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第三部  導なき世界の中で…… (C.E.72年-C.E.75年)
76  軍神、立つ -デブリベルト攻防戦 4


 5月19日未明。
 セメタリーⅡ内で始まったMS隊同士の戦闘はデブリベルトという宙域だけに、双方共に相手の動きが把握し難い状況で繰り広げられている。コックピット内から見ている戦域の映像にも、時折、ビームの閃光が走ったり、断続的な小爆発が発生したり、大きな爆光が瞬いたりしているのを観測している程度だ。
 しかし、現実のセメタリーⅡ内での戦闘は、さっき調べた限りだと、全ローラシア級からMSを発進させたザフトが猪の如く怒涛の勢いで攻めてくる事もあって、その圧力を殺し切れなかったアマハラ国防軍が徐々に戦線を後退させ始めている。

 ……出番が近いかもしれない。

「ウルブス2、そろそろ出番になるかもしれん」
「わかりました。小隊各機のコンディションを再チェックしておきます」
「ああ、頼む」

 レナに細かな事を任せ、俺も自機のコンディションチェックを行いながら、更に情報を得る為にサブモニターに詳細な戦況を呼び出す。映し出された三次元図……イワミの戦況図とリンクしている情報によると、MS隊はオオツキガタが八機とマリーネが六機と、それなりの損害を出しているようだ。もっとも、ほぼ倍の数の敵に抗してきた事を考えると頑張っていると思う。
 だが、デブリ帯から出て後方の艦隊近くに下がるとなると、身を隠せる遮蔽物も少なくなるから、後退支援が必要になるはずだ。

 っと、クロガネ級やトツカ級が艦砲やミサイルを発射し始めたな。

 強力なエネルギーを持った光の筋がクロガネ級の黒い艦体からデブリベルトに向かって、次々に伸びていくかと思いきや、クロガネ級の後方に位置するトツカ級からは、デブリベルトに新しい仲間を生み出すべく、ミサイルが推進炎の残光で放物線を描きつつ次々に突き進んでいくのが映し出されている。

 おそらくはMS隊の後退支援だろうとあたりを付けながら、機体のコンディション・チェックを終える。

 すると、この俺の動きを見計らったかのようにレナから通信が入ってきた。

「ウルブス1、小隊全機のコンディション、オールグリーンです」
「了解。ウルブス4の事は頼むぞ」
「ええ、ウルブス4は私がフォローしますから、ウルブス1は指揮と操縦に集中してください」

 いやはや、レナがいてくれて本当に助かるわぁ、なんて事を考えていると、イワミのMS管制官から通信が入ってきた。

「イワミよりウルブス1へ、第一艦隊司令部よりイワミ、ナカツ、ソコツ所属のMS隊への出撃命令が出ました」
「オーダーは?」
「現在後退中のMS隊の支援と第一三及び第一四戦隊の援護です」
「出撃順は?」
「パンサー、ウルブスの順となります」

 ワラルの返事を聞き、メインモニターの表示を切り替えて格納庫内を見れば、整備班員が操作する懸架リフトがパンサー小隊のマリーネを艦体下部にあるMS用出入り口……電磁カタパルトの射出口に運び出している所だった。

「了解した。こっちの出撃準備も完了しているから、パンサーの出撃が終わり次第、進めてくれ」
「わかりました。出撃はナンバー順、パッツ履きは無しです」

 そう言うとパンサー小隊の出撃を進める為にだろう、ワラルからの通信が切れた。また、メインモニターに映っているパンサー小隊も、MS隊出撃を示すブルーランプの元、早くもパンサー1……タワラ少佐のMSを懸架しているリフトが射出口に沈んでいくのが見えた。

「ウルブス1より各機へ、すぐに出撃だっと」

 俄かに機体が揺れ、俺の機体を懸架するリフトが動き出して中央通路に出ると、パンサー4の後ろというか……背面をパンサー4に見せる形で並ぶ。すると目の前に、ウルブス小隊機が居並んでいた右舷駐機部から中央通路に運ばれ、背中を見せようとしているウルブス2が見えた。

 って、そうこう言う間に機体が沈み始めた。やっぱり電磁カタパルトの方がリニアカタパルトより一機あたりにかかる射出時間が短いな。

 俺がそんな事を考えている間に口を開けた電磁カタパルトの射出座標に押し出され、外に撃ち出そうとする力を身体で感じると共に、懸架リフトに付属している係留索が限界にまで伸びたようだ。

