第三部 導なき世界の中で…… (C.E.72年-C.E.75年)
58 揺れ動く世界 -新地球連合 VS. プラント 2
11月9日になって、南アメリカ合衆国で行われていたサトーに対する取調べが一段落した。
サハク准将からアサギを通じて内々に教えてもらったが、その取調べでサトーから引き出された供述内容は、まだ裏付けが為されていない状態だが、ユニウス・セブンを落下させたテロリストとザフト内の一派と繋がっていたという事だった。
まぁ、サトーの供述内容がなくても、ジンM2型を部隊単位で運用したり、管理地での動きが隠蔽されていた事を考えると、テロリストとザフトとの繋がりがあった事は予測できた事であるのだが、それが一気に現実味を帯びた形である。
後、少しだけ詳しく述べておくと、サトー率いるテロリストグループと繋がりがあったのはコーディネイター至上主義者で構成される対ナチュラル過激派だそうで、元々はザラ派に組していたらしい。
だが、二年戦争後期になって、ザラ派が戦争終結を目指すザラ議長によって、対ナチュラル強硬路線から中道派や一部のクライン派を取り込んでの現実路線へと舵を切ったのを受けて離脱したそうだ。
そして、プラントが追い詰められる中、自分達の力を伸長させる為に、ジンM2型の生産工場へと人員を送り込み、密かに生産数を過少申告して、一部を秘匿していたとのこと。
……。
当時、L5コロニー群の手前まで追い詰められた苦しい状況の中、ザフトの一員として前線で戦った一人として、ジンやシグーからMSの更新を出来なかった連中の代わりに言いたい。
こいつら、ヤキン・ドゥーエ宙域に生身で放り出して、死ぬまで詫びさせるべきだ、……って、いかん、落ち着け、俺、それが言えるのは、まだ、ザフトに残ってる連中か、プラント国防軍の連中だけだ。
……。
んんっ、でもって、このサトーの供述内容を国際刑事機構を通じて伝えられた各国首脳が、さて、ザフトとテロリストが繋がっていたが、どのように動けば国益に適うだろうか、と考え始めたであろう矢先に、どこからというか、高い確率でブルーコスモス強硬派か過激派の構成員から世間に供述内容が漏れてしまった。
結果、当然の如く、世界というか、被災した地球市民を中心に、プラントに対して何らかの制裁を求める動きが見受けられ始めた。
この地球市民の動きを追い風とでも考えたのか、11日には、新地球連合を主導している大西洋連邦が世界各国に対して、世界安全保障条約を提案して締結を呼び掛けたのだが……、他の二大国は大西洋連邦が地球連合時代や戦後世界で見せた振る舞いから不信と不審の念を抱いているのだろう、無視して応じず、また、ユニウス・セブン落下による被害が比較的に少なかった地中海同盟や赤道連合、南アメリカ合衆国は国内で審議してから決定するとの返答に止めたり、親大西洋連邦のオーブ本国も各国とプラントとの仲介役という立場から回答を保留したり、親プラントの立場を取る大洋州連合やスカンジナビア王国が丁重に断ったりした結果、新地球連合構成国だけに止まるという非常に寂しい結果に終わってしまった。
つか、いくら地球市民が怒りに沸いているからって、国際条約は、しかも安全保障条約なら尚更に、そう簡単には締結できないと思うの……。
だなんて、俺の感想はさておき、大西洋連邦は己の目論見……対プラント脅威論を元にした世界安全保障条約によって、対プラント包囲を敷いた後は、これを足掛りに他国を取りこんで、行く行くは、自国が主導していた地球連合よ、もう一度! 的な考え……まぁ、これはあくまでも俺の推測である……が、寒い結果に終わった事で、自身と子分だけで動く事に方針を転換したらしく、新地球連合を構成している各国がプラントに対して宣戦を布告すると共に、月裏側にある大西洋連邦の基地アルザッヘルからL5のプラントに向けて、宇宙艦隊を発進させている。
この事を受けて、地球圏は緊迫の度を増しており、アメノミハシラにおいても、ムラクモが加入した第一艦隊がL5方面に展開して、有事に備えている他、三大国軍艦隊による包囲が続いているL1方面に対しても、アメノミハシラ防衛隊の防衛戦隊……正規艦隊から回されたハガネ級で構成された小艦艇群が、パトロールを行っている状況だ。
