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第三部  導なき世界の中で…… (C.E.72年-C.E.75年)
35  変化する日常 -予備役召集 3


 時は流れて、早くも四月。
 先月は、西ユーラシア連合とアフリカ共同体が相互支援を約する同盟を締結して、【地中海同盟】が成立したり、汎イスラム会議が中東イスラム同盟を吸収する形で【汎イスラム同盟】が誕生したり、プラントはL5でアーモリーワンなるコロニーが完成したりと再編と再建の動きが見受けられる月だったので、比較的落ち着いた日々だった。

 だが、今月は頭から、いきなり、L4に駐留していた大西洋連邦軍艦隊がL1宙域近くで大規模演習を行った影響で緊張のスタートとなってしまった。
 もっとも、その緊張状態は幸いな事に大西洋連邦軍が三日間の演習を終えた事で終了したのだが、その演習を観察していた宇宙軍に波及した影響は大きく、上層部は訓練計画を前倒しして、極限までパイロットを追い詰める長時間実機搭乗訓練のようなハードなものが実施されることになってしまった。
 これにより、訓練を担当している俺、レナ、マユラの三人も忙しくなってしまい、落ち着いた〝むふふ〟な時間を取る事が難しくなるなんて事態に……。
 それを埋め合わせる為にも、休日というか、休みの前日の夜から翌日の朝まで、四人揃って家に篭り、〝むふふ〟な時間を過ごしていたのだが……、今日は重要な事案がある為、猛りながら抗議の声を上げた我が息子には必ず悦楽の時間を提供することで、盛大に口を尖らせたミーア達三人にはそれぞれに指輪を送る約束をする事で、何とか宥めて、第二居住コロニー内部にある緑地公園に出向いてきた。


 まぁ、要するに……。


「お待たせしました。僕が、キラ・ヒビキです」


 ……以前からアルスターにお願いしていた、キラ・ヒビキとの会合だ。


「多分、アルスターから聞いていると思うが、改めて自己紹介しておくよ。俺はアイン・ラインブルグだ」

 俺が差し出した手を、キラ・ヒビキはしっかりとした力で握り返してきた。

「ラインブルグさんと呼んでも?」
「ああ、構わない、君は……」
「ヒビキと呼び捨てで構いません」
「なら、遠慮なく、そうさせてもらうよ」

 ……さて、何から話せば良いものかと考えながら、手振りでベンチの隣に腰掛けるように促す。

「……」
「……」

 むぅ、それなりに知っていても、こうやって面と向って話すのは初めての相手だから、話の糸口が見つかり難いなぁ。そんな話の切っ掛けを探している俺を見兼ねたのかはわからないが、ヒビキから声を掛けてきてくれた。

「あの……」
「ん?」
「フレイから聞きました。あの戦争中からある程度落ち着くまでフレイを保護してくれた上に、帰国の段取りまでしてくれたって……、本当に、フレイを助けてくれて、ありがとうございました」
「いや、気にする必要はないさ。俺は、ラウから頼まれただけの事をしただけだからな」
「でも……」
「本当に気にする必要はないんだ。もし、感謝するなら、自爆寸前のアラスカからアルスターを連れ出した、ラウに感謝してくれ」

 俺の言葉に、ヒビキは神妙な顔で頷いて見せた。

「さて、早速だが、今日、こうやって話をする理由……、話の本題に入っていいか?」
「あ、はい」
「なら、まず、一つ目なんだが、ヒビキ、このアメノミハシラを守る為に力を貸して欲しい」
「……具体的には?」
「国防宇宙軍の予備役になって欲しい」

 俺の言葉を耳にしたヒビキは、沈んだ表情を見せた。

「僕は……、もう、僕は……、戦争は……、人殺しは……、嫌です」

 まぁ、普通の感性を持っていたら、それが普通だろうなぁ。

「だろうなぁ」
「……戦えと、強制はしないんですか?」
「あ~、正直に言えば、強制はしたくないし、宇宙軍の一番偉い人からも、本人の意思を無視するなと言われている」

 あれ、何か、微妙な顔をしてるな。

「てっきり、強制されるかと思いました」
「あ、いや、はっきりと言ってしまえばさ、無理にでもお前さんが自分から所属するようにしようと思えば、できるよ?」
「えっ?」
「要するに、アメノミハシラはお前さんをテロリスト扱いできるってことさ」
「……僕が、国家の後ろ盾もなく、戦闘をしたり、戦場に出たから、ですか?」