「イワミよりウルブス1へ、パンサー小隊の出撃が完了しました! 進路クリア! カタパルトシステム・オールグリーン! いつでも行けます!」
「わかった。ウルブス各機へ、射出後は分隊を組み、そのまま戦域に突入する。……まぁ、いつもの訓練通りにやればいいさ」
「「「了解!」」」

 三人の声に頷き、ぐっと腹に力を込めてから、ワラルに声をかける。

「ウルブス小隊、出撃する!」
「了解! ウルブス1、発進、どうぞ!」
「ウルブス1、出るぞっ!」

 索が外された瞬間から僅かな間で加速された機体は、これまで経験してきた戦域と同じように、閃光や火球が彩りを見せる虚空へと飛び出した。


 ◇ ◇ ◇


 出撃した後、天頂や天底を把握し、太陽や地球、月の座標を自身の感覚に捉えていると、早くも相方となるマユラ機……ウルブス3が第一分隊での定位置である右斜め後方に付いたようだ。

「こちらウルブス3、定位置に付いたわ」
「ウルブス2です。ウルブス4と第二分隊を編成、両機共に異常なし」
「了解」

 レナとマユラからの報告に返事をしつつ、先行しているパンサー小隊の動きを見てみると……、天頂方向に位置している一三戦隊の援護に向かったようだった。

「ウルブスは一四戦隊を援護する。第二分隊はいつも通りに後方からの火力支援……狙撃と制圧だ」
「了解です」
「了解しました」
「ウルブス3は俺と前に出て、牽制と強襲……要は調子に乗って突っ込んでくるザフトの連中にガツンと一撃喰らわせるのが基本的な役目だな」
「えー、私ー、誰かと違ってー、そんな乱暴な子じゃないんですけどー」
「そういう事を言う子に限って、乱暴だったりするのが不思議ですねー」
「ぷっ」
「むぐっ! ゆ、ユカリっ!」
「あ、わ、私は、笑ってなんていませんよ?」

 レナの見事なまでの切り返しとコードウェル妹の噴出し笑いに、マユラは精神的なダメージを受けたようだ。

「はいはい、今の戯言合戦はウルブス2の勝ちで終了。で、ウルブス3、いけるか?」
「と、当然よ、ウルブス1のカバーは私に任せて」
「わかった。頼むぞ」
「了解」

 しかし、このレナとマユラの余裕……、これから命のやり取りするってのに、二人とも実は心臓に毛でも生えてるじゃないか?

 ここ最近になって頓に感じられる事を胸中に抱きつつ、セメタリーⅡより退いてきた味方MSの様子を窺うと、それぞれの母艦に退くようだった。おそらくは次の出撃に向けて、補給や指揮系統の再編がされるんだろう。

「結構、数が減ってる。……ザフト、手強いみたいよ」
「加えて、今回は数の差が大きかったからな」
「それがわかってるなら、こっちも最初からもっと数を出せば良かったのに」
「まぁ、偉いさんなりの思惑があるんだろうさ」

 なんて具合にマユラと軽く話しながら、艦長が一四戦隊司令を兼ねている【SFE-203】ハツユキに連絡を入れる。

「こちら独立MS小隊のウルブスだ。これより一四戦隊を援護する」
「……こちらハツユキ、了解した。我々としては、底部へのMSの侵入と突き上げを阻止して欲しい」
「ウルブス了解」

 ハツユキの要望にあったように、MSが宇宙艦艇を攻撃する際は兵装の少ない艦底部より攻めるのが一般なのだ。なので重散弾砲を持つ右手を振って、菱形のコンバットボックスを形成して、盛んに艦砲射撃を実行している一四戦隊の更に下方を指し示し、天底部に潜り込む。

 もっとも、ここでの戦隊援護をする前にやる事がある。

「第二分隊はここらに陣取って、戦域の状況把握と火力支援、防衛火線網を抜けてきた敵の迎撃を担当してくれ」
「ウルブス2、了解です」
「ウルブス4、了解しました」

 っと、セメタリーⅡから味方機が八機程出てきたな。

 ……うん、データリンクで確認したら、今、出てきたのが最後の後退機みたいだし、支援を容易にする為にも逆撃を喰らわせて、ザフトの追い足を鈍くさせようか。

「よし、これより小隊は殿軍の後退支援を開始する。ウルブス3、行くぞ」
「了解!」

 マユラから威勢の良い返事を受けると共に機体のメインスラスターを吹かし、殿を担っていたオオツキガタやマリーネの一群が回避機動を取りながら後退してくる間を縫うように突き進んでいく。

「敵発見! ザクウォーリア三機!」

 マユラの声の通り、追撃を仕掛けてきたのだろう、三機のザク・ウォーリアがセメタリーⅡのデブリ群より姿を現し、こちらに向かって来つつもビームを撃ち始めた。

 っと?