無論の事ながら、俺が属している即応部隊も他人事ではなく、双方に対する予備戦力として、二十四時間の待機状態に入っている。
◇ ◇ ◇
11月13日。
ノルズを応用した常時観測網やL5方面に展開している第一艦隊からの通報で、L5のヤキン・ドゥーエ要塞の月方面宙域で、大西洋連邦軍艦隊とプラント……L5のザフト艦隊が衝突した事が確認された。
実際の戦闘が始まったことから、即応部隊も停泊していたアメノミハシラから出港し、第一艦隊の後詰になると共に、L1の大西洋連邦艦隊の動きも気に掛けるという任務についている。
「今の所、一進一退って所だな」
当直の為、レナ達小隊メンバーと一緒に、ウワツ内部のパイロット待機室で第一艦隊から送られてくるリアルタイム映像を眺めているのだが……、むむぅ、【エグザス】っていう最近になって公表された新型MAやメビウス部隊に援護された、ダガーLを主力とした大西洋連邦軍MS隊とザク・ウォーリアが主体のザフトMS隊が前線で激しく争っている。
その前線の戦況はというと、MA隊の援護を受け、数の利も生かしたダガーLが質で勝っているザク・ウォーリアを拘束しているという感じだ。
あの戦争から二年しか経ってないけど、ナチュラルが操縦するMSとコーディネイターが操縦するMSとがほぼ互角に戦っているのを見ると、MS関連の技術が著しい発展を遂げたって事がよくわかるよなぁ。
本当に開発初期からは考えられないと内心で独語していると、じっとモニターを見つめていたマユラが話しかけてきた。
「でも、アインさん、大西洋連邦軍にウィンダムの姿が見えないのって、おかしくない?」
「ええ、マユラさんが言った通り、多数配備されているはずのウィンダムが見えないのは、ちょっと変です」
「……おそらく、予備戦力か、決戦戦力って所かな」
「そのあたりでしょうね。あ、先輩、ダガーLに動きが……」
どこか浮かない顔をしたレナが言った通り、ダガーLの一部が、まるで戦域から逃げ出すかのように、後方へと退き始めている。
……けど、退いている方向は各々がバラバラのように見えるが、今のように俯瞰して見ていると、ある程度、統一された意思で退いているようだ。
「三佐、これは崩れているんでしょうか?」
「崩れているように見えなくもないが……、これは誘引みたいだな」
「誘引?」
「ああ、そのまま崩れかねないから、難しい業だけどな」
……さて、どうなるのかなっと。
「ザフト部隊が追撃を仕掛けてますね」
「ああ。でも、レナ、これって、どこかで見覚えがないか?」
「……はい、新星攻防戦やヤキン・ドゥーエでの最終防衛戦で似たような光景を見ました」
ということは……、コーディネイターの、いや、理由もなくナチュラルを格下に見るザフト隊員の特徴を上手く利用した罠って所だな。
「あっ、十字砲火帯が三重にできました」
コードウェル妹の言葉通り、戦域の後方に控えていた大西洋連邦軍の艦隊が、電磁カタパルトを上手く両舷に装備した250m級……ネルソン級やミサイルの射出方向を90°外側に……側舷へと向けたランチャーを装備する近接防衛用らしき150m級……ドレイク級で構成されている、幾つかの艦艇グループが連携して、瞬時に、火力による三重の壁を作り上げた。先の後退が罠である事に気付けずに、突出してしまったザフト機が火線網に次々と絡め取られて、爆散していく。
「せ、先輩、凄いですね」
「ああ、以前よりも更にグレードアップしてるぞ」
いやはや、過去の戦訓からしっかりと学んでいるってことだよなぁ。
「うーん、やっぱり強いね、大西洋連邦軍って」
「そりゃ、マユラ。連中は〝世界最強〟を自任している位だからなぁ」
それでも、あまりにも見事なまでにしてやられているザフト側がちょっと異常のような気がしないでもないが……、やっぱりこれって、今、前線に出ている連中が経験不足っていうか、前戦争時のベテランが大挙してプラント国防軍に移った事が原因なのかねぇ。
「あ、ザフト艦隊がヤキン・ドゥーエに退いて行きます。……あれ?」
「どうした、レナ」
「あ、いえ、んんっ? 大西洋艦隊の別働隊かな?」
別働隊?
