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第三部  導なき世界の中で…… (C.E.72年-C.E.75年)
50  復讐者の慟哭 -ユニウス・セブン落下阻止戦 2


 ユニウス・セブンの大地、その中央にあるエレベータ基部の周りに埋め込まれ、ノズルを覗かせた四基の推進装置から、光の帯が断続的に噴出している。
 これらの影響で更にユニウス・セブンが加速させられて、状況が切迫し始めているが……、逆に考えれば、あの四基の内一基でも破壊できれば、推進軸が狂って、地球への突入コースから逸れる可能性が出てくるはずだ。

「ウルブス3、時間がないようだ、前進を開始する。流れ弾には気を付けろよ?」
「了解」

 流石のマユラも声音が固くなっているようだ。

「何、訓練通りにやればいいんだ。マユラ、お前はそれだけの訓練をしてきているんだから、自信を持て」
「……うん、でも、過信はするな、でしょ?」
「そういうこった。……行くぞ?」
「ええ!」

 マユラからの返事を聞いた後、機体を滑らせるように、かつては人が生活を営んでいた小さな世界を突き進んでいくが……、核による大破壊を受け、宇宙と言う厳しい環境に晒された上、今もまた、戦場と化している所為か、往時の姿を想像する事ができない。

 そんな感慨を抱きつつ、ゲイツRやザク・ウォーリアを使用するザフト任務部隊とジンM2型を操る敵性部隊とが激戦を繰り広げる中を縫うように進んでいると、通信系からレナの声が響いてきた。

「こちら、ウルブス2、ウルブス1、聞こえますか?」
「聞こえてる、どうした?」
「大地面内部に推進装置本体がある事に加えて、ノズルから噴出しているプラズマの影響で、上方からの攻撃が通りません」

 ……ということは、下、或いは、側面からノズル部の破壊を目指すしかないって事か。

「わかった。なら、俺達の上方で援護して、敵の頭を押さえてくれ。そろそろっと!」

 大破壊を耐え抜き、姿形を残していた建物の陰から、実体剣……というよりは刀に似た長大な近接武器で素早く切り込んできたジンM2型を、機位を少しずらす事で回避し、右斜め後方で追随しているマユラに対処を任せる。

 そのマユラだが、振りぬいた姿勢で流れたジンM2型に急接近し、すり抜け様に右手の篭手から引き抜いたビームサーベルで胴体を切り裂いたようだ。

 ……むぅ、マユラも俺以上にセンスあるよなぁ。

「敵一機撃破っ!」
「ウルブス3、確認したっと、ウルブス2、すまんな、話の途中で」
「いえ、危険の排除を優先してください。……では、私達は、上方から第一分隊を援護しますね?」
「ああ、頼む。だが、上方は遮蔽物がないから、狙われやすいはずだ。十分に気を付けろよ?」
「ええ、了解です」

 さて、見えてきた……な?

「なぁ、ウルブス3……、ザフト機と敵性機以外にも、別の機体があるように見えるんだが?」
「……ほんとだ、ウィンダム以外は見た事がない機体だけど、いるね」

 ザフト機らしき、紅ザクと白ザク、それにフリーダムに似た感がある、鮮やかなトリコロールカラーのMSが五機程のジンM2型と戦闘を繰り広げる向こうで、黒、緑、青と、どこかで見た事があるようなカラーリングをした所属不明の三機とピンクというか赤紫で彩られたウィンダムの姿があり、これまたジンM2型八機と戦闘状態にあった。

「どうして、こう、不測の事態ってのは立て続けに起きるんだろうなぁ」
「でも、今って非常時なんだから、逆にそれが普通なんじゃない?」
「言われてみれば、確かにそうだな」

 って、いかん、真面目な話、時間が限られている以上、即決しないと。

「ウルブス1よりウワツ! ザフト以外の機体を四機確認した! そちらに何か情報は入っているか!?」
「あっ、はい! ミネルバから届いた情報だと、ミネルバ隊が追跡していたアンノウン(正体不明機)のようです!」