 それはわかっていたのか。

「それもあるが、お前さんの場合は、プラントからはフリーダムを強奪した段階で追われる身だし、アラスカ戦で派手な立ち回りをした所為で地球連合軍……、それに加盟していた国からも犯罪者扱いされるだろう。連合軍に所属していた事実があるなら、脱走と裏切りによる利敵行為で銃殺さ。……オーブでの防衛戦以降に関しては、オーブ政府が自国軍に所属していたと認めれば、特に問題はないんだが、今の状況……、オーブ本国が大西洋連邦の支援を受けて、復興を図っている以上、オーブ軍がヤキン・ドゥーエでの最後の戦闘に介入した事実を隠したいだろうから、それも期待できないだろうな」
「やっぱり、そうなるんですね」

 ほほぅ、自分がやった事は正しいんだっ、って強弁に主張するかなと思っていたけど、自分が置かれている状況を冷静に把握できているみたいだ。うん、時間が経って、省みていたのかもしれないな。

「まぁ、簡単な話、これを取引材料にして、問答無用で引きこむ事もできる」
「……ええ、そうですね」

 ……追い詰めすぎるのもアレだし、ちょっと、場を和ませてみるかな。

「後、それに加えて、ほら」
「……記録、媒体?」
「ああ、これも、ヒビキを更に追い……げふげふ、自ら、予備役に志願させる為の材料だ」
「えっ?」

 おや、まぁ、男の顔をしているかと思えば、まだまだ、幼い顔を見せるじゃないか、なんて事を思いながら、記録媒体を携帯音楽プレーヤーにセットする。

「聞いてみるか?」
「え、ええ」

 どうやら、嫌な予感しかしていないらしく、ヒビキは恐る恐るという素振りで、頷いてみせる。


 では、ポチッとな!


『あぁ、キラ……、私という者がありながら、昔の女に走ってしまうなんて、あまりにも酷すぎますわ』


『……あの夜の、あの時の、あの情熱的な口付けは、いったい、なんだったのでしょう』


『キラ……、私を置いて、本当に、去ってしまったのですね。あぁ、キラ、独りで寝るのが寂しいです』


『何故、昔の女の元に……、キラ、あなたは、私の傍以外に居場所はないというのに……」


『キラ、待っていてくださいね。今すぐ、あのような昔の女から私の元に連れ戻して見せますわ』


 主演女優ミーア、脚本マユラ、録音レナ、監修アーガイル、監督は俺でお届け致しました。


 ……って、ヒビキの顔が真っ青だ。


「どどどどどど、どこで、ここここここれをををををっ!」
「いやいや、落ち着けって」
「ぼ、ぼぼぼぼぼぼくは、こここここんんななな、おおおおお、おどどどどどどどしににに……」

 いや、そんなにガタガタと震えられると、こっちが焦るぞ?

「いや、落ち着けって、これは捏造品だ」
「え、ええええっっっ!」

 あ、顔色が土気色から少しだけマシになった。

「でも、お前さん、今の反応っていうか、すぐに〝脅し〟と受け取るなんてさ、絶対に〝お姫様〟……、ラクス・クラインに何かやっただろう?」
「な、なにも、僕は、ラクスには、決して、なにも、やってませんよ?」
「いや、何故に疑問系な発音なんだ?」
「あ、そ、それは、と、特に意味はありません」

 ふふ、残念な事に、君が〝お姫様〟と非常に親密だった事は、アーガイルの証言で割れている、とは言わず、とぼけた顔で話を進める。

「まぁ、これで、例の戦闘介入を主導した首謀者とされて、国際テロリストの認定を受けている〝お姫様〟と親しい仲だったと謀ることもできる」
「い、いえ、ぼ、僕は、そんな、ラクスとは、そ、そそ、そこまで親しくはないです」
「そうか。なら、別に脅しにもならんだろうし、これはジョーク・グッズとして、アルスターに……」
「やややや、やめてくださいよっ! フレイって、かなり嫉妬深いんですからっ!」
「なに、その身が潔白なら堂々としてればいいじゃないか。恋人の嫉妬くらい、受け入れる度量を見せろって」
「う、受け入れられませんよ。も、もし浮気したら、包丁でブスリか鋏でチョン、好きな方を選べって、フレイから言われてるんですよ?」

 ……ニヤリと、思わず笑う程に、面白い事を聞いた。

「そうなのか」
「ええ、そうなんです。だから……」
「あ~、さっきの録音はさ、別に根拠がないものではなくてな、お前さんの内情に詳しい奴の監修が入っていたりするんだわ。その証言込みでアルスターに渡すと、どうなるんだろうなぁ」
「ッ!」

 あっ、また、青くなってきた。

「どうだ? 自分から予備役になりたくなっただろう?」
「……うぅ、はい、僕は、国防宇宙軍の、予備役に、なります」
「おお、それはありがたい、って、言いたい所なんだが、こういうのはさ、自分の意思ってのも大切だと思うんだよ」

 ああ、顔色が青から赤に一気に変わった!