「ほら、ここです」
レナが指差した方向……、天頂極方面、以前のヤキン・ドゥーエ攻防戦で発生したデブリが溜まっている、一種の暗礁域近くに、大型の艦艇を中心とした小艦隊が見て取れたが、俯角方向で展開されている戦闘やヤキン・ドゥーエ要塞には目もくれず、多数のMSらしきモノを放出しながら、一直線にプラントのコロニー群に……って、まさかっ!
「おいおいおいおい、まさか、プラント本国に……、コロニー群に攻撃を仕掛けるんじゃ、ないだろうな」
「ええっ!」
って、しまった!
レナの家族は、プラントに住んでいたんだった。
道理で、さっきから落ち着きがないと思ったら……、いや、今のは明らかに、俺の失態だよなぁ。
考えなしに呟いてしまった俺の不用意な言葉が切っ掛けになって、心の内に隠されていた懸念が噴出してしまったのだろう、レナは著しく動揺して、顔から血の気をなくしてしまっている。
「どどど、どどうしましょう、先輩!」
「お、落ち着け、レナ」
「で、でも、あそこには、りょ、両親や、い、妹が……」
自分の中で最悪の想定に思い至ってしまったのか、常の冷静さを失ってしまっているので、後からレナを抱き締めて、耳元でゆっくりと言い聞かせる。
「落ち着け、レナ」
「で、ですがっ!」
「いいから、深呼吸をするんだ」
「……は、い」
俺の言葉に従って、レナは大きく呼吸を繰り返す。
それが三度目に至ってから、レナを諭すようにゆっくりと話しかける。
「レナ、プラントの防衛体制が以前と同じままなら、各市には、必ず、プラント防衛隊が駐屯しているはずだ」
「……あ」
「そうでなくても、プラントがあの動きに気が付かないとは思えないし、コロニーは、絶対に防衛しないといけないモノなんだから、何らかの対処をしないわけがないよ」
「そ、そうですよね」
その声音から、ちょっと落ち着いたかな、等と思いながら腕を解くと、コードウェル三尉が少々遠慮がちに問い掛けてきた。
「あ、あのー、三佐」
「ん?」
「今、レナさんにした対処方法って、男の人や他の女の人にも、するんですか?」
「まさかぁ。これはレナとマユラ、それにミーア限定さ。他の女性なら、他の同性に任せるし、男なら正気に戻す為に拳を一発って所だな」
俺の正直な答えに、三尉は失笑を抑えられないようだ。
少しだけ、空気が軽くなったところで、マユラが茶化すようにレナに声をかける。
「はいはい、レナも落ち着いたんなら、アインさんから離れたら?」
「ま、マユラ、わ、私、そこまでは、落ち着いていないわ」
「……あー、そうみたいねって!」
……ッ!
「う、嘘でしょ?」
「ま、マユラさん、あ、あの光って……」
マユラとコードウェル三尉が漏らす言葉を耳にしながら、過去に見た光景を思い出す。
「せん、ぱい、今の……」
「ああ、今のは、明らかに、核爆発の閃光だが……」
あまりにも爆発が……、爆発が巨大すぎるぞ?
「ぅぅ……」
っと、いかん、レナがまた……。
慌てて、涙目になってしまったレナを抱き寄せて、しっかりと胸の内で抱き締めてやるが……、今の爆発って、ちょっと変じゃなかったか?
胸の内で震えているレナの背を軽く撫でながら、そんな事を考えていると、マユラが小声で問うてきた。
「……アインさん、今の爆発って、核爆発なのよね?」
「ああ、今まで何度か見たからな、まず、間違いないはずなんだが……」
「で、でもさ、ちょっと、爆発の規模が、大きすぎなかった?」
「そうなんだよ。あまりにも、爆発の規模が大き過ぎるんだよ。ついでに言えば、爆発した場所が、先のデブリ帯近くで起きていて、プラントのコロニー群には被害が出ていないようだしな」
そう、モニターを見る限り、コロニー群は健在だ。
その事自体は歓迎してもいいんだが、さっきの核爆発の連鎖は……、連鎖?
