当然メディアなり他企業との応接間として使われるわけで椅子があるのなんて当たり前でしょ
身体障害者にはキツイとか勝手な妄想でほざいてるけどこの工場で身体障害者がどういう扱いを受けてるのか実際あんた何か知ってるわけ?
>「のだめカンタービレ」やら「神の雫」やらを読むのも仕事のうちなんだろう。
>「たった2工程で間違えるなー!」とか怒鳴ってるのかな。
>「目覚めよ社員」とか言ってるのかな。
全部あんたの勝手な妄想
はっきりって論外
Posted by: shiden | May 22, 2009 at 09:48 PM
shidenさん、コメントありがとうございます。
ネタにした元記事に、いすが「もちろん,社長室にもないという。」という文章があったのですが、社長室の写真がなかったので、本当にないのかな?この記事を書いた人は確かめたのかな?と思いました。
で、検索してみたら、社長室らしき部屋でいすにすわっている写真があったので、これはどういうことだろうか?という疑問を書いたのが上の記事です。別に社長室にいすがあること自体をおかしいとは思いませんが、記事と整合的でないように見えるということですね。
立って作業する執務スペースで車椅子の人が作業するとどうなるんだろう?という疑問は、それほど的外れでも偏ったものでもないと思いますがいかがでしょうか。いや実際、どうしてるんでしょう?別に執務スペースを作ってるのでしょうか?それは効率という観点でどうなんでしょう?
社員の歩く速さに口を出す発想と、社長室でマンガを読む発想との関係も気になります。オンとオフを切り替えるのはありうることなので、社内にくつろぎスペースがあること自体をおかしいとは思いませんが、どこでどう切り替えられているのか、一般的には理解しづらいでしょう。いくつか記事等を読んだ限りでは、効率を非常に重視される方のようでしたので、マンガを読むのも効率に資するところがあるのだろう、と解釈しました。
私はこの企業のことをよく知りませんし、特に悪い感情も持っていません。わからないものをわからないと書いただけです。事情をご存知でしたらぜひ教えていただきたく思います。
以上の趣旨は本文に書いてあるので読めばわかると思っていたのですが、あえて再度書いておきます。
Posted by: 山口 浩 | May 23, 2009 at 09:57 AM
「社員は立たせて働かせ、社長は社長室で椅子でくつろぎ?」というステロタイプな感想を私は持ってしまいました。まあ来客に立たせるわけにはいかないでしょうし取材のためやむなく座ったのかも。普段は本当に椅子がないのかも。というかなくあって欲しいです。
会議は立って、はいいアイディアと思います。でもずっと椅子なしって社員さんにはどうなんでしょう。感想を聞いてみたいです。椅子はないけど休憩時間には寝部屋で寝れるとかならそれはそれで効率いい気も。
Posted by: novalis | May 23, 2009 at 07:03 PM
novalisさん、コメントありがとうございます。
実際のところ、外から見ているよりまともなんだろう、とは思います。執務スペースにいすがないなら、別に座って休憩できる場所が必要でしょう。ただ、あの記事は手放しで絶賛してる割にはちゃんと書いてないので、そこんとこどうなのよ?と知りたかったわけで。
私の場合、座ってる時間も長いのですが、立って仕事をしてる時間もけっこうなものになります。授業以外に、読み物も書き物も、けっこう立ってやってる経験からいうと、立って作業する時間と同じくらい、座って作業する時間も大切なのではないかな、と思います。なので、記事中に「省スペース」がメリットの1つとして挙げられていたことには疑問を持ちました。逆じゃないだろうか、と。私も以前からいい立ち机を探していて、講演用の演台でも買おうかと思っていたくらいなのですが、いまだに買っていない理由の1つは、スペースがないということです。両方は置けないとなると、やはり座って作業するためのものを優先するのが自然なわけで。つまり、立って執務するスタイルは、むしろスペースをよけいに必要とするような気がします。
Posted by: 山口 浩 | May 24, 2009 at 09:39 AM
亀レスで申し訳ないですが:
さっき www.kenja.jp をみたら。酒巻さんは、賢者「深彫り」から賢者並盛りに格下げになって、しかも、インタビューはあぼーんされてます(ですから、このエントリからのリンクは切れてます。もしリンクを踏むと、"不正アクセス" と脅されます。汗)。「私は社長だから椅子に座って当然だ」とか「2社あるから」とか「本当は座ってましたごめんなさい」とかどれでもいいのに、この賢者(or 関係者?)は見苦しいなと思いました。
Posted by: Ito hisashi | July 07, 2009 at 01:11 AM
Ito hisashiさん、コメントありがとうございます。
そうだったんですか。残念といえば残念ですね。むしろ堂々と説明してくれれば納得できたんですが。本当に効率が向上するなら、むしろもっと大々的に宣伝すべきですよね。日本経済の将来のためにも。
Posted by: 山口 浩 | July 07, 2009 at 04:54 PM