コラム

2012年03月16日号

【鷲見一雄の呟き】
『特捜神話』を作ったのは「大手マスコミ」と「裁判官の『検察の捜査手法の容認』」


●産経ニュース配信記事
 産経ニュースは15日、《未公開株・強制起訴事件で無罪判決に波紋「結果より過程大事」「制度あり方検討を」》という見出しで次の記事を配信した。
 平成21年5月に強制起訴の制度が導入されて以降、複数の起訴議決が出され、東京地裁では小沢一郎元民主党代表(69)の公判も進む。有権者から選ばれた審査員の「起訴すべきだ」との判断に対する初の判決で無罪が出されたことで、検審のあり方について議論を呼びそうだ。
 小沢元代表が問われたのは、資金管理団体「陸山会」の土地購入をめぐる政治資金規正法違反罪。今月19日の公判で結審し、4月中にも判決が言い渡される見通しだ。
 兵庫県明石市の歩道橋事故(13年)で業務上過失致死傷罪に問われ、初の強制起訴となった元明石署副署長も神戸地裁で公判中。JR福知山線脱線事故(17年)で、業務上過失致死傷罪に問われたJR西日本の歴代3社長は、同地裁で公判前整理手続き中だ。
 白上敏広社長については、那覇地検が嫌疑不十分で不起訴としたが、那覇検審が22年6月に「起訴相当」と議決。地検の再度の不起訴に対して検審は7月、「不明な点があまりにも多く、裁判所で真実を糾明すべきだ」として、起訴議決を出した。
 検審制度に詳しい山下幸夫弁護士は「もともと、検察が起訴できないと判断したもので、有罪にするのは難しい事件」と話す。「不起訴になれば証拠は表に出ない。強制起訴されれば被害者は法廷でやり取りが傍聴でき、オープンな場で第三者に判断してもらうことができる」とし、「結果よりも過程が大事な制度」と語る。
 一方、元東京地検特捜部検事の高井康行弁護士は「無罪は当然の判断」とする。白上社長も未公開株を所有していたことから「本当に上場するあてがなければ株を購入する訳はなく、詐欺の故意がなかったことは明らか」と指摘。検審の判断には「故意や詐欺の成立を検討した痕跡がなく、2度の議決いずれにも問題がある」と話す。
 さらに強制起訴の制度についても「検察官の起訴基準と異なる、検審独自の起訴を認めたわけではなく、あくまで起訴は有罪の心証があった場合に行うべきもの。嫌疑不十分での不起訴については、原則として強制起訴の対象にすべきではない」と述べた。
 京都産業大学法科大学院の渥美東洋教授(刑事訴訟法)も、「有罪か無罪か分からないから裁判所に真相解明を求める、というのはおかしい」と検審の判断に疑問符をつける。
 渥美教授は「起訴によって、人の人生に非常に大きな影響を与えることになる。『無罪の推定』という原則に基づき、有罪が確信できる場合以外は起訴すべきではない」とし、「検審が安易に運用されるようであれば、制度のあり方を慎重に検討することが求められる」と話した。

検察審査会と強制起訴
検察官が不起訴処分とした被疑者について、有権者11人で構成される検察審査会が審査。8人以上の賛成で「起訴相当」とすると検察が再捜査する。この上で起訴されなかった場合は、検察審査会が2度目の審査を行う。その結果、8人以上の賛成で「起訴すべきだ」と議決(起訴議決)されれば、検察官役の弁護士(指定弁護士)が強制起訴する。

●鷲見一雄の視点
 小沢を強制起訴した大室俊三弁護士らは「有罪を確信したからこそ起訴した」と私は捉える。
 いやしくも3人の専門家、「怪しい」とか「こう考えられる」で強制起訴したとは思えない。鉄壁な防御柵を設営した小沢に対する強制起訴事実の存在立証も「合理的な疑いがない」域に達していると私は評価する。
 弁護人の無罪立証の柱は「指定弁護士の公訴事実」ではなく東京地検特捜部の「検察審査会への虚偽の捜査報告書の提出」ではないか。争うべきは公訴事実立証の穴であって、検察の検審への提出書類の在り方ではない。
 私には小沢と検察は一体となって検審の議決に対抗しているように写る。私は政界最高の実力者・小沢には「疑わしきは罰せず」の原則をあてはめるのはいかかかと思う。小沢の弁護を総括しているのは「当代切っての『政治と検察のあいだ』に精通している則定衛弁護士」であるからだ。
 いうまでもないが、則定は法務大臣秘書官、法務省官房長、刑事局長、事務次官経験者。高井康行弁護士は東京地検特捜部検事の経験はあっても『政治と検察のあいだ』に精通しているわけではない。検察官経験者で『政治と検察のあいだ』に精通していると私が評価できるのは日本国中探しても10人もいないということだ。検事総長経験者でも吉永祐介、土肥孝治は精通者ではない。若狭勝も宗像紀夫も精通者ではない。
 マスコミは特捜検事経験者なら誰もが精通していると捉えているようだが、大間違いである。検察に関する限りマスコミの誤誘導が国民の検察観を大きく狂わせてきたと私は断言して憚らない。『特捜神話』を作ったのは「大手マスコミ」と「裁判官の『検察の捜査手法の容認』」である。それが村木裁判以降変わってきたということだ。(敬称略)


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