 ……狙っていた一機が後方からの高出力ビームに胴体を貫かれたかと思うと、爆発を起こした。

「こちらウルブス2、敵一機、撃破しました」
「ああ、確認した」

 このレナの遠距離攻撃を脅威に感じたのか、他のザフト機は回避行動を取りながら、逆噴射を掛け始めている。この動きを受けてザフト側の追撃の足が止まったと判断し、俺達も姿勢制御バーニアとANBACを使って、推進方向をセメタリーⅡから右手側へと切り替え、後退に備える。

「……私達、前進する必要なかったんじゃない?」
「いや、相手の警戒を引き出したり、注意を引く囮位にはなってるさ」
「そ、そうよね。……でも、さっきの狙撃、流石はレナよねぇ」
「そうだな。……俺達も模擬戦では狙撃で落されてるし、気をつけないとっと」

 マユラから狙撃という言葉を聞きた瞬間に気ままな回避機動を取ると、デブリベルト方面からのビームがそれまで機体があった位置を通過していった。

「やっぱり、ザフトにも砲撃仕様機がいるみたいだ。直線的な動きは拙い」
「ええ、気をつけた方がいいわ」
「……よし、ダミーバルーン放出後、右斜め下に機体を流す」
「〝空蝉〟ね、了解」

 砲撃が為された方向と先程の追撃機が引いた方向に向けて重散弾砲を何発か撃った後、目晦ましの為にダミーバルーンの種を三粒、機体前方へと放出すると同時に加速する。そして、複数の黄と青のバルーンが機体近くで膨らんだ瞬間に、左側面の姿勢制御バーニアを噴射し、機体を右斜め下方向に流す。

 念の為にANBACで回避運動を取っていると、直線的な動きで突き進んでいるバルーン群にデブリ帯より複数の光が殺到して貫き、バルーン内部に含まれている推進剤が軽い爆発を起こす。

「ちょっとした隙を逃さないか。……中々の錬度と言った所だな」
「でも、ウルブス2には劣るわ」
「ああ、今の攻撃でどこから撃って来たかは把握できたはずだから……」

 カウンターに期待しようと続けようとしたら、再度、第二分隊が展開している宙域より三本の高出力ビームが俺達の機体に逆行する形で飛んで行き……、デブリ帯で二つの爆発を引き起こす。また、さっき撃ったクラスター弾がデブリに命中したのだろう、断続的な小爆発も発生していた。

「こちらウルブス2、敵二機撃破しました。また、先程の第一分隊による攻撃で敵一機が損傷したみたいです」
「了解、これで少しは俺達の後退が楽になるはずだ」
「そうねって、ウルブス1、小型ミサイルを多数確認!」

 うへぇ、何度も経験して慣れているとはいえ、できれば小型ミサイルの群れは相手にしたくない。

「第一分隊も後退する。ウルブス4、後退支援を!」
「ウルブス4、了解です!」

 マユラと共に脚部よりフレアーを射出して、追尾してくるミサイルの嗅覚……熱源探知を誤魔化しつつ、ランダムに回避軌道を取りながら大急ぎで後方に逃げ出していると、先程以上に、デブリ帯からこちら側の様子を窺うザク・ウォーリアの姿が見受けられ始めた。けれども、やはりと言うべきか、レナからの反撃を警戒しているようで狙撃や追撃を仕掛けてこない。

「これって、レナ様々だよな」
「本当よねぇ」

 マユラと減らず口を叩きあって、精神の均衡を保っている俺達と入れ違う形で、今度はコードウェル少尉が発射した小型ミサイルの群が俺達を追うミサイル群に向っていき、小規模の火球が断続的に発生し始めた。

 うっし、これでセメタリーⅡと第一艦隊展開宙域の間が空白域になったし、仕切り直しは完了だ。

 さて、ザフトはどう、動……く?

