第三部 導なき世界の中で…… (C.E.72年-C.E.75年)
21 動き出す時 -宇宙航路維持機構 1
暦も八月に入り、ラインブルグ・グループは熱く盛り上がるように動いている。
なんとなれば、先だって披露されたハガネがサハク准将や宇宙軍のお歴々から高く評価され、その場で【SFE-1】ハガネ級と艦級が与えられると同時に、十二隻の受注を得ることに成功した為だ。
これに伴なって、ハガネ級の建造を担当する宇宙造船を始め、宇宙工業の冶金部門や宇宙電気の兵装関連部門が活況を呈しており、宇宙商船や宇宙保険もまた、ハガネ級が運用される事で宇宙航路の安定を期待している。
披露会が終わった後、喜色を浮かべてプロジェクトメンバーと喜びを分かち合っていたプロジェクトリーダーから聞いた話だと、ハガネが採用された理由は一隻当たりの値段がドレイク級よりもかなり安い上、建造期間も短い事に加え、用途に応じてモジュール換装が可能な事、運用人員が十数名で済む事も評価されてのことらしい。
また、実際に搭乗して内部を見て回り、操船や兵装関連装置も触ってみたお偉いさんもいるらしくて、これは兵の錬成と尉官の能力向上やステップアップに丁度良いな、とも漏らしたそうだ。
うん、任務内容や運用方法を考えて、艦の運用人数をできるだけ減らそうと努力した甲斐があったものだが……、本職って、ザフトでは考えられない程、しっかりと色々な事を考えてるんだねぇ。
後、ハガネの納期については、できる限り早く欲しいとのことだが、このあたりは生産を担当する宇宙造船から担当者が出て、話を詰めているとのことだそうだ。
また、俺がシゲさんと一緒になって進めていた予備計画(笑)で作っていた魔改造ランチも、更に改造して軍に売り込ませて欲しいと、造船から出ていたプロジェクトリーダーから強い要望があったので、取り合えずはハガネ計画メンバーから有志を募って、進めてみようということになっていたりする。
とにかく、今回のハガネプロジェクトもハガネが完成して、見事に受注を得られた事から表向きは解散することになり、プロジェクトに参加していたメンバーも各々が所属している企業に帰った後、ハガネ関連の仕事でリーダーを担う事になるだろう。
あ、もちろん、特別ボーナスの支給も親父を通して、重役連中に伝えてある。
そんなこんなで、俺にとっては二つ目となる大きな仕事が終わった事になり、ほっと息をついている所なのだが……、長らく忙しい日々が続いて構ってやれなかった反動なのか、この所、レナやマユラ、それにミーアの甘えっぷりが凄い。
簡単な例を挙げると、朝、雄の本能を刺激する柔らかな感触と香りで目が覚めたら、ブラなしシャツにショーツという刺激的な姿のレナ或いはマユラ、もしく両者共に、俺の懐に潜り込んで素足を身体に絡めていたり、俺の首筋に顔を寄せて吸い付いていたり、さり気なく胸に手を誘導して揉もといマッサージをさせたり、朝の健康診断という訳ではないだろうが、寝間着やインナー越しに我が息子を手で擦って見たり、〝硬さ〟等の状態を直接触診していたり、起き出す為に二人を起こそうとしてもキスするまで絶対に起きなかったりするし、昼は昼で、レナがお昼休みというか一息入れる時にちょこを持ち出してくるようになったし、マユラも対抗して、マシュマロを持ち出してくるようになったりしている。
また、ミーアはミーアで独占しているらしい入浴タイムで、一緒に浴槽につかってイチャイチャするのはスタンダードになった上、身体全体への念入りなマッサージを要求したり、自身の目の届かない所に汚れがないかを入念にチェックさせたり、俺の身体を洗う際にも業とらしく胸を背中に押し当てて動かしたりする。で、つい、その感触に気を取られていたら、いつの間にか、ドヤ顔をしたミーアによって、我が息子までもが、懇切丁寧に……。
このあたり、知り合ってから二年近くもの間、ミーアを色々と指導してくれていたザラ夫人の存在が透けて見えたりするんだが、これはやはり、流石は一国を率いた男を射止めた女だと言うべきなんだろうか?
お陰で我が息子が、親父、俺の存在価値を無視するなどっ、あんたはヘタレが過ぎる! だなんて、いきり立つ事いきり立つ事……。とはいえ、その息子もまた、ミーアの手によって〝……ふぅ〟だなんて具合に強制的に息抜きをさせられて、俺共々〝賢者〟になっているあたり、哀しいところだ。
これだけ刺激的な状況が続くと、俺も健全なオノコである以上、そろそろ、本格的に〝食べたい〟なぁ、という思いも生まれ始めているのだが……、何故か、本格的には手が出ない不思議。
そんな訳で、欲しているのに手が出ない原因を改めて考えてみたんだが……、どうも、肉欲以上に三人もの綺麗所を囲っている精神的な充実感が大きい事や会社に与えられた仕事……軍事参入計画が完了してもいないのに、三人と〝やってしまって〟サルの如く快楽に溺れるのは如何なのものかという忌避感、それに最大の理由というか、まぁ、個人的な……って、やめやめ、これは自分の内にだけ、しまっておくべきものだよな、うん。
とにかく、こんな感じで、比較的にまったりとした、爛れる三歩程手前な日々を送っているが、別に仕事をしていないわけじゃなくて、主にMS関連で計画を形にすべく、やるべきことはやっていたりする。
今も第五開発部のオフィスでパーシィやシゲさんとMSで使用する動力源について話し合っている最中だ。
「なるほど、熱電発電はやめておいた方が良いか」
「うん、今のところは、まだ、装備しないで、補助バッテリーを増やした方がいいと思う」
「そうだねぇ、他の開発部や電気、発電と協力して開発は進めているけど、まだまだ信頼が置けない代物だからなぁ」
「だよね。前だって、試験で部品が融解していたし……」
……うん、動力部、つまりは液体水素と液体酸素のすぐ傍でそんなことになったら、危なすぎるから、やめといた方がいいな、うん。
「そうだな、今回は見送ろう。俺だって、いきなりあの世まで吹き飛びたくないからな」
「あ、でも、別に今後も採用しないってことじゃないから、ただ、もっと信頼が置けるようにならないと、僕は乗せたくないんだ」
「わかってるって、パーシィ」
こんな風に、信頼が置ける技術しか導入しないパーシィだからこそ、俺も全面的に開発を委ねる事ができるのだ。
「あ、それとね、MSの主兵装になる予定のビーム兵器だけど、前の戦闘で、ビームファランクスと連装砲のデータがたくさん取れたから、上手くいきそうなんだ」
「そうか、なら、ユーラシアの連中には感謝しておこう」
「……まぁ、奴さん達は別に感謝されたくもないだろうけどねぇ」
「シゲさん、連中の犠牲にはプラスの意味もあった事にしてやらないとさ、ユーラシア連邦を崩壊させて、故郷にまた戦争を巻き起こしただなんてマイナス要因しか残したことにしかならないじゃないか」
露悪的に応えて見せるが、結構、本音だったりする。
「そう考えると皮肉な話だよね」
「確かに、自分達の国を何とかしようと思って、逆に……、崩壊、分裂に流れたんだからねぇ」
「でも、だからといって、俺達が連中の犠牲になっていいって話にもならないさ。……そもそも、先の侵攻が自らの威を示したり、ここの生産力を欲したのが理由だとして……、まぁ、前者はともかく、後者に関しては、MSを輸出をしてくれって頼めば、こっちも輸出していたかもしれないって話なんだからな。簡単な話、ユーラシアの連中は得られる利益にばかり目を向けすぎて、リスク計算を甘くしすぎたんだから、自業自得だろうさ」
パーシィとシゲさんが頷いたのを見て、俺は自身の中にある思いを確認しながら、更に語を紡ぐ。
「俺達は、自らと自らの家に降りかかる火の粉は払う。もしも、他所に付いた火があるなら、こっちに何とかできる余裕があるなら、消すように努力する。でも、俺達の家にわざわざ火を付けに来る連中には、慈悲なんてものはいらない。二度と手を出してこないように、徹底的に排除する。……俺達が作るのは、その為の武器だ」
「……それが僕達の思いの落し所なんだろうね」
「余計な手を出してきたら噛み付く為の力ってわけだね」
「ああ、痛みを知らない奴には賢くなる為に相応の痛みを与えよ、って奴だよ」
……本来、人は霊長を名乗っている以上は、霊長らしく、言葉や文字という素晴らしいコミュニケーションツールを使って、肉体言語による争いを起こさず、事を進めるのが理想だが、悲しむべき事に、現実はそう理想通りに行く程、生易しい世界じゃない。
人が人である以上、決して切り離せない様々な感情、特に、誰かに対する嫉妬や憎悪、怨恨といった負の感情が爆発することだってあるだろうし、自身や大切な者達が死なさずに生かそうとする為にも、より良い生活を求める為にも、他者から奪おうとすることだってあるだろう。
だからこそ、法や武器という抑止力でもってリスクを発生させる事で、互いが手出しできないようにして、少しでも暴走を食い止めるのだ。
……もっとも、それも今の俺みたいに、〝普通〟の日常を〝当たり前〟に過ごしていて、切羽詰っていないからこそ、言える言葉なんだろう。
けど、それでも最終手段に訴えるのは……、本当に、プライドや見栄といった虚栄心といった何もかもを捨てて、できることを全てやり尽くして、それでもってならない限り、最後にしなければならないと思う。
まぁ、結局は、これもまた、一つの理想なんだろうな。
そんなことを考えていたら、シゲさんが、静かに口を開いた。
「アインちゃんよう、結局、俺達は、何でもできる神様でもなければ、全てを捨てて世界に尽くす聖者でもない、ただの人間である以上は……、何事にも一線を設けて、降りかかる万難を排して、割り切って生きていくしかないってことなんだろうねぇ」
「……そうだね」
そう、一介の人は、今、この時を、自身と周囲を守った上で、それ以上のことができる力がない限り……、どれだけの犠牲の上に立っていたとしても、割り切って生きるしかないんだ。
……。
……でも、何でもできる神様か。
捻くれた考え方だけど、仮に何でもできる神がいたとしても、その神が〝人間が生み出した存在〟でない限り、必ずしも人間の事を特別だと考えてくれるとは思えない。なんとなれば、人を特別視しないで別のものを特別視しているかもしれないし、全てのものが等価値だと考えるかもしれないからだ。
となれば、人を世界を乱す害虫として排除しようとしているかもしれないし、芥よりも価値のない存在としてまったく眼中に入れてないかもしれないし、全てのものに試練を与え続け、悶え苦しむ様を楽しむような存在かもしれない、だなんて考える事ができるからな。
って、考えが凄く逸れてしまったな。
「でも、余力があれば、四月馬鹿の時に、親父や重役……、グループがしたように、僅かとはいえ、困っている人を助ける事もできるはずだ」
「そうだね。僕達も、困っている人を少しでもいいから、助けられるようになりたいね」
「うん、そうだねぇ」
男三人、話がまとまった所で俄かに部屋の扉が開いて……。
「おっ! おおっ! その愛くるしいボディはまさしくナナちゃん! アイッ! ラブッ、ユゥーーーッ!」
『No! Thank You!』
「ぎゃんっ!」
ノーサンキューの意味を考えると……、どうやら、ナナのガードは確実に下がっている、のだろうか?
そんな事を考えながら、見事なまでにナナのマニピュレーターで投げ飛ばされたシゲさんを見やると、いつものように気絶して中空を漂っていた。
そんなシゲさんを器用にも投げ飛ばしたナナはというと、例の如く、意思表示画面に罵詈雑言を並び立てているが、シゲさんを確保に動いていたりする。
……むぅ、この光景を見ていると、さっきの反応や罵詈雑言が照れ隠しのように感じてしまうのは、俺の目がおかしいんだろうか?
なんてことを考えながら、ミーアに用件を問い掛ける。
「何かあったのか?」
「あ、別に用はないんだけどね、喉が渇いたかもしれないと思って、ドリンクを持ってきたんだけど……」
『この人だけは、機械油を飲ませた方が良い』
こわっ!
ど、どうやら、さっきのは俺の勘違いