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第三部  導なき世界の中で…… (C.E.72年-C.E.75年)
39  安住の地へ -L3掃討制圧戦 3


 6月9日午後。
 L3外縁部宙域において、別段の妨害攻撃を受ける事もなく、地球を背景に旧ヘリオポリスへと艦首を向けた旗艦イズモを中心に整然と布陣を終えたオーブ軍艦隊から、明らかに改造によって武装しているマルセイユ三世級やコーネリアス級、果てはサルベージされて修復されたらしいドレイク級等々、多種多様な艦種で構成されている上、〝群れ〟としか適切な表現が見つからない程に、それぞれ気侭な位置で展開している海賊連合の艦船に向けて、攻撃が開始された。

 最初の一撃は、イズモから見て左右舷と艦底方向に四隻ずつの戦隊単位で展開しているトツカ級から断続的に放たれた、73式艦対艦航宙ミサイル【ライデン】だ。
 このライデンなるミサイルはうちのグループ会社であるラインブルグ宇宙工業がBI用に開発し、マリーネにも副兵装【RSI-ASM12】として装備可能な対艦ミサイル、通称【タチカゼ】をベースに、モルゲンレーテと宇宙軍技術部と共に更なる改良を加えて生み出されたもので、元からあった光学誘導と熱源追尾にトツカ級からのレーザー誘導ができる装置を組み合わせており、以前までの電波誘導に勝るとも劣らない代物だったりする。

 これら百発近いミサイル群が海賊連合の艦船に向けて加速して行く間に、今回の攻撃で主軸となるワダツミ級MS母艦群、ウワツ、ナカツ、ソコツのMS隊で編成された機動MS大隊三十六機が、予め、支援部隊によって放出されて準備されていたパッツに乗り込んでいき、迎撃に出てくるであろうMS・MAを排除し、対艦攻撃を仕掛けるべく、次々に進出して行く。
 また、イズモの艦上方向に展開している第一戦隊のイナバからはMA形態のオオツキガタ十二機が順次発進して、海賊艦船或いはMS・MAに対して、側面からの横撃や仰角……上方からの〝逆落とし〟、俯角……下方からの〝突き上げ〟なりを行う為に、迂回軌道へと進路を取ったようだった。


 それら一連の動き……ワダツミより提供されている光景を、ザフトと同じく臨戦待機態勢にあたる第二種戦闘配置の為、俺は乗り込んでいる自機の操縦席から見入っている。
 遠方でミサイル群が時々放つ青白いスラスター光が小さくなっていくのとは対照的に、艦隊前面で機動MS大隊がパッツでの加速を段階的に行っているのだろう、時折、大きな噴射光が確認できた。

 一方の海賊連合もモニターで確認できる限りだと、こちらの攻撃や出撃を確認したのだろう、艦船に取り付けられたレールガンらしき代物で反撃の砲撃を始めたり、どこで調達したのか大型ミサイルを撃ち出したり、MS隊を迎撃する為に統一性のない雑多な機動戦力を出撃させたりしているようだ。

 ……うーん。

 こうして見てみると海賊の動きに統一された〝意思〟は見えないし、数こそ多いけど、想定していたよりもMSの数が少なくて、MA、それも改造ミストラルの数が多いようだ。

「海賊の戦力を過大評価しすぎたかな?」
「そうかもしれませんね」

 俺の独り言めいた呟きにもレナがしっかりと応じてくれたので、折角だからと戦力についての見解を尋ねてみることにする。

「並んでいる艦船の数と比較すると、機動戦力が少ないと思うんだが、レナはどう思う?」
「希望的な観測をするなら、単純にそれだけの数がなかったということでしょうが、慎重に考えると、どこかに潜んでチャンスを窺っているのかもしれません」

 そのレナの意見から更に思考を進めようとしたら、マユラも話に参加してきた。

「もしも、どこかに潜むとなると……、デブリの陰に隠れるか、廃熱を抑えて待伏せしているかも」
「それか、予め、艦隊正面以外の方向に一部艦船を回しておいて、機動兵器と一緒に突入を図ってくるか、かな?」
「ええ、マユラや先輩が言った事辺りが妥当だと思います。……でも、観測は熱源だけじゃなくて、光学でもやってますから、その可能性は低いと思いますよ」
「だが、ゼロじゃない以上は……」
「そういう事もありえると想定しておいた方が、いざという時に慌てないで済む、でしたね」
「そういうこと」

 流石に、ずっと俺の僚機を務めてきただけあって、こっちの言いたい事がわかっているよなぁ。

 なんて具合に、レナとの確かな絆を感じてしまい、内心に充足感が広がって行くのがわかる。

「むー、私を除け者にして、二人だけで通じ合わないでよ、もう」
「おっと、すまん」
「あ、ごめんね、マユラ」

 もっとも、その分だけ、マユラの機嫌を損ねてしまったようだ。

「二人がずっとコンビを組んできたから、自然とそうなるんだろうけどさ、これからは私もいるんだから、今度からはちゃんと混ぜてよね」
「了解」
「ええ、気をつけるわね」

