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第三部  導なき世界の中で…… (C.E.72年-C.E.75年)
73  軍神、立つ -デブリベルト攻防戦 1


 アスハ代表が本国に帰国し、サハク准将が独立を決断した翌日、オーブ本国でカガリ・ユラ・アスハの代表首長復帰祭典が盛大に行われた。
 その時は第一艦隊に代わって、即応部隊がL5への警戒任務に当たっていた為、スクランブル待機室でその華々しい復帰式典の中継を見る事になったのだが……、自身が不在となり、国政が混乱した事の侘びと代表復帰の挨拶をしたアスハ代表は、一応、表面的には微笑んでいたが、とても喜びに溢れているとは言い難く、歓喜に沸いている新政権幹部や国民とは一線を画しているものだった。

 おそらく、今後、オーブがどうなるか、予想できているのだろう。

 アサギから聞いた話だと、本国に帰還した直後にアスハ代表本人から通信が届いて、サハク准将と二人だけで話し合っていたらしいからな。

 ……。

 本当に、アスハ代表が拉致される前と後とでは、明らかにオーブが置かれた状況が違いすぎるよなぁ。

 何しろ自身が拉致された一連の騒動が切っ掛けになって国際的な信用を失い、地球上のほぼ全ての国から実施されている経済制裁によって、冗談抜きで国家存亡の危機に陥っている上、状況を打破するのに頼りになったはずの宰相は自身の支持者によってアメノミハシラに放逐されている。しかも、それを補えるだけの使える手駒があるかというと、代表本人の政治経験が少ない事もあれば、周辺の人間の政治適性も低いとしか言いようがない為、国家として選べる選択肢は極めて少ない。
 その事を踏まえて、ぱっと考えただけで、L5政権の傀儡に落ちる、或いは、協力国という名の属国になって、その勢力の一員になるか、L5政権の影響力を最小限に収める事でこれまでの中立の立場を堅持しようとして、結果、L5政権を含めた全国家から干されて没落するか、L5政権以外の国……大西洋連邦やユーラシア共和連邦といったL5政権に対抗できる大国を頼って、これまた実質的な属国になるかという選択肢が浮かぶが……、どのコースを選んだとしても、基本的にお先真っ暗な道しか残されていない。

 俺なら即座に投げ出して不貞寝するのは間違いない状況であり、一言で簡潔に表現するなら、これなんて無理ゲー、って奴だ。

 それこそ、ピキーンって感じで、潜在的な能力にでも覚醒でもしない限り、オーブの自主自立を守れるような舵取りはできないだろう。

 でも、人間って、そう都合良くできていないからなぁ。

 ああ、アスハ代表の事で思い出したが、今回の騒動を引き起こした直接的な原因の一人であるセイラン家の後継者、ユウナ・ロマ・セイランだが、新装開店する予定の軍に一兵卒として……、具体的に言えば、氏族位を凍結、将官位を剥奪された後、二等兵として放り込まれ、コガ一佐の管理の下、心身共に厳しく鍛える事で、性根から叩き直される事になったそうだ。

 俺が想像するに〝生きていてゴメンサナイ〟か〝僕はウジムシ以下のミジンコにも満たない存在です〟って、念仏のように唱えてしまう事になりそうな生き地獄じゃない、心身を根底から洗脳改造でもない、そう、背筋に一本太い筋が入るような訓練が実施されるだろう。

 まぁ、オーブ本国とアメノミハシラに与えた影響を考えたら、罰としては優しいもん、……かな?


 ◇ ◇ ◇


 5月8日。
 サハク准将が決断した事により、足踏みをしていた独立に向けての動きが一気に動き出し、アメノミハシラの軍政を行ってきた宇宙軍事務方がフル回転で多種多様な案件を処理している。
 補給・休息が終わった第一艦隊と入れ替わる形でアメノミハシラに戻った際に、上手い具合に仕事をサボっているイシカワ三佐から話を聞いたが、本国から移ってきたばかりのセイラン派の面々も大いにこき使われ、もとい、非常に頼りにされているらしく、早くもアメノミハシラに馴染み始めているらしい。

 で、このアメノミハシラでの不穏な動きを察知したのか、オーブ本国政府からアメノミハシラを早く引き渡せという通信が相次いで届いているそうだ。もっとも、独立を決断した宇宙軍上層部は悉く無視……、というよりも、本国の連中の相手をする時間が勿体無いといった所だろう。

 何しろ、独立に伴なって、軍政状態だった統治形態に変更……政務機構及び治安組織等の行政機関や司法裁判所の開設とそれらへの権限委譲といった内向きの仕事だけでなく、赤道連合と南アメリカ合衆国との連盟条約締結の為、先月末より断続的に両国の外交特使と詰めの協議を行ったり、通貨発行を担う中央銀行を設立して、新通貨発行準備を行う一方で、発行直後の為替レート設定をオーブ本国とL5政権を除いた国と水面下で協議したり、国防宇宙軍やアメノミハシラやタカノアマハラの管理機構に所属する者達を対象に、オーブに帰属するか、新国家に参加するかと、今後の去就を決めさせたり、居住民向けのオーブから新しい国家に国籍を移す為の諸手続きの手引きを作成したり、いつ戦闘が発生してもおかしくないという危険な状況にも関わらず、独立の承認と連盟条約締結の為にわざわざアメノミハシラに出向いてくれる両国の国家代表を安全に迎えるべく、内外に厳重な警戒態勢を敷いたり、アマハラ首長国籍を取得するかしないかを全居住民に問い合わせたり、アメノミハシラ内に住んでいるアスハ系シンパ……中でも過激な事をしそうな連中の洗い出しを行ったり、全世界にアメノミハシラ独立と三国連盟が成った事をアピールするべく、三国の国家代表を一堂に会しての署名式典の準備をしたりと、やるべき事は幾らでもあったからだ。

 まぁ、俺は現場組であるだけにL5への警戒が主な仕事だったから、事務方のような目が回る程の忙しさはなかったんだが……、赤道連合や南アメリカ合衆国の首脳が乗った往還機の護衛を行う為に地球軌道に出向いた時だけは、流石に緊張し、神経を消耗したもんだ。

 こんな〝一日が四十八時間あればいいのに〟と聞こえてきそうな事務方の悲喜交々な頑張りもあって、今日、無事に独立宣言予定日を迎える事になった。

 この独立宣言についてだが、実の所、アスハ代表が復帰した当日に、間髪いれずのカウンターで独立を宣言を出して、本国を虚仮にして、出鼻を挫くとする案も出ていたそうだ。
 けれども、それだと前もって独立の準備していたと勘ぐられてしまって、こいつらも自分達が保有している利権を守る為に……、まぁ、実際、根本に欲があるのは間違いないので否定する事はできないが、んんっ、とにかく、できるだけ、強欲なL5政権や本国と同列に見られないように、市民の皆様からの心象が悪くならないように、あくまでも自らの領域に降りかかった火の粉を振り払う為に、止むを得ず、独立を選んだというポーズを見せるべく、少しだけ時間を置いての宣言となったのだ。

 独立国家として承認してもらう為にも、他所様からどう見えているかっていう面も大切って事だな。


 そんな事を、宇宙港に停泊中のイワミ内、ウルブス小隊用のオフィスにて、つらつらと考えていたら、室内にいる小隊の他のメンバー……レナとマユラ、コードウェル妹の声が耳に入ってきた。

「へぇ、基本的な法律はオーブのものを流用するんだ」
「うん、そうみたいよ。あ、でも、憲法制定委員会を作るっていう話も聞いたわ」
「マユラさん、その憲法制定委員会……って?」
「さぁ、そこまでは詳しくは聞いてないけど、偉い人や学者でも集めて、新しい憲法を作るんじゃない?」
「……肝心な内容が抜けているのが、マユラらしいわね」
「むっ、聞いた相手が忙しそうだったから、迷惑にならないようにしただけよ」
「はぁ、普段から、そういう心がけをしてくれたら、私は助かるんだけど?」
「むむむっ」

 カーンって、脳内でゴングが鳴り響いた気がするが、とりあえずは無視して……、マユラが言っていた憲法制定委員会とは、オーブの現行憲法を参考にしつつ、よりアメノミハシラやタカノアマハラの現状に即した理念を言語化し、国内法や社会規範の基礎を形成する新憲法を作る為の独立委員会であり、氏族、法曹、官僚、学者、市民や移民の代表等で構成されている。
 で、アサギから伝わってきた話だが、この委員会の中で最も大きな焦点になっているのは、これまでのオーブで著しく制限されていた国民の参政権をどこまで認めるか、特権階級とも呼べる氏族の権限をどこまで制限するか、という事であったりする。というのも、委員会の初会合において、委員から、今回、本国が暴走した原因の一つに政治経験が少ない国民に参政権を付与しすぎた事があるのではないかといった意見や、今の状況は多くの権限を有するアスハ系氏族が大々的に動いた結果ではないか、という指摘がなされた為だ。
 国民の参政権や氏族の特権に絡んだこの発言を受けて、委員会を構成する委員の間で、あくまでも政治は氏族が担い、国民に参政権を与えるべきではないとする貴族制或いは寡頭制を推す者から、政治は全ての国民の中から選挙で選ばれた代表者が担うべきだとする民主主義を標榜する者まで、非常に多くの意見が噴出すると同時に、近い意見を持つ同士が徒党を組み、幾つかの派閥が形成されることになったとのこと。
 そして、現在も互いの妥協点を見出すべく、また、よりよい制度を築くべく、喧々諤々と、時には殴り合いになる程に熱い議論が繰り広げられているらしい。

 ……まぁ、この政治形態を定める話し合いが終わった段階で、真の意味で新しい国家が誕生するって事だな。

 っと、そろそろ、時間だな。

 一日一度の恒例である、ちょっとした意地の張り合いをしているレナとマユラは放っておいて、微苦笑を浮かべて二人を見ているコードウェル三尉に声をかける。

「三尉」
「あ、はい、何ですか、三佐……って、そろそろ時間ですね」
「ああ」

 言わなくてもわかったのだろう、三尉は部屋備え付けの大型モニターの電源を入れてくれた。


 息を吹き込まれたモニターに映し出されたのは、総司令部の正面ゲート前の大空間……宇宙軍の殉職者慰霊碑がある空間だ。その慰霊碑の前には演説用のステージが設営されており、周囲には招待者や参列者に加え、慰霊碑がある面を除いた五面に〝張り付く〟形で、軍人や市民が入り混じった群衆のざわめいている姿も見える。また、ステージの背後には、見慣れない旗……地球の周囲を回るアメノミハシラが図式化されて描かれた旗が掲げられていた。

「ステージの後ろ、新しい国旗みたいだな」
「そうみたいですね」

 そんなやり取りを俺とコードウェル三尉がしていると、モニターに映像が映し出された事に、マユラよりも先に気付いたらしいレナがこちらに声をかけてきた。

「あ、先輩、もう時間ですか?」
「ちょっ、聞きなさいよ、レナ」
「はいはい、後で聞いてあげるから、ほら、中継が始まるわよ」
「ぐぬぬ……、後で絶対に、キャン言わしてやるんだから、覚えておきなさい」

 誰がどう聞いても負け惜しみにしか聞こえない事を吐き出すと、マユラもモニターに視線を移したようだ。どんな状態であっても、常日頃と変わらない姿を見せている二人に、思わず口元が綻ぶが……、モニターにサハク准将の姿が映し出されたので、意識して引き締める。

 だが、モニターに映るサハク准将は演壇に立ちはしたものの、厳かな彫像のように瞑目して演壇に立ち尽くしている。

 ……どうやら、准将は群集が自ら聞きに回るのを、自らに意識が集中するのを待っているようだ。


 十秒……、三十秒……、一分と過ぎて、ざわめいていた聴衆が静かになり始め、コードウェル三尉がごくりと息を呑んだ音が室内に響き渡った時に、サハク准将は静かに話し始めた。


「私の名はロンド・ミナ・サハク……、オーブ連合首長国の宇宙植民地であるアメノミハシラとタカノアマハラの責任者である」


 その一言を述べた後、堰き止められていた水が流れだしたかのように、サハク准将は語り始める。


「私は先の戦争より以前から本国を離れ、ここ、アメノミハシラにおいて、オーブ連合首長国が保有する宇宙植民地の運営を担ってきた。その重責を担う者として、また、国民より政を預かるオーブ氏族の一人として、昨今、明らかになっている本国政府の著しい劣化と世界各国のオーブへの信が失われていく現状を、実に残念に思う」


 だが、高らかとした勇壮さもなければ、憤怒にも塗れてもいない、淡々とした口調が、今回の独立が准将の本意ではない事を如実に伝えてくれる。


「しかしながら、心ある市民ならば気付いているだろうが、現在、本国を取巻く苦境は起きるべくして起きた事象である。

 この苦境を招いた原因は、まずもって、先に締結したユニウス条約を破り、核動力機を隠蔽保有した上、アークエンジェルという第一級の国際テロリストを匿っていた事実にある。これらは他国との信義を蔑ろにする行いであり、自国の尊厳をも著しく貶める許されぬ行いだ。

 他者と交わした約定を遵守できずにして、他者よりの信を得る事ができようか?

