第三部 導なき世界の中で…… (C.E.72年-C.E.75年)
81 再帰する時 -SEED Holder 1
七月になり、世界情勢の変化は更なる加速を見せている。
というのも、六月下旬に三国連盟の仲介によって、L1のデュランダル政権と新地球連合が正式に停戦した事に加え、七月上旬にはユーラシア共和連邦と三国連盟が断続的に行ってきた協議の結果、対L1においては中立を、対オーブ及びL5では経済封鎖を確約したのだ。
これらの外交交渉が成功した結果、対オーブ戦略〝クレセント〟……地球上に三日月を描く対オーブ経済封鎖網と対L5戦略〝ハーフムーン〟……地球圏にL3-地球-L1-月という半月を描く対L5封鎖ラインが構築される事になり、アマハラ首長国の対抗戦略が完成することになった。
この目に見える動きに対して、L5政権が〝封鎖をヤメネェとお前ん所に侵攻して滅茶苦茶にすんぞごらぁ(意訳)〟って感じに各国公使館に噛みついているらしいが、〝はいはいわろすわろす〟って感じに鼻で笑われているとのこと。いやはや、矢面に立つのはこちらなので、あまり挑発しないでほしいもんだ。
一方のオーブだが、こちらはアスハ代表が自ら各国大使館に出向いて、直ぐに経済封鎖を止めるように必死に説得を続けているらしい。が、逆に先の件……ジャスティスの隠蔽やテロリストとの関わりについて問い詰められてしまい、しどろもどろになって逆に弁明する破目になっているそうだ。当時はおそらく、これ位は大丈夫だと思ってやったのだろうが……、いや、もう何も言うまい。
とにかく、国際情勢はアマハラ首長国に追い風が吹いている状況と言っても過言ではないだろう。
そんなアマハラ首長国の周辺状況から次の話に移るとして……、先月、プラントに密航しようとしてアマハラ国防軍に捕えられた元ファントムペイン構成員のネオ・ロアノークとステラ・ルーシェの取り調べで、ユニウス・セブン落下テロ前に起きたプラントの軍事コロニー〝アーモリーワン〟への襲撃がファントムペインによって為されたという証言が得られた。
でもって、この証言が〝ちょっとした不手際〟でマスメディアに漏れてしまった結果、市民の知る権利を盾に更なる情報開示を要求されてしまい、〝本当に仕方なく〟ネオ・ロアノーク本人への取材を許すことに。
〝困った顔〟の担当者が立ち会う中で行われた複数マスメディアの取材で、長かった後ろ髪を切り、すっきりとさせたネオ・ロアノーク(仮面付)本人がアーモリーワンへの襲撃だけでなく、ユニウス・セブン落下テロ時のファントムペイン上層部の動き……落下阻止に動いたロアノーク隊に度重なる帰還命令を出したり、大西洋連邦軍に圧力をかけて、L4に駐留していた大西洋連邦軍艦隊の出動を邪魔していた事実、ファントムペインの非人道的な実態……コーディネイター難民キャンプへの武力弾圧や身寄りのないナチュラルの孤児に対する薬物投与実験、更には、ファントムペインの黒幕がジブリール財閥の総裁であり、ファントムペインの兵士となった孤児達を部品扱いしていた事を生々しく証言した事から、これまた素晴ら……げふんげふん、凄まじいセンセーションを世界に巻き起こすことになってしまった。
更に付け加えると、近年稀に見る一大センセーションを生み出したロアノークの証言は副次的な効果……デュランダル政権が以前に出していたユニウス・セブン落下に関わる弁明に一定の信用を与える事になり、L1政権に対する地球市民の風当たりは少しずつだが弱まり始めている。