自分の中で自然に生まれてきた言葉に首を捻っていると、今度はコードウェル三尉が自身の見解をおそるおそるといった感じで述べた。
「三佐、今の爆発がおかしいという事は、ザフト側がなにらかの攻撃を仕掛けたんじゃないでしょうか?」
「……かもしれないな」
もし仮に、核が連鎖して爆発したとなると……、対核兵器用の指向性兵器の類だろうか、等と考えながら、眉根に皺を寄せつつ、更なる情報を得る為に映像を見据えていると、俄かに胸元で動きがあった。
「せんぱい、コロニー、大丈夫、なんですか?」
「ああ、レナ、無事だよ」
「ほ、本当に?」
「他人の命に関しては、嘘は付かないさ」
「……確かに、先輩は、そういう人ですよね」
こちらを見上げるレナの不安げな顔にも、ようやく微かな笑みが口元に浮かんだので、レナの身体を180°転回させる。
「……あ、よ、よかった、コロニー、無事だ」
その目で見て、ようやく安堵したのだろう、レナは詰めていた息を大きくを吐いた。
「レナ、落ち着いたか?」
「……はい、取り乱してしまって、すいませんでした」
「はは、レナの置かれている状況なら、そうなるのもわかるよ」
目の前で肉親が住んでいる故郷が焼かれようとしていた状況の中で、ついさっきまで、気取られないようにしていた事自体、凄いことだ。
「それにしても、レナって、強いよなぁ」
「……先輩がいてくれるからですよ?」
「おっと、それは光栄」
おどけた笑みを浮かべながらレナを解放すると、それを見計らったかのようにマユラが声を掛けてきた。
「アインさん、大西洋連邦が退くみたい」
「……さっきの本命攻撃が失敗したからでしょうか?」
「ああ、コードウェル三尉の見立てが正しいだろうな」
戦争っていうか、大なり小なり、争いごとってのは、相手の戦意を喪失させる事が最も重要になるが、今の大西洋連邦軍の場合、当初の予定とは逆な状況に……、コロニーに対する攻撃に失敗した事で、自軍の士気が下がり、反対に敵であるザフトの戦意が際限なく昂ぶっている状況だろうから、速やかに退くのが無難だろう。
……。
それにしても、核を使うか……。
「あの、先輩」
「どうした、レナ?」
「さっきの攻撃が核だとしたら……、大西洋連邦はユニウス条約に違反しているんじゃ?」
「ニュートロンジャマーを無効化するのに、キャンセラーを使っていた場合はそうなるだろうな」
先の条約においては核自体の使用禁止事項はなかったから、核の使用自体は違反ではない。ないのだが、その核を使用できるようにする為の唯一の手段である、ニュートロンジャマーキャンセラーについては軍事利用を禁止すると明文化されているから、無効化するのにキャンセラーを使っていた場合は違反になる。
「アインさん、大西洋連邦がユニウス条約に違反していたら?」
「当然、ユニウス条約加盟国からは、違反行為だと咎められるだろうし、国際的な信用も失墜する。……付け加えると、〝あいつが破ったんなら、俺も破ってもいいだろう〟って具合に、各国がユニウス条約を遵守しなくなって、事実上、条約が破棄される事もあるだろうな」
「今の国際的な秩序が崩壊するということですか?」
「あー、三尉の例はちょっと極端な話だけど、そういうことだ」
でもまぁ、自国の都合での国際条約の一方的な破棄なんて、昔からある事なのは確かだし、内々に条約違反な事を隠れて研究したりするのは、ある意味、国家としては健全なんだろうけどさ、流石に、表沙汰にするのが早過ぎるというか……、たった三年の有効期限も守れないって、国家として如何なものか、って思う俺は変だろうか?
「とにかく、これからの世界状況は流動的なものになりそうだから、気を引き締めていくしかないだろう」
三人に対して、そんな事を述べながら、俺はモニターに映るL5の様子を眺める。
……はぁ、どうして、こう、皆が皆、好戦的なんだろうなぁ。
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