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第三部  導なき世界の中で…… (C.E.72年-C.E.75年)
49  復讐者の慟哭 -ユニウス・セブン落下阻止戦 1


 遭難時等に使用される緊急非常回線から聞こえてきた、その男の叫びは……、苛烈な熱を帯び、気迫に満ちたようでありながら、どこか虚ろなモノを感じさせた。

 その事に、瞬間、気を取られてしまった事に気付き、改めて意識を引き締める。

「ウルブス2、余裕があれば、連中の情報収集も頼む」
「了解し「……こちらウワツ! アンノウン(所属不明機)が使用しているMSはジンM2型と判明! ザフトへの問い合わせ結果、該当部隊はないとのことです! これにより、総司令部はアンノウンをバンディッツ(敵性体)と断定! トウラン司令より交戦許可が出ています!」……どうします?」
「なら、警戒と索敵をしてくれ」
「了解です」

 次は初陣のコードウェル三尉に声を掛けておくかと思った所で、向こうから話しかけてきた。

「ウルブス1、い、今の叫び声は?」
「ウルブス4、今は無視しろ。それよりもパッツのコントロールと周辺警戒に務めるんだ。それに場合によっては制圧火力が必要になる場合もあるからな、他に気を取られている余裕はないはずだぞ?」
「あ……、はいっ、了解しました!」
「……ウルブス2、ウルブス4の事も頼むぞ」
「ええ、わかりました」

 さて、レナに任せておけば、三尉の事は大丈夫だろう。

 ユニウス・セブンの大地部……居住区画でザフトの任務部隊とバンディッツとの戦闘が始まっているのを見下ろしつつ、また、複雑に入り組んだワイヤー部に敵が潜んでいないかを警戒しながら、マユラに声を掛ける。

「ウルブス3、パッツを脱ぐから、カウントを頼む」
「あれ、みせる相手は?」
「残念な事に、相手が見当たらない。どうも、今日は手早く脱ぐ必要があるらしい」
「色気のない話ね」
「まったくだな」

 ……ふむ。

「なんなら、手近なワイヤー部にあるフレアモーターにぶつけてくれてもいいぞ?」
「わかったわ。あ、でも、ウルブス1」
「なんだ?」
「そのまま流れて、ワイヤーにぶつかる様な事はしないでね?」
「おまっ、……人の心配する前に、自分の心配をしろっての」
「あは、了解」

 なんというか、ここ最近のマユラって、本当に精神的な余裕を持つようになったなぁっと、そろそろ、ユニウス・セブンに取り付けそうだな。

「ウルブス3、離脱する。カウントを」
「了解、カウント、3、2、1」

 マユラの声にタイミングを合わせて、パッツから離脱すると、周辺を警戒しながらって、ビーム!

「気を付けろよっ!」
「わかってるっ!」

 回避行動を取りながら、直ぐに両肩部の電磁式シールドをビームが飛来した方向へと右手に装備した主兵装……重散弾砲を指向させつつ注意深く観察する。

「ウルブス1へ、敵を発見しました! 俯角一時、水平三時方向に六機! ワイヤーの裏に隠れています!」

 レナの声に導かれてメインカメラでクローズアップしてみると、各部を紫と黒で染色されているMS……直立したトサカが特徴的なジンM2型が六機ほど、ワイヤー部の後方からその姿を覗かせていた。

「ウルブス1からウワツへ、これよりウルブス小隊は交戦を開始する!」

 そう宣した後、更に重散弾砲で撃ち返し始めると、さっきまで搭乗していたパッツがフレアモーターの一つに命中して爆発し、瞬間、戦域を照らし出した。

「ウルブス2、まずは取り付くぞ!」
「了解!」

 それで生じた閃光と陰影に紛れて、マユラ共々ワイヤー部に取り付き、一旦、敵からのビームが届かない場所に入る。そして、マユラに簡単な作戦を伝える。

「ウルブス3、あの六機を排除する。俺が連中の側面に回りこむから、相手を釘付けにしてくれ」
「わかったわ!」

 マユラが相手を窺いつつ、射線が通る場所を探して慎重に機体を動かしている間に、一度、ウワツに声を掛けてみる。

「ウワツ、状況は!?」
「ウワツよりウルブス1へ! イーグルがフレアモーターの除去を開始!」
「ここ以外に敵はいなかったのかっ?」
「いえ! ワイヤー部には他に六機ほど、別の敵を確認しましたが、そちらはパンサーが抑えています!」
「ウルブス1、了解っ」