 ザフト側の出方を窺うべく、サブモニターでセメタリーⅡ方向を確認したら、ザフトのMSは陣形も連携もなく、ただ勢いに任せてとしか言いようがないというか、一種の熱狂を感じさせるかのように、第一艦隊に向けて個々に突入を開始していた。

 いや……、まさか恐れを知らないハイランダーが活躍した時代じゃないんだから、もう少し考え……、バラバラになる事で的を絞らせず、浸透を図ろうとしているのか?

 まぁ、これなら運動性に優れるMSに合った戦術かもしれないが……、クロガネ級に対しては、ちょーっと無謀だと思う。

「す、凄い勇気ね」
「いや、クロガネ級の怖さを知らんだけだろう」

 マユラの言葉に応じていると、一四戦隊のクロガネ級四隻が対MS戦闘態勢に入ったらしく、主砲の他にも副砲であるリニアカノンから砲撃が始まった。それと同時に、艦体四箇所に設置されている六連対MS小型ミサイル発射管より定期的に小型ミサイルが発射され、艦体各所に設けられているビームファランクスやリングのBIからもビームが断続的に撃ち放たれる。

 な、なんていうか、クロガネ級の周辺域がビーム光で輝いていて、まさに|ガンファイアーウォール《銃火の壁》と言うべき弾幕を形成している。

 この火線網に、先陣を切って突入を図っていた数機のザク・ウォーリアが絡め取られる一方、他の機も回避運動を余儀なくされたようだ。接近すら儘ならない組織的な火線網を前にどう動くかとザフト機の様子を見ながら、態勢を立て直しているとレナから通信が入ってくる。

「こちらウルブス2、敵MS六機が天底部に潜ろうとしています」
「……把握した」

 レナからの報告に周辺を探ると、回避機動を取ったMSの中から、背中に二門のガトリングを背負ったザクが六機、俺達のいる方向に向いつつあった。艦隊への突き上げを狙っているのだろうと当たりをつけつつ、コードウェル少尉に指示を出す。

「ウルブス4、牽制一斉射」
「了解!」

 ウルブス4による本日二度目のミサイル斉射によって、十二発の小型ミサイルがザクに向っていくが……、むむ、背中のガトリング砲で迎撃しているか。

「ウルブス2、あのガトリングの弾種は?」
「ビーム系みたいです」
「……なら、こっちの方が有利かな?」
「かもしれませんが、油断は禁物ですよ?」
「わかった、気をつける。ウルブス3、突入して相手を崩すぞ」
「ええ、わかったわ!」

 両肩部の電磁式対ビームシールドを前面に指向させ、突撃態勢を取り……。

「行くぞっ!」
「了解!」

 重散弾砲をぶっ放しつつ、敵の簡易な編隊を崩す為に突き進む!

 ッ!

 おおう、な、中々の弾幕じゃないのっ!

 ザク・ウォーリアはクラスター弾の爆裂範囲から逃れつつ、こちらに向って両肩のガトリング砲を撃ってくる。断続的に飛来するビームが前面の電磁場層と金属粒子層、更にはシールド表面に衝突しては散っていくが……、ちょっと、これはシールドに過負荷が掛かりすぎだ。

 これは拙い、なんて思い始めた時に、ザク・ウォーリアの真ん中を突き抜け、隊形を崩す事に成功した。

 となると、当然、一番の戦友であるレナが間違いなく動いて……。

「こちらウルブス2、一機撃破っ!」

 うん、流石だ。

 爆発の光に気を取られつつ、機体を反転させると……、目前に斧状にビームを整形した近接格闘兵装を振りかぶったザク・ウォーリアがいた。

「ウルブス1っ!」

 マユラの切迫した声を耳に入ってくるが……、流石に、応える余裕がないっ!

