第三部 導なき世界の中で…… (C.E.72年-C.E.75年)
84 再帰する時 -SEED Holder 4
気まずい雰囲気を何時までも引き摺ったままではいかんだろうと、今度こそ意識を切り替え、ヒビキと一緒にアマハラ・アドバンスドテック社の無重力工業区画は試作機を開発しているエリアに向う途上、世間話をする。
「ほぅほぅ、指輪分の資金は貯まったのか」
「ええ、後は結婚資金ですね」
「……若いのに、頑張るねぇ」
「あはは、実際はフレイに言われるままに動いているような気がしないでもないんですけどね」
「でも、それが円満に繋がってるってか?」
「そうかもしれないです。……僕、引っ込み思案な所がありますから、フレイがグイグイと引っ張ってくれる方が助かります」
「おっと、惚気か?」
「あ、あはは」
笑って誤魔化しているけど明らかに惚気ですほんとうにありがとうございました、って思った所で、お前、人の事言える立場かって、俺の事を見知っている連中から言われそうだなぁ、とも思い至った。……が、それはそれとして、これはこれである。
「そ、そういえば、ムゥさんもテストパイロットをすることになったんですよ」
「あれ、奴と知り合いだったのかって、そりゃ、フラガの奴もアークエンジェルに乗りこんでいたんだから、知っていて当然だったな」
実は拘束後に暇つぶしでやった尋問や国防軍病院に入院した後の見舞いで、ラウ・ル・クルーゼとは血縁関係という因縁を持つライバルだったとか、あの凄まじい熱を帯びた高笑いを聞かずに済む事にホッとしつつも勝ち逃げされた事がとても残念だとか、キラ・ヤマトを自分達が生き残る為とはいえ、無理無理に戦争へと引きずり込んでしまった事に罪悪感を感じているとか、惚れた女は情が深い美人で今まで見た事がない魔乳だとか、追い詰められた状況とはいえ、なし崩し的にアークエンジェルの艦長を押し付けてしまった事を反省しているとか、技術士官だというのに矢鱈と格闘能力が高くて押し倒すのに幾度も失敗したとか、ステラ・ルーシェは妹か娘のような存在なのでこれから先が心配だとか、正式な交際を認めるのはこの俺を倒してからだ、とシン・アスカに言ってみたいとか、自分とルーシェを守る為に散って逝った二人の葬儀をしてやりたいとか、色々とムゥ・ラ・フラガから聞き出していたりする。
「はい。……あの頃はあまりわからなかったけど、実はムゥさんに色々と気を使ってもらっていたんだって、今ならわかります」
「兄貴分って奴だな」
「そうですね。……だから、あのヤキン・ドゥーエでの戦闘で行方不明になって以来、ムゥさんがどれだけ大変な思いをしてきたのか、僕には知る事はできないですけど、それでも生きていてくれて、本当に良かったです」
「そうだな、生きているだけでも幸せな事だよな」
「……ええ。あ、こっちです」
ヒビキの先導でさり気に監視カメラが多い通路を進んでいくと、極普通に通路に並んでいる、人の目を引かない扉の一つの前で立ち止まった。
「ここか?」
「はい」
ヒビキは俺に答えつつ、壁面のパネルに指紋を認証させて、暗証コードを打ち込む。すると、扉が右側にスライドして開いた。
「中々厳重だな」
「あはは、実はこれの後に二枚続きます」
ヒビキの言葉に肩を竦める事で応えながら、その後を追って中に進むと、今度のセキュリティパスは虹彩認証とカード式のようだ。
「後二枚もか? 面倒なこった」
「仕方ないですよ。産業スパイが入り込んでいたそうですから」
「過去形って事は、捕まえたのか?」
「はい、ナタルさんが捕まえたそうです」
「へぇ、バジルールさんがって、何故にそんな……、あー、そういえば、バジルールさんもアークエンジェルに乗っていたっけ」
「ええ、そうです。……最近、フレイが間に入ってくれてから、よく話をするようになったんです」
「いいことだよ。印象も変わっただろう?」
「そうですね。あの時、余裕がなかったのは僕だけじゃなくて、みんなも同じだったんだって、気付きました」
うんうん、一旦頭を冷やしてから鑑みるのもいいよね。
……。
それにしても産業スパイとは……、そんな言葉を聞くと不安になるな。つか、うちの実家は大丈夫なのかねぇ、と思っていると、早くも扉がスライド……って。
「……なぁ、この、いかにも奇をてらいましたと言わんばかりの開き方は誰の趣味なんだ?」
「……さぁ、流石に、それは僕も知らないです」
何故か、上に上がっていく扉になんとも言い難い表情を浮かべながらも、中に入ろう……と?