 ……十二機となると単純に考えて、中隊規模になるなっと、色々と考えるのは後にしておこうか。

「射線確保! いつでもいけるわ!」
「わかった。カウント、2、1、開始!」

 ワイヤー部から距離を置いているレナが牽制射撃を入れる事もあって、行動範囲が制限されているジンM2型に対して、更にマユラがワイヤーの陰からクラスター弾を撃ち始めた。敵であるジンM2型が潜むあたりで小爆発が起き始めたのを確認したのと同時に、素早く、ワイヤーの陰から陰へと伝いながら、左方向に回り込みつつ接近して行く。
 当然ながら、こっちの動きに気がついた数機がビームを発射してくるが、三枚のシールドで遮断している為、それ程の脅威ではない。

 ないが……、やはり、攻撃を受け続けるのは精神衛生上、悪いものがある。

「……ウルブス4」
「あ、は、はい!」
「一時的な制圧を頼む。敵の行動を瞬間的に押さえたい」
「りょ、了解です!」

 さて、ウルブス4は緊張に飲まれず、上手くやるかな?

「う、ウルブス4よりウルブス1へ、攻撃を開始します!」

 さっとモニター上で視線を走らせると、レナ達がいる辺りで小規模な閃光が断続的に確認できた。


 その攻撃の最初の一発目が到達するまで、深呼吸を何度か繰り返して、気持ちを落ち着かせて、腹の底に力を溜めていく。そして、最後に一度、大きく息を吸い、初弾が着弾したのに合わせて、ジンM2型が隠れている場所に向けて、機体を加速させる。

 降り注ぐ小型ミサイルやマユラからの牽制射撃によって、敵の動きを大きく制限して釘付けにしてくれているお陰で、敵が撃ち出てくるビームは極僅かだ。
 また、こちらに撃ちだされたビームにしても威力が弱い所為か、機体前面に指向した電磁式シールドに当たってはメインモニターを極彩色に彩るだけで済んでおり、二度三度とキャニスター弾を撃ち返しながら、強襲を仕掛ける。


「ッ!」


 至近で小型ミサイルが着弾した衝撃を受けて、一瞬だけ、息が漏れ出てしまうが……、相手の動きが鈍い内にっ、とっぉ!

 ジンM2型を操る連中も中々に場慣れしているらしく、降り注ぐ小型ミサイルにも直ぐに慣れたようで、必要以上に気にすることなく、相互連携で十字砲火を形成しようとし始めていた。

 その為、再度、傍のワイヤーの陰に隠れ、爆薬入りバルーンを、後退するかのように相手の目に映るように、放出する。


「ぐっ!」


 バルーンは陰から飛び出した途端にビームを喰らって爆発を起こすがはぁって、そ、その爆発の衝撃も利用して、ワイヤーの陰から飛び出し、一気に加速を掛けてっ、一番手近の一機にっ、っし、喰らえっ!


 ……ジンM2型の至近でカートリッジの弾が半分になるまで連続して発射し、その手足や頭部をズタズタに引き裂き、胴体にも無数の穴を開ける。


「こちらウルブス1、敵一機撃破っと!」

 慌てたように敵二機がビームを断続的に発射しながら、こちらに向かって接近してきたので、素早く撃破したジンM2型の陰に入り込む。

 とはいえ、相手がビーム兵装である以上、撃ち抜かれるのも時間の問題なので、最寄のワイヤーの陰に逃げ込もうとしたら、上方からビームが二本走り、その中の一本が敵一機を見事に貫いた。
 その結果、生じた爆発によって、もう一機の敵も大きく弾かれると、側面部からマユラが放ったクラスター弾の網に嵌り込んだのだろう、小爆発に巻き込まれて爆散していった。

