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フィクションとはいえ、今回の話を読む事で先の東日本大震災を思い出してしまい、不快に感じられる方がおられるかもしれません。
ですが、SEED DESTINYを描く以上は避けて通ることができない部分です。何卒、ご理解の程をよろしくお願いいたします。
第三部  導なき世界の中で…… (C.E.72年-C.E.75年)
53  悲嘆する蒼き星 -ブレイク・ザ・ワールド 1


 まずは、先の顛末……、C.E.73年10月11日から翌日にかけて起きた出来事を簡単に整理しようと思う。

 10月11日、地球安定周回軌道を回っていたユニウス・セブンが、テロリスト……と言うよりは、アヴェンジャー或いはリベンジャーと言った方がしっくりくる連中の手によって、地球落下コースへと軌道を変えられてしまった。
 この非常事態を受けて、俺が所属するオーブ国防宇宙軍や管理責任者であるプラントが地球への落下回避の為に動いていたのだが、先の連中の妨害と手際の良さによって、突入軌道から逸らす作戦は失敗に終わってしまう。
 その為、最悪のケース……大質量状態での地球への落着だけは回避するべく、ユニウス・セブン自体が破砕されることになり、地球軌道に展開していたオーブの第一宇宙艦隊やザフトの新鋭艦ミネルバによって全力攻撃で質量を削り取る作戦へと移行する事になった。
 宇宙での最終防衛策となる艦隊による迎撃では、大気圏によって破砕断片を〝跳ね石〟の如く圏外へと弾かせることも期待されていたのだが、それが叶ったのは極一部に過ぎず、非常に残念な事に、全質量の三分の二が重力に引かれるまま、地球各地へと落着する事になってしまった。


 はぁ、ただただ……、無念だ。


 気を取り直して……、これらユニウス・セブンの断片群が落着することによって、世界各地で被害が発生する事になってしまったのだが……、被害状況が伝わってきたのは、南米の英雄ことエドワード・ハレルソンの助けと南アメリカ合衆国政府の特別な好意から、一時的な入国許可を受けて、旧アルゼンチン南部に着陸して、一日経ってからのことだった。


 伝え聞いた被害状況は……、世界各地で大規模な災害が同時多発的に起きている状況は、酷いの一言に尽きた。


 ハレルソンから聞く所によると、ここまで被害が拡大してしまったのは、ニュートロンジャマーの副次作用である電波妨害で従来の迎撃システムが効果的に使えなかった為、各国軍による迎撃が効率的に行えなかった事も要因の一つだろう、との事だった。
 無論、ニュートロンジャマー影響下でも国防を担えるように、新たな装備へと更新しつつあった大西洋連邦のような国もあるにはあったのだが、まずもって、戦後復興が優先されていた事もあり、必要最低限に止まっていた為、焼け石に水程度にしかならず、被害を防げなったらしい。
 逆を言えば、国力に劣り、限られた装備しか有していない南アメリカ合衆国は……、いや、まぁ、破砕断片群の落着範囲も影響しているから一概には言い切れないけれど、実際、アマゾンに落ちる所だった中型破片の迎撃というか、落下コースを大西洋沖に逸らせる事に成功している事を考えると、被害を防ぐ為に手を尽くした方だと言えるだろう。

 とにかく、各国の対空迎撃網をすり抜けたユニウス・セブンの断片群は、大気圏突入中に発生したプラズマの影響で空に白夜の如き明るさを連日もたらした他、海洋に落ちたモノは断続的な津波を引き起こし、陸地に落ちたモノは地表に大きなクレーターを穿つと共に、周辺にあった様々な代物を衝撃波で吹き飛ばした上、大地から吹き上げた砕石や有毒高温の噴出物等が広範な地域に火災等の災禍をもたらしたのだ。


 そして、それらが引き起こした被害を最も大きく受けたのは、未だ戦後復興の半ばだった、東アジア共和国だった。


 なんとなれば、首府がある北京近郊に落下物の中でも最大の物が落着した事で、北京一帯が文字通りに全てが吹き飛んでしまい、中央政府機関そのものが物理的に消滅した上、北太平洋に落ちた多数の岩塊群が引き起こした津波によって、復興の下支えをしていた、経済的に発展している太平洋沿岸地域が壊滅的な打撃を被った為だ。