 おいおい。

「……その〝ドラ猫〟が、何故ここに?」
「それはわかりませんが……、先程、ザフトからの通信で、ユニウス・セブンにいた敵性機に攻撃を仕掛けているとの連絡を受けていますので、一時的な休戦状態にあるのでは?」
「なら、〝ドラ猫〟がまともだったって事にしておこう。……それで、ユニウス・セブンのコースは逸れ始めているか?」
「僅かずつ、逸れ始めていますが……」
「了解、頑張るよ」

 さて、〝ドラ猫〟にどう対処するかだが……、まぁ、目的は同じみたいだし、一度、非常用回線で〝ドラ猫〟に呼びかけてみるか。

「あーあー、どっかのおばちゃんが好みそうなカラーリングのウィンダム、聞こえるか?」
「なっ! 俺の好みの色にけちをつける奴はどいつだぁっ!」

 なんか、柔らかそうでいて、芯の強そうな男の声で突っ込みが返ってきた。

 むぅ、あくまでも勘なのだが……、こいつとは、いい友達になれそうだ。

「いや、表現が悪かったな。それで、こちらはオーブ宇宙軍所属のアイン・ラインブルグなんだが……、できれば、名前、聞かせてもらえるか?」
「たくっ、ああ、俺はム……、いや、ネオ・ロアノークだ。その黄色い派手な機体色に、その名前ってことは、あんたが黄狼さんかい?」
「ははっ、その異名を知ってるって事は、プラントやザフト以外の出身の可能性大ってか?」
「ッ! あんたにゃ、下手な事、話せんな」
「いやいや、ペラペラと話してくれた方が、こっちは色々と探れて、楽になるんだが?」
「言ってろっての。……で、用件は?」
「お前さん達が、ユニウス・セブンの落下阻止に動いているなら攻撃しないから、そっちも攻撃しないでくれ」
「了解了解、俺達もこんなもんを地球に落されたら堪らんからな、ちょっと出張って、落下阻止に動いているんだよ。まぁ、連携しての協力は、流石に無理だろうが……、結果的に協力できるようにする」
「あんた、話が早くて助かるわぁ」
「……えらく、実感が篭った言葉だな」
「……ザフトで散々、苦労したからさ」
「ははっ、そいつは大変だ「ネオっ! 時間がないよっ!」っと、はぁ、何もこんな時に……」

 ネオ・ロアノークは偽名である可能性が大で、〝ドラ猫〟一味の一人は女っと。

「さてと、こっちも行動を始めるが、流れ弾に中るなよ?」
「そっちこそな!」

 通信が切れたが……、偽名だろうけど素直に名前を教えるなんて、面白い奴だったなぁって、時間が押してるみたいだし、次はザフト側にっと。

「ミネルバ隊所属機へ、こちら、オーブ宇宙軍所属のアイン・ラインブルグだ。これから推進機の破壊に動くが……、間違っても攻撃しないでくれよ?」
「ッ! オーブのラインブルグ? ラウの友人だった、ラインブルグさんですかっ?」

 およ? この声は、確か……。

「もしかして、バレル君か?」
「ええ、レイ・ザ・バレルです」
「なら、こっちも話が早そうだな。俺達が突入して、推進装置を何基か破壊するから、一時的に敵を抑えてくれないか?」
「わかりました。一時的に制圧しますので、突入をお願いします」
「ああ、頼む」

 ……むー、不思議な事に、何故か、ラウに背中を預けていた時のような感覚を覚えてしまうなぁ。

「ウルブス3、突入準備」
「ええ、いつでもいけるわ!」

 一時的に前線維持を紅ザクとトリコロールカラーのMSに任せたらしい白ザクが後方に下がると、背部スラスター上部を前方に折り、内部から小型ミサイルを次々に発射し始めた。

