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第三部  導なき世界の中で…… (C.E.72年-C.E.75年)
48  繰り返される過ち -ユニウス・セブン 4


 ユニウス・セブンに関する不穏な疑惑は、先行していた偵察機から送られてきた観測情報によって、最悪の想定が現実の物である事が証明されてしまった。

 アメノミハシラで観測情報を精査した所、不審なMSや艦艇を発見する事はできなかったのだが、ユニウス・セブンのワイヤー部に電卓のような代物……フレアモーターが多数設置されている事が確認された上に、既に起動済みである事も判明したのだ。
 更には、折りが悪いとしか言いようがない事に、太陽で大規模なフレアが観測されており、フレアモーターは少しずつだが、確実に推力を得ているようで、ユニウス・セブンの軌道が地球に向って徐々に変わりつつあるという切迫した状況に陥りつつある。

 事ここに至り、アメノミハシラは地球各国政府に対して、以前発した警告により一層の信憑性を与えるべく、ユニウス・セブンが安定軌道を外れ、地球に落下する可能性が非常に高い事を、観測情報や予測落下コースと共に連絡している。
 そして、参謀本部で急遽立案された作戦計画に基に、ユニウス・セブンに接近している即応部隊のMS隊をユニウス・セブンに派遣して、フレアモーターの除去を行わせる一方で、即応部隊がユニウス・セブンを地球落下軌道から逸らす事に失敗した場合に備え、地球突入前に少しでも質量を削り取るべく攻撃を仕掛ける為に、駐留している第一艦隊を地球軌道に向けて動かしているそうだ。

 このように自分達にできる限りでだが、対応に動いているアメノミハシラに比べて、ユニウス・セブンの所有管理責任者であり、真の当事者であるプラントなのだが……、なんとも動きが鈍いというか、危機感がないというか、とにかく、当初、派遣された部隊以後は、更なる援軍が派遣される様子もなければ、大急ぎで対応している訳でもないらしい。
 というか、デュランダル議長が乗っているミネルバが〝ドラ猫〟への追撃を中断して、こちらに向かっている以外、増援が来ない。

 ブリーフィングの際、普段の余裕ある男振りを若干減らしたトウラン司令がこのプラントの動きについて話した時に、非常に困惑した表情を浮かべていたのも無理はないというものだ。

 本当に今のプラントの鈍い動き……、現在進行中の危機を知る者達全てが、いったい、何をしているんだ、と首を大きく傾げるような動きの鈍さは、他国の疑惑を招くだけで、百害だけしかないのだが……、それとも、本当は動く為に精一杯努力しているんだけど、各所で、コーディ至上主義者や反ユニウス体制派によるサボタージュや妨害でも起きているんだろうか?

 あるいは、今回の件に、プラント政府が組織的に関与しているという疑惑は本当の事であり、全て仕組まれた事、自作自演なんだろうか?

 ……。

 どちらにしても、愉快な事ではないのは確かだって、いかんいかん、落ち着け、俺。

 ……。

 けれど、どうしても……、今の鈍すぎるプラントの動きを見ていると、これこそがプラントが有している意識の表れ……地球の危機は自らに関わりのない事だと、他所事だとの認識を表しているように思えてしまい、物悲しさを覚えてしまうのだ。

 そんな鬱屈した思いを内心に抱えながら、自機のコックピット内で出撃前のステータスチェックをしていると、レナから連絡が入った。

「先輩、ウルブス2、ウルブス3、ウルブス4、全機の起動シークエンスが終了。各機ともコンディション・グリーンです」
「わかった。俺の機も……、コンディション・グリーンだ」

 これでウルブス小隊全機の出撃準備が完了した事になるので、教育艦となったワダツミからウワツへと異動してきたMS管制官のワラル三尉に声を掛ける。

「ワラル、ウルブス小隊の出撃準備が完了した」
「了解です。出撃まで後……三分程ですので、もうしばらくお待ちください」
「わかった。ユニウス・セブンに動きは?」
「地球へと軌道を変えつつある事以外、特に異常は観測されていません。あっ、ですが、ザフトの任務部隊から、破砕装置の設置を担当するMS隊を出撃させるとの連絡がありました」
「その任務部隊の隊長は、ジュールだったな?」
「はい、そのように聞いています」
「了解した」

 さて、僅かな時間だが、少しでも溜まってしまった負の感情を吐き出さないとな、と思ったところで、何気に通信が繋ぎっぱなしだったらしく、レナが話かけてきた。

「……先輩」
「ん、ああ、なんだ、レナ?」
「先輩にはこんな事は今更ですしょうけど……、出撃前です。不要な感情は置いていくか、しっかりとコントロールして下さいね」
「……顔に出てたか?」
「いえ……、でも、何となく、雰囲気でわかるんです」