 これをボクシングを例にして簡潔に表現すれば、激しいパンチの応酬があってフラフラになったラウンドが終わり、インターバルに入ったことでグロッキー状態からなんとか立ち直りつつあった所を、観客の中に紛れ込んだ暴漢に、レフリーやセコンドの制止も虚しく、突然、背後から襲われて、ノックアウトパンチを喰らってダウンした後も、しつこく、ボディブローを打たれ続けていると言えばいいだろうか?

 ……いや、逆にわかりにくいかもしれないか。

 まぁ、それは置くとして、太平洋にはユニウス・セブンの断片が半分近くが落下した為、東アジア共和国に止まらず、その沿岸地域全域……、大西洋連邦、南アメリカ合衆国、大洋州連合、オーブ本国、赤道連合といった国々は津波によって、大きな被害を受けているようだ。

 また、速報で入ってきた情報によると、大西洋連邦では五大湖地方に小規模な破片群が落着した影響で、一帯が壊滅的な被害を受けている上、北部大西洋に落ちた破片群の影響で発生した津波で、ニューヨークやボストン、ハリファックス、マイアミ、それにノーフォークといった都市に代表される大西洋沿岸が被害を受けているとのこと。
 このことを考えると、南アメリカ沿岸や対岸のユーラシア西部やアフリカ大陸もまた、津波の被害を受けている事になるのだが……、メディアの情報で比較すれば、太平洋沿岸地域に比べると、こちらの被害は復旧の目処が立てられるレベルみたいだ。

 この他にも、破砕によって生じた小さな断片が世界各地に降り注いだ事もあり、地球上で被害を受けていない地域はない、と言えそうな状況になりつつある。

 とはいえ、一日前に行われたアメノミハシラの警告が少しは生きたのだろう、各国政府が津波の恐れが高かった沿海地域に対して、早めの避難を実施していたお陰で、人的な被害が比較的に抑えられているのが救いだ。


 ……まぁ、あくまでも、当初、参謀本部が算出した想定被害よりも〝比較的〟に抑えられただけだけどな。


 本当に溜息しか出てこないが、これが今の段階……13日現在でわかっている状況だ。


 ◇ ◇ ◇


 南アメリカ合衆国の南部地域にある軍基地で世話になり始めて、早三日……、流石に基地の外へ出る事は出来ないが、基地の格納庫内に収められた自機……機体に関する情報は取られても仕方がないが、使われているOSに関しては、データを抜き取れないよう、三重にロックしておいた……の面倒を見たり、監視員付だが、外で日課の運動をさせてもらえたり、食事や寝場所を提供してもらえたり、アメノミハシラに連絡を取らせてもらえたりと、不法入国者としては破格の扱いを……、基地内では非常に自由にさせてもらっている。

 特に、アメノミハシラへと直接連絡させてもらえたのは、大変にありがたかった。

 最初に通信に出てくれたコードウェル一尉からは、心配させないで下さい、という趣旨の言葉とレナ達小隊メンバー全員が無事である事を聞く事ができたし、多忙なはずのサハク准将も直々に通信に出てくれた上、ねぎらいの言葉と共に、南アメリカ合衆国の治安当局に身柄を拘束されたサトーの取扱はアメノミハシラと南アメリカ合衆国とが折衝して決定する事、更には俺と機体の回収の為に、人と運搬機を派遣するとの言葉を頂けたのには、大いに肩の荷がおりたというか、我が身の保障をしてもらって、安堵させてもらったものだ。

 まぁ、本音を言えば、レナ達と直接話す事は叶わなかったのが残念なのだが、この辺りは仕方がない事だし、互いの無事を確認できただけでも有難い事だ。

 そんな事を思いながら、大気圏突入時の熱の影響の為か、一部の塗装が焦げ剥げて、豹柄みたいに斑模様になっていた自機の状態を知る為に、〝監視員〟の立会いの下、自己診断機能を使って、ステータス・チェックを行っている。

