第三部 導なき世界の中で…… (C.E.72年-C.E.75年)
27 混迷と再会 -Project Marine 3
C.E.72年10月20日。
遂に、マリーネの試作機【RSI-MS72X】が主兵装も併せて完成した。
「……おぉ、想像通りの出来だ」
「ゲイツより軽いはずなのに、何だか、見た目が大きく見えます」
「うん、M1やストライクダガーにはない、力強さがあるよね」
そうなのだよっ、レナにマユラっ!
既存のMSにはない、このスタイリッシュをどこかに置き忘れたような、戦う為の無骨さがいいのだよっ!
って、主張するのは最終の披露会で大いにすることにして、マリーネの輪郭は基本的に直線ではなく曲線でデザインしている為、見た感じ、東洋の鎧武者というか、西洋の甲冑騎士というか、……むぅ、その中間と表現すればいいのだろうか、とにかく、和洋折衷のようなシルエットに仕上がっている。
そして、このシルエットに重厚感を与える源となっているのは、MSのビームの直撃を受けた場合でも、脱出ポットが作動できる時間を耐えられる事から採用した、超硬スチール合金セラミック複合装甲だ。
当初は、超硬スチール合金セラミック複合装甲の他に、強力な防護性を誇るPS装甲あたりも候補に考えていたのだが、うちの会社にはそれを生産できる設備もなければノウハウもない上、もしも仮に生産できたとしても生産コストが高騰するだろうから、断念せざるを得なかった。
まぁ、それでも、パーシィとシゲさんがモルゲンレーテ本社から技研に流れてきた技術者達と一緒になって、PS装甲で使われている相転移の解明を進めているみたいだし、いつかはPS装甲か似たような代物を安く生産できるようになるはずだ。
先の展望はこれまでにして、更により細かく機体を見て行くと、機体頭部は、サーリット……、えーっと、某宇宙戦争に出てくる黒いアンチヒーローや白い騎兵さん達が被っているような、後ろ首まで保護している兜を被って、内部のあるメインセンサー系機器を保護し、また、顔……前面も特に気をてらうことなく、強制廃熱用の小さな排気口を備えた某仮面超人のようなフェイスマスク状にして、経費節減も兼ねて採用したM1で使用されているモルゲンレーテ社製のツインアイ・カメラシステムを保護している。
加えて、サーリットの前面には機体の中心線上にレーザー通信及び通常電波通信用のアンテナブレードを一本装備することで、〝何となく強そうな〟印象を見た目で与えると共に、その両側面というか、米神部分にモルゲンレーテ社製の12.5㎜機関砲を二門装備して、CIWS……近接防御火器として運用することになっている。
計画途中では、より多くの近接防御火器を、具体的に言えば機関砲をもっと装備した方がいいんじゃないかって意見も出たのだが、一度の投射量よりも携行弾数を優先した為、こうなった次第である。
次に胴体だが、胸部にBOuRU内殻を応用して作られた脱出装置を兼ねたコックピット……、コックピットポッドを収め、機体側の制御システムや胴部の燃料電池システム、コックピット用予備バッテリーや生命維持装置と連結されている。
当然ながら、中の人じゃなくて、パイロットが存在するここが一番のバイタルパートになる為、前面装甲を他の部位よりも厚目に取ってあるので前面に大きく膨らむ形になっており、俺がMSを想起する際に前世を思い出して参考にした、ゼ……くしゅんっ、んんっ、ケンプふぁ……、ふぁ……、ふぁっくしょんっ、……あ、ありがとう、レナ、……ちーん、ってかぁ、……んんっ、とにかく、参考モデルよりも更に胸厚になっているはずだ。
この胸部前面装甲は機体に致命的な損傷を負った場合やパイロットがイジェクションレバーを引いた時に、背面というかフレームとの連結部位が爆砕されて、前に大きく外れて、コックピットポッドが射出される仕組みになっている。また、このコックピットポッドには実際に漂流を経験したマユラの意見により、簡易型制御バーニアが取り付けられていたりする。