「こちらウルブス2、敵一機撃破しましたっ! 残りの三機は大地面方向へと後退中です!」
「ウルブス3、敵一機撃破! ウルブス1、一度、合流しましょう!」
「ああ、わかった!」

 頼りになる戦女神達に感謝の念を送りながら、大きく息を吐き出し、機体をこちらに向かってくるマユラ機がに向わせる。

「ウルブス2、他に敵は確認できるか?」
「こちらからは観測できません」
「作戦の進捗状況は?」
「イーグルの除去作業が順調に進んでいますから、予定通りと言えそうです」
「パンサーはどうなってる?」
「パンサー2が右脚に被弾して、機動力を低下させていますが、小隊自体の戦闘能力は機能しており、そちらも敵を退けたようです」
「……そうか」

 ……だが、気の所為か、相手の抵抗が弱いというか、スンナリと引きすぎた気がするんだよな。

「ザフトの任務部隊は?」
「今の所、五分の状況ですが、破砕装置の据え付け作業自体はそれなりに進んでいるみたいです」
「わかった。引き続き、警戒を頼む」
「了解です」

 さてと、フレアモーターの除去が進んでいるみたいだし、目に見える成果はあがっているかな?

「ウルブス1よりウワツへ、ユニウス・セブンの軌道はどうなってる?」
「こちらウワツ。軌道が逸れ始めてっ!」

 な、なんだっ、今の爆光はっ!

「せ、先輩! ユニウス・セブンの大地面で大規模な爆発を確認! また、大地面中央にあるエレベータ付近で大規模な推進炎を四つ確認しました!」
「なっ!」

 しまった、二段重ねかっ!

「ウワツ! 状況はどうなってる!」

 ……あれ?

「ウワツ、聞こえているか! こちら、ウルブス1!」

 パンサーと連絡を取っているのかっと、繋がったか?

「ウワツ! 状況は!」
「は、はい! 確認した所、ユニウス・セブンが急速に加速しており、このままでは突入軌道から逸れません!」
「ッ! ……どうすればいい? このまま、ワイヤー部でフレアモーターの除去を続けた方がいいのか?」
「そ、それは……「ウルブス1、トウランだ」」

 っと、この渋いバリトンボイスは、トウラン司令か。

「司令、どう動きます?」
「作戦計画を一部変更する事にした。イーグルとパンサーには引き続き、フレアモーターの除去を担当させる。君達、ウルブスは大地面でザフトの任務部隊を〝援護〟と急加速の原因を排除してくれ」
「向こうの状況、悪いんですか?」
「いや、それはわからんのだが……」

 言葉を濁したトウラン司令の意図を考えてみると……、指揮官の立場として、今のプラントやザフトは信頼できないから、行動の監視と拙い事態が起きそうな時は阻止に動けって所かな。

「いえ、了解です。急加速の原因排除を第一にして、〝状況の全てを観測しながら、変化に応じて適切に〟行動します」
「……ああ、頼む」

 その言葉と共に、ウワツとの通信が切れた。

「ウルブス2」
「はい」
「第二分隊はパッツ搭乗のまま、大地面の上方で情報収集」
「了解です」
「ウルブス3は、俺と一緒に大地面に降りるぞ」
「わかったわ」

 マユラの言葉に頷き返した後、地球が接近してきている事に一抹の不安を覚えながら、ビームの閃光が時折走っている、直径約十㎞にも及ぶ大地面へと推進軸を合わせ、機体を跳び立たせた。


 ◇ ◇ ◇


 大地面に到達するまでの僅かな時間で戦域を俯瞰してみると、暗色に彩られたジンM2型で統一された敵性部隊とザク・ウォーリアとゲイツRという新旧の主力機で構成されたザフトMS隊との戦闘は、不謹慎な物言いだが、中々に見応えのある展開を見せている。

 両者ともに重要物……ザフトは各所に据え付けられたメテオブレイカーを、敵性部隊は中央エレベータ付近にある四基の大型推進装置を守りながら、それぞれが相手を出し抜き、目標を破壊しようとしているようだ。

