第三部 導なき世界の中で…… (C.E.72年-C.E.75年)
34 変化する日常 -予備役召集 2
三月。
マリーネが採用されたあの日の夜、あの内の獣が激しく猛り狂い欲望の赴くまま、我が息子が大活躍した事で、レナ達の総身を色んなモノで〝ドロドロ〟にする程に非常に熱くも甘い時を共に過ごし、関係を一歩進めた俺達四人は、その後の夜も、その互いを想う情熱と溢れんばかりのパトスの赴くままに身体を貪るという肉欲に爛れ切った悦楽の日々を……、非常に残念な事に送ることは出来ず、新しい状況に置かれる事になってしまった。
……L3の制圧を目指すオーブ国防宇宙軍が予備役の一部を召集し、準戦時体制に入ったのだ。
この影響で、俺とレナ、マユラの三人は現役に復帰(?)することになり、サハク准将の直属というか、総司令部付という形で、【MBF-M2】との型番を与えられ、配備が急がれているマリーネへの現役パイロット達の機種転換訓練や新人パイロット達の基礎訓練の教官役を担う事になってしまった。
その為、俺達はラインブルグ・グループの仕事から離れることになってしまったのだが、グループ内でこれまで俺が担当していた軍需関連部門は俺の権限……親父が掌握した開発の可否判断以外の全てをパーシィに委譲させたから、ある意味、俺が関わっていた頃よりも一層機能的になるだろうし、研究開発以外の仕事で忙しくなるパーシィを補佐すべく、第五開発部の取りまとめをシゲさんが務める事になっているから、何の心配もしていないし、する必要もないだろう。
っと、その第五開発部の話で思い出したが、三月中旬頃に、宇宙工業というかラインブルグ・グループの軍需関連部門は、赤道連合政府及び軍部からマリーネを元にした陸戦用主力MSの開発を依頼されるなんて、驚きの事態に遭遇していたりする。
その話が持ち込まれた頃、既に俺は宇宙軍のMSパイロット相手に鬼訓練を実施する日々を送っていて、その事実をリアルタイムで知らされることはなかったから、休日に会う機会があったパーシィとの世間話で、マリーネの陸戦型を開発することになっちゃったよ、と聞かされた時は、非常に驚いたものだ。
で、パーシィからの詳しい話を聞いた所、なんでも、諸般の事情でアメノミハシラを訪れていた赤道連合の国防次官や軍将官クラスが例のコンペティションに招待されていたらしく、その時にマリーネが魅せた力強さに惚れ込んでしまい、是非、我が国であのMSを導入したいという流れになったそうだ。
……つか、その招待って、サハク准将がL3再建と軍備拡張資金を調達すべく外貨獲得の為に仕組んだとしか思えないのだが?
もちろん、それを准将に聞くのは野暮ってものだから聞くことはしないが、とにかく、親父は昔からの盟友であるスズキ氏と相談し、客観的に見たグループのキャパシティとアメノミハシラや世界の状況を慮った上で、この案件を赤道連合に籍を置く企業との共同開発という形にして受ける事にしたらしく、パーシィに陸戦型マリーネの開発設計を始めるようにと指示を出したそうだ。
うーむ、トントン拍子に進んで行く、冗談のようで本当の話だから反応に困る。
でもまぁ、このように俺がいなくても以前のように会社は回っているので、……これはこれで切ないと言えば切ないが、安心して、日々、シミュレータールームで機種転換を行う連中の相手をしている所だ。
今も……。
「サイハッ! さっきまでの威勢はどうしたっ! もう反応が遅くなっているぞっ!」
「くっ、了解っ!」
「ワンッ! お前の仕事は何だっ!」
「さ、サイハ二尉のフォローですっ!」
「なら早く動けっ! フォローが遅いッ!」
「す、すいませんっ!」
「キタガワッ! 経験を持って若年の足りない部分を補うのがっ、ベテランであるお前の仕事のはずだっ! サイハにもっと積極的に助言をしろっ!」
「はっ! 了解でありますっ!」
……なんて具合に檄を飛ばしている。
ちなみに俺以外の二人だが、レナは座学講習でマリーネの機体特性を教える事を、マユラは自身の訓練も兼ねて、別のシミュレーターで行われている一対一での対MS模擬戦闘での仮想敵を、それぞれ担当している。
まぁ、要するに、昨今、女性の力が強くなってきているとはいえ、軍隊では〝なめられる〟ケースが多い故の役割分担だ。
「おい、サイハっ! 俯角への警戒が薄いっ! 直に敵が来るぞっ!」
「ッあっ! しまっ!」
……なーむー、リュウト・ライ・サイハ二尉は仮想敵であるストライクダガーの射撃を受けて、撃墜されました。
その後、新任である為、不慣れなワン・フゥイミン三尉への指揮継承が上手くいかず、部隊としての連携が欠けてしまった所、更に敵に詰められてしまい、ワン三尉を庇ったタスケ・キタガワ准尉が落とされた後、そのワン三尉も落とされるに至った。
