2012-03-16
任天堂3DS、アジア市場に的 来月に韓国、今夏中国で発売――「空白地帯」攻略へ
任天堂がアジア市場の開拓を本格化させる。携帯型ゲーム機「ニンテンドー3DS」を4月から順次、韓国や中国でも発売する。新たにアジア戦略の専門部署を立ち上げるなど、販売拡大に向けた社内的な体制も整えつつある。これまで先進国の市場に集中していた任天堂にとって、アジア市場は事実上「空白地帯」に近かった。今後の成長のためにはアジア攻略が必須になるが、それには不透明な規制や海賊版の横行など、乗り越えるべき課題も少なくない。
3DSを4月28日に韓国で売り出すほか、香港と台湾でも今年夏をめどに発売。同時期に中国(現地名「iQue3DS」)でも販売を計画している。海外でゲーム機やソフトを販売するためには、現地の言葉に翻訳する手間があることから、任天堂は市場規模が大きい欧米への投入を優先してきた。アジア向けの仕様も固まり、社内では発売に向けた準備に追われている。
任天堂はこれまでも、「Wii」や「ニンテンドーDS」を韓国や中国で販売してきた。ただ今回は3DSの発売を前に、2月にアジア事業部を海外事業部から切り離して発足させるなど、任天堂も本腰を入れてきた。アジアを欧米と同じ「海外」という枠組みにとどめたままでは、独特の難しさがあるアジアを攻めきれない――。そんな問題意識がにじむ。
任天堂は日米欧など先進国での売り上げが約9割にのぼり、アジアの新興市場は手付かずも同然だった。ただ、中間所得層の増加とともに商機は広がっており、市場開拓の余地は小さくない。そのためには、先進市場とは異なるアジア諸国の商慣行や、深刻度が欧米の比ではない海賊版への対策が鍵を握る。
たとえば中国では、外資系企業がゲームソフトを販売するにはタイトルごとに当局から承認を得る必要がある。「審査の終結時期が不透明なので、審査を待っていては販売機会を逸してしまう」(関係者)。そのため規制が比較的緩やかな香港を拠点に、中国本土への浸透を図る戦術を採る。中国本土から観光で香港を訪れる人は年間で約3000万人。任天堂の調査によると、このうちゲームの購買層として期待できるのは1割程度。ゲームを記録してあるカートリッジは台湾や香港で一般的な繁体字だけでなく、本土向けを想定して簡体字も盛り込むことで両市場に対応できるようにした。
アジアで横行する海賊版への対策も不可欠だ。これまでもソフトの複製を防ごうとセキュリティー対策を強化してきたが、容易に破られては海賊版の流通を許してきた。ただ最近ではプログラムの開発に外部企業の最新技術を採り入れることで、成果を上げつつあるという。アジアでの事業展開を慎重にさせてきた海賊版問題の沈静化に道筋が付けば、今後の攻勢に向けた環境が整う。中国ではインターネットを経由して他の利用者と同じ舞台で遊ぶオンラインゲームが主流で、「三国志」に代表されるロールプレイングゲーム(RPG)が支持を集めている。「スーパーマリオ」など日本のゲームも一定の人気を誇るが、「違法コピーの存在で収益化が難しい」(ゲームジャーナリスト)という。
任天堂は2012年3月期の連結営業損益が450億円の赤字(前期は1710億円の黒字)になる見通し。通期の営業赤字は1981年に業績を公表してから初めての事態。新興国市場の開拓は落ち込んだ業績を立て直す即効薬にはならないが、息の長い取り組みで先進国市場に次ぐ収益源に育てる構えだ。 (渡辺淳)
≡日経産業新聞 2012年3月16日付掲載≡