市民階層で融和的な空気が生まれつつある中、連日行われているファントムペイン関連のセンセーショナルな報道に、本当にさり気なく、〝L1とL5が分離した現状を見ればわかるように、プラントとザフトは運命共同体ではなく切り離せるものであり、地球から移住したコーディネイターが多数存在する今は必ずしもザフト一色という訳ではない〟、〝プラントはプラントでもザフトが牛耳るL5のクライン政権と非ザフトで構成されるL1のデュランダル政権はまったくの別物である〟、〝ユニウス条約加盟国の中で一番最初に条約違反を犯したのはオーブだった〟、〝アスハ系氏族はそれを知っていたが見逃していた〟といった虚々実々を織り交ぜたというか、実態の一面だけを切り取ったアマハラ首長国やL1政権にとって実に都合の良い情報を情報部が流しており、結果、ファントムペインやその支援母体であるブルーコスモス過激派、L5のクライン政権、オーブへの心象が悪くなり、本当に僅かずつだが、L1のデュランダル政権への視線が柔らかくなってきている。
うんうん、偶然にもファントムペインの内実を知るロアノークって駒が手に入ったんですから、これを有効に使ってユニウス後体制構築の邪魔になりそう連中は一纏めにして潰しましょう、って上層部に進言してみたんだが、実に見事にやってのけるあたり、流石はサハク首長だ。
とはいえ、実際の所は、新体制構築について賛同したというデュランダル議長や〝プラントの魔女〟、ファントムペインやブルーコスモス過激派や強硬派のやり口がブルーコスモスが結成された際に掲げられていた〝人類の進化は人の手ではなく、自然の手に委ねるべきだ(※注)〟という本来の理念にそぐわないと考えたブルーコスモス穏健派、これ以上の戦争を望まない各国の有力者や企業群、それを支持する市民が色々と動いてくれているからこそ、上手く運べているんだろうけどね。
このような歴史の表舞台で光を浴びる事があまりない地道な活動によって、ナチュラルとコーディネイターという存在に歴然たる差があるかもしれないが、同じ人間であることは確かだ、そもそも住み分けが為されつつあるというのに、わざわざその相手を貶めて対立を煽るような輩こそが歪な存在であり、社会における悪なのだ、というような空気が国際社会において、静かに広まりつつある状況だ。
無論、ファントムペインやブルーコスモス過激派や強硬派側だって黙っているわけではない。こちらの仕掛けに対抗する為、エイプリルフール・クライシスやブレイク・ザ・ワールドの特集を組んだり、ビクトリアやパナマでの虐殺等を取り上げたりして、平然と非道を為すコーディネイターの存在は許されるものではない、即座に抹殺すべき忌むべき存在であるとのネガティブ・キャンペーンを実施しているが……、何ということでしょう、コーディネイター=ザフト、ザフト=プラントという、これまでの世間一般に浸透していた図式が崩れつつある今、ザフトに対する怒りは増大しても、コーディネイターという存在に対しての憎悪や憤怒は蓄積されにくくなってきている。
とはいえ、あくまでもザフトとコーディネイターとが同一視されなくなってきているだけで、必ずしもコーディネイターに対するナチュラルの妬みや僻みがなくなったわけではないことには注意しておかないといけないだろう。
まぁ、でも、そもそもの話、人が人である以上はナチュラルだろうがコーディネイターだろうと関係なく、妬み嫉みが生まれて、何らかの軋轢が生まれる事も仕方がないことだと思うだけに、今のナチュラルとコーディネイターの関係にしても、ある意味、なるべくしてなったとも考えられなくもない。
でも、だからといって、流石に、対立を煽りたい連中が煽りに煽った結果や考えなしの連中の暴走によって、対立や軋轢が深刻化し過ぎてしまっている。そして、この対立で生み出されるのは世界の混沌……いや、下手をすれば、人類滅亡への片道切符かもしれない。
そんな怖い状況に行き着く前に、今の状況を打破する為に、冷静で客観的に物事を考えるできる人々を作り出す必要があるだろう。その為には、これまで一定の方向にしか流されていなかった情報と相反する情報を流すのが一番だ。
