私のサンタクロース喪失記

これは当新聞社に届いた15才になる少女からの手紙です。

こんな大切な話を当新聞社を信頼して相談してくれた埼玉の少女に
感謝します。
 

拝啓、記者様。

私は埼玉県に住む15才になる中学三年の女の子です。

突然ですが記者様はサンタクロースって信じてますか?

私は15才になるまで「サンタクロースって絶対にいる!」って信じて
ました。クリスマスの夜、白い雪をけたててトナカイのそりを走らせ
て、世界中のその年良い子だった子供にプレゼントを届けてくれる優
しそうな白髪のおじいさんを・・・・。

もちろん友だちは誰一人サンタクロースなんかいない、っていってい
ました。みんながサンタクロースを信じている私を笑いました。
でも、毎年クリスマスの朝起きると枕元に置いてあるプレゼントを見
て「ああ、今年もサンタクロースが来てくれたんだ。」と一年間良い
子でいた自分をどんなに嬉しく思ったことでしょう。

そんな話をしている私に、ある男の子がこういったことがあります。

「サンタクロースは君のお父さんなんだぜ。君が寝ている内に、前の
日におもちゃ屋で買ったプレゼントを置いておくんだぜ!」

「そんなこと絶対ない!」そう思っていた私に去年本当にショックな
出来ごとが起こりました。彼の言っていたことは本当だったのです。

私がその事を知ったのは去年のクリスマスシーズンが終わった頃です。

冬物のコートを出そうと思った私は、タンスを開けてみたのですが、
そこにふろしきに包まれた見なれない包みがありました。

「なんだろう?」そう思った私はそっと包みを開いてみたのです。

そこには白い毛皮のボアがついた立派な赤いスエードのコートと黒の
皮のベルト、お揃いのズボンと帽子までがありました。
びっくりした私は「もしかして・・」と思い玄関のげた箱を調べに行
きました。するとげた箱の奥に厚手の黒革のブーツまであったのです。

そういえば物心ついた頃から家ではトナカイを飼っていましたし、日
本では見たことがないようなそりもありました。12月になると見なれ
ない小人の人達がたくさんの荷物を持ち込んでくることも例年のこと
でした。それに12月24日と25日には父はいつも家には居ませんでし
たし、立派な白髭や白髪も会社員としては不自然です。それに私の父
としてはあまりに年令が離れ過ぎているのも妙といえば妙です。

でも、まさかあの不器用で日曜日になるとごろごろとテレビばっかり
みていて、お母さんに叱られてばっかりいる父がサンタクロースだな
んて・・・・。私にはとても信じられません。

父や母には私が服や靴を見たことはまだ話していません。両親もまさ
か私に勘付かれているとは思っていない様です。

今年もまたクリスマスの季節がきますが、去年のように無邪気にサン
タクロースを待つ気にはとてもなれません。私の黄金の子供時代は、
あの服を見つけた時に終わってしまったのです。
こんな私はこれからどうクリスマスを過ごせばいいのでしょう?

突然の手紙すみませんでした。できれば良いお答えをお待ちします。

                             敬具
 
 
 

サンタクロースっていないんでしょうか?

この時期になると必ずといって世界中で紹介される「そうです、バ
ージニア・・・」でお馴染みのニューヨーク・サン新聞の社説「サ
ンタクロースっているんでしょうか?」は、8歳の女の子の疑問に
慈愛の心をもって答えた名文ではある。

しかし、同時期に同じような質問に答えた、別の新聞に掲載された
人生と言うものに真っ向から立ち向かった勇気あるもうひとつの社
説「サンタクロースなんかいないんですよ」は歴史の闇に葬られ、
埋もれてしまっている。
 

「そうです、ボビー。サンタなんて本当はいないんです。

 君がサンタなんていって無慈悲ともいえる子供の身勝手さで、法
 外なお願いをすれば、君の愛する御両親は、何とか君の子供らし
 い夢を壊さないようにと、頭を痛めるに違いありません。

 この世の中には、子供の夢やメルヘンよりもずっと大切なものが
 山のようにあります。

 車のローンや家の家賃、不動産税や福祉目的とかなんとか御大層
 な名目で政府が貧乏人からむしり取っていく税金と称するお役人
 の給料、いろいろな近所つきあいやお父さんのうさ晴らしのため
 のバーのつけ、その他いろいろなものがあるのです。
 もしこういったものが、子供の無知で色付けされた「クリスマス」
 なんていうたった1日のために踏み付けにされたら、弱くて非力
 な世の中の大人達はどうすればいいのでしょう?
 君たち子供は泣けば済みます。でも可哀相な大人達にはそれすら
 許されてはいないのです。

 サンタクロースですって?そんな人がいるとしたら何故この世の
 中に貧困や黒人差別や植民地支配があるんでしょう?
 白人にだけ優しいサンタクロースは、よい子にしていた黒人に何
 をくれると思いますか?
 貧困に喘ぐ植民地の子供にクリスマスがあると思いますか?
 よい子にしていた子供に小さなステーキひとつ与えないで、飢え
 死していく様を黙ってみているのですか?
 それほどまでに全員が悪い子なのでしょうか?

 いいですか、ボビー。そんなことを考えている暇があったら冬休
 みの宿題をすませ、今日がクリスマス・イヴであることなどまる
 で気付かない振りをしていなさい。
 そんな君をみて、君の御両親はどれだけ安堵することでしょう。
 そのときこそ君の頭上には本当の親孝行者だけに与えられる聖者
 の冠が与えられるのです。
 それは商業主義に踊らされ、薄汚れた紛い物のサンタクロースな
 んかの数十倍も美しく、清らかな光を放つのです。

 いいですか、ボビー。この涙の谷に飛び込んでいかなけれならな
 い君たち子供にとって、今は人生で一番の安息の時なのです。
 そんな時にサンタクロースなんて甘ったるい安物の砂糖菓子のよ
 うな幻想に惑わされてはいけません。
 それは一時の口福は与えてくれますが、毎食の一杯のオートミー
 ルほど君の体を作ったり、空腹を満たしたりはしてくれはしない
 のです。

 そうです、ボビー。君が子供を持った時に初めて、君自身がどれ
 ほどサンタクロースを忌ま忌ましく思うかが判る日が来るでしょ
 う。

 サンタクロースですって?それは汚らしい大人たちが考えた赤い
 服を着た商業主義の手先の悪魔に違いありません。これからもず
 っと貧しいサラリーマンの財布からなけなしの札を奪い取る口実
 として生き残るに違いありませんけれど・・・。」
 
 
 

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