 ……あー、冷却系に負荷が掛かりすぎて、駄目になってるわぁ。

 無理をさせたからなぁ、と申し訳ない気分で機体を見上げていると、綺麗に撫で上げられた、溶けたチョコレートのような艶のある茶髪と浅黒い肌とがよくマッチしている〝監視員〟が声を掛けてきた。

「こうやって見てると、便利なもんだな、それ」
「まぁ、便利は便利なんだが……、整備畑じゃ、こいつの導入するかしないかに関しては賛否両論だったよ」
「整備の腕が落ちるってか?」
「それもあるが、チェックを鵜呑みにしすぎて、見落としが発生するかもしれないって、心配だそうだ」
「あー、確かに、その心配はあるよなぁ」
「ああ、だから、整備マニュアルに、必ず、ベテランを含めた複数人の目で、最終確認する事にしたんだよ」
「ほうほう、その結果、今は受け入れられたのか?」
「半々っていうか、整備効率の観点から見ると改善されたのは事実だし、それでできた時間をベテランによる整備技術の伝授や色んな研修に当てているらしいから、今の所、結論は保留だそうだ」
「新しい技術の導入ってのは、中々、難しいもんなんだな」
「だな。……所で、今更かもしれんが、何で、俺の監視員なんてやってんだ、南米の英雄殿?」
「いやぁ~、俺ぁ、元々がしがない戦闘機パイロットだった所為か、管理ってのが苦手でよ。信頼できる〝相棒〟にそっち方面の仕事を任せてんだよ。後、他の連中が被害実態の把握や救援活動で忙しいって事もある」
「ちょ、おまっ、さ、流石に、精鋭MS隊を率いる身としては、問題じゃないか?」
「いいんだよ。〝相棒〟……、ジェーンからも、エドは実情はどうあれ、英雄である事には間違いないんだから、常に胸を張って、英雄として、皆の心の支えになりなさい、って言われてるからな」
「は~、それはまた……、お前さんも大変だろうが、そうやって支えてくれる〝相棒〟の人も立派だな」
「だろだろっ! いやー、ほんと、ジェーンはいい女なんだぜっ!」

 その言葉と共に、エドワード・ハレルソンはニヤリと自分の女を自慢するように笑って見せるが……、それも長くは続かない。

「いや、本音を言えばな、俺も、今すぐにでも被災地に飛んで行って救難救命や捜索活動に加わりたいんだが……、現場で重建機が不足しているらしくてな。あんたを迎えに来る輸送機に乗せられているMS用スコップやツルハシが届くのを待ってるんだ。んで、それを受け取った後、南米全ての被災地に送り届けながら、隈無く被災者を慰問する予定なのさ」
「……そうか」

 本当に大変だな、英雄ってのは……。

 ……しかし、MS用のスコップはともかく、ツルハシまであったとはなぁ、なんて事を考えていると、ハレルソンも同じ事を考えていたみたいで、俎上に乗せてきた。

「……そういえば、あのMS用のスコップやツルハシってよ、あんたの実家で開発したんだって?」
「あ~、赤道連合の会社と一緒にな。色々開発しているってのは聞いていたが、ツルハシはしらなんだ」
「まぁ、こういう状況だと、色々と役に立ちそうだからな、感謝するぜ」
「はは、生暖かい周囲の目に負けず、実際に開発した奴に言ってやってくれ」

 っと、基地が何だが、騒がしくなった?

「どうやら、あんたの迎えが来たようだな」
「みたいだな」

 大きく背伸びをしてから格納庫の外を窺うと、オーブ軍が使用しているVTOL輸送機……通称ペリカンが丁度、基地の滑走路に着陸した所だった。

「ところで」
「ん?」
「……戦争、起きると思うか?」
「正直に言って、微妙な所だな」

 脳内に様々な仮定を巡らしながら、一番可能性が高そうなモノを口に乗せてみる。

「この全地球規模の大災害を引き起こした、ユニウス・セブン落下の責任をプラントが認めて、賠償や補償に応じるかどうかで、大きく変わって来るはずだ。まぁ、今回の事件に限っては、犯人とそいつが使用していたMSを物的証拠として押えているし、そこからプラントやザフトの関与を引き出せる可能性は高い事を考えると、応じないわけにはいかないはずだ」
「……プラントの連中が応じるかねぇ」
「考える力があるなら、もしも応じなかった場合、地球国家が一致団結して、地球連合が再来する可能性が高いんだし、応じるしかないよ。それでも拒むなら、実際、戦争になるだけの被害を地球に与えている以上は、また戦争になるのは仕方がない事さ」