んで、胸部の直下である胴部だが、ここも重要区画というか、動力源となる燃料電池システムとそれの燃料タンク等が四つほど収められている他、発電した電気を垂れ流すのは勿体無いということで、機体動力用の小型予備バッテリーが二つ配置されていたりする。というか、燃料電池システムで発電した電気は機体制御に使ったりする他、格闘戦で瞬間的な出力が必要な時の為に、機体の各所に配した通常タイプよりも遥かに小型のバッテリー群と連結されていて、随時蓄電される仕組みだ。
そして、胴下部からは脚部というか大腿上部までをカバーする形で、放熱板も兼ねた装甲スカートが前面に二枚、両側面に各一枚、背面に大きなのが一枚、取り付けられている他、主兵装用バッテリーカートリッジの充電器も幾つか取り付けられている。
でもって、背面には上部にフレアー射出装置付きのスラスターシステムが、下部……、腰部には予備主兵装用のマウントが一つ取り付けられており、予備兵装を携帯する事も可能になっている。また、燃料電池で使用する二種の燃料を補給する為のバルブ等もここに隠されていたりする。
最後に四肢なのだが、基本的に姿勢制御用バーニアや補助スラスター、それらの推進剤を積んでいる事に加えて、腕部にはビームサーベル用のバッテリーを、脚部には補助スラスターを乗せた為に、間接部以外は実にマッシブな輪郭を描くというか、とにかく、そう、マッシブなのだって、同じ事しか言ってないが、まぁ、肉厚があると表現できるだろう。
ついでに言えば、ちょっとした戦術に使えるように、指先のマニピュレーターには例のトリモチやバリュートの技術を応用したダミーバルーンの素なんかが詰められていたり、脚部にも対ミサイル用にフレアー放出装置が装備されている。
あっと、忘れるところだったが、背面上部のスラスターシステムは〝Y〟型の大型スラスターシステムを採用している。こいつはシステム中心部にメインスラスターとして大型のモノを二基、そこから上部には二股に分かれる形で補助スラスター用の〝枝〟が伸びて、それぞれに各二基で計四基、下部には少し太めで〝幹〟のような補助スラスターが一本伸び出て、四基のスラスターを装備している。これらのスラスター群の内、補助スラスターに関してはある程度の範囲で可動する為、姿勢制御用バーニアとしても使用できる仕様だ。
で、これらのスラスターで使用する推進剤を蓄えているプロペラント・タンクは、中央部メインスラスターシステムの左右と上部に配置されているのだが、それらを守る為の外殻装甲板として非常発電用の太陽光発電パネルが装着されていたりする。
……まぁ、特にこれといった技術的な目新しさや物理系に絶対的な防御力を誇るPS装甲みたいな特殊さはないが、設計そのものには余裕を持たせてあるので拡張性に関しては結構あるから、現場の声に応じて専用機化したり、新規技術投入もある程度はできる、息の長い機体になるとは思う。
ちなみに、機体重量的には60tに収めており、推進剤や各種兵装込みでも75t以内に収まる計算だ。
ついで各種兵装についてだが、主兵装には宇宙工業と宇宙電気、技研第五開発部が共同開発した【RSI-BM102】カートリッジ式ビームライフルと【RSI-BS103】カートリッジ式狙撃用ビームライフル、先にBIに搭載してしまっていたが【RSI-HS202】対MS・MA用重散弾砲、ジンの無反動砲を参考に宇宙工業が開発していた【RSI-AS201】対艦用無反動砲の四種類を用意しており、腕に持つ分と腰部マウントで二つか三つを携行することができる。
ビーム兵装である【RSI-BM102】カートリッジ式ビームライフル【ビームアサルト】は第五開発部が各陣営の主兵装……ザフトのMA-M21G、連合のM703、モルゲンレーテの71式の実物をジャンク屋や伝手を通じて収集し、これらを分解して構造解析し、そこから得た情報とそれを参考に作製されたビームファランクスや30㎜連装ビーム砲の運用情報を元に、パーシィが一から設計した代物である。
特徴としては、銃身を太く縦長にすることで関連部品を収容し、長さを抑えて取り回しを良くしている他、セレクターにより、通常の単射以外に、ビームの威力は弱くなるが速射が可能になっている。