もちろん、一時は混乱するかもしれないが、情報に触れる人の中にはどちらが本当かを判断できる人だっているだろうし、何故こういう状況になったのかを客観的に考える事ができる人だって出て来るだろうし、自分達が必要以上に対立するように踊らされていた事に気付く人も出てくるだろう。
そうなれば自然に、世界というか、ナチュラルとコーディネイターの関係にしても、本来のあるべき姿に戻っていくはずだし、仮に戻らないにしても、先の人達が防火帯のような役割を果たして、二年戦争当時のような大規模な軋轢を見せることは少なくなる、かもしれない。
……あー、なんだか、ごちゃごちゃと訳の分からないことを言っている気がする。
要するに何が言いたいかというと、極一部の者達が自分達の望みや欲を達成する為に、種火ないし極普通に燃えている状態に、わざわざ油をぶっ掛けたり風を吹き込んで燃え上がらせるのは、いい加減、やめましょうって事だ。
とはいえ、実際の所、そういう方向に誘導しようとしている事実を考えるとあまり胸を張って言える事ではないが……、それはそれ、これはこれ、ということで、知らん顔をしてこう。
◇ ◇ ◇
7月14日。
月初めに第二艦隊と交代する形でアメノミハシラに帰還して、休養を取ったり訓練をしたりしていたのだが、二日後に再出撃を迎えるにあたり、この所、エヴァ先生の所に顔を出していなかったことに思い至った。なので、久しぶりに第一居住区画内にある国防軍病院を訪ねることにした。
前もって出向く事を告げた際の対応を見るに、怜悧で冷徹な在りようは相変わらず変わっていないようだが、その分、M的な気質を持つ医療スタッフから絶大な支持を得ているようで、病院に到着後、受付でエヴァ先生の研究室を訪ねたいと述べた時に、受付役からエヴァ先生は理想のお方です、あの絶妙な踏み付け具合といい、罵詈雑言の多種多様さといい、蹴り上げの身体中への響き具合といい、我々の女王様ですって、話を延々とされてしまった。
俺には理解できない世界の話を延々と聞かされて精神的に疲れたので、来訪の挨拶もそこそこにこの件に触れて何とかした方がいいのではと口にすると、エヴァ先生も心底から疲れきった声でぼやいてみせた。
「一部の連中には、何を言ってもやっても〝ご褒美〟になるようだからな。最近は相手をしないようにしている」
「……なるほど、放置プレイですねわかります」
「ッ! 最近、連中の鼻息が荒いと思ったら、そういうことかっ!」
本当にエヴァ先生も参っているようだ、っていうような世間話はここまでにして、話を本筋に戻す。
ちょっとした雑談の後、話を始める前にセットしておいたコーヒーメーカーから良い香りがし始めた。というか、コーヒーが出来上がったようなので、コーヒーを二つのカップに注ぎながら、俺、客のはずなのにと首を傾げつつ、聞きたかった事をエヴァ先生に問い掛ける。
「ステラ・ルーシェの治療、上手くいきそうですか? ……砂糖とクリームは?」
「フラガが持ち出した資料があったからな、幾つか対応策を検討が出来た。あれは中々に興味深い資料だったぞ。……五個と三杯だ」
「あ、相変わらずの甘党ですね。……それで治療の成功率は?」
「ルーシェの治療は九割方の確率で上手くいくだろう」
「そうですか、何とかなりそうですか」
「ああ、これらを基に超長期的に施療し続ければ、今以上に薬に頼る必要はなくなるはずだ」
件のステラ・ルーシェは置かれていた状況から情状酌量の余地有りと判断され、保護観察となる事が決定しており、その治療をエヴァ先生が担当しているのだ。うんうん、エヴァ先生なら上手くやってくれるだろうと思っていたが、期待通りだった、なんて事を考えつつ、エヴァ先生の指示通りに砂糖とクリームを放り込んでかき混ぜながら、話を続ける。
「でも、完治するわけじゃないんですよね?」