 口を尖らせて不満の意を示しているマユラに、若干の罪悪感と普段と違う甘えられ方というか、別の意味で魅力的な素顔が見れる男は俺だけなんだよねぇ、なんて雄としての独占欲が満たされるのがわかる。

 っと、ミサイルの第二派が発射されたな。

 この時間差をつけた攻撃は撃沈狙いの他にも、迎撃対応に忙殺させる事で前線への支援砲撃を少しでも妨害する意味合いの他、迎撃に出てきている海賊の機動戦力……、パイロットの意識を逸らす面もあるだろう。

 宇宙ってのは、生身の人の生存を許さない冷たい世界だから、どうしても母艦が……、帰れる場所が必要になる。つまり、母艦への攻撃は、ただそれだけでパイロットへの大きな心理的な負担になるのだ。もちろん、これは逆にも言えることであり、こっちのパイロットにも精神的な負担が掛かっているはずだ。

 普段の生活でこそ余り意識していないが、そもそも宇宙という場所は地球と違って、居住空間のすぐ外側に即座に死に繋がる冷たい空間が広がっている現実がある。自然、帰れる場所……住む場所を無くすという事は、宇宙に住む者達が誰しもが持つ根源的な恐怖と言えるだろう。


 だからこそ、宇宙に住む者は、例え、所属する国が違ったとしても、コロニーへの攻撃は許せない。


 だというのに、先の戦争では、ユニウス・セブンや世界樹、ヘリオポリスといったコロニーが相次いで破壊されている。
 この事実に関わった事でさえ悩ましいのに、もしも仮に、戦中の新星争奪戦でゴートン艦長達の頑張りがなく、L4のコロニー群がザフトの手によって、〝意図的に〟破壊されていたら、それを為した勢力に属する俺は、一生、苦しみ続けたはずだ。

 眉間に皺を寄せてのシリアスな思考を遮ったのはレナの声だった。

「あ、先輩、トツカ級が主砲を撃ち始めました」
「……なんか爆発してるし、向こうからの攻撃を迎撃してるんじゃない?」
「そうだろうな。ビームファランクスも撃ち始めているし、間違いない。……ちょっと、管制官を呼び出して、状況を聞いてみるか?」
「ええ、ちゃんとした情報が欲しいですね」
「アインさん、ワラル三尉は新任君だから、お手柔らかにね?」
「俺は不条理な事なんて言わないさ」

 いや、ほんと、セプテンベル行政局では苦情対応に散々に苦労させられてきたからなぁ、と在りし日々を思い出しながら艦橋へと通信を繋げる。

「こちらウルブス1、聞こえるか、ワラル三尉」
「はい、こちらウワツ。ウルブス1、聞こえています」

 ウルブス小隊の隊長ということで、俺には【ウルブス1】とのコールサインが割り振られている。当然のことながら、同じ小隊に属する二人にも振られており、レナが【ウルブス2】、マユラが【ウルブス3】となっている。

「何か、問題でも起きましたか?」
「いや、こっちには問題なんて起きてないよ。ただ、少し状況が知りたくてな」
「状況ですね。……どの辺りからお教えすれば?」
「海賊の動きから頼む」
「了解です。現在、艦隊は海賊側からの艦砲射撃を受けており、第二、第三、第四の各戦隊が前面に展開して、迎撃に当たっています。これまでの所、攻撃は各戦隊の対応能力を上回っておらず、順次、対応中です」
「わかった。じゃあ、前線の様子は?」
「つい先程、交戦が開始されたのですが、相手の数が多い影響で、二十機ほどのMAが前線を突破し、艦隊に急速接近中です」
「……やるな。これの対応は?」
「これも各戦隊から迎撃機を出して阻止を図るとの事です」

 その言葉を受けてモニターを見ると、確かに、各戦隊のトツカ級からマリーネが次々に出撃していた。

「なら、仮に、これらが突破された場合は?」
「突破された場合は各戦隊……〝コンバットボックス〟による艦隊迎撃及び個別迎撃となります」
「ん、了解した」

 あ、今、ワラル三尉が微かにホッと息をついたのがわかった。

「それでは、今の所、総司令部から特に指示は来ていないってことだな?」
「あ、はい、特に通達は来ておりません」

 特に指示がないってことは、今の所、総司令部が想定している範囲で動いているって事だろう。

 ……このまま戦況が推移したら、待機状態のままで終わるかな?

「なら、総司令部から通達なり、前線の動きに変化がでてきたら教えてくれ」
「了解しました」

 さて、一旦、通信を切ってっと……。

「このまま、戦闘が終わってくれたら、いいんだけどなぁ」
「でも、アインさん、相手だって必死のはずだし、どんな動きをしてくるかわからないから、気は抜かない方がいいと思う」
「……確かに、マユラの言う通りだな」
「ええ、出なくていいなら、それに越した事はないですけど、何が起きるかわかりませんからね」
「ああ、突然、なんじゃこりゃ、って言いたくなるようなもんが出てきてもおかしくはないからな」

 とはいえ、そんなことは多々あるわけじゃない、し……?

「なんだ……、あれ?」

 ……なんか、海賊側に、通常のMSの三倍はある、えらい、ごっつい機影が三機ほど、見えるんだが?

「……え、えーと」
「な、なんだろうね?」

 流石に、レナとマユラも困惑しているようだ。

「見た感じ、防護用の外骨格装甲か?」
「どちらかと言えば、作業用のパワーローダーに似てますね」
「そういえば、似ているな」
「でも、あれって、取りまわしが大変そうだよね。……あ、一機落ちた」
「そりゃあ、特に強力な武装もしてないないみたいだし、ただ大きいだけじゃ、普通、良い的に過ぎないからなぁ」

 でも、見た瞬間は、何時、何処で、誰が、何から、どういう目的で作ったんだと突っ込みたくなるような、とんでも兵器が出てきたかと思ったよ。

 しかし、MSが更に外に外骨格を着込……む?

 ……。

「でも、海賊って、面白い事を考えますね」
「あ、ああ、まぁ、脱走兵や傭兵といった連中だけじゃなくて、ジャンク屋崩れも中にはいるはずだし、ああいうのも出してきてもおかしくはないはずだ、うん」
「あれ、アインさん、何か、動揺してない?」
「ん、そんなことないぞ?」

 ……いや、MSが外骨格を着込む事から、俺は直接にはお目にかかってないが、エターナルに装備されていたというミーティアなる強襲補助兵装や前世の某アニメで出てきた〝我が侭な美女〟を連想してしまった。

 特に、後者なんて……、考えるだけで恐ろしい。

 まぁ、流石に、アレに類するだけの代物を作るのは、海賊には不可能だろう。

 ……。

 む、むぅ、あの絶対的に戦場を支配する存在、〝我が侭な美女〟という名に恥じぬ、圧倒的な火力の権化とも言うべき尊大な女王様を思い出してしまったら、こう、ムラムラと作ってみたくなるのは、オノコの性だろうか?

「……ねぇ、マユラ、今の先輩の顔、何か不穏な感じがしてこない?」
「うん、私達を疎かにするような、碌でもない事を考えてるよ、絶対」
「ハハハ、ナニヲイッテイルのダネキミタチハ、コノオレガオマエタチヲナイガシロニスルハズガナイダロウ?」
「何だか、ますます胡散臭くなったよね」
「そうね。……アメノミハシラに帰ったら、ミーアちゃんにも手伝ってもらって、何を考えていたのか、自発的に言うように仕向けましょう」

 ……最近、レナが黒い事を憂慮するアインです。

 と、こんな具合に三人で待機中の無聊を慰めていると、イズモから相次いでMA形態のオオツキガタが発進して言った。

「イズモからMS隊が出撃しているな」
「ええ、でも、こっちに向っていたMA部隊は各戦隊のMS隊に殲滅されていますし……、前線へのてこ入れでしょうか?」
「どっちかと言えば、勝負を決める為じゃないかな? ついさっき、イナバのMS隊が前線の側面からの突入して、海賊を掻き乱したみたいだし」
「多分、マユラの言った事が正しいだろうな。見ろよ、海賊が引き始めている」
「なら、追撃戦を仕掛けつつ、対艦攻撃か掛けるって所ですか?」 
「おそらくな」

 さて、もしも罠を仕掛けるとしたら、ここからのはずだが……、と思ったところで、通信系からワラル三尉の声が聞こえてきた。

「ウルブス1、応答願います」
「こちらウルブス1、出撃か?」
「はい、総司令部からワダツミ所属機への出撃命令が下りました」
「具体的な命令は?」
「ソキウス小隊が前線での支援、ウルブス小隊が艦隊周辺での索敵警戒です」
「出撃は何時?」
「パッツを放出してからになりますので、少しだけ、お待ちください」
「了解した。こっちはいつでも出られるから、そっちの準備が整い次第、頼む」
「了解しました」

 ワラル三尉からの通信が切れた後、空いた時間を使って、機体のチェックをしておくことにする。無論、これまでも何度もチェックしているが、命を預けるだけにこればかりは何度でもチェックした方がいいだろう。

「レナ、マユラ、聞いての通りだから、機体の再チェックと武装の確認をしておくぞ」
「はい」
「わかったわ」

 二人に言った手前、自身も機体情報を確認する。

 ……何があってもおかしくないのが戦場だけに、懇切丁寧に、ワラル三尉からの通信が入るまで、しっかりと目を通し続けた。


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