第三部 導なき世界の中で…… (C.E.72年-C.E.75年)
45 繰り返される過ち -ユニウス・セブン 1
九月下旬。
即応部隊司令部や各艦の首脳陣、各MS部隊に加えて、常に世話になるウワツのMS整備科への挨拶回りを終えた後、引越しの荷解きも程々にして、今現在、各国で採用している主力MSについて、小隊の四人でメディアに露出したり、情報部が観測したり収集したりした情報を調べてみた。
なんとなれば、新しい部隊に所属したのも良い契機だったというのもあるが、それ以上に後半年の兵役期間とはいえ、所属する部隊の性質上、任務で戦闘を行う可能性もあるだけに、少しでも相手の武装や特徴といった情報を把握しておきたかったからだ。
もっとも、情報収集の際に興に乗ってしまい、地球でしか運用されていないものまで調べたのはご愛嬌だ。
まぁ、そんな訳で宇宙……、アメノミハシラにとって直接的に脅威となる戦力を有する勢力から見ていくとして……、まずは世界で唯一の宇宙国家であるプラントからいこうか。
プラントは今年八月に新型機【ザク・ウォーリア】をロールアウトさせ、これまで一線を守ってきたゲイツの改修機【ゲイツR】やジンM型の後継機【ジンM2型】からの切り替えが凄まじい勢いで始まっているようだ。
けれども、新型機に切り替えられているのはあくまでもL5を縄張りにするザフト軍事部門だけであり、L1を守るプラント国防軍はゲイツRのままだったりするあたり、分裂に際してのゴタゴタが尾を引いているというか、ザフトからの嫌がらせを受けていると思えなくもない。
いやはや、後方兵站担当をしているユウキの奴も、今頃はきっと苦労しているんだろうなぁ。
……。
しかし、このザフトの新型量産機、前世のSFアニメに出ていた超有名量産機にソックリな外観な上、尚且つ、名前までザクとは……、いや、こいつはあくまでも、【Zaft Armed Keeper of Unity】の略称だから、偶然だとは思う。……思うんだが、ちょっと一致しすぎている気もしないでもないので、真面目な話、ザフトの中に俺みたいな前世持ちがいるかもしれない。だから、時間なり機会ができたら、何らかの方法で調べてみたいもんだ。
次に世界最大の大国である大西洋連邦だが、ストライクダガーを源泉とするダガーシリーズで現行主力機であるダガーLから新型機ウィンダムへと更新が進められているようだ。これはコードウェル一尉からの話だが、L4の大西洋連邦拠点にもそれなりの数が観測されているらしいから、地球でも配備が進んでいると考えた方がいいだろうな。
ついでにいえば、このウィンダムは前戦争中に、ザフト機を多数撃破する等して大活躍したストライクに匹敵する機体性能を持っているらしいから、手強い相手であるのは間違いなさそうだ。
続けて、領域を多数失って斜陽の大国とも呼べそうなユーラシア連邦だが、ストライクダガーとダガーLを大西洋連邦系の企業から購入して、何とかやっているみたいだ。
もっとも、最近になってアメノミハシラで発行されているマスメディア紙に掲載されたフリージャーナリストの与太話めいた記事によると、MSというかMAというか、分類が難しいとしか表現できないような大型の機体を開発中らしいし、未だにそれなりの力を持っていると考えた方が無難だろう。
ちなみに、アメノミハシラのご近所にあるアルテミス要塞だが、オーブ軍に動きがあると直ぐに閉じこもる癖が付いたみたいで、静止軌道上は安定している状態だ。
話を戻して、エネルギー分野を軸にして、ユーラシア連邦と急速接近中である東アジア共和国だが、ここも大西洋連邦系企業からストライクダガーとダガーLを購入しているそうだ。けど、今年の夏に、国内にあるフジヤマって会社が【ライゴウ】ってMSの開発に成功したらしいから、この流れももうすぐに終わるだろう。
大西洋連邦系の軍事ジャーナルに書かれていた情報だと、これも機体素性の良いストライクをベースに開発されたものらしく、量産化も検討されているとのことだから、もしも、本当に量産化が成ったら、周辺国……特に赤道連合あたりは十分な警戒が必要だろうな。
