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第三部  導なき世界の中で…… (C.E.72年-C.E.75年)
40  安住の地へ -L3掃討制圧戦 4


 ワダツミの前方宙域に四機のパッツが放出されたので、前方のハッチから内部を荒らさないように制御バーニアの軽い噴射でゆっくりと出撃する。
 整備班員達に軽く手を振ってから外に出て右舷前方を見てみると、既にソキウス小隊はパッツへの搭乗を始めており、〝戦友〟の名に恥じず、直ぐにでも未だに絶え間ない銃火の応酬が続いている前線へと赴くつもりなのだろう。

「よし、それぞれの役割についてだが、前もっての手はず通り、レナは基本的に俺達の後方で戦域を俯瞰して、支援を担当してくれ。もしも、余裕があれば、敵の攻撃基点かリーダー格を狙撃して、勢いを削いでくれたらありがたい」
「わかりました」
「マユラは、前面に出る俺のカバーと、俺への攻撃に気を取られすぎた間抜けを落としてくれ」
「了解」

 今回、俺達が機体に装備している兵装は個々人の好き勝手で選んだ物ではなく、目的別に六種類ある兵装パック……主兵装と副兵装を一纏めにした物の中から、それぞれの役割に応じて選択装備している。

 実はマリーネが採用された後、宇宙軍技術部とラインブルグ宇宙工業及び技研第五開発部が整備現場の効率化と任務目的に沿った柔軟なMS運用を行えるようにする為、対策や必要な設備を検討していたらしい。
 その結果、目的に沿って主兵装と副兵装を換装できるようにするパッケージ化と、パッケージの換装がより簡易により短時間で行えるよう、SKOで実戦評価をしてもらう際に持ち込んだ整備設備の改良が決定されたそうだ。

 で、そのパッケージや整備設備の実戦評価を俺達が乗っているワダツミでやっているというわけだ。

 俺の前でパッツに搭乗しているマユラが装備しているのは、ビームアサルトを主兵装とし、防護に対ビームコートシールド(注:これ以下はAnti Beam Coatを略してABCシールド)、副兵装として両肩部に電磁式対ビームシールド、大腿部に高硬度ナイフラック、脹脛部に破砕榴弾パックを装備する標準兵装に相当するSパック(Standard Package)だ。

 これがマリーネの最も基本的な兵装ということになる。

 んで、俺が乗る機体に装備しているのが、主兵装にビームアサルト、防護にABCシールド、副兵装には両肩、両脹脛部に可動式追加スラスターと、大腿部に破砕榴弾パックを装備する高機動兵装、HMパック(High Mobility Package)となる。

 これは標準兵装から防護性を落として、その分だけ機動性を上げた兵装って所だ。

 そして、支援担当のレナなのだが、機体の半分の長さはある長大な狙撃用ビームライフル【RSI-BS103】ビームスナイプを主兵装に、腰部マウントに予備兵装のビームアサルト、副兵装には、右肩部にモノアイ仕様の光学照準装置、左肩部に多目的観測用センサー、大腿部に高硬度ナイフラック、脹脛部に破砕榴弾パックを装備する狙撃・偵察兵装、S/Sパック(Snipe/Scout Package)だ。

 この兵装は標準兵装からABCシールドと電磁式対ビームシールドを外し、両腕に対ビームコート篭手を装備するだけと、防護性を大幅に落としている代わりに、強力なセンサーにより高精度の情報収集を可能にした上、高威力長距離射程を持っているから、探知性と攻撃性を大幅に引き上げた兵装と言えるだろう。

 後、他の三種だが、既に前線へ向けて出発して行ったソキウス小隊が選択装備していったもので、標準兵装をベースに、主兵装のビームアサルトを予備兵装に回して対MS・MA用重散弾砲を装備、大腿部副兵装を高硬度ナイフから破砕榴弾パックに換装して、火力重視に偏らせた強襲兵装、Aパック(Assault Package)、主兵装に重散弾砲と予備のビームアサルト、防護にABCシールド、副兵装に両肩に対MS・MA用六連装小型ミサイルパック、大腿部に重散弾砲のカートリッジ、脹脛部に破砕榴弾パックを装備して、防護性を弱めた代わりに中距離からの制圧火力を高めた制圧支援兵装、FSパック(Fire Support Package)、主兵装に対艦用無反動砲、腰部マウントのビームアサルト、防護にABCシールド、副兵装として左肩部に対艦用二連装中型ミサイルランチャー、大腿部に無反動砲弾カートリッジ、脹脛部に破砕榴弾パックを装備して、対艦用兵装をメインに切り替えた重攻撃兵装、HAパック(Heavy Attack Package)となる。