それでも、キタガワ准尉を除く二人が実戦を経験していない事を考慮に入れて考えたら、昨日、訓練を始めたばかり段階では及第点だと判断できるだろう。
「三人ともシミュレーター訓練は一旦終了だ。別室で戦闘データを受け取り、撃墜された要因の究明と小隊連携の確認を行った後、戦術指導官に対策案を提出して、評価を受けろ。その後、第一重力区画《第一居住コロニー》で〝回し車〟を一周走った後、また戻って来い、いいな?」
「……了解です」
サイハ二尉が疲れ切った声での返事をした後、三人は敬礼し、まだ余裕があるらしいキタガワ准尉以外はフラフラと怪しい動きで、シミュレータールームを出て行った。
然もあらん、〝回し車〟とは第一居住コロニーの〝地下〟に設けられている幅二十m、高さ五m程の軍専用ランニングコース……、体力養成訓練施設で、一周は約十二㎞に及ぶからなぁ。
これも生き残る為の鍛錬だと、心中で手を合わせつつ見送った後、次の組がやってくるまでの時間を使って、L3に巣食う海賊の根絶と宙域制圧を目指すオーブ国防宇宙軍について、自身が把握した事を思い返すことにする。
オーブ国防宇宙軍はオーブ連合首長国が有する陸、海、空、宇宙、本土防衛軍の五軍の中の一つであり、総司令官であるロンド・ミナ・サハク准将の下、アメノミハシラに総司令部及び参謀本部を置いて、総務部、情報部、作戦部、兵站部、通信部、衛生部、教育部、技術部、監察部といった部局を指揮監督し、作戦部隊として二つの宇宙艦隊と一つの防衛隊、それらを支える後方支援部隊を抱えて運用している。
総司令部や各部局に関して言えば、宇宙軍全体の指揮統括を行うのが総司令部、各部局の長で構成され、総司令官であるサハク准将を多面的に補佐する参謀本部、宇宙軍の人事や保安、アメノミハシラの民政や軍内の庶務といった事を行う総務部、本国等から様々な情報を収集したり、防諜を担当する情報部、サハク准将を助けて作戦計画を立案したり、それを行う為に必要な訓練を計画したりする作戦部、作戦部隊が動く為のロジスティックを担う兵站部、ニュートロンジャマーによって著しく制限された通信手段や方法を効率化する通信部、軍内部の防疫や衛生管理を行い、軍医や衛生兵を掌握する衛生部、宇宙軍に配属された士官、下士官、兵卒に宇宙において必須な技能や知識を教育する教育部、宇宙軍で使用する技術の開発や採用された兵器が実用に耐えうるか、一定水準を保っているかの検査を行う技術部、宇宙軍全体を律し、憲兵や軍法を司る監察部という具合だ。でもって、これら部局の長は、最高位である総司令官が准将であることから、基本的に一佐が充てられているらしい。
まぁ、とにかく、軍隊とは、一種華やかな(?)作戦部隊や地味だが存在感がある(?)後方支援部隊だけで成り立っているのではなく、先に挙げた様々な部局組織が複雑に絡み合いつつ、それぞれ専門とする所で力を発揮して協力し合って、部隊の人員を確保して給料払ったり、部隊に必要な情報を届けたり、部隊の作戦目標を設定したり、部隊に軍需品や日用消耗品、食料を送り届けたり、部隊の衛生環境を整えたり、部隊に配属される将兵を教育したり、部隊で使用する兵器や物品を揃えたり、軍人として逸脱した行為をしないように律したり、と作戦部隊や後方支援部隊が効率的に動けるように支えているというわけだ。
……本当に、以前所属していたザフトと比較して考えたら、比べもんにするのが申し訳ない気分にさせられる。
次に作戦部隊だが、宇宙軍の艦隊戦力……、二つに増えた艦隊はそれぞれ、第一、第二とナンバーを振られており、共にアメノミハシラを母港にしている。
第一宇宙艦隊は、イズモ級のネームシップであり、サハク准将が主に座乗するイズモを旗艦とし、宇宙軍の主力艦に位置づけられたトツカ級MS艦載型護衛艦が四隻、艦隊護衛艦艇としては少々力不足だがハガネ級護衛艦が八隻で構成されている。
この第一宇宙艦隊には、更にトツカ級四隻とモルゲンレーテが中心になって開発を進めているMS母艦一隻が配属される予定であり、ラインブルグ宇宙造船が艦隊用護衛艦艇として開発しているクロガネが必要性能を満たすならば、ハガネ級と更新する可能性もあるそうだ。
また、もう一つの艦隊戦力である第二宇宙艦隊だが、これまでイズモとオーブ唯一の宇宙艦隊を構成していたイズモ級三番艦であるイナバを旗艦に据え、ハガネ級四隻で構成されている。
正直、艦隊と言うには脆弱としか言いようがないが、第二宇宙艦隊自体が以前の宇宙艦隊から分離して誕生したばかりの上、配属される予定だったトツカ級二隻をSKOに獲られてしまった為、このような状態だとか。
この艦隊にも、トツカ級八隻とハガネ級四隻、更にMS母艦配備する予定らしいが……、駐留拠点がL3になる為、本格的に戦力が整うのはL3制圧後になるかもしれない。
で、この艦隊整備について、気を許せるマユラがいる為だろう、二日に一度は必ず顔を見せるコードウェル一尉との世間話で知った事なのだが、当初、オーブ国防軍で採択されていた宇宙艦隊整備計画では、イズモ級を量産しての整備が予定されていたそうだ。
だが、絶大な攻撃力を誇るがコストがべら棒に高い陽電子砲を二門も装備し、旧連合軍が使用していた300m級……アガメムノン級が運用している物に匹敵する電磁カタパルトを新規開発して装備した影響で調達価格が高騰しており、早期整備はとても不可能だと判断されていたらしい。
しかしながら、アメノミハシラを取巻く世界は、流石に弱肉強食とまでは言わないが、以前起きたユーラシア連邦による侵攻が起きた様に安定しているわけではない為、敵戦力を迎撃する艦隊の整備は急務だったそうだ。
宇宙軍上層部が頭を悩ませる日々を送っていた所に、艦隊護衛用補助艦艇として想定していたトツカ級が護衛タイプから汎用タイプに変化している事を部下から知らされた技術部長が、参謀長主催の定期会議で、オーブ本国が焼かれた影響で、アスハ派が多数派を占めるお上も沈黙している今こそ、先の艦隊整備計画を破棄し、新規艦隊整備計画の立案する事をサハク准将に提言する事を提案したらしい。
この提案は、信条的に相容れないアスハ派への反発に加え、トツカ級が調達価格がイズモ級の十分の一、運用人員も四分の一程度でありながら、艦隊戦を担えるだけの攻撃力と対MS戦闘も考慮した防御力、MS小隊を艦載できる等、小回りの利く運用性を備えている事もあって、参謀会議では珍しくスンナリと満場一致で通り、サハク准将に提言が為される事になったとのこと。
この参謀本部からの提言を受けたサハク准将は熟考の末、イズモ級を運用しないことで不足する艦載機を補填する母艦と艦隊護衛用艦艇の調達を含めた新規艦隊整備計画を立案するように指示し、結果、宇宙軍はモルゲンレーテにMS母艦を、ラインブルグ・グループには護衛艦艇の開発依頼を出すことになり、これの対応に、当時の俺が忙殺されたという訳だ。
ちなみに、これらの艦隊及び機動戦力を整備する為に絶対に必要になる財源はどうやって確保したかというと、簡単な話、先の戦争でプラントと地球連合が相手方の通商破壊を回避する為に、それぞれが行っていた中立国を経由する中継貿易で荒稼ぎして、プールしておいた資金の半分程を使用したとの事らしい。
……こういう話を聞くと、戦争ってものが、当事者達ではなく、第三者が儲かるって事がよくわかるし、だからこそ、大西洋連邦が前年に起きたユーラシア動乱で暗躍したのだろうと、納得してしまうよ。
さて、お題を戻して、宇宙軍に一つだけある防衛隊だが、これはアメノミハシラを守備を担当する部隊であり、当然ながら、アメノミハシラに部隊拠点を置いている。
以前はもう一つ、L3のヘリオポリスを守る防衛隊もあったらしいが、ラウ……、クルーゼ隊の連合製MS奪取に伴なう戦闘で壊滅してしまった事に加え、ヘリオポリス自体が崩壊してしまう事態に陥った結果、今年の組織改編で正式に解隊されたそうだ。
そんな訳で宇宙軍唯一の拠点防衛隊であるアメノミハシラ防衛隊は、アメノミハシラ〝内部〟の治安維持は軍警察的な存在でもある保安隊が担当している為、アメノミハシラ〝外部〟での防衛を担当しており、一個MS大隊三十六機を基幹戦力として、早期警戒を担うノルズ及び十二個BI編隊百四十四機、アメノミハシラに備えられた近接防御火砲群、機動戦力の整備支援部隊で構成されている。
これらの戦力に艦隊整備に伴なって、余剰のハガネ級が発生した場合、沿岸警備ならぬ管制宙域警備用艦艇として配属される可能性も無きにしも非ずとのことだ。
更に今後予定されている所ではL3宙域の制圧が成功して、スペースコロニーの建設が始まった場合は、L3宙域防衛を担う防衛隊が新規に組織されるらしい。
いやはや、宇宙軍の組織形態や詳しい内情に疎かった俺に、短期間で理解できるよう、解りやすく語ってくれたコードウェル一尉には、本当に感謝しないといけないな。
今度、時間がある時でいいからって、断りをつけて、マユラ達と一緒に昼飯を奢るのもありかもしれない、なんて事を考えた所で、次の組がやってきたようだ。
……よし、頭を切り替えて、お仕事、頑張りますかね。
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