ブックリスト登録機能を使うには ログインユーザー登録が必要です。
第三部  導なき世界の中で…… (C.E.72年-C.E.75年)
29  軍神の舞踏会 -コンペティション 1


 72年も最後の月に入ったのだが、先月と変わらず、俺というかマリーネ計画のメンバーはマリーネの開発に勤しんでおり、それなりに忙しい日々を送っている。とはいえ、パーシィもシゲさんと共に洗い出した改修点を見直しながら量産機の設計を詰めているし、ミーアはミーアでナナと共に、補助AIの改良に務めている日々だ。
 俺もまた、新規開発計画というか、新しい護衛艦建造プロジェクトの方もメンバーの選出を終えて、面ど……げふげふ、ハガネ計画を参考にして、【クロガネ計画】と名付けたプロジェクトを発足させて、始動させているのだが、今回も基本的にはノータッチでプロジェクトのメンバーにお任せする方針だ。

 まぁ、なんにしろ、マリーネの開発は非常に順調なに進んでいる状態だし、クリスマスまでには軍向けに量産機の披露会が行えるはずだ。

 もっとも、オーブ本国では友好企業であり、ライバルでもあるモルゲンレーテの本社がM1アストレイを元にした新型機【ムラサメ】を発表しているし、ここの支社でも宇宙用の奴が開発されてるって話だからなぁ。

 聞く所によると、ムラサメはMA形態に変形が可能な、所謂、可変機らしいが……、むぅ、防御面や機体剛性的にはこちらの方に分があると信じておこう。

 とまで考えた所で、新たに入った……、と言うよりは、第五開発部に引き入れたニューフェイスが休憩室に顔を出した。

「主任、ここにいたんですか? 探しましたよ」
「ん、何かあったのか?」
「その、ユカリさんが……」
「はは、今度こそ、あのスケコマシにキャン言わしたる、ってか?」

 最近、マユラに勝てるようになった上に、自分の姉であるアサギ・コードウェルが国防陸軍から宇宙軍に転籍してきた影響なのかはわからないが、妙にハイテンションで突っ掛かってくるんだよなぁ。

「い、いや、そこまでは言ってませんけど……、似たようなことを言ってるんで、相手をしてあげて下さい」
「なら、俺が行くまで話し相手をしておいてくれ、もう一仕事あるんだわ」
「ええっ! いや、その、それは……」
「いいじゃないの、可愛い女の子に、あれほど露骨なまでに積極的にアプローチされてるんだからさ」

 俺の言葉を聞いた瞬間に、第五開発部の期待の新人、サイ・アーガイルは項垂れて呟いた。

「いや、その、好かれるのは嬉しい事は嬉しいんですが、俺はどちらかと言うと、アサギさんの方が……」
「へぇ、そうなのか?」
「あ、いや、今のは、内緒ということで」
「了解了解、マユラにそれとなく、コードウェル二尉の好みや休みの日を探っておいてもらうよ」
「い、いや、そうじゃなくてですね」

 マユラの紹介で引き合わせてもらった、アサギ・コードウェル二尉の姿を思い出しながら、頷いてみせると、顔を赤くしたアーガイルは項垂れた勢いでずれてしまった色眼鏡を元に戻すべく、フレームを押し上げて言葉を続ける。

「その、ユカリさんの元気の良さも十分に魅力的なんですけど、今は、どちらかというと、アサギさんの包み込むような温かさに惹かれるというか」
「な、なんと、姉妹一緒じゃないと嫌だと?」
「そんなこと、誰も言ってませんよ!」

 いやはや、アーガイルは反応が良いから、ついつい、からかってしまうんだよなぁ。

「わははは、冗談だよ。でも、まぁ、仕事があるのは本当だから、コードウェルのトレーニング代わりに二人でオフィスラブに興じていてもいいぞ?」
「いや、だから、しませんって! そもそも、俺にも仕事がありますっ!」
「えっ、そうだったのか?」
「ええ、制御系の調整をシゲ班長とするんですよ」
「なんだ、それならそう言ってくれれば良いのに」
「いや、主任が話を逸らしたんですよ」
「おっと、仕事の時間だ。まぁ、コードウェル三尉には大人しくトレーニングしてろって言っておいてくれ」
「……最初から、そう言ってください」

 疲れた様子で去って行くアーガイルを見送った後、俺も次の仕事、パーシィとのコスト面での話し合いをするべく第五開発部のオフィスへと向うことにする。

 その途上、時折、擦れ違う技研の社員達と会釈しあったり、顔見知りなら軽く言葉を交わしながら、サイ・アーガイルが第五開発部に所属することになった経緯について思い返す。

 先月の十九日、フレイ・アルスターとその意中の男であるキラ・ヤマト……なのだが、諸般の理由でキラ・ヒビキと名乗っている少年が公衆の面前で行った熱烈な抱擁と深い深い接吻は、俺から三日間の有給休暇が与えられたと聴かされた瞬間に、長い別離の時を経ていた影響もあったのだろう、お互いの情熱に火をつけたらしく、そのままアルスターが住まう家へと直行することに相成った。

 その若い恋人達が見せる何とも微笑ましい行動に、耳を押えながらも事の推移を見守っていた観衆達は、女性陣が大興奮しつつも、あの男の子、格好良さと可愛さが同居していて、いいなぁ、等との合唱を行う一方で、男性陣は、ひゅーひゅー、いいぞぅ、小僧ぅ、と囃し立てる連中と、モゲロ、モゲロ、とにかくモゲロッ、と呪詛を吐く連中に別れる事態となり、中央回廊を警邏する保安隊までもがニヤニヤしつつも人垣を整理する始末だった。
 で、そんな馬鹿騒ぎの中、ただ一人だけ参加せず、寂しそうでいて嬉しそうな表情で二人を見送っていたのが、サイ・アーガイルだったのだ。

 どうやら二人とは知り合いらしいと、元プラント保安局員としての勘が働いたので声を掛けた所、案の定、二人とは共通の友人であることが判明したのだ。でもって、その事実を知った女性陣からの無言無形の圧力によって、これは是非にも話を聞かねばならんだろうということになり、第五開発部に招待して、彼らの二人の素性と、アルスターと別れてからここに至るまでに辿ってきた道筋について、聞くに至る。

 その話は割愛する……わけにもいかんだろうから簡略に纏めるが、アーガイル達は今は無きヘリオポリスで学生をしていたらしい。で、ラウ率いるクルーゼ隊と地球連合軍が起こした戦闘でコロニーが崩壊してしまった際、紆余曲折を経て連合軍に所属して、足つきに乗組んだそうだ。
 その後、ザフト地上軍に追われながら辿り着いたアラスカでアルスターと別れた後、アラスカ攻防戦を戦っていた所、サイクロプスが仕掛けられている事を知り、それに巻き込まれそうになったから連合軍から脱走したとのこと。そして、指揮官の判断でオーブに亡命……になっているかはわからないが、とにかく、逃げ込んだそうだ。そんな最中、一時、行方知れずになっていた、キラ・ヤマ……ヒビキが乗ったMS、フリーダムが合流したらしい。

 聞いた瞬間、奴がフリーダム強奪の犯人だったのか……、と思わなくもなかったが、主犯がラクス・クラインであることは間違いないし、今更の事だと判断し、先に話を聞くべきだと黙っておいた。

 んで、オーブ本国に連合軍が攻め込んだことで発生した防衛戦に参加して戦闘を繰り広げていると、フリーダムを追ってきたジャスティスが出現し、何故か共闘する事になったと思ったら、連合軍の物量に負けそうになったから、マスドライバー使って宇宙に逃げ出してL3に隠れる事になったらしい。

 ……なんというか、転落人生と表現できなくもないなと思ってしまった。

 ちなみに、オーブ本国防衛戦後はマユラも同じコースを辿っていたりするので、マユラ本人にあの二人を知っているかと確認した所、フリーダムに乗っていたヒビキの事はM1アストレイのOS開発に関わっていた為に覚えていたらしいが、アーガイルの事は覚えていなかったらしく、えっ、いたっけ、との言葉を述べていたりする。

 そんなマユラの無情な言葉に、どうせ俺は影が薄いです、だなんてショボーンと凹んでいたアーガイルに、さぁさ、続きをキリキリ話せと強いた俺は悪い奴ですごめんなさい。

 まぁ、それはともかくとして、後に合流してきたラクス・クラインの考え……、これ以上の戦争は食い止めるべきだとする考えに共感した足つきの指揮官やカガリ・ユラ・アスハの意向もあって、先の戦争における最大の激戦となったプラント最終防衛戦に介入すべく……、ここで何故に武力介入なのかを、最終防衛戦までの三ヶ月間もいったい何をしていたのだと、その首脳陣に問い質したい気分だが、アーガイルにはわからないだろうから我慢しておいて……、とにかく、クライン派がL3にいた傭兵や海賊を懐柔して戦力を整えて、L3からL5を目指したらしい。
 だが、L3からL5まで距離があった影響で二日目の大規模戦闘にしか間に合わず、しかも、自分達が戦闘に介入し始めて、しばらくしたら停戦になってしまった上、足つきが大損害を受けたり、最大戦力であったフリーダムも撃破されたりしたので、L3に逃げ出したそうだ。
 ちなみに、ジャスティスは戦闘に直接参加せずにザフトのIFFを利用して、ヤキン・ドゥーエ要塞に入り込んで何やらしていたそうだが、直に引き揚げてきたそうだ。

 うーむ、実に謎な動きというか、まさか、ザラ議長の暗殺犯じゃないだろうな?

 ……。

 まぁ、所詮は邪推にすぎないから本当の所はわからないけど、直接的には関わってなくても間接的には関わりがあったのかもしれない。だが、これも過去の話だし、ザラ議長が死に至った真相が隠されている以上は黙っておく方が賢明だろうな。

 話を戻して……、L3に大慌てで引き揚げた後、プラントと地球連合軍の双方から敵扱い……テロリスト扱いされている事を踏まえ、これからどうするかという話し合いが持たれたそうだ。
 その結果、装備していた多くの兵装に関してはクライン派やオーブ軍が伝手を使用して隠蔽し、参加人員もオーブ軍は本国のアスハ派を使って、何事もなかったように原隊復帰させる一方で、足つき組もオーブ本国で偽名で持って市民権を得て隠遁、クライン派だけは世界各地に散らばって潜伏することが決まったらしい。

 ……おいおい、危険ブツが世界に拡散している、って思ってしまったのは誰にも内緒だ。

 で、そんな中で唯一人だけ、別の道を選んだのがキラ・ヒビキだったらしく、激闘を繰り広げたラウから伝えられたという自身の出生の謎を探り出し、また、どこかで生存しているというフレイ・アルスターを見つけ出して再会する事を望んだらしい。この決意表明の際には、ラクス・クラインをはじめ、多くの者が翻意を促したそうだが、ヒビキの決心は非常に固く、決意を翻す事はなかったそうだ。
 そのヒビキの並々ならぬ決意に心打たれたのがサイ・アーガイルであり、ヒビキのアルスター……何とも驚いた事に、元はアーガイルの婚約者だったとのことだ……捜索の旅路に同行する事を申し出たらしい。