 ついでに、ヒビキの俺を見る目が厳しい!

「な、なら、最初からそう言ってください! それと、あんなのを作って、聞かせないで下さいっ!」
「わははっ、お前さんがどれだけアルスターに惚れているか、知りたかったんだよ。ほれ、媒体はやるよ。処分するなり、アルスターに平身低頭で聞かせるなり、好きにしなよ」
「……聞かせません、絶対に処分します」

 しっかりと記録媒体を受け取りつつ、ヒビキは憮然とした表情を見せている。

「さて、そろそろ真面目な話をするとだな……、お前さんがその時に何を思い感じて、何を胸に行動を起こしていたとしても、国家の後ろ盾のないまま戦闘を行い、戦場に介入して敵対した事実は残る。そして、それは今の社会においては自らの主張を押し通す為の集団テロリズムに当たり、世間一般に犯罪とされる行為だ」
「……そうですね」
「だが、現実ではな、ケース・バイ・ケースという言葉があるように、なんとでもできることでもある」
「それは?」
「フリーダムを強奪した時、お前はまだ、連合軍に所属していたことになるだろう?」
「……おそらくですが」
「なら、敵本拠地から逃げ出す為にフリーダムを強奪したってことにすれば、何の問題もなくなる」

 捕虜が逃げ出す努力をするのは、命懸けですが、ある種の義務です。

「アラスカの戦闘介入も、誰の指揮下にもなかった上、味方から攻撃されたが故の自衛とでもすればいい」
「そ、それは無理なんじゃ……」
「無理でもそれで押し通すんだよ」

 いや、撃たれたから撃ち返すってのも、混乱した状況なら、ありえることだしね。

「んで、それ以降は、原隊に復帰したら、指揮官の判断で起こった脱走に巻き込まれてしまって、逃げ出す隙もないまま、止むを得ず、以後の戦闘に参加する破目になってしまったとすればいい」
「ただ、命令されて、やっただけだと?」
「その通り。……まぁ、実際は違うかもしれないが、そう言い張れる余地はある。そもそも、指揮官ってのは責任を取る為にいるんだから、全てを押し付けてしまえばいいさ」

 だから、ザフト時代は本当に、しんどかった。

「プラントの最新鋭機だったフリーダムを奪取して、無視できない損害を与えた功もあるし、脱走の責任を指揮官に取らすことができたら、銃殺まではいかないはずだ」
「……そうすれば、ここでなくても、追われることなく普通に生きて行ける可能性があるということですね」
「ああ、そういうことさ。それに、地球連合が崩壊している現状なら、MIA認定されているはずのお前さんが在籍していた事自体の記録が残っていない可能性も……、いや、流石にこれは期待できないかな?」
「いえ、ですが、MIA認定を受けたままなら……、以後の行動は何とでも誤魔化せる」
「ははっ、そうだな。そもそも、世界各地で武勇伝を残してきたお前なら、生きていこうとする意志さえあれば、どこであっても生きていけるだろうさ」

 さて、逃げ道は作ってやったし、説得にかかるか。

「ヒビキ、俺もお前と同じで、戦争は嫌だし、人殺しも嫌だ。……戦争も人殺しも嫌だと言ったお前さんなら、わかってくれると思うが、戦争とはいえ、人を殺した時、苦しかっただろう?」
「……ええ。僕は、自分と友達を守る為に、人を殺しました。けれど、周りはその事をよくやったと褒めて称えるだけで、人を殺した時に感じた思いを……、人を殺す苦しみを誰もわかってくれなくて……、本当に、苦しかったです」
「……それでいいんだ。……人は、人を殺した事に、いや、どんな生物であれ、生命を奪う事には、呵責を覚える位でちょうどいいんだよ」

 ヒビキは静かに話を聞いてくれているようだ。

「だが、どんな理由であれ、生命を奪った以上、その生命の重みを背負って生きていかないといけない」
「……それは、絶対に負わないといけないんでしょうか?」
「ああ、負わないといけない義務、命尽きる時まで背負わないといけない重たい重たい義務だよ。……もっとも、今の世の中じゃ、それを蔑ろにしている奴の方が多いのが現実だけどな」
「じゃあ、ラインブルグさんは?」
「俺か……」

 植樹されてからも、一年二年ほどだろうに、それでもしっかりと根を張っているらしい緑樹を眺めながら、続ける。

「俺は前の戦争で、お前以上に多くの人を……、恐らく、自分の手だけでも、軽く千人以上は殺しているし、部隊長として部隊を動かしてきた責も含めれば、直接的に関わったのは万に届くかもしれん」
「ッ!」
「ははっ、そんなに驚くなよ」
「あ、その、……すいません」
「いや、別に謝る必要もないけどな。まぁ、でも、それだけ多くの命を背負ってるからこそ、俺は今後の人生で、人の生活を、人の幸福を守りたいと思っているし、そうあるように努力していきたいと思っている。例え、自己満足だろうと、偽善だろうと、殺した連中やその遺族に怨まれようがな」
「……なのに、何故、軍にいるんですか? 軍にいなくても、人の生活や幸せを守れるはずです。それに〝力〟は持つだけで、人に不幸を、憎悪をもたらす可能性があります」
「軍にいる理由に関しては、俺もお前みたいな理由があって予備役になっていたからさ。今回の動員が終わったら、自分の会社に戻る」

 ……その時まで、会社に席が残ってればいいけどねぇ。

「後、〝力〟は必ずしも不幸だけを呼び込まないさ」
「ですが、それが理不尽に振るわれた時は……」
「ああ、被害が出るだろうし、それに伴なって憎悪も生まれてもくるだろうから、本来は存在しない方が良いものさ」
「なら……」
「でも、そんな理不尽な〝力〟を振るわれないようにする為の〝力〟でもある。お前さんも、アルスターを探す過程で、世界を巡って、力で解決しなければならかった事を何度か体験してきたはずだ。……世の中は奇麗事だけで通じるものではない、って、感じた事はなかったか?」

 ヒビキは、小さく、頷いた。

「そう、奇麗事って名の理想は常に素晴らしい輝きを見せているが、現実はもっと泥臭くて汚泥にも満ちているもんだ」
「……そうかもしれません」
「だったら、どうすればいい? 自分の愛する人を守るには、奪われない為には、どうすればいい? 悲しむべき事に、〝力〟を放棄する事ができない今の俺達は自衛の為の〝力〟を持つしかないんだよ。そして、〝力〟を持つ以上、それが存在する意味を知り、振るうべき時を見極めなければければならない」
「……存在する意味」
「ああ、今のお前さんならわかってると思うが、〝力〟ってのは、人の意志が加わる事で、初めて、プラスにもマイナスにも傾く物だ」
「……人の意志次第で存在する意味が変わる、ということですね」
「そうさ。人の意志、〝力〟を振るう意味を知っていて、自制を常に効かせていれば、立派な抑止力になるし、逆に〝力〟の持つ魔性に魅入られて、欲望のままに溺れてしまえば、ただの暴力に堕ちる、そんな存在なのさ」

 ラウが遺してくれた言葉を使わせていただきました。

「人の、意志、次第」
「ああ。そして、少なくとも、今のアメノミハシラなら、理不尽な〝力〟を使うことはないはずだ。今回のL3制圧も地球圏全体の宇宙航路を脅かしている海賊の根絶が第一の目的だし、元々、あそこにあったコロニーや資源衛星はオーブのものでもあるから、自衛の範囲と解釈できるしな」
「……確かに、そうですね」
「それに、もしも、お前が予備役として参加してくれた後でも、アメノミハシラの〝力〟の振るい方に納得いかなければ、その時はアメノミハシラから逃げ出すなり、俺に噛み付くなりすればいい。まぁ、その時は、おそらく、俺もお上に噛み付いているだろうがな」

 ……そろそろ、もう一度、切り出してみるかな。

「ヒビキ、改めて聞くが、予備役として、非常の際、このアメノミハシラを守る事に、手を貸してもらえるか?」
「……少し時間を貰って、考えさせてもらっても、いいですか?」

 おっ、ちょっと前進?