「……」
「……」
え、えーと、何故わからんが、開いた扉の向こうで、国防軍の制服を着たフラガの野郎とミハシラ・アドバンスドテック社の黄色いツナギ姿のバジルールさんが抱き合っていた。何が起きているのかわからないまま、とりあえず……、どうしよう?
「……」
「……」
こちらが混乱している間に、向こうもこちらに気付いたようで、フラガの野郎はあからさまに〝これは不味い〟って表情を浮かべ、バジルールさんは初々しくも顔から首筋までを真紅に染めて、フラガの胸の内に顔を隠した。
む、むぅー、隣のヒビキは口を半開きにして呆けているし……、と、とりあえず、俺が何か言わんといかんよな。
「あ、あー、いや、その、気を利かす事ができずに申し訳ない。でも、ちょっとだけ通してくれたら、ありがたいんですけども」
「ちょ、待て、落ち着け、これはだな……」
「いやいや、フラガよ。人には色んな事情がある事はわかってる。うん、だから、俺は何も見ていないし、何も言わないし、何も聞いていない。だから、安心しろ」
うんうん、俺は決して何も見ていない。例え、フラガの浮気の虫が騒いだ結果だとしても、まったくもってあずかり知らない事であるし、くくく、フラガを弄る新しい材料を手に入れた、なんて黒い事はこれっぽっちも思っていないのだ。
「おまっ! これはじ、事故だっての!」
えー、そのわりにー、しっかりとー、ばじるーるさんのおしりにー、てをまわしているのはなんでかなー。
「そ、その生暖かい目はやめろって!」
あまりのフラガの慌てように、口元に笑みが浮かんでくるのは人として自然な事なことであり、ちょっとおちょくってやろうと思ってしまうのもまた当然の事なのだっ、なんて風に思考が回り始めていると、隣のヒビキが一言。
「えと、ムゥさんとナタルさんって、そういう関係だったんですね、気が付きませんでした」
「い、いや、だから、落ち着け、キラ。もう一度言うから、よく聞けよ? 今のこの状態は、あくまでも、事故だからな?」
「事故、ですか?」
「そう、事故だっ!」
事故……だと……?
「つごうがわるくなると、おとこのひとはみんなそういうんです」
「なっ! ラインブルグっ! 話を作るなっ!」
「あはは、わかってるって、あっ、フラガ、口元……」
「んな古典に引っ掛かるかっ!」
ちっ、流石に場慣れしているだけあって、手強いな。
「とにかく、俺の話を聞けぇーーーーー!」
というフラガの熱い叫びもあったので、フラガの言い訳を聞くべく、警備担当と連絡を取って三枚目の扉を中から開けてもらい、機密エリア内の休憩室に場所を移したのだが……、バジルールさんはずっと顔を赤く染めたままだし、フラガはフラガで少々気難しそうな顔をしている。
「あー、フラガよ、お前さんが事故だというなら事故なんだろうし、別に釈明する必要なんてないぞ?」
「いや、お前の場合、しっかりと言い聞かせておかんと、後々まで弄られそうだからな」
な、中々、イイ読みしてるんじゃないの、なんて思いながら、二人を軽く観察する。見た感じ、フラガが困惑したような表情を浮かべているのに対し、バジルールさんは何か思いきれない想いでもあるような……、見ているこっちが切なさを感じてしまうような表情でフラガをチラ見していた。
やはり何かあった模様と内心で判断していると、綺麗に髪を切ってすっきした風情のフラガが真剣な顔で弁明を始めた。
「いいか、ラインブルグ。さっきの態勢になったのはな……」
「……なったのは?」
「……俺が中に入ろうとしたら、丁度ナタルが出てきて、そのままぶつかったんだよ」
「ああ、なるほど、出会い頭の衝突って奴ね」
「そういうこった」
「なんだ、そういう事だったんですか」
フラガの言葉を聞き、ヒビキは素直に頷いているが……、保安局時代に鍛えられた頼りになる勘は、この声音は絶対に嘘をついているっ! って叫んでいたりする。先程の観察分とあわせて考えると、事実とは異なる可能性が大だと思われるのだが……、うん、フラガの言葉に一言も口を挟んでこないバジルールさんの手前、そういうことにしておこう。
大きく頷いて、了解した事を示し、ここに来た目的……本来の用件に関する事を口にする。
「ん、さっきの件は納得した。……で、話を変えるが、フラガもテストパイロットをしているんだって?」
おいおい、フラガさんよぅ、その明らかにホッとしたような、拍子抜けしたような表情をしたらいかんだろう、って……、突っ込むのはやめておいて、気を使ってんだから話を合わせろという意図をジト目に乗せて、答えを促す。
「あ、ああ。んんっ、とはいっても、まだ、今日で三日目なんだけどな」
「そうなのか? つか、退院してすぐなのか?」
「ああ、こっちは病み上がりだってのに、人使いが荒いぜ、まったく」
「いいじゃないの、使われているうちが華だぜ?」
「言ってろ」
よしよし、微妙な空気から普通に話をできる雰囲気に変わってきたな。そう感じたので、バジルールさんに話を振ってみる事にする。
「では、バジルールさんはここでどのような仕事を?」
「あ、はい、私は主に庶務と警備を担当しています。ここは機密エリアということもあって、入室できる人員が制限されていますから」
「あー、なるほど、色々とこなせる軍務経験者の方が使い勝手がいいって事ですか、って、すいません、用事があったでしょうに、引き止めてしまって」
「いえ、構いません」
……バジルールさんが纏っている空気もさっきと違って引き締まるというか、俺が知る凛としたものに近くなっている。とはいえ、バジルールさんの状態を読み切れていない。でも、あまり探りを入れるのも如何なモノだし、そろそろ仕事に戻った方がいいだろう。
「なら、ヒビキ、例の新型の所に案内してくれるか?」
「ええ、案内します」
「フラガとバジルールさんはこれから?」
「俺も中に用事があるし、付いてくよ」
「私は……、これから非番なので、今日はこれで失礼します」
「そうですか。お仕事、お疲れ様でした」
「いえ、軍務についていた頃に比べれば、楽なものです」
キリっとした表情でそう言い切ったバジルールさんは俺達三人に軽く会釈すると去って行った。
◇ ◇ ◇
紅一点が去ってしまったので、残された男三人で寂しく件の新型機がある格納庫に移動したのだが……、その道中、フラガはムッツリと黙り込んでいる。見た目と醸し出す雰囲気から何事かを考え込んでいるように感じたので放っておいた所、付き合いの長いヒビキがどうにも気になったらしく、何度か話しかけようとしていた。もっとも、上手く切っ掛けをつかめないようで、こちらに助けを求めるように顔を向けてきたが、フラガも分別の付くいい大人なんだし、向こうから何か言ってくるまで放って置いてもいいだろうと考え、首を振っておいた。
当事者以外が首を突っ込むのも如何なものかってことだ。
そんな訳で意識を切り替え、目前に屹立している二機の試作機に目をやる。某ガン○ム顔に似たフェイスを持つ両機共に、あちこちにミハシラ・アドバンスドテック社の作業員が群がっており、箇所によっては装甲が剥がされ、内部のフレーム構造が見えていたりする。マリーネ開発以降、久しぶりに感じる開発現場の空気に口元を緩めながら、ヒビキに声をかける。
「ヒビキ、見て回る前に簡単な説明を頼めるか?」
「あ、はい、わかりました」
俺の求めに、ちらちらとフラガの様子を窺っていたヒビキが顔を引き締めると語り始めた。
「まず、手前側にあるのが、僕が担当している機体でストライクの105フレームを使用しています。コードは【MAT-X105-01Y】、名前はまだ決まっていないそうです」
そう言ってヒビキが指し示した機体は、過去に資料等で見た覚えがあるストライクにとてもよく似た姿をしている。その機体色はツインアイやアンテナ部以外は全て灰色であり、以前、生で見たプロヴィデンスと同様にフェイズシフト装甲かそれに類するモノを装備していると予測できた。
……でも、記憶にあるストライクよりもシルエットが若干マッシブになっているような?