「体内に慢性的に〝毒〟を入れていた事を考えると仕方があるまい。最終的には、日に一度の投与まで落せる事を考えれば、遥かに……、そう、普通の病人以上にマシのはずだぞ?」
「そう考えてみれば、確かにマシですね。……ところで、先生、この砂糖の量、糖尿になりません?」
「ふん、自分の健康管理位はできている。頭脳労働に糖分は欠かせんのだ」
エヴァ先生の言った治療に対する見解に尤もだと頷きながら、エヴァ先生にコーヒーカップを渡す。そのエヴァ先生は砂糖の量にケチを付けられたの為か、不機嫌そうな顔を見せる。が、直ぐに頭を切り替えたのか、怜悧な青い目でこちらを見据えながら、話を振ってきた。
「確か、例の話、今日だったな?」
「ええ、L1からミネルバが来ます」
「……そうか」
今日は、アマハラ首長国とL1デュランダル政権の親善を深めるとの名目で、L1からミネルバがやってきている。
まぁ、所謂、表敬訪問という奴だ。
「二人を引き合わせる手はずは出来ているのか?」
「ここに来る前にも確認してきましたから、大丈夫でしょう」
「そうか。……しかし、えらく世話を焼くじゃないか、ラインブルグ」
「まー、何と言いますか、〝縁は異なもの味なもの〟を実現するのも悪くはないと思いましてね」
実は、ステラ・ルーシェの想い人であるシン・アスカなる人物がどこにいるのかを、情報部の伝手を使って探った所、一心に想い続けるステラ・ルーシェの心がけが良かったのか、目に見えぬ何者かが上手く取り計らったか、はたまた、単に星の巡り合わせが良かったとでもいうべきか、シン・アスカはL5ではなくL1に存在していたのだ。
しかも、ザフト所属からプラント国防軍に移籍し、最高評議会議長の直轄部隊となっていたミネルバ隊で〝トリコロール〟じゃなかったインパルスに搭乗するエースパイロットであり、俺がプラントを去る日にちょっと縁があった少年であった事も判明していたりする。
そんな縁を知った事もあったので、お上とプラント国防軍の伝手を使って、上手い理由で引き合わせる事ができないかとチョロチョロと動き回ってみた結果、本日のような形に結実したのだ。
これまでの経緯を簡単に思い返していると、人の悪い顔をしたエヴァ先生が更に人相を悪くするようにニヤリと笑う。
「私には貴様がそのような殊勝な事を考える輩とは思えんがな」
「なっ、ひ、ひどっ!」
「ふんっ、それで、一体、何を企んでいるんだ、ラインブルグ?」
「いやいやいや、俺、そんな企むなんて大それた事は専門外ですよっ!」
「ほほぅ、白を切るか」
エヴァ先生の目がギラリと輝いたかと思ったら、どこからとも無くその手にメスががががっ!
「L1と多くの繋がりを持つお前がミネルバの出迎えに行かずに、この場にいる事自体がおかしい位、私でも気付く」
「いや、だって、俺は現場組ですし、今日は久しぶりの休みですからっ!」
「そうか、あくまでも、黙秘すると言うのなら……」
……ゴクリって、いつの間にか、手が振りかぶられているっ!?
いきなり絶体絶命って、どーゆーことー!
「さて、言うのか、言わんのか。……まぁ、私はどちらでも構わんが、近頃、ストレスが溜まっているだけに、振り下ろす事に躊躇はせんだろうな」
と、エヴァ先生に詰め寄られた時だった。
エヴァ先生の研究室がある研究棟の向かいにある病棟でアラート音が鳴り響き、バタバタと人が走り回り始めた。この動きで興が削がれたらしいエヴァ先生は、振り上げていた手を自然に元に戻すと、窓からその様子を眺め始めた。
「ふむ、ここに救急救命要請とは珍しいな」
「そうなんですか?」
「ああ、余程の事が無い限り、街の民間病院で対応できるからな」
そうなのかと頷きつつ、エヴァ先生に目でお願いして備え付けのテレビをつけさせて貰い、ミハシラ・ブロードキャストにチャンネルを合わせてみる。モニターに映し出されてたのは、無重力区画と居住区画を繋ぐエレベータ前のようだが……?