「ああ、もちろんだ。っと、念の為に言っておくが、この話を受けなかったとして、お前の罪を追及するような事もしないから、安心しろ」
「はい、それは、先程の話を聞いて、わかってます」

 微かに笑みを見せたヒビキを見るに、先に見せた誠意(笑)は通じているようだった。

 ……さて、次を聞いておこうか。

「それと二つ目なんだが……、ヒビキ」
「あ、はい」
「ラウは……、お前さんがあの戦争で最後に戦った、ラウ・ル・クルーゼは強かったか?」
「……何故、そのことを?」
「あの時、お前さん達二人の会話を偶然にも聞いていたからさ」
「……そう、ですか」
「それで、どうなんだ?」
「ええ、あの人は今まで出会った誰よりも〝強い人〟でしたし、僕がこれから生きていく上で乗り越えるべき人です」
「……そうか、お前さんに、そう言ってもらえるなら、ラウの奴もきっと喜んでいるだろうさ」

 ふっ、まだまだ熱さが足りぬな、って言ってるラウの姿が目に浮かびそうなのは、ご愛嬌。

「ラインブルグさんは、僕が憎くないんですか?」
「はは、お前さんがうじうじとした奴だったら、間違いなく罵声を浴びせて尻を蹴り飛ばした上で、尻の穴に手を突っ込んで奥歯ガタガタいわせるかアフンアフンさせていただろうが……、今の、一人前の男の顔をしているお前なら、納得できるさ」
「……それって」
「ああ、ヒビキ、お前はラウの死をしっかりと背負っているよ」

 ……ヒビキは、何か、許しを得たかのように、少し明るい微笑みを見せた。

「っと、これで最後になるんだが、何故、姓はヤマトじゃないんだ? あの最後の戦いの時に、自分はヤマトだって咆えてた気がするんだが?」
「それは……、あの人が言っていた僕の業を……、知らなかった僕の業を背負う為の、覚悟です」
「……そうか」

 こいつも色々と背負ってるんだな。

「……さて、話はこれで終わりだが、何か、そっちから聞きたいことはあるか?」
「えと……」
「ん?」
「そ、その、しょ、初対面の人に、こ、こんな事を聞くのも不躾すぎて、ちょっと、アレかもしれませんが、ほ、他に相談する人がいなくて、その……」

 なんだろう?

「じょ、女性を満足させるには……、どうすれば?」
「……それはもしかして、夜の営みの話か?」
「……はい」

 むぅ。

「そればかりはな~、十人十色というか、それぞれにあった形で、自学自習で頑張れとしか……」
「ええっ! 三人も同時に満足させているラインブルグさんならっ!」
「ちょっ、なにそれっ!」
「あ、その、フレイが、ラインブルグさんと付き合ってる三人から、とにかく〝獣みたいに凄くて、毎回、先にダウンする〟って聞いたって、言ってました」

 お、おぅ、女同士のネットワークって、明け透け過ぎて、怖いっ!

「だ、だから、お願いしますっ! 教えてください! も、もぅ、フレイからキラハヤイワッテイワレルノハ……」
「うー、あー、わ、わかった。わかったから、そんな悲壮な顔を見せないでくれ。こっちまで心が抉られる」

 女にハヤイって言われて、男が目を虚ろにしたら、余りにも儚すぎるだろう。

「んっ、んんっ! い、いいか、ヒビキ。どれだけハヤイって言われても、常識的に考えて、常人の三倍ハヤイわけじゃないんだろうし、あまり気にし過ぎるな。そもそも、必ずしも遅いのがいいわけじゃないんだからな?」
「え、そ、そうなんですか?」
「ああ、そうなんだよ。まぁ、今は取り敢えずはそれで納得しておけ。で、今から俺が教える事なんだが……、簡単な対処法、いや、男としての心得えだな」
「心得え?」
「ああ、心得えだ。……いいか? 男ならな、まずもって、自分が気持ち良くなる事よりも、相手に気持ち良くなってもらう事を全ての基本として考えるんだ」
「相手に、気持ち良く……」
「そう、相手を気持ち良く昇り詰めてもらうまでは……、もちろん、男として辛抱堪らん気持ちもわかるが、どこまでも〝我慢〟の二文字だ」
「……我慢する。確かに、僕には足りていなかったかも」
「うん、心当たりがあるようだな。じゃあ、次に直接的に手を出す時の話だけどな、相手が意識して出す事ができる表面的な反応……特に声音や言葉に捉われずに、身体の反応……肌の色や発汗の量、ちょっとした反応を見て……」

 ってな具合に、悩める少年の夜のセイ活相談に乗ることになってしまい、個人的な友誼を結ぶ事になったのは予期せぬ事であった。

 でも、この会話でキラ・ヒビキが好感を持てる奴だってのがわかったし、本人以外からの情報も聞く限り、一日一日をアルスターと一緒に自分の足でしっかりと立って生きているんだから、アルスターの〝お父さん〟役だったラウの奴も及第点を出すだろう、うん。
11/12/23 誤字修正。


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