そして、ゆっくりとマイペースに発展している月面都市群だが、宇宙海賊の数を大きく減退させたアメノミハシラに対して好感を持ったみたいで、M1Aアストレイを導入するとの打診があり、四十機程を共同で購入して海賊等の襲撃から都市群を守る共同警備隊に配備している。鉱物資源を安定して産出してくれる有難い存在だけに、今後とも良い付き合いをしていきたいもんだ。
では、所を宇宙から地球に移して……、三大国は挙げたから略しておいて、アメノミハシラと付き合いが深くなっている南アメリカ合衆国から見ていこうか。
南アメリカ合衆国は、アメノミハシラからM1アストレイを主力機として導入している他、少数だがMA可変機のムラサメも購入しており、中々に侮れない戦力を保有しつつある。とはいえ、大西洋連邦みたいに他国に侵攻できるだけの戦力とはとても言えないから、自国の防衛だけで手一杯だろう。
そんな南アメリカ合衆国から大西洋を越えた東へと目を向けて南アフリカ統一機構だが、ここは大西洋連邦が盟主となっている新地球連合に所属していることもあって、ストライクダガーからダガーLへの更新が行われているみたいだ。先の南北アフリカ紛争での敗北で国内が政情不安になっていることもあるし、新しいおもちゃを手に入れたから得意になって、負けた相手に手を出さないといいんだけどねぇ。
ちょっと今後の動きが心配な南アフリカ統一機構と対峙している地中海同盟……アフリカ共同体と西ユーラシア連合の同盟は、以前の南北アフリカ紛争でマッドドック隊なるMS隊に運用されて活躍した、アクタイオン・インダストリー社のハイペリオン、その陸戦型量産機である【ハイペリオンG】が主力MSとして正式に採用されたようだ。
こいつの一番の特徴としては、アルテミス要塞が使用している光波防御帯の技術を応用して生み出されたという、ビームシールドを装備していることだろうな。聞くところによると、そのビームシールドは実弾だけ出なくビームすら防ぐって話だから、その防御力がどれ程の代物なのか、一度、生で見てみたいもんだ。
何気に強力な機体を手に入れた地中海同盟から更に東に行って汎イスラム同盟になるが、ここもまた、新地球連合に所属している事もあって、ストライクダガーからダガーLへの更新が行われているみたいだから、戦力が底上げされていると考えた方がいいだろう。
その汎イスラム同盟からまたまた東へと目を向けて赤道連合だが、ラインブルグ・グループと共同開発にあたっていたタンタ・インディア社がマリーネの陸戦型である【ドゥルガー】……ラインブルグ・グループが製造する際の名称は【マリーネG】……を完成させており、正式に採用されている。
パーシィから聞いた話だが、このドゥルガーはマリーネに装備されている宇宙用廃熱システムを全て取っ払って簡易な給排気式廃熱システムに切り替えた事に加え、燃料電池に使用する酸素を空気中から取り入れる外部供給式にした事で燃料タンクを減らし、更にはプロペラントタンクの容量削減や背部スラスターもY字からV字に変更して縮小した事で、かなりの軽量化が実現できたそうだ。
付け加えていえば、タンタ・インディア社とは今後も協力体制を維持したまま、BIの水中戦仕様を開発し、ゆくゆくはその名に偽りのない水陸両用型マリーネの開発を目指しているらしい。
ちなみに、俺がMSを地上で使うなら絶対に導入すべきだと、常々、主張していたMS用のスコップだが……、パーシィがドゥルガーの標準装備品の中に混ぜて、MS用ククリと一緒に開発したらしく、背部スラスターの下、二つ設置された腰部マウントの一つに普通に取り付けられている。
……。
前線において、陸の王者である戦車が乗り越えられない程に深くて広い塹壕をスコップで掘るドゥルガー。
掘った塹壕の底に潜り込み、スコップを頭上に被せて、砲撃や空爆をやり過ごすドゥルガー。
スコップを傍らに置いて、前進してくる敵MSを塹壕からの射撃で迎え撃つドゥルガー。
弾幕を突破して肉薄してきた敵MSを、咄嗟に傍らのスコップでぶん殴って大破させるドゥルガー。
ひゃっはー、この戦争、スコップがなければ地獄だぜぃって、叫ぶドゥルガー。
……。
……いい。
……実にいい。
最高に泥臭くて、燃える絵になる戦闘になりそうだって、いかんいかん、不謹慎だぞ、俺自重!
でも……、これだけは言いたい。
装備品の中にスコップを混ぜてくれて、ありがとう、パーシィ!
……しかし、こんなにパーシィが頑張ってたら、俺、帰っても席がなくなってるかもしれない。
って、そんな俺の歓喜と危惧は置いておいて、未だに復興途上のオーブ本国だが、ここではM1アストレイとMA可変機のムラサメが配備されている。特にムラサメに関しては二年戦争中から計画されていて、今年の夏に何とか完成させたという【タケミカズチ】なる大型空母や空軍で運用しているらしい。
つか、そんな空母を作ってるなら、もっと、国土の復興に……って、いや、その国土を焼かれない為にも、外洋で迎撃するって意味合いで建造したのかもしれないか。
まぁ、本国の国防戦略については、暇と機会があれば、軍について何でも知ってるコードウェル一尉に詳しく聞いてみるのもいいだろう。
正直、他国としか思えないオーブ本国より南に位置する大洋州連合へと目を移す。ここはカーペンタリアにあるザフトのMS工廠から、バクゥやディン、グーン等を購入して、軍に導入しているようだ。購入されている機体の種類を見るに、おそらくだが、様々に汎用性のある機体ではなく、それぞれの分野に特化したMSを複合的に運用しようとでも考えたって所だろう。
……ふむ。
これで、大西洋連邦、ユーラシア連邦、東アジア共和国、南アメリカ合衆国、南アフリカ統一機構、地中海同盟、汎イスラム同盟、赤道連合、オーブ、大洋州連合って見てきたから……、地球上の国家はこんなもんかね。
……しかし、こうして調べてみると、MSも各国に普及していたり、次の世代に交代しているって印象だ。
とりあえず、当面の目標は地球では環境的な制約があるからともかくとして、宇宙じゃ、ビーム兵装が通常兵装になってきているから、機動と回避に防護を上手く寄り合わせて、小隊や中隊戦術に組み込んでいけたらいいなぁ。
◇ ◇ ◇
10月10日。
アメノミハシラ近隣にある訓練宙域での慣熟訓練を終えて帰港すると、非常に珍しい事に、サハク准将から部隊司令のトウラン一佐を通した正式な命令系統で呼び出しがかかった。
特にこれといった問題も聞いていないので、いったい何事かと首を捻りつつ、ちょっと疲れ気味で元気のないコードウェル姉に案内されて司令官室へ行くと、かなり不機嫌そうに、眉間に皺を寄せた准将が執務机に座って待ち構えていた。
「お呼びと聞き、参上しましたが……、准将、何か、業腹な事でもありましたか?」
「ッ!」
おおぅ、ギロリと言う言葉が一番似合いそうな程の視線で、こちらを見据えてくる。
案内をしてきたコードウェル一尉にまで視線がいかないように身体で遮りつつ、ゆっくりと執務机の前まで進んでから両足で床面を踏みしめて立つ。そして、ワザとらしく首を傾げて見せながら、あえて軽口めいた口調で話し出す。
「それとも、司令官室に呼び出されてまで叱責される程の問題を、俺、起こしてしまいましたかね?」
「……いや」
「では、言わせて貰いますが、いくら職責があるとはいえ、こーーーんな風に眉間に皺を寄せ続けるのは、准将みたいな妙齢の女性には似合いませんよ?」
厳つい男ならそれもまたありだから放っておくけど、美人さんがすると周りまでピリピリさせてしまって、本当に怖いからねぇ。
お? 少し、表情が緩んだか?
「……ふっ、すまぬな、少し気が荒らんでいた」
「人間、誰だって、そういう時はありますよ。……それで、何が原因ですか?」
「ああ、本国の放蕩娘……アスハ代表首長が、護衛一人だけを連れて、プラント本国に乗り込んだらしい」
「……はっ?」
国家代表なのに、たった二人で他国に乗り込むなんて、なにそれこわいって……、マジですか?
「えと……、先程の様子から察するに、冗談……、ではないみたいですね」
「ああ、冗談でも程々にしろと怒鳴りたい所だが、今回は事実なだけに殴りたい」
「……その辺は耐えて頂くしかありませんが、でも、いきなり、どうして、そんな事に?」
「先月末に、L3でコロニーが……【タカノアマハラ】の一部が稼動した事は知っているな?」
「無重力工業区画の事ですね」
「では、今日、プラントの軍事工廠で新造艦の進宙式と新型MSの披露会が行われている事は?」
「ええ、それも知ってます。先月中旬に、何故か家に、招待状が届きましたからね」
まぁ、白服だった俺はともかくとして、何故か、レナとミーアの分までな。
「何? そうなのか?」
「ええ、ですが、民間にいる時ならともかく、今はオーブの軍属ですし、軍務もありましたから、勝手はいかんだろうと思いまして、正式に断りましたけど?」
「……そうか」
はぁ、と盛大な溜息をついた准将は頬杖を付いて、うんざりとした表情で話し出す。
「そのコロニー稼動と新造艦の進宙式を知った放蕩娘は、ザフトの新造艦や新型MSの開発に元モルゲンレーテの技術者が関わっている事も知ったらしくてな。オーブの技術を軍事に使うなと獅子吠して、プラントに移住した元オーブ国民をタカノアマハラに連れ戻すと書き残し、代表としての執務を放り出した上に、その進宙式に乗り込んで、プラントの最高評議会議長に……、ギルバート・デュランダルに直談判するつもりらしい」
え、えと……。
「……あの、どこから突っ込んだらいいんでしょうか?」
「……突っ込む必要はないぞ、既に我が、ウナトを相手に、散々、喚き散らしたからな」
な、何か、重力ないのに、肩が重いわぁ。
「それで、どう対応するんですか?」
「ウナトと協議した結果、在プラント公使館とプラント側……ギルバート・デュランダルに予め、大馬鹿娘が馬鹿を言いに行く事を伝えて、あしらってもらう事にした」
「……その見返りの要求は?」
「今年度後期分の債権利子の放棄だ」
「はぁ、何とも、高い授業料で……」
「……まったくだ」
まったく、代表首長の子女で、しかも継承権を持ってるんなら、マユラやコードウェル一尉、サイ・アーガイル、それにキラ・ヒビキから伝え聞いたような、ゲリラ活動や下手なMS操縦を覚えさせるんじゃなくてだな、一国の元首に必要な帝王学を学ばせておけよ。
つか、傅役や教育係は、いったい、何をやってたんだ?
それとも、象徴として祭り上げる為に、お飾り程度の扱いをしてきたのか?
「准将」
「なんだ?」
「今の代表首長ってのは、お飾りなんですか?」
あ、准将の背後に控えたコードウェル一尉が息を呑んだ。
「……お前は、普通なら聞けぬ事を、はっきりと聞くものだな」
「まぁ、生粋のオーブ人じゃありませんからね。醒めた目で見ると、今の代表首長は、統一の象徴としても、現実の為政者としても、中途半端に感じまして」
俺の言葉を聞いて、口元を僅かに歪ませた准将は、静かに話し出す。
「さて……、我も前代表が何を思って、どのような教育をあの放蕩娘への施したのかは知らぬが、我から見ると、今の現代表は象徴程度の存在である方が……、憚らずに言えば、都合が良いと考えている」
ふむ、今回の件を考えると、為政者としての自覚と感覚が欠如している事に加えて、もう何度も見た事もあるから知っているが、容姿に関しては良い方だし、国民の人気だってそれなりにあるみたいだし、うん、それが無難だろうな。
「だが、そうは考えぬ者もいる」
「と言いますと?」
「そもそも、今回の落し所にしても、ウナトの意向が大きいのだ」
「セイラン卿の?」
「ああ、奴は表面では何だかんだと言いつつも、前代表を敬愛していたからな。今回の一件にしても、残された忘れ形見をなんとか盛り立てたいと考えているが故に、多少の損が発生しても現代表が少しでも為政者として成長すれば、プラスになると踏んだのだろう」
なるほど、将来への投資って奴だな。
「もっとも、ようやく板につき始めた日常執務を放り出した上に、護衛一人だけを連れて他国に乗り込んだ事には、流石に気落ちして嘆いていたよ。……代表首長としての最低限の自覚は欲しいとな」
「確かに……、って、まさか、今回の用件って、その二人を迎えに行けと?」
「それも考えぬ事もなかったが……、それ以上に気になる報告があってな」
……代表首長の問題より、気になる報告って、何だろう?
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