「……な」
思わず漏れ出た自身の声を客観的に聞きながら、映し出されている映像と表示される字幕に見入ってしまう。
その字幕には、無重力区画にある国防軍施設から第一居住区画の拘置施設に移送されていたネオ・ロアノークが何者かに狙撃され、重傷を負ったと書かれていたのだ。更には、ロアノークが狙撃されて倒れた瞬間や慌ただしい動きを見せる保安隊員の間から垣間見える夥しい量の血が地面に広がっていく様子が、繰り返し映像で流されている。
「……ふむ、どうやら、今の救急救命要請はこれが原因のようだな」
冷静なエヴァ先生の声を聞きながら呆然としていると、サイレンを鳴り響かせた救急車が近づいてきているようだ。そのサイレンの音を聞きながら、俺も慌てたようにエヴァ先生の隣に立ち、騒然としている救命区画を注視する。
「おいおいおい、これからファントムペインを追い込むための駒を……、ロアノークを居住区画で殺されるなんて、保安隊はいったい何をしてるんだよ。まさか、ここ二年の間、テロを許していないからって、油断してたんじゃないだろうな」
ぐぬぬ……。
「……なぁ、ラインブルグよ」
「……はい?」
「その無様な演技はなんだ?」
……え、えーっと。
「演技って、どういうことでしょうか?」
「さっきも言ったと思うが、お前、こんな事で動揺するような輩ではなかろう」
うぅ、サハク首長、やっぱり無理でした。
「はぁ、やっぱりばれましたか」
「いや、知らん連中なら素直に騙されたろうが、私は貴様との付き合いが長いからな」
「それなら少し救われるかなぁ」
俺の目の前で、エヴァ先生は目立たない胸の前で両腕を組んで踏ん反り返ると、厳かに告げる。
「それで、今の演技は誰の指図だ?」
「サハク首長ですよ。色々と無理を聞いてもらった手合い、聞かないわけにもいかないですから」
「で、目付けもいないのに、律儀にも演技したのか?」
「まぁ、ちょっくら俺自身も乗り気になりまして……」
「……はぁ、お前達のお遊びに付き合わせるな」
エヴァ先生が疲れた様子で溜息を付いていると、どうやら救急車が病棟に到着したようだ。
「で、これからどういう筋書きなんだ?」
「ネオ・ロアノークは必死の治療の甲斐もなく死亡。また、犯人は逃走済みであり、懸命の捜査にも関わらず、捕える事ができなかった。けれども、現場に残された物的証拠や目撃証言からファントムペインの構成員によるものと断定される」
「……その〝作られた〟事実を明かす事でファントムペインの非道を更に強調するか」
「ええ、ロアノークが持ち出した資料から見出された事実を織り交ぜて、ですがね。ファントムペインは自分達の組織から逃走した裏切り者を白昼堂々と粛清する恐ろしい存在であり、コーディネイター撲滅の為ならば、ブルーコスモスの理念に反し、守るべき倫理をも平然と無視する狂気に満ちた組織であることを訴えつつ、ロアノークが狙撃される所を適度に繰り返すことで、大衆に目に見える形で知らしめます」
「……その方向に大衆を誘導するという事は、大西洋連邦或いはブルーコスモスやその支援企業群に圧力を掛け、最終的にファントムペインを解体させる腹だな」
「できれば、ですがね」
……まぁ、例え解体したとしても、地下に潜る連中が出るのは間違いないんだが、逆を言えば、表立って堂々と活動できないようになるから、やるだけの価値はあるのだ。
「だが、そのような工作は直にばれるのではないか?」
「いえ、実はですね、本物が潜入しようとしていたんですよ」
「何?」
「ファントムペインの刺客って奴です」
「……ふん、以前から行っていたメディアへの大々的な露出はそいつらを招き寄せる為の餌でもあるか」
視線を鋭くしたエヴァ先生が更に言葉を続ける。
「では、そいつらを泳がせたのか?」
「いえ、アメノミハシラに入る時に防諜網に引っかかってくれましたから、情報部や保安隊が秘密裏に捕えた後、拷問と薬物で全てを吐かせてから始末しました。今頃は、情報部員が刺客になりすまして、ファントムペインへの連絡を行ってるはずです」
「……なるほど、お前達も悪辣だな」
「いやいや、ようやく落ち着き始めた世界を混乱させた連中に人権なんて崇高なものはいりませんよ」
「くくっ、今、イイ顔をしているぞ、ラインブルグ」
「おっと、いかんいかん」
ふにゃん、ってか。
「しかし、お前も中々に表裏の差が激しいな」
「……プラント保安局でそう慣らされたんですよ、裏の事は決して表に出すなってね」
できれば、レナ達には見せたくない面なんだよね。
そう思いながら答えると、エヴァ先生はそれ以上追求する事はなく、別の事を口にした。
「では、お前がここにいる理由は何だ?」
「ええ、そのことなんですけどね。……そろそろ、来てもいい頃なんですけどっと」
部屋の戸が一定のリズムでノックされたので、エヴァ先生の了解を取ってから、扉を開ける。
「よう、ラインブルグ君、注文の品だ」
「はい、お疲れ様でした、イシカワさん」
そこには救急隊員の格好をしたイシカワ少佐が、具合が非常に悪そうな、もう一人の救急隊員をさり気なく支えて立っていた。
※注:ブルーコスモスの初期理念については、原作設定から推測した捏造ですので、ご注意ください。
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