 ……雰囲気か。

「……確かに、今日は、コントロールし切れていない」
「先輩でも、そんな時があるんですね」
「まぁな。……大の男がさ、格好悪いだろう?」
「ふふ、別に格好悪くなんてないですよ。どっちかというと、先輩が今みたいな姿を見せてくれるのは、私への信頼の証だと思えて、嬉しく感じちゃいますから」
「……レナって、良い女だよなぁ」
「今頃、気付「ぶーぶー、アインさんがいつもより元気ないこと位、私だって気付いてたわよ。ほんと、レナったら、普段、抜け駆け駄目絶対駄目って言ってる癖に自分は抜け駆けするんだから、抜け駆け禁止~」ちょ、マユラ!」
「三佐、その、何というか……、ご馳走様でした」

 俄かに、マユラとコードウェル三尉が通信に入り込んで、闊達な風を送り込んできたので、レナとの間に醸成されつつあった〝むふふ〟の時に似た甘い空気が一気に霧散していく。
 でも、それは同時に、胸の内で淀んでいた、このような事態を引き起こした連中や理不尽な世界への、怒りや悲しみ、悔しさといった想いも一緒に吹き飛ばしてくれたようで、口元に自然と笑みが浮かぶ。

「あ、アインさん、やっと笑った」
「ほんとだ、取り繕ったり、引き攣ったりしてない、いつもの先輩の笑顔だ」
「うんうん、さっきみたいに弱みを見せてくれるのも嬉しいけど、やっぱり、アインさんは明るい顔が一番似合ってるわよね」
「そうね。……あ、でも、マユラ。先輩が極稀に魅せる真剣な表情もドキッとさせられて、いいのよ?」
「あ、もしかしたら、見た時あるかも」
「うふふ、だったらわかると思うけど、それをね、じっくり見てたら、あれ、先輩って、意外と格好良いって、胸が高鳴って来るのよ」
「むー、いいなー、私もじっくり見たいなぁ」
「……三佐、私、もう、お腹一杯なんですが?」
「……いや、悪いな、三尉。おい、レナ、マユラ、そういう話は作戦が終わって、帰って来てから、他所様の耳目のない所で、ゆっくりとしてくれ」
「「は~い」」

 華やいだ二人の返事に、なんとなく気恥ずかしさを感じてしまうが、腹に力を込めて、意識を切り替え、思いを言葉にのせる。

「後少しで出撃することになるわけなんだが……、今の状況やこれまでの経緯から考えて、ユニウス・セブンで、俺達の行動を阻止しようとする敵性体が出現してもおかしくない。各員、一層、気を引き締めるようにな」
「了解です」
「了解」
「了解しました」

 三者三様の返事に頷き返していると、ワラルの声が通信系に入り込んできた。

「出撃一分前です。先行出撃はウルブス1、ウルブス2。パッツ履きのウルブス3とウルブス4は後になります。……それと、ご馳走様でした」
「了解。ま、まぁ、ワラルもそう言われるようになれよ?」
「全整備科員の退避及び格納庫前面ハッチのオープンを確認、カタパルト展開…………、展開終了。……カタパルトシステム・オールグリーン。……いや、流石に、三佐みたいな事はやれる自信はありませんよ」

 ワラルの物言いに肩を竦めつつ、メインモニターを見れば、整備班の退避が完了したのだろう、前面のハッチが開け放たれ、普段は艦上と艦底で防護壁代わりとなっている電磁カタパルトが宙に迫り出し始めていた。

「出撃三十秒前、ウルブス1、発進位置へ」

 その指示に従い、ゆっくりと発進位置に機体を進ませる。

「カタパルト起動」

 ワラルのその言葉と共に、俄かに機体を外に放り出そうとする力が掛かるが、背面に取り付けられた係留索によって、その場に止まり続ける。

「トウラン司令がオペレーション・トラクターの発動を宣言しました。出撃十秒前……、五、四、三、二、一、ウルブス1、発進どうぞ!」
「ウルブス1、マリーネ、出るぞっ!」

 俺の言葉と共に機体の係留索が解かれ、一瞬だけ圧し掛かったGを耐えると、そこは既に馴染んだ虚空……宇宙だった。


 軽く頭部のメインカメラを動かして周辺を見回すと、ナカツ、ソコツの両艦からも、イーグルと名付けられた機動MS中隊のオオツキガタが次々に飛び出してはMA形態に変形して、編隊を組みつつ、その強力な推進力から早くも先行し始めていれば、ウワツの右舷からもパンサー小隊のマリーネが出撃しているのがわかった。

「ウルブス2よりウルブス1へ、小隊全機の発進を確認しました。パッツ組が増速して、こちらとの同期を開始しているので、上手く乗ってください」
「ウルブス1、了解」

 さてと、マユラ機はと……って、もう、すぐ後に居るわ。

「速力同期完了、ウルブス1、いつでも合体可能よ!」
「……ウルブス3、なんとなく、卑猥に聞こえるのは気の所為か?」
「えー、私は、そういう風に受け取る人の方が卑猥だと思うの」

 なんとも、初めて会った時とは大違いというか、これだけ遠慮もなく赤裸々にやり取りできるって事は、それだけ心近く、気を許してくれているって事なんだろうなぁ、なんて風に考えつつ、マユラが操るパッツに接地し、取っ手を掴んで固定する。

「ウルブス1の接地を確認」
「ウルブス3、パッツのコントロールはそちらに任せる。頼むぞ」
「了解、任せて」

 さて、パッツの操縦はマユラに任せて……。

「ウルブス2、そっちはどうか?」
「こちらウルブス2、搭乗完了。そちらに追随しています」
「わかった。航路に誤りがないかのチェックを頼むぞ」
「了解です」

 次は、ウワツに連絡をと。

「こちら、ウルブス1、ウワツ、聞こえるか?」
「はい、こちらウワツです」
「ウルブス小隊全機に異常なし。今の所、順調に動いている。……なにか状況に変化はあるか?」
「いえ、プラントの任務部隊が破砕装置の運搬に手間取っている以外は特にありません」

 あー、確かに、資料を見た限り、メテオブレイカーはMS以上のサイズだったし、運搬に手間取るな。

「了解、ユニウス・セブン付近に敵性体の姿は?」
「ザフトが敵性体ではないのなら、存在しません」
「おっと、手厳しいな、ワラル。……だが、今の懸念、抱くななんて事は言うつもりはないが、表に出す時は、しっかりと、時と相手、状況を選ぶようにな?」
「……あ、はい、すいませんでした」
「何、謝る必要なんてないよ。お前さんが持っている不信感は、この場にいる誰もが抱いているモノでもあるからな。まぁ、とりあえず、現状は了解した。何か、動きがあった場合は連絡を入れてくれ」
「了解しました」

 ……やっぱり、プラントやザフトに対する不信感が高まっているな。

 現場で混乱が起きないといいんだけど、なんて危惧を抱いていると、マユラが小さな声で話しかけてきた。

「ウルブス3よりウルブス1へ、今回のプラントの対応を見て、色々と思う所があるのはわかるけど……、今はやるべき事に集中するべき時だと思うわ」
「……ああ、そうだな」

 マユラの言葉に頷き返し、ユニウス・セブンが突き進む先……地球をサブモニターに映し出す。


 今頃、地球では各国政府が最悪の事態……ユニウス・セブン落着に備え、少しでも被害を減らす為に、迎撃態勢の構築や市民の避難を行っているはずだ。


 ……はず、だよな?


 若干、不安を感じなくもないが……、いや、余程の馬鹿か無能でない限り、無為無策のままでいるはずがなく、必ず、対策を行っているに違いない。

 自分の精神衛生の為にも断定的にそう結論付けて、再び、ユニウス・セブンへと視線を戻すと、手前に、徐々に小さくなっていく味方部隊のスラスター光が見えた。

「こうして見ると、オオツキガタって、かなり速いよなぁ」
「そうね、パッツを履いている私達も結構速いのに、段々離されてる事を考えると、速いよね」

 航続力ではパッツの方が上なんだが、加速力に関しては変形によってMA形態になり、推進軸を一点に集約できるオオツキガタの方が上なのだ。

「まぁ、それでこそ、即応部隊の主力機動戦力って言えるけどな」
「むー、私達が頑張って作ったマリーネだって、主力を張れる良い機体よ?」
「はは、言いたいのは役割の差だって」

 表面上は和やかに会話をして、心に余裕を作りつつ、頭や手は咄嗟の時の判断材料にする為、少しでも情報を仕入れ続ける。

 ユニウス・セブンに向うオーブMS部隊、その先頭に位置するオオツキガタ中隊は後少しで、推進部と化しているワイヤー部に到達できる位置に居る。
 また、ザフトの任務部隊も巨大な破砕装置を抱えたゲイツRがユニウス・セブンに取り付き始めているようで、その周辺に新型主力機であるザク・ウォーリアが展開して、支援しているようだ。

 後、ザフト任務部隊母艦の後方に、見た事のない艦艇が接近してきているが?

「ワラル」
「はい、何でしょう、ウルブス1」
「ザフト艦の後方に見えるのは?」
「さっき入った情報では、例のザフト新造艦、ミネルバですね」

 新造艦と言えば……。

「ミネルバは唯一残ったっていう新型機を出すだろうか?」
「流石にわかりませんが、ミノがミネルバの情報収集を兼ねて、監視しています」

 ミノ……即応部隊に配属されているトツカ級で、確か、二十二番艦だったっけ?

「了解、そろそろ、俺達もユニウス・セブン近くッ! くそっ、先行部隊が攻撃を受けたぞっ!」
「っ! ユニウス・セブンからの攻撃でイーグル5、9、13が被弾! イーグル5と9の撃墜が確認されましたっ! また、ユニウス・セブン表面に取り付いたザフト部隊もアンノウン(所属不明機)から攻撃を受けていますっ!」

 ……どうやら、ユニウス・セブンの内部にじっと潜んでいたみたいだな。

「ワラル、アンノウンの把握と、ユニウス・セブンにこいつらの母艦があるかもしれんから、そいつも探してくれ」
「了解!」
「ウルブス2、第二分隊はユニウス・セブンから、ある程度距離を置いて、周辺からの奇襲警戒と狙撃での援護を頼むぞ」
「了解です」
「ウルブス3、パッツを脱ぐ。カウントをっ!」


 ッ! 緊急非常用回線にっ!?


「我らの思いっ! 貴様ら如きっ、日和った軟弱者共にっ! やらせはせんわぁーーーっ!」


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