 まぁ、わかりやすく言えば、作戦目的に沿った兵装の規格化って奴だな。

 ちなみに、これらの兵装パックは運用に必要になるエネルギー量の関係から、内部にジェネレーターを有するマリーネでの運用が前提なので、バッテリー仕様であるアストレイでの運用は不可能になっている。

「アインさ……ウルブス1、こちらウルブス3、搭乗終了。……コントロールも掌握したよ」
「了解、搭乗を開始するから揺らさないでくれよ、ウルブス3」
「わかってる」

 パッツは二機の内、一機には前面で迎撃を担当する俺とマユラが、もう一機には観測情報と狙撃による援護を行うレナが一人で使用する形だ。

 っし、接舷終了っと。

「こちらウルブス2、搭乗終了しました」
「了解。……ワダツミ、ウルブス1だ。ウルブス小隊の行動準備が完了した。そちらからのリクエストはあるか?」
「こちらワダツミ、リクエストは特に無しでっ、総司令部より通達! 艦隊左舷方向より高速で接近する物体……、あ、いえ、MAとMSの混成部隊があります!」

 海賊の迂回攻撃か?

「何機だ?」
「確認されている数は二十程です」
「俺達もその対応に?」
「あ、だ、第二戦隊のMS隊が迎撃に入るそうです」
「なら、後詰か……」

 もしかしたら半包囲……、右舷からも攻撃……、いや、分進合撃か?

「ワダツミ、念の為に、ウルブス小隊は艦隊後方に下がるぞ」
「えっ?」
「迂回してきたって事は後方からの攻撃だって、あるかもしれないって事さ」

 右舷方向は第三戦隊の連中がいるし、予備戦力は艦底部にいる第四戦隊の連中を当てれば良い。まぁ、俺達が後ろに下がる分、両天極方向からの攻撃に脆くなるかもしれないが、そこはハガネ級に時間を稼いでもらうしかない。

 だいたい、艦載機の絶対数が足りてない以上は取捨選択するしかないのだ。

「まさか、後方まで浸と……、あ、はい、コガ艦長が了解したとの事です」
「ああ、……ワラル三尉」
「え、はい」
「海賊だからっていう予断は禁物だぞ。連中は俺達以上に宇宙に慣れているんだからな」

 そう、そのことだけは忘れてはならない。ならばこそ、艦隊にとってより危険性が高い方向……艦艇の防備が弱い後方を警戒する方が理に適ってる。

「ッ! りょ、了解です」
「よし、ウルブス小隊は後方で敵の攻撃を警戒する。行くぞ」
「「了解」」

 とはいえ、この行動はあくまでも最悪の事態に備えるべきだとする俺の信条から来ているものであり、当然、見当違いって事もあるだろう。けれど、何事にも備えておいた方が安心できるのは事実だし、何事も起きなければ、それはそれでいいことだ。

 そもそも、生粋の軍人でもない俺にとっては、作戦において活躍したとか功績があったとかは、別にどうでもいいことだしな。

 そんな事を考えている内に、艦隊後方宙域に到達する。

「さて、もしもの想定が外れたら、それこそ、安心できるんだがなぁ」
「ですね。左舷方向で迎撃が始まったみたいです」
「……あ、右舷方向からも何かが接近してる」

 さて、これで海賊は挟み撃ちを仕掛けた事になったけど、後方はどうかねぇ?

「ッ! こちらワダツミっ! 後方より機影を確認っ! 数は十! 総司令部はIFF表示無しから敵性体と判定! 全てMSですっ!」
「了解した。後詰はあるか?」
「ありません。右舷よりの敵の数がMAとMSが合わせて四十機近くある為、第二及び第三戦隊所属機はそちらに向わせるとの事です!」
「そうか」

 しかし、後方への浸透ができるなら、何故に補給線を狙わなかったんだろう?