「ぬッおぉぉおっ!!」

 悲鳴にならない野太い叫びをあげて、左腕のシールドでバイタルエリアを守りながら、単眼と胴体をめがけて、頭部機関砲で牽制射撃を加える。

「ッああったっ!」

 幸いにして、相手が機関砲を嫌った為にビーム刃を構成する部分が胴体バイタルエリアから左肩部のシールドに逸れた。結果、ビーム粒子が電磁場と金属粒子の層に派手にぶつかって散った事で、物理的な打撃で弾かれるだけで済んだが……、それでもあの衝撃……、うぅ、危なかった。

 油断駄目絶対駄目と普段言い、また、今も言われておきながら油断していた自身の迂闊さと共に、戦場に絶対はない事を思い知らされた。この命の危機という、もっともわかりやすい形で戦場に立つ際の心構え……初心を思い出させてくれた感謝の印として、先程のザクに至近距離からのクラスター弾をお返しする事にする。

 っし、綺麗に吹き飛んだな。

「ウルブス1、一機撃破した!」
「ウルブス3、こっちも一機撃破したわっ! それとっ、油断しすぎよっ!」
「すまん! っと」

 右側面から飛来したビームをシールドで受け流しつつ、両脚部に装備されている破砕榴弾を全弾使って撃ち返す。

 おっ、上手い具合に一発当たったな。

 破砕榴弾の小爆発が脚部に当たり、爆発した事で大きく態勢を崩されたザク・ウォーリアが後方より飛来したビームに貫かれた。

「一機撃破っ! ウルブス4が敵二機と交戦開始! 至急援護を!」
「了解!」

 マユラに対して話は後だと言う事を機動で持って示してから後方に下がっていくと、コードウェル少尉が二機のザク・ウォーリアを相手に振り回すような機動で翻弄しつつ、重散弾砲やミサイルポッドに残っているミサイルを小刻みに発射する事で行動を制限していた。

 うん、実に見事な機動と牽制だし、何よりも自身の役目を心得ている事が素晴らしい。本当に、血気盛んな年齢とは思えない位にしっかりしているよ。

 内心で褒め言葉を並べつつ、マユラと共にザフト機の回避先を予測してクラスター弾を撃ち、ザフト機の逃げ道を大きく削ってみる。すると、コードウェル少尉も上手くタイミングを合わせ、残された逃げ道を覆いつくすよう、扇状に広がるように素早く重散弾砲を発射し、また、おそらくは残弾全てと思われるミサイルを斉射していた。
 その結果、クラスター弾による三重のクロスファイアーとなって一機がその網に掛かり、もう一機にしても辛くも回避した先でミサイルの餌食になった。

「ッぁっ! や、やったっ! やりました!」
「ウルブス4が敵二機を撃破した事を確認したわ。……ユカリ、頑張ったわね」
「ああ、ウルブス4……、よくやった」
「はいっ!」

 コードウェル少尉は嬉しそうだが……、いや、今は戦場にいるし、喜びに水を差す必要はないか。そもそも、敵の死を悼む俺の感性自体が、ある意味、軍人としては失格だしな。

 ……いや、気を取りなおしッ!

 俄かにクロガネ級の一隻に閃光が走ったかと思ったら、側舷スラスター付近で爆発が連鎖し始めた。

「こちら、ウルブス2! ハルサメが被弾っ! あぁッ!」


 レナの悲痛な声と共に、ハルサメの名を持つクロガネ級がその艦体のあちらこちらから火を噴き出し……、大きな爆光と共に沈んでいった。

「レナっ! 攻撃の種類は!? 敵はどこにいるっ!?」
「ほ、砲戦型MSによる狙撃です! 位置はセメタリーⅡ付近ですっ!」
「っ! 遠いっ!」

 こっちは潜り込んで来る連中の警戒をしないといかんし……って、おおっ、艦隊の両舷方向に展開して、ザフト機の突入を牽制していた即応機動MS中隊が動いたみたいだ。四機のオオツキガタが戦闘宙域の左側面方向からMA形態で突入して、セメタリーⅡ付近にビーム砲やレールガンを撃ち始めている。

 相手が警戒して、攻撃を控えてくれるといいなぁ、なんて思いきや、イワミより通信が入ってきた。

「こちらイワミ、ウルブス1、応答願います!」
「こちらウルブス1、どうした?」
「はい! これより第一一機動MS中隊及び第一精鋭MS中隊が出撃し、敵艦隊に対してカウンターを仕掛けます! これに先立ち、第一二、第一三機動MS中隊と第一一、第一二護衛MS中隊を再展開し、敵MS隊を拘束するとの事です!」