「昔、俺が資料で見たストライクよりもちょっと大きくなっているように感じるんだが?」
「そうですね、脱出機構やジェネレーターを載せたり、バッテリーやプロペラントタンクの容量を増やした関係で一回り大きくなっています」
「そうなのか?」
「はい、ラインブルグさんの実家で作ってる脱出機構と熱電発電併用型燃料電池を積んだんです。他にも重散弾砲とか、破砕榴弾パックとか、ダミーバルーンとか、トリモチとかも採用されていますよ」
……実家がちゃっかりと食い込んでいるあたり、どうコメントしたものか、悩む所だ。
「けど、それだけで全てを賄う事は不可能だから、バッテリー容量の増量って訳か」
「ええ、本体にはそれぞれ専用に、主動力用と兵装用、装甲用、予備用が設置されてます。この四系統に、バックパックに装備された補助用バッテリーとを合わせて五系統になります」
「あー、装甲用にもバッテリーがあるってことは、やっぱりPS装甲か?」
「それの改良版で【ヴァリアブルフェイズシフト装甲(VPS装甲/Variable Phase Shift Armor)】です。このVPS装甲はフェイズシフトする為に必要な電流量を調整する事ができるんです」
「となると、継戦能力が伸びる訳か」
「ええ、単純に通常時と戦闘時で切り替えるだけで、バッテリーの消耗をかなり抑える事が可能になりますから、稼働時間が大きく伸びます」
技術の日進月歩な進展に乾杯ってか。
「武装は?」
「機体本体の武装は、主兵装として74式高出力ビームライフルが一挺と、予備に腰部マウントに同じ物をもう一挺。補助兵装として、両脹脛部に破砕榴弾パックを二つ、CIWSとして頭部機関砲が二門、格闘兵装が両大腿部に74式ビームサーベルが二本と、両椀部内側に対ビームコートされたアーマーシュナイダーが二本です。これにバックパックの兵装が加わります」
「標準として使うバックパックの兵装は?」
「ベーシックバックパックなら、重散弾砲が二門です」
「……実弾兵装とビーム兵装の両方を装備しているか。中々、バランスが取れていると思う」
「これまでの戦訓を取り入れたって兵装担当の人が言ってました」
「痒い所に手が届いていて、使う側の事をちゃんと考えた見事なバランスだって伝えておいてよ」
「あはは、ええ、伝えておきます」
ヒビキの声を聞きながら、肉感があってバランスの取れた機体に目を這わせていくが……、灰色だけにちょっと寂しい。
「さっき聞くのを忘れてたけど、装甲に通電した時の基本色は?」
「ストライクにあやかって、基本が白、胸部のバイタルエリアが赤と青です」
「トリコロールって奴か」
なら鮮やかでいいよね、なんて思いながら機体のあちこちに視線を向けていると、視界の隅に金色に輝く物体が見えた。興味を引かれたのでそちらを見ると、シールドが金色に輝いてた。
「なぁ、あの金色に塗装されたシールドは?」
「え、ええっと……、【ヤタノカガミ】っていう鏡面装甲システムを使った試作の対ビームシールドです」
「……あれ、太陽の光とかを反射して、思いっきり目立ちそうだから、俺の経験上、できれば使うのを止めた方がいいと思うぞ」
「……僕もそう思うんですけど、ビームを反射できるそうなんです」
「え、ビームを反射するのか?」
レーザーならなんとなくわかる気がするけど、ビームをどうやって反射?
頻りに首を傾げていると、何故か、ドヨーンとした死んだ魚を目をしたヒビキがこれまでと一線を画した声でぼそぼそと呟く。
「僕、必死になって読み解きましたから、一応は説明できますけど、聞きますか? ……正直、僕はお勧めしません」
「……お前さんの顔を見たら、理解するのにとてつもなく大変なんだって事はわかるから、とりあえずビームを反射するもの凄い装甲を使っているって事で納得しておくわ」
「その方がいいと思います」
世の中、原理を特別に知らなくても使えるならそれでいいんだよ、って事でファイナルアンサー、てな具合に折り合いをつけて、次の話題に移る。
「んんっ、そういえば、バックパックって言ってたけど、こいつも換装式になるのか?」
「一応、換装式です。今の所、小型ミサイルを装備した高機動タイプとか、大口径レールガンや72式改高エネルギービーム砲を装備する高火力タイプとか、幾つかのバックパックも作る予定だそうですけど……」
「……けど?」
「はい、僕が実際に実戦で使用してきた感想を言わせてもらえれば、使用するパックって意外と限定されるんですよ」
「確かに、マリーネでも幾つかパッケージを用意しているけど、使わないのもあるからな」
マリーネで使用されない代表といえば、対艦攻撃に使用するHAパックが挙げられる。
「そうなんですよ。だから、ラインブルグさんの方からも一言お願いしたいと……」
「ん、何か問題が起きてるのか?」
「はい、今の段階で二十近くの案が出てるんですけど、半分ぐらい作りそうな勢いがありまして」
「いや、それ位ならやってみてもいいと思うけど?」
「それらを装着した際のOSの調整が、何故か、僕の担当なんです。もしも、そんな事になったら、また残業が増えて……」
「あ、あー、うー、あー、あ、アルスターだって、ちゃんと判ってくれるさ」
「……うぅ、残業で遅く帰ったら、フレイが包丁を研いだり、鋏の手入れをして待っている姿を見た事がないから、軽く言えるんですよ」
え、なにそれこわい。
「ひ、ヒビキって、凄く重く愛されてるよなぁ」
ヒビキは俺の言葉にガクリと首と肩を落としたが……、うん、話を逸らすもとい気を紛らわせる為にも話を進めよう。
「な、なら、もう一機の方は?」
「……はい、もう一機は【MAT-VX13Y】のコードを持つMA可変機で、ムゥさんがテストパイロットしています」
目が死んでいるヒビキから目線を外し、懸架されているもう一機のMS……オオツキガタに似たシルエットを持つMSに移す。
「特色は?」
「動力源に従来型燃料電池を使用して、装甲にもVPS装甲を採用しています」
「VPS装甲を採用する事で、装甲関連が弱い可変機の弱点を補うつもりか」
「はい。後、他の特色としては独自の脱出機構が搭載された事と、ラミネート装甲式対ビームシールドと無線誘導式機動攻撃ポッドが装備された事です」
……順番に聞くか。
「ラミネート装甲ってのは確か、ビームのエネルギーを装甲全体に拡散させて散らすんだっけ?」
「ええ、そうです。けど、ラミネート装甲は装甲面が広くないと効果が低いんです。なにしろ、廃熱が追いつかなくなると効力が損なわれますし」
「……なら、廃熱の問題を解消したってことか?」
「何でも、大西洋連邦軍のMSで採用されている方式……吸熱ジェルのカートリッジをシールドの裏に取り付けたそうです」
「それって、吸熱ジェルを消耗しきった時点で終わりじゃないか?」
「……あまり大きい声では言えないですけど、使い切るまでに落される可能性の方が高いって、開発担当の人が言ってました。付け加えれば、従来の対ビームシールドはビームを受けた後、シールドの能力が低下するので、しっかりと再コーティングする必要がありますから、その点を比較すると経済的に有利らしいです」
酷い話だが、納得できる話でもある。
「なるほどね。……なら、機動攻撃ポッドは?」
「これは単純に、メビウス・ゼロで運用されていたガンバレル・システムを量子通信を使った無線式にした改良版です。使用される四基の端末は翼部に装備されていて、ラインブルグさんの実家で作っている30㎜連装ビーム砲を装備しています」
「……ガンバレル・システムの改良版ってことは、優れた空間把握能力がないと価値がないし、結構、使い手を選ぶな」
「でも、これを使いこなせれば全方位攻撃が可能になりますから、非常に強力な兵装だと思います」
「確かに」
戦場でメビウス・ゼロとやりあった経験やラウとプロヴィデンスなんて凶悪な組み合わせを知っているだけに納得できるし、ヒビキにしてもその凶悪な組み合わせと戦ったんだから、身に染みているんだろう。
「ああ、だから、メビウス・ゼロに乗っていたフラガがテストパイロットになったのか」
「ムゥさんは空間把握能力が高い事に加えて、MSだけじゃなくてMAの適正も高いですからね」
「……何せエンデュミオンの鷹だからなって、そういえば、フラガの奴はどうした?」
「ええと……、まだ、考え込んでいるみたいですね」
「そうか。まぁ、奴もいい大人なんだから、仕事には影響を及ぼさないはずだし、あまり気にする必要はないさ」
「そうですよね、そうします」
俺の基本放置発言に背を押されて、ヒビキも納得したらしく、大きく頷いた。
その後、両機のコックピットシートに座ったり、シミュレーターをやったりして、パイロットの立場から色々と……コックピット内のレイアウトから操縦性や安定性、装備された諸兵装の長短所を踏まえた運用方法、VPS装甲や新方式の対ビームシールドについて一言といった具合に、開発担当者に意見を述べる事になった。
この二機なら、ザフトのフリーダム系MSやオーブのジャスティスといった強力なMSに対抗できそうだ、というのが俺の感想である。
……実戦に間に合えばいいがなぁ。
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