 そして、その結果……、今度こそ、プラントは国家としての命運を絶たれ、解体されるだろう。

「元ザフトにしてはドライだな」
「あー、俺、ザフトに所属する前っていうか、元々は保安局……治安機関に所属していたんだよ。それが、いつの間にか、保安局がザフトに組み込まれた影響で、俺も取り込まれただけであって、好きで所属したわけでもないからな」

 俺がそう応じると、ハレルソンは天井を振り仰いだ。

「はー、なるほどねぇ。……みんな、色々としがらみや理由を持ってるもんだなぁ」
「まぁな」

 もっとも、本音を言わせてもらえれば、あれだけ多くの犠牲を出して、プラントの独立を達成した以上は、馬鹿な方向にだけは行って欲しくない所だ。

「いやだいやだ、軍人の俺が言えた義理じゃないが、殺し合いが不毛な事くらい、気付いても欲しいもんだよ」
「ああ、俺も言える立場じゃないのはわかってるが、まったくその通りだよなぁ」

 一度でも殴り合いの喧嘩をした事があるならわかるだろうが、血が滾っていても、殴られたら痛い事には変わりはない。まぁ、行き過ぎると気持ち良くなる可能性もなきにしもあらずだが……。

「どうやら、タクシングが終わったみたいだな。どうだ、行ってみるか?」
「いいのか?」
「別にいいさ」

 ハレルソンの了解もあったので、機体脚部にあるケーブルジャックから連結ケーブルを外し、コックピットに備えられているパイロット用簡易コンソールを閉ざす。

「……うーん、その診断機能、うちで使ってるM1にも付けられないのか?」
「知り合いの話だと次の改修で組み込まれる可能性が高いらしいぞ」
「なら、その改修に期待しておくか」

 そんな事を話をしながら、春の暖かな日差しが差し込む外へと出てみると、滑走路脇にある、ここに一番近いのエプロンに静止して、エンジンが切られた所だった。

「やれやれ、これでやっと俺も動けるな」
「すまんね、むさ苦しい男の相手をさせて」
「まったくだ。せめて、今、降りてきた女の子位だったら、こっちもやり甲斐があったんだがな」

 その言葉を受けて、輸送機脇にある乗員乗降口から降りてきた人物を見る……って、もしかして、マユラか?

「……知り合いか?」
「ああ、たぶん、恋人の一人だ」
「へぇ、恋人の一人か……、んんっ?」

 ハレルソンが俺の言葉に不審を抱いたのか、首を捻っているを無視して、輸送機へと近づきながら声を張り上げて呼びかける。

「おーい! マユラ! 来てくれたのか!?」

 って、あれ?

 何も答えないまま、こちらに向かって全力で走ってくるとっおッ★☆★ぁッ!

 い、今、星が見えたぞって、げはっむぐっ!

「ひゅ~、恋人の一人って、黄狼さんは色男だねぇって……、感動の再会にしては、アグレッシブだったけど、大丈夫か?」

 今更ながら、ハレルソンのからかいと心配の言葉が聞こえてくるが……、マユラの体重に加速力まで加わった全力びんたを頬に食らって、胸に飛び込まれて思いっきり尻持ちをついた上、熱烈な口付けをされている為、反論できないっていうか、マジで頬と尻と背中が、痛いです。

 あ、顔に……。


 ……。


 色々な感情が飽和しているらしいマユラを慰め、宥める為にも、しっかりと抱き締めて、その背中を軽く叩いてやった。


 ……後、ハレルソンよ。


 わざわざ、こっちの視野に入ってまで、ニヤニヤして見せっむぐれろんっ!


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