 敵艦隊へのカウンターか。

「……オオツキガタでザフト艦隊に一撃離脱を仕掛けるってことか?」
「はい、そのようです」
「しかし、拘束を担当する部隊の再展開が速いが……、補給は大丈夫なのかというか、可能なのか?」
「マリーネは兵装の換装と推進剤の補給で対応しており、直に出撃できる状態だと聞いています。しかし、オオツキガタは推進剤の補給及びバッテリー換装作業に若干時間が掛かるとのことです」
「……いや、ムラクモの展開能力とオオツキガタの機動力ならなんとかなるか。ウルブス1、了解した。それで俺達は何をすればいい?」
「はい、先の任務に加えて、敵MSを拘束するMS隊の支援をせよ、との事です」
「了解」

 こんな具合にワラルから新しい命令を伝えられた後は、コードウェル少尉を第一分隊の援護やレナの護衛といった役目を担うサポート役にして、レナの狙撃でもってザフト機への攻撃を行うと共に、俺とマユラが機動と牽制射撃で地道に前線を維持し続けていると、後方のトツカ級やムラクモから再出撃が始まった。

 さっと確認してみると各々の艦艇より再発進したMSは、マリーネがクロガネ級の近くに陣取る事で、オオツキガタが戦闘宙域より外に進路を向ける事で、それぞれザフト機の注意を引いているようだ。

 むぅ、金床と鉄槌を目指している、或いはそうするかのように見せているのかな?

 事実、艦艇への攻撃を図っていたザフト機はこの新しい動きに対応する為、先程以上のMSを割いているようだ。

 前線状況を把握しつつ、遂に弾が尽きた重散弾砲と腰部マウントのビームアサルトとを付け替えている……と?

 ……。

 イズモとムラクモから本命が出て、ザフト機がいる宙域を上手く避けて行ったようだが……、デブリベルトを突破するには危険な程に、無茶苦茶、速いんですけど?

 セメタリーⅡは中型以上のデブリ以外にも微小デブリが多い事もあって、かなり危険な宙域なのに、どんだけ……。

 その思いを抱いたのはどうやら俺だけではなかったようで、他の三人からも次々に言葉が漏れ出てくる。

「な、なんていうか、命知らずですね」
「まだ、加速してない、あれ?」
「す、凄いです」

 いやはや、イズモの艦載MS隊に関しては、元々、メビウスに乗っていたMA乗りからの転向組で、オオツキガタ運用部隊の中でも〝虎の子〟だって言われていたけど……、納得したわ。

 納得ついでにもう一つ。

「……俺、絶対、MA乗りにだけはなれないわ」

 何しろ、先の戦争中、ボアズ戦後の撤退支援で強襲を仕掛けた時よりも明らかに速いんだぞ?

 あれでギリギリだった俺はデブリの仲間入りになるのは間違いない。

 狂気染みたMA乗りの行動に中てられて、冷えてしまった心胆に活を入れ、また、気分を一新する為に、大きく咳払いしてから声をあげる。

「んんっ! 取り敢えずは攻撃隊の成功を祈っておくとしてだ……、俺達は俺達の役目を果たすぞ」
「ええ、そうですね」

 俺の意図を汲んだのか、レナが合いの手を入れてくれたので、更に話を続ける事にする。

「今、情報リンクで確認したが、一二、一三機動MS中隊が戦闘宙域の両側面に展開したようだ。これでザフトMS隊に対して、半包囲が完成した事になる」
「なら、ウルブス1、積極的に攻めるの?」
「いや、無理はしない。クロガネ級と味方MS隊の援護を行いつつ、こっちの攻撃隊の攻撃が終わるまでザフト機を拘束するぞ」

 何しろ、この人に優しくない宇宙では帰る船……帰る場所を失ってしまうと、基本的に死を意味するのだけに、対艦攻撃が実施されるならば、必要以上に無理をして艦載機を落とそうとする必要はないのだ。もっとも、逆もまた真である為、こちらも母艦を落されるわけには行かないから、母艦防衛には必死にならないと駄目だがな。

「前線ラインを維持して、ザフトの連中が艦隊……特に後方のMS母艦への突入を図れないようにする。だから、今やっている態勢のままで動く」
「「「了解」」」

 そんな訳で、攻撃一辺倒だった為に簡単に攻撃隊の前線突破を許すという大失態を犯してしまい、焦りの色が見え始めたザフトMS隊に対して、一定間隔を置いて牽制射撃を加えつつ、他のMS隊やクロガネ級と共同して、向ってくれば火力収束点への誘引を、退いていけば半包囲での追撃を図って、進むも退くもままならない状態に陥れていると、待望の報告が入ってきた。


「こちらイワミ! 第一一機動MS中隊及び第一精鋭MS中隊による対艦攻撃が成功! ローラシア級五及びナスカ級一の撃沈を確認! また、ローラシア級三とナスカ級二に打撃を与えました!」


 おおっ、やったか!