また、銃口の下にビームサーベルや高硬度ナイフを取り付けられるようにもなっており、銃剣や打撃武器としても使用できたりもする、……予定なのだが、打撃に耐えうる強度は持つと言うパーシィの保証はあるものの、実戦で打撃武器として使うかはわからない為、今の所は保証外とし、本当に必要なのかも検証中だったりする。
同じく主兵装とされるビーム兵装の【RSI-BS103】カートリッジ式狙撃用ビームライフル【ビームスナイプ】は、先の戦争での経験……複座型が行った狙撃というものが戦域において効果的であった事を踏まえて作製した物だ。
当然ながら、一撃必殺を根底においている為、エネルギーの消費量が激しい事やビーム威力を高める機構を組み込んだ為に銃身が長くなってしまい、取り回しは最悪としか言えないが、それに見合うだけの威力、電磁式対ビームシールドを貫けるだけの艦載ビーム砲並の威力は確保できているから、戦域で上手く運用すれば、敵の動きを大いに制限できる事は間違いないだろう。
でもって、これらカートリッジ式を使用するビーム兵装だが、内部にジェネレーターがあるなら別にビームサーベルと同じ機体電力供給方式でも良いんじゃないか、って考えもしたのだが、燃料電池の発電能力と機体全体への配分を考えると、交換して使用できるカートリッジ方式の方がジェネレーターに負担がかからないし、継戦能力の向上にもつながるだろうと思い切ったのだ。
当然、デメリットとしてバッテリーの換装作業なんてことをしないといけないが、調子に乗って撃ちまくっていたら機体全体がパワーダウンしてしまい、咄嗟の回避行動が取れませんでした、なんてことになるよりはマシだろう。それにエネルギー源がカートリッジ依存だから僚機との兵装のやり取りも可能になるし、敵味方認証システムを使ったロック機構も組み込んでいるので、敵に使われる心配もないようにしている。
後の対MS・MA用重散弾砲と対艦用無反動砲に関しては、BIでも使ったり、特に目新しいものでもなかったりするので割愛する。
次に副兵装に目を向けると、肩部には、BIでも使用している【RSI-ASM12】対艦用二連装中型ミサイルランチャーや装弾総数二十四発の【RSI-AMM11】対MS用六連装小型ミサイルポットといった攻撃兵装、【RSI-ABS03】電磁式対ビームシールドや可動式追加スラスターといった補助兵装、偵察用レーダーや狙撃用高精度センサーなんて支援兵装があり、これらの中から、左右にそれぞれに一つずつ装備できる仕様になっている。
また、脚部でも、大腿部にはビームサーベル・ラックや高硬度ナイフ・ラック、重散弾砲や無反動砲のカートリッジ、【RSI-AMG10】対物破砕榴弾パックが、脹脛部にも大腿部と同じく対物破砕榴弾パックか可動式追加スラスターが、これも左右それぞれで一つずつ装備可能になっている。
この内で最も特徴的なのは【RSI-ABS03】電磁式対ビームシールドだろう。これはBIのスクルドが運用しているシールドをアタッチメント部に可動部を設けて、ある程度シールド面を指向させる事を可能にしたモノだ。流石にゴッドフリートクラスの艦砲ビームには耐えられないが、通常のビームライフルのビームならば防ぎきれるし、小型ミサイルの直撃でも一撃なら耐えられるので、突撃を仕掛ける時や距離を置いた撃ち合い等々、様々な局面で利用できると俺は考えている。
この防御力を維持する為にも、シールド裏に装着時に自動的に機体動力源と接続されるシールド専用バッテリーと金属粒子タンクを備えており、戦闘で使用した場合、無補給で二時間程度は持つだろうと予測されている。
脚部の【RSI-AMG10】対物破砕榴弾パックだが、ゲイツのビームパイクを参考にして開発した射出も可能なMS用の手榴弾であり、一つのパックに三発装備されている。これは艦艇などの大物やビームが通用しない相手への攻撃、一時的な戦域の制圧が必要になった際の火力として、使用できるようになっている。