 ……まぁ、とりあえずは、と。

「ウルブス2、4、俺達が大地面に降下するまでは援護を、以後は、全力で推進装置を狙え」
「了解!」
「は、はい!」
「ウルブス3は俺と推進装置付近の敵を制圧する」
「わかったわ」

 後は、一応、ザフト側に挨拶しておくか。

 そう考えて、機体前面にシールドを展開して、大地面に向いつつ、作戦前にオーブ宇宙軍とザフトの間で定められた共同回線を使って、ザフト側に呼びかける。

「……あーあー、ザフト任務部隊の指揮官、聞こえるか? こちらはオーブ軍のアイン・ラインブルグ三佐だ」
「ッ! 忙しい時に、なにも……オーブのラインブルグっ!? もしかして、ザフトで白服だった、ラインブルグ隊長ですかっ!?」

 この声は……、やはり、名前を聞いた時から予想していた通り、ラウの部隊にいた、イザーク・ジュールみたいだな。

「ああ、そいつで間違いないよ、イザーク・ジュール。お前さんも赤から白に昇格したんだなぁ、おめでとう」
「あ、ありがとうございます……、って、今はそれ所じゃないですっ! そっちは、オーブ軍の作戦は、どうなっているんです!?」
「順調に行き過ぎているから、お払い箱になったんだよ」
「はっ?」
「イザークっ! こっちの状況を把握しに来たに決まっているだろうっ! だから、前から、少し位、冗談をわかるようになれって言ってるだろうがっ!」
「な、ディアッカっ!「とにかく、話は俺がするから、お前は指揮を取ってろっ!」くっ」

 おっと、選手交代か?

「俺はジュール隊副官のディアッカ・エルスマンだ。あんた、ラインブルグ三佐って言ったな」
「ああ」
「うちの隊長は生真面目すぎるんで、冗談が通じにくいんだ、程々にしてくれ」
「ああ、悪かった、気をつける。……で、戦況は?」
「良くない。ミネルバからも増援が来たが、こちらは守る場所が多すぎて、後手に回ってる。もし、手が空いているなら、推進装置を破壊してもらいたい」

 ふむ、確かに見た限りだと、中央にある推進装置を取り囲む形で、戦闘の輪が出来ているな。

「自分達の力不足を認めるか……、ザフト隊員にしては冷静で率直だな」
「ははっ、機会があって、一度、ザフト……、いや、プラントの外に出て、色々と見聞きしてきたからな。他の連中と一緒にしないでくれ」
「おおぅ、言うねぇ。だが、その冷静さと率直さ、視野の広さに諧謔(ジョーク)がわかる心があれば、白位にはなれるだろうさ」
「グゥレイトォ! 元白服のお墨付きってか!」
「中央には絶対に入れない、不良品だけどな」
「はっ、不良品上等! 俺もどうせ、不良品さ!」

 エルスマンの物言いに、自然、口元が緩んでくる。

 ……ザフトにも、まだ面白い奴がいるもんだ。

「とりあえず、推進装置の破壊は了解した。元々、そのつもりだったしな」
「ッ! ……それは、地球突入コースから逸れていないってことか?」
「あっと、まだ、情報を把握していないのか?」
「ついさっきまで連中とやり合っていてね」
「そりゃ大変だったな。まぁ、後で確認してもらえばわかると思うが、オーブ軍は引き続き、フレアモーターを破壊して、重心バランスを崩している。だが、例の推進装置で加速しているから、地球突入軌道から逸らせるか微妙な所だ」
「ッ! くそっ、わかった! こっちはメテオブレイカーを死守する! 推進装置付近には、ミネルバ隊の連中が排除に動いているから、余裕があったら、元白服って縁で、そいつらの〝面倒〟も頼みたい」
「まぁ、余裕があればな。じゃあ、エルスマン、そっちは任せたぞ」
「ああ、あんたも頼むぜ」

 ザフト側との通信を切り、周囲というか流れ弾に気を付けながら、機体の姿勢を制御し、両足を大地面へと接地させた。


 ……目指すは、推進装置の破壊だ。


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