 って、ザフトの動きが変化した?

 俺の考えを肯定するように、より広域を把握しているレナから通信が入ってきた。

「ウルブス2よりウルブス1へ! ザフト機の動きが大きく変化っ! 大部分が後退を開始していますが、一部部隊が包囲網を破って、艦隊への突入を開始しています!」

 拙い、これは死兵……、決死隊の時間稼ぎだ。

「ウルブス1より各機へ! 艦隊への敵の突入を許すなっ! 連中は体当たりをしてでも沈めに来るぞっ!」
「りょ、了解!」
「はい、はいっ!」

 目前で突入を開始した四機のザク・ウォーリアに向けて、阻止射撃を加えていると思い切りの良い回避運動と巧みなシールド使いで撃ち抜けない。

 焦る心を落ち着けて、シールド以外の部分を狙い速射する。

 っし、削いだ!

 右脚に命中して、バランスが崩れた一機にマユラが放つビームが殺到する。

 ……瞬く間に各所を穿たれ、推進剤に引火して吹き飛んだ。

「ウルブス3、一機撃破っ!」
「ウルブス4、敵一機撃破しました!」

 また、他の三機も一機がコードウェル少尉が放った破砕榴弾を右半身に喰らって爆散し、残りの二機もクロガネ級とMS隊の連携した飽和攻撃で撃墜されていた。

 一先ずの脅威を取り除いたと判断して、息を吐き出していたら、マユラの声が聞こえて来る。

「突入機は……、他にいないみたい」
「ああ、そうみたいだな」
「追撃はどうする?」
「……いや、追撃はしない。警戒を「先輩っ! 一三戦隊がっ!」ッ!」

 焦りが多分に含まれたレナの声に導かれるままに上方を見てみると、MSの爆発光らしき幾つかの小さな輝きに包まれる形で、これまで堅牢な防衛網を構築していたクロガネが更に二隻、沈む所だった。

「クソッタレ共めっ、やってくれるっ!」

 思わず漏れ出た罵声に、自身が自分で考えているよりも熱くなっている事を自覚し、大きく深呼吸する。


 ……ふぅ、びーくーるびーくーる、互いに命を掛け金に出している戦争である以上、犠牲が出るのが普通であり、余程の実力や装備に差がない限り、切迫した戦闘が展開されるのが当然なのだ。

 そもそも熱くなるのは……、熱血はラウの専権事項であって、俺には似合わないよな、うん。

 そう考えた瞬間に、〝ふふふ、さぁ、アインよ、君も熱血になるのだ! 熱血とは万人に薦める事ができる程に良いものなのだぞっ! そう、燃え上がる情熱により自然と沸き出てくる汗で身体が健康になると共に、全身に行き渡る熱く滾る血潮が身体に収まっている魂を灼熱の如く燃え上がらせるのだからなっ!〟だなんて気持ち良い汗を流しながら叫んで勧誘してくる姿が思い浮かんだのはご愛嬌だ。

 さて、馬鹿の事を考えて、少し気分がマシになったし、上からの指示もないから、もう一仕事……、ザフト艦隊への攻撃を成功させ、引き揚げてくるオオツキガタ部隊を迎える為に、退路を確保することにしよう。

「ウルブス1より各機へ、救助は他の連中に任せて、俺達は攻撃隊の退路を確保するぞ」
「ウルブス2、了解です」
「ウルブス3、了解!」
「う、ウルブス4、りょ、了解、しました」

 戦闘時の興奮が去って冷静さを取り戻したのか、コードウェル少尉が動揺し始めているみたいだ。これは帰艦した後、レナとマユラに話しておく必要があるな。

 その事を心に留めつつ、機体をセメタリーⅡ方面に向けて、ゆっくりと進ませた。





 5月19日。
 地球周回軌道にあるデブリベルトの一つ、セメタリーⅡにて行われたアマハラ国防軍艦隊とプラントL5クライン政権派ザフト艦隊との会戦は、ザフト艦隊の撤退……アマハラ国防軍の勝利という形で終わり、アマハラ首長国は国際社会に対して、自らを守る力がある事を大々的に示す事となった。


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