腕部にはゲイツの攻防盾を参考に盾の先端で打突も出来るように鋭くした上、内側にもビームサーベルを収納したラックを装備する事で、近接から格闘への速やかな移行が可能にした【RSI-ABS01】対ビームコートシールドと、主兵装を運用しつつも、ビームサーベルの脅威から身を守れるように、また、内側にビームサーベル・ラックも収めた【RSI-ABS02】対ビームコート篭手を準備しており、好みに合わせて、マリーネの両腕に取り付ける事が可能だ。
ちなみに、マリーネで使用するビームサーベルは経費削減の為にもモルゲンレーテの70式ビームサーベルを採用しており、モルゲンレーテ側の許可が出た場合は、パーシィがエネルギー効率を高める改造を施す予定だ。
あっ、忘れていたが、マリーネで使用される射撃兵装は統一された射撃管制システム……視線で対象をロックオンする、グランスタイプ・ロックオンシステムで運用される事になっており、いちいち手動で照準を合わせるといった面倒な事をしなく良い仕様になっている。
〝ぐふふ〟とばかりに俺がマリーネの姿形を眺めながら、機体や兵装に関する情報を思い出して、独り悦に浸っていると、レナがポツリと呟いた。
「ようやく、ここまで来ましたね」
「うん、確か、アインさんが私案の作成に入ったのが、二月だったから、八ヶ月ぐらい?」
「俺的には、後発とは言え、凄く短い開発期間だと思うんだけどな。……それにこいつはまだ、完成機とは言えないし、今日から始める不具合や欠陥の洗い出しは大きな事故だって起きうる。レナ、マユラ、一層、気を引き締めて行くから、そのつもりでな」
「はい、わかりました」
「うん、わかった」
とはいえ、この二人に関しては信頼しているからいいけど……、コードウェル三尉に関しては、まだ未熟な部分が多いし、よく注意しておかないといけないだろうな。
「で、コードウェル三尉は?」
「宇宙軍に融通してもらったM1を取りに行ってもらってます」
……記録用兼事故救助用って奴だな。
「了解。じゃあ、コードウェル三尉が戻ったら、今日の打ち合わせを始めるから、パーシィやシゲさん達に、そのことの連絡を頼めるか?」
「わかりました」
「レナ、私はシゲさんの方に」
「ええ、なら、私はパーシィさんの方に行くわね」
二人が機敏な動きで動き出したのを見送り、再びマリーネを……空或いは海を想起させる群青に塗装された機体を見上げる。
これから二週間の予定で実機運用を行って、機体の動作やOS、使用兵装の不具合や欠陥の洗い出しを行い、次の試験機【RSI-MS72Y】でそれらを修正していくことになるだろう。
……けど、まぁ、計画も順調に消化できているし、パーシィが事前に行っている過酷な条件下でのシミュレーションでも、これといった欠陥は見つかっていないから、俺達パイロットが余程の馬鹿をやらない限りは大丈夫のはずだ。
それよりも、これが宇宙軍かSKOに採用されるかどうかなんだよなぁ。
昨日、モルゲンレーテで開発が続いていたトツカがロールアウトして、正式に【SDM-1】トツカ級って艦級が与えられている事を考えると、そろそろ、アメノミハシラも本格的に海賊根絶に動き出してもおかしくはないだろうし、この動きで少数でも採用されたら、嬉しいんだけどなぁ。
まぁ、軽戦闘機とも呼べなくもないM1アストレイには継戦能力や防御力とかで勝っている部分の方が多いとは思うから、見所がないわけじゃないとは思うんだけど、こればっかりは現場で運用する人達の声が一番だしねぇ。
……。
うーん、もし、あんまり売れそうじゃなかったら、拠点防衛用って銘打って、月の中立都市群か地球でMSを持っていない国にでも売り込んでみるかな?
いや、その時はその時だし、今はアメノミハシラが採用してくれるような、否、採用したくなるような機体に仕上げるべく、やれる事をやっていくべきだろう。
そんな風に考えをプラス方向へと改めつつ、打ち合わせが行われる格納庫脇の多目的室へと向うべく、俺は軽く床を蹴って、マリーネがある格納庫を後にした。
+注意+
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