 むー、差し詰め、補給線を潰す前にL3が制圧されてしまうから一発勝負で、って所かな。

 ……。

 うぅ、それにしても、十機に三機で対応しろって、普通なら虐めでしかないんだが……、これ位なら対応できるだろうっていう、サハク准将の信頼と受け取ってもいいんだろうか?

 まぁ、なんであれ、俺は……、いや、俺達はやるべき事をやるだけだ。

「レナ……ウルブス2、先制を頼む」
「ええ、わかりました」

 見た感じ、十機の機影はある程度固まって行動しているようだ。

 もしも、ばらばらに距離を置かれたり、時間差を持って来られたりしていたら、かなり面倒な事になっていたが、戦力の集中を第一としたみたいだから、逆に助かったな。

 お、レナが一撃目を放った……って、流石だな、初撃で墜したよ。

 どれ……、連中はと……、む、更に加速しているな。

「ウルブス2、敵の機種は?」
「ジンが五、ストライクダガーが三、シグーが一です」
「なんとまぁ、堅気から外れたら、昨日の敵は今日の友ってか? まったく、仲が良いこって」

 つい、ブラックな事を吐いてしまうのは仕方がないだろう。

「マユ……ウルブス3、左側にダミーバルーンを三つ放出」
「了解!」

 さて……、連中はどう動くかな?

「ッ! そこっ! …………よしっ!」
「……お見事」

 突如として出現した複数の〝シルエット〟に気を取られて隙を見せたらしい、ジンとストライクダガーが相次いで、レナの放ったビームに貫かれて爆散したようだ。

「ウルブス2、少し下がって、引き続き狙撃を頼む。優先目標は突破を図る連中だ」
「了解です」
「ウルブス3、俺達も阻止戦闘を開始するぞっ!」
「了解!」

 パッツをこちらにビームや重突撃機銃を撃ち始めた海賊機に向って加速させていると、ふと、閃く事があった。

「パッツから離脱する! カウントは任せるぞっ!」
「わかったわっ! カウント! ……2、1、ッ!」

 マユラとタイミングを合わせて、パッツから離脱すると同時に、シールドでバイタルエリアを守りつつ、未だに敵に突進しているパッツ自体を撃ち抜いて、爆裂弾代わりに利用してみる。

 おっ?

 即席で考えた割には上手く言ったみたいで、連中はパッツから生まれたデブリシャワーを諸に喰らってるようだ。そこを逃さず、マユラがビームアサルトの速射モードでビームを霰の如く撃ち込み、四機程に少なくないダメージを与えているようだ。

「ウルブス1! 仰角にシグー!」

 とマユラが叫んだ瞬間、残っていた七機の内、もっとも立ち直りが早く件のシグーが攻撃行動に移ったが……、後方のレナから放たれたビームを右肩に喰らって内部の推進剤に引火したのだろう爆発を起こしていた。その爆発光に照らされていると、レナからの報告が入る。

「一機撃破しました!」
「……絶対に、腕の良い狙撃兵は、戦場に欠かせないよな」
「……ほんとだよね」

 戦闘中とはいえ、マユラ共々、俺が少し乾いた笑いを浮かべたのは仕方がないだろう。

「だが、このバックアップは心強いぞ」
「うん、背中は安心できるね」

 要するに、思いっきりやれるってことだ。

「だけど……」
「……油断は禁物、でしょ?」
「ああ、口で言うのは容易いけどな」

 そんな事を述べながら、重突撃機銃での攻撃を仕掛けてきたジンの周囲に向けて、ダミーバルーンの〝種〟を撃ち出す。

 ……機体のすぐ傍で、一気に膨らんで展開したダミーに戸惑っている隙をついて、全力加速でもって、接近しっ!

「っし!」

 シールドの取っ手から左手を離して、右腕の篭手、その内側からビームサーベルを引き抜き、ビーム粒子を展開させつつ振り上げる!

 形成されたビームの刃はジンの右腹部に入ると易々と構造体を切り裂いていく。経験から致命的な損傷を与えたと判断したところで、AMBACでもって両足をジンの胴体に当てて、これを足場に蹴り放す。

「一機撃破っ、っと!」

 ……ある意味海賊らしく、味方の生死を気にすることなく、俯角右方向にいた一機のストライクダガーがついさっきまで俺が交錯していた座標に向けて、ビームライフルを撃ち込んで来た。
 こちらもビームアサルトで撃ち返しながら回避機動を取るが……、飛来するビームは周囲に浮かんでいたダミーバルーンを次々に破裂させていく。更には、撃ち放たれたビームは大破していたジンをも貫き、推進剤の爆発を引き起こしてデブリへと変じてさせた。

 そのあまりにも無情な行動に少し思う事があり、そのストライクダガーに対しては特別製(推進剤入り)のダミーバルーンの種を撃ち込む。そのダミーバルーンがストライクダガーのすぐ傍で展開すると同時に、その陰に隠れるように機位を移動させてみる。

 先程の事もあってか、ストライクダガーは特に気にすることなくダミー越しにこちらへとビームライフルを向けて……。

「うん、推進剤入りのダミーバルーンは使えるな」

 ……ビームをぶっ放してダミーバルーンを破裂させた瞬間、ダミーバルーンが引き起こした爆発に巻き込まれて、一緒に吹き飛んだ。

 爆発で弱まったビームを回避していると、今度は俺の機体の仰角左方向で立て続けに爆発光が発生していた。

「こちらウルブス3、二機撃破っ!」
「了解、助かるよ」
「ふふん、当然よ」

 どうやらマユラがずっと俺のフォローしてくれていたらしい。その事に感謝しつつ、周囲を警戒しながらビームサーベルを所定位置に戻していると、レナの声がコックピット内に響く。

「ウルブス2、敵二機を撃破しましたっ!」
「了解って……、もしかして、これで全機か?」
「はい、全機みたいです」
「うん、こっちからも確認しているけど、もう敵はいないみたい」

 えっ、ちょ、早くね?

 この思いは俺だけではなかったようで、ワダツミからの通信……、ワラルの声が震えていたりする。

「こ、こちら、ワダツミ。う、ウルブス1へ、敵全機の制圧を確認、しました。しゅ、周辺宙域に敵影はありません」
「了解した。この後は?」
「こ、後方にて、両天極及び後方からの敵の攻撃を警戒するように、との、ことです」
「わかった。それで、戦況はどうなってる?」
「は、はい、前線はソキウス小隊とイズモ及びイナバ艦載MS隊の戦域突入により、撃滅に成功。これより対艦攻撃を実施する予定だそうです」
「なら、左右舷方向の迎撃は……、どうやら機能しているみたいだな」
「い、今の所、順調に機能しています」
「うん、結構な事だ。なら、ウルブス小隊は後方で警戒に当たるから、何かある時は、連絡を入れてくれ」
「了解しました」

 さて、機動戦力の撃滅に成功したし、これで宙域争奪戦の趨勢は決まったと言ってもいいかな?

 なんて思ったところに、同じ感想を抱いたらしいマユラが声をかけてきた。

「ウルブス1、戦闘はこれで終わりかな?」
「実質的には終わったと言いたい所が、まだ海賊艦船が残っている。追い詰められてから、やけっぱちになって艦隊に突入して、強行突破を図るかもしれないから、もう一度、気を引き締めておいてくれ」
「うん、わかったわ」
「ウルブス2、周辺宙域の様子はどうだ?」
「特にこれといって、変化はないですね」
「よし、このまま引き続き、警戒を頼む」
「了解です」

 レナに更なる警戒を頼むついでに、遥か彼方の前線を遠望してみると……、時折、ビームの直線的な輝きや大きな爆発光が確認できる事から、海賊艦船への攻撃は始まっているようだった。






 6月10日。
 迎撃に出てきた海賊の宇宙戦力を撃滅し、その全てを容赦なく一掃したオーブ国防宇宙軍は、続けて旧ヘリオポリス及び資源衛星の制圧作戦を開始。MS隊の支援を受けた〝陸戦隊〟は、内部に立て篭もる海賊やならず者達の激しい抵抗を物ともせず、僅か半日で抵抗勢力を掃討、全与圧ブロックを制圧してみせた。

 その結果、この日より、L3宙域はオーブ国防宇宙軍の管理下に置かれ、アメノミハシラによって統治される事になる。


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