 そして、二人はL3を離れて、世界を巡る事になったらしいが……、ヒビキのアルスターを求める余りの、〝最短の道がなければ自分で作ればいいじゃない〟的な積極論と、アーガイルの冷静に状況を見据えた、〝道は幾らでもあるんだから無理に最短を行かなくてもいいじゃない〟的な慎重論という、水と油的な意見の相違で大いに対立し、時には肉体言語での衝突……当初はアーガイルが余裕で負け越していたらしいが、L3にいた頃に〝拳神〟と呼ばれる人物から受けた教えを思い出しながら、諦めることなく抗っていたら、遂には、勝てないまでも五分の勝負にまで持ち込めるようになったそうだ……を繰り返しながらも、アルスターの足取りを一歩一歩地道に探っていったり、L4のとあるコロニーでヒビキが自身の出生の秘密を知って壊れかけた際にはアーガイルが拳で持って発破を掛けたり、路銀獲得の為にジャンク屋にバイトとして雇ってもらってデブリの海でジャンク拾いをしたり、アーガイルがイイ漢に迫られた際にはヒビキが機転を利かせて耽美な関係を演出してみせたり、乗っていた連絡船が海賊に襲われた際にはアーガイルが悪知恵を働かせ、ヒビキが逆襲して海賊の身包みを剥いでみたり、行く先々でナチュラルを虐げるコーディネイターやその逆のケースに遭遇した時にはそれを正す為に二人で協力してOHANASIでもってSEKKYOUをしてやったり、コーディネイター難民キャンプを通じて大西洋連邦に密入国してアルスターの実家を訪ねてみたり、路銀が尽きたので多くのMSが沈むアラスカ周辺の海域でジャンク屋の一攫千金を手伝ったり、密入国をする際に世話になった難民キャンプをファントムペインの構成員が襲撃するという情報を掴んだので計画を事前に潰してみたり、等々と三本位は〝フ○イトぉぉぉおぅ! イッ○ぁあああツっぅぅ!〟な友情活劇映画が作れそうな過程を経て、ここまで辿り着いたそうだ。

 ……つか、お前ら色々と冒険し過ぎだろう、って俺が突っ込みかけたのは仕方がないと思うんだ。

 とにかく、アーガイルは、ただ、ヒビキとの友情と元婚約者の安否確認の為だけに、数多くの危険地帯を渡り歩いてきたという、実に稀有な〝お人好し〟というか、良い意味での〝馬鹿な男〟と言えるだろう。

 実際、ユカリ・コードウェルなどはアーガイルの突き抜けた〝馬鹿さ〟と〝お人好し〟な在り方に大いに感動し、まるで自身の理想を見出したように、目を白黒させているアーガイルの両手を握り締め、あなたはどこかのスケコマシも見習うべき、素晴らしい男の人ですっ、もっと自信を持って胸を張ってくださいと、目をキラキラさせて興奮していたからな。

 でも、まぁ、俺自身もアーガイルの〝馬鹿さ〟で〝お人好し〟な人格が気にいった事もあったから、今後の生活の世話を焼こうと考えて経歴を聞いた所、ヘリオポリスの工科カレッジで構造工学や制御システム関係を学んでいた事を知り、一旦、連絡先を聞いて別れた後、パーシィやシゲさんと相談して、第五開発部に研究員として引き入れたのだ。

 ちなみに、キラ・ヒビキはアルスターとの蜜月な三日間が終わった後、難民向けの自立支援プログラムを受けて、今はアメノミハシラの保守点検員になっている。
 三日間の休み明けにお肌を輝かんばかりに艶々にして復帰したアルスターがベティやレナに言う所によると、今日もこのまま一緒にいようよ、だなんて甘えた事を抜かしたので、せっせと稼いで来いっ、と尻を蹴り飛ばした結果だそうだが……、その際に見せていた表情から、あれは絶対に嘘で照れ隠しだというのが、砂を吐きつつも俺に教えてくれた二人の共通見解だ。

 それにしても、ラウを退けるほどの猛者が地味に保守点検員をしているとは、非常にもったいないような気がするけど、流石に当人の意思を無視するわけにもいかないし……。

 うーむ。

 ……サハク准将と相談して、アメノミハシラが危難にあった際の保険的な意味合いで、軍に引き込める様にしておいてもいいかもしれない。

 つか、アーガイルとは違って、ヒビキとはまだゆっくりと話をしていないから、時間がある時にラウの最期を聞いてみたいんだが……、今は忙しいからなぁ。

 この計画が落ち着いたらアルスターに頼んで、場でも設けてもらうか等と考えつつ、考え事をしている内に間違えてしまった道を戻る俺でした。


+注意+
・特に記載なき場合、掲載されている小説はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
・特に記載なき場合、掲載されている小説の著作権は作者にあります(一部作品除く)
・作者以外の方による小説の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この小説はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この小説はケータイ対応です。ケータイかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。
小説の読了時間は毎分500文字を読むと想定した場合の時間です。目安にして下さい。