 白ザクから発射された小型ミサイルは推進装置までの戦域に降り注ぎ、そこにいたジンM2型に回避行動を強いて、大きく突入路が開いた。

「っし、突入!」
「了解!」

 両肩部のシールドをそれぞれ斜め前に展開させる事で、胸部バイタルパートを守りつつ、盛んにプラズマを噴出し続けている推進装置を目指す。

 途中、ミネルバ隊の三機と行き会うが、敵の拘束で忙しそうなので声を掛けず、そのままパスしていき……。

「っ! まだいるのかよっ!」

 ……後少しで、推進装置を破砕榴弾の射程に収めようとした所で、二機のジンM2型に行く手を遮られた。

 次々に撃ち出してくるビームの雨を回避と三枚のシールドで防護しつつ、突破する為の隙を窺うが……、どうも排除した方が早そうだ。

「マユラ!」
「わかったわ!」

 その言葉と共にマユラが発射したクラスター弾が敵二機へと凶暴な爆裂の網を投げかけるが、やはり、ベテランめいた動きで制圧範囲から回避して、ビームで反撃してきた。

「ッ! 敵一機撃破しましたっ!」

 もっとも、回避した所で、一機は俺が時間差で撃っていたキャニスター弾の餌食になり、もう一機は上方で支援しているレナの狙撃されて、撃墜される事になったがな。

 だが……、本当に、敵はこれだけなんだろうか?

「ウルブス2、他の敵は見えるかっ!」
「今、観そっ! ウルブス4、回避っ!」

 むむっ、向こうも忙しそうだな。

 情報がない事に不安を覚えていると、俄かに、〝ドラ猫〟リーダーの声が通信系から飛び込んできた。

「すまんっ! 黄狼! さっき、そっちに三機行った!」

 原因と思しき内容だけに、素早く非常用回線も開き、大きな声で文句を言う。

「おまっ! ちゃんと抑えろって!」
「無茶言うなっての! こっちには手強いのが、まだ五機も残ってるんだぞ!」
「それでもだっ! どこの犯罪組織の所属かは知らんが、給料貰ってるなら、仕事しやがれっ!」
「ッ! くそったれっ! 俺だって、好きでこんな組織に所属してるんじゃねーよっ!」

 ふむ、〝ドラ猫〟リーダーは、所属組織に不満と……、って、俺、なんで、こんな冷静なんだろう?

「わかったわかった。とにかく、仕事してくれ」
「くそっ! わかったよっ!」

 ……熱いねぇ。

「……ウルブス1、人間、色々とあるんだね」
「みたいだな。しかし、真面目な話、敵さん、一体、何機いるん「ウルブス1! 上っ!」ッぁっ!」

 上方から落下してきたジンM2型が振り下ろした刀を回避できないと咄嗟に判断し、左肩部のアタッチメントからシールドを脱離させ、刀にぶつけることで僅かな時間を稼ぐ間に、反射行動を後押しするべく左側面のバーニアを全開にして、右方向に回避する。

「アインさんっ!」
「大丈夫だっ!」

 マユラに応えていると、通信系から、先程、聞いた声が大音声で響いてきた。

「貴様ら如きにっ、やらさせはせんわーーーっ!」

 ッ!

 突進してきたジンM2型が振り上げた白刃を、機体を右斜め後方に下げることで回避する。

「ウルブス3、俺がこいつを抑える! 先に行って、破砕を優先しろ!」
「ぅくっ! りょ、了解!」
「やらせは「俺の女の尻を追うんじゃねぇよ!」ぬうっ!」

 マユラの後を追おうとしたジンM2型に向けて、頭部機関砲を発射し、足止めを図る。

「貴様っ! この戦場で、ふざけた事をっ!」
「はっ、それはこっちの台詞だ!」

 反撃の狼煙代わりに重散弾砲をぶっ放すが……、回避が上手いっ!

「ようやく戦争が終わって、世界が落ち着きつつあるってのにっ! こんなふざけた事、するんじゃねぇよっ!」
「黙れッ、ラインブルグっ!」

 ……俺の名前を知っている?

「ザフトの一員として、白服としてっ、先の戦争を戦いっ! 我らと同じく、親しい朋友を亡くしてるにもかかわらずっ! 仇を取る事すら考えずにっ、ザフトを去った貴様のような軟弱者にっ! 邪魔などさせんっ!」

 その言葉と共に、回避行動をとっていたジンM2型が、鋭角による軌道変更と急加速でもって、接きっ速いっ!

 再度、下段から振り上げられた刀で重散弾砲の銃身を切り裂かれたので、次の切り返しが来る前に頭部機関砲を撃ちながら、役立たずになった残骸も投げつけて、バーニア噴射で後方に下がりながら距離を取る。

「馬鹿野郎っ! 軟弱なのは、てめぇらだっ!! 戦争で戦場に立つ以上……、殺し殺される場に立つ以上、誰だって死ぬ事が、敵を殺すように、仲間や自身が殺される事だってありえるのは当たり前だろうがっ! それに、忘れるなよ? てめぇらも前の戦争で生き残る為に、敵であった連合軍の兵士を、誰かにとって大切な誰かを殺している事をっ!」
「ふんッ! ナチュラルを殺して、何が悪いっ!」

 その言葉、コーディネイター至上主義者の定番だよなぁ、なんて事を内心で覚えつつ、更なる時間稼ぎの為に、ダミーバルーンを放出して目晦ましを仕掛けた後、腰部マウントのビームアサルトを右手に装備する。

「ナチュラルだろうと、コーディネイターだろうと、人である事に違いはないんだよっ! ついでに言えばなっ、戦争での人殺しは戦争って非常事態だからこそ、国家が許しているだけであって、本来はっ、人の可能性を奪う以上っ、悪い事にっ、違いはないっ!」
「何を戯言をっ! 所詮、新種たるコーディネイターと旧種であるナチュラルは相容れぬ存在っ! 先の戦争はっ、種としての生存競争でもあったはずだっ!」
「で、その人類の新種様が……、地球に大破壊を引き起こすような、こんな馬鹿な事をするのが新種様ってかっ! 進化した人類がこんな野蛮な事をするわけないだろうがっ! 賢しそうに御託を並べるんじゃねぇ、この似非新人類っ!」

 機体周辺に漂う全てのバルーンを一息に切り裂いたジンM2型へと、ビームアサルトの速射モードで射撃を開始するが……、目前のジンM2型は曲芸の如き動きで射線からの逃れてみせ、初弾だけが僅かに左腕装甲を削っただけで残りは全て回避されてしまった。

「ぐっ! 我らの思いを侮辱するかっ!」
「人類の新種旧種云々を持ち出した時点で、どうせ碌なものでもないだろうさっ!」
「ほざいたなっ! ……ここでっ! この小さき世界への非道な攻撃でっ、無残に散っていった命の嘆きを忘れっ! 何故、核を放った者等と共存しっ、この偽りの平和を謳う世界で、のうのうと生きて笑うっ! そのような仇や軟弱な輩をっ! そのような欺瞞の世界をっ、容認せよと言うかっ、貴様はっ! 答えろっ! ラインブルグっ!」
「はっ、その痛み、ザフトに所属していたなら、甘んじて受け入れんと駄目だろうよっ! 忘れたのかよっ! 先の戦争、先に手を出したのはザフトっ、相手を見縊って、ここにっ、このユニウス・セブンに核攻撃を許してしまったのもっ、あの時、戦闘に参加していた俺達! そう、ザフトだったはずだぞっ! 自分達が守りきれず、引き起こした失態も反省しないで、てめぇこそ、何をほざいてやがるっ! 今、やってることだって、ただ単にっ、てめぇらの内に溜まった憎悪をっ、吐き出したいだけだろうがっ!」

 ッ!

 ……推進装置が連続して爆発したってことは、マユラがやったのか?

「ウルブス3よりウルブス1へ、推進装置三基の破壊に成功っ!」
「こちらウルブス2! ウワツからの報告で、ユニウス・セブンは地球への衝突コースから逸れ始めているとのことです!」

 その言葉を聞き、若干の安堵を抱いた瞬間だった。


「今更っ! やらさせはせんわぁーーーー!」


 これまでにない気迫に満ちた言葉と共に、足元の小さな世界が大きく震えた。


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