 言葉よりも先に手を出す者達を擁護して、他者よりの信を得る事ができようか?

 答えは否である。

 この当然の理によって、オーブは自らを貶め、諸国からの信用と信頼を損なう事になったのだ。

 だからこそ、アスハ代表が国防軍の失態によって拉致されるという前代未聞の苦境の中、国政を担ってきた宰相……ウナト・エマ・セイランは、一部の者達が犯した過ちによって損なわれた他国からの信を回復する為に、有名無実化していた議会に権限を付与して復活させ、また、国民の政治参加と行政府を監視させると同時に、執政の透明化を図りながら、厳正な調査を行わせるべく、必死の努力を重ねていたのだ。

 にも関わらず、一部の者達……、他者との協調と自らの本分を忘れた輩が私利私欲でもって宰相の政を、国際社会からの不審を取り除く為の調査を妨害し、挙句の果てに他国の策謀に乗じて国民をも扇動して、宰相自身や係累を宇宙植民地へと放逐した事、誠に許しがたい所業である。

 私は問いたい。

 テロリストとこれらの隠蔽に関わった者達の罰すべき罪業を罰せずして、如何にして、公平な世が成り立とうか?」


 一旦、言葉を切った准将は視線を鋭くさせつつ、嘆きの色を見せるという稀有な表情を見せながら、更に続ける。


「答えは当然、否である。

 無論、他者を許す寛容の心も大切だが、此度の事は人として守るべき道を、人が生きる為に形成している社会を蔑ろにしすぎている。

 だが、それを……、人として信義にもとる行いを修正する為、罰すべきを罰するように正そうとした者達を排斥し、知らぬ顔で権力を握り、自らの正当性を誇る等という、あまりにも傲慢で、不遜に過ぎる事を為しているのが、今の本国なのだ。

 この余りにも独りよがりで、馬鹿げた行いからわかるように、今の政権に率いられたオーブは、オーブにして、オーブにあらず。

 そう、オーブは一部の者達の私利私欲によって、これまでの輝きを失ったのだ。

 ……。

 そして今、本国は自らの失敗を糊塗する為に、一部の者達の浅はかな行いで失われた輝きにメッキを施す為に、我々が住まう宇宙植民地に……、アメノミハシラ及びタカノアマハラに住まう我々に、犠牲を強いようとしている。

 私は宇宙植民地に住まう民を守る氏族の一人として、また、アメノミハシラとタカノアマハラの責任者として、最早、昨今の本国の動きを看過する事も、許容する事もできない。

 よって、アメノミハシラとタカノアマハラは、自らの失政の為に、アメノミハシラ及びタカノアマハラに住まう我々に犠牲を強いようとする今のオーブから、我々自身の権利を、我々自身の日々の営みを、我々自身の手によって築き上げてきた社会を守る為、また、我々自身が自らの意思で進む道を選択し、我々自身が自らの意志で世界に関わる為にも、オーブ連合首長国より離脱し、【アマハラ首長国】として独立する事を、私、ロンド・ミナ・サハクはここに宣言する」


 そう言い切ったサハク准将の姿が、予め招致されていた各国マスメディア紙の撮影スタッフが相次いで放つフラッシュに塗れ、眩く彩られる。

 それと同時に、式典が行われている空間では大歓声が沸き起こっているようだ。けれども、式典会場に充満し始めている熱気に対して、サハク准将の顔は冷静さを保ったままだ。

 ……やはり、オーブの氏族である事に拘りを持っている准将にとっては、今回の件は、まさに断腸の思いなのだろう。

 だが、今回の独立は、ある意味、必然の帰結だったとも思える。

 なんとなれば、本国はアメノミハシラやタカノアマハラに対して、戦中戦後の混乱期から今に至るまで、特にこれといった支援を行っていないし、アメノミハシラやタカノアマハラからも本国に対して援助を求めていない事実……、そう、国防予算関連以外では、基本、独立独歩でやってきた現実が、まず、あるのだ。

 それにアメノミハシラやタカノアマハラの居住市民には、本国が戦禍に呑まれた結果、着の身着のまま焼け出されて、行き場を失い難民となっていた人が多いのだ。そんな彼らを何とかする為に奔走していたのがアメノミハシラであり、ロンド・ミナ・サハクという人物であった事を考えると、サハク准将の思いとは裏腹だろうが、居住市民が本国を頼りにせず、ロンド・ミナ・サハクという人物を選ぶのは当然といえるだろう。

 要するに、今更、本国の都合につき合わされて堪るかというのが、居住市民の総意という訳だ。


 なんて具合に、多くのアメノミハシラ市民が抱いているであろう思いを推測していると、徐々に落ち着き始めた歓声の中、壇上に、民族衣装を着た浅黒い肌に白髪を持つ少し太った初老の男と引き締まったスーツ姿で小麦色の肌に暗い茶髪の中年男が、慣れない無重力に対応する為だろう、それぞれ介添え付きで現れた。

「三佐、あの二人が?」
「ああ、赤道連合の代表ラジャード・シンと南アメリカ合衆国の大統領アルトゥール・ブランコ・ダ・シルヴァ……だったよな、レナ?」
「ふふ、ええ、それであってますよ」

 レナに笑われながらもコードウェル三尉に答えつつ映像を見ていると、壇上に揃った三人は大仰な笑みを見せることはないが、軽く微笑みながら、それぞれとしっかり握手を交わして演台に並んだ。

 そして、ゆっくりと歓声が収まった後、民族衣装の男……ラジャード・シンが少し錆びた声で述べる。

「我々、赤道連合及び連合構成国はアマハラ首長国の独立を承認し、国際社会の新しい一員となる事を歓迎します」

 次にスーツ姿の男……アルトゥール・ブランコ・ダ・シルヴァ大統領が張りのある声で続く。

「南アメリカ合衆国国民を代表し、アマハラ首長国の独立を承認します。また、国際社会に新たな仲間が増える事を大いなる喜びをもって、歓迎します」

 ……再び、フラッシュが瞬く中、サハク准将が最後に述べる。

「そして、この場を持って、赤道連合、南アメリカ合衆国及びアマハラ首長国は宣言したい。本日より、三国は相互不可侵を結ぶと共に、自らの安全保障を実現すべく相互軍事協力を行う為、また、互いに足りぬ部分を補完し合う為、国際的な秩序と平和を希求するという共同する路線を歩む為、三国で盟約を交わし、三国連盟を結成する事を」

 そう言い切った後、これまでと比べものにならない程の光が溢れると共に、会場に新しい熱と歓声が沸き起こっているようだ。

「す、すごい、歓声ね!」
「独立宣言と同時に直接、二国から正式に承認を受けた上に、他の勢力に当たり負けしないだけの勢力の一員になったからな。もう、半分は独立が成ったようなもんだ」

 モニター越しにも関わらず、会場の熱にあてられたのか、頬を高潮させているマユラの言葉に応えつつ、以前、経験した独立式典……プラントの独立式典を思い出す。

 ……うん。

 あの時と同じく、如何にも自分達が正義だと言わんばかりに、こちらにとって都合の良い事や聞こえが良い奇麗事しか並べてないけど……、まぁ、客観的に見ても本国がおかしくなっているのは事実だし、下手な悲壮感を演出して市民の敵愾心を煽ってもいなければ、予め足場を固めた上で仲間を作るって手順も踏んでるから、遥かに上出来だろう。

 そんな具合に捻くれた感想を抱いていると、マユラと同じく高揚しているらしいコードウェル三尉も話しかけてきた。

「え、えと、あの、三佐、こ、こう、やるぞーーっ、とか、いくぞーーッ、って、来ませんか?」
「いや、俺、二度目だし……」
「でも……」

 と言う三尉の視線を辿ると、レナも色白な肌を思いっきり赤くして、胸の前で拳を握り締めていた。

 レナって、柔和な見た目と違って、訓練中とかだと物凄く熱血な所を見せるだけに、胸の内で燃え上がるモノを感じているのだろう。

 そんな思いを抱いて生暖かく見つめていると、向こうも俺の視線に気付いたのか、ちょっと恥ずかしそうに述べる。

「え、えと、私、こういうのに流されやすいというか、慣れてないというか……、いえ、違いますね。今の状況にあって、冷静でいられる先輩が変なんですよ」

 えー、ここで変人認定とか、やめてよね。

「はいはい、変でいいですよ。んんっ、とにかく、これからしばらくは油断できない日が続くだろうから、皆、しっかり頼むな」

 俺の言葉に三人がそれぞれ、しっかりとした返事をしてくれた事に満足しつつ、プラントとオーブ本国はどういう反応を見せるだろうか、なんて事を、次の任務まで考え続けた。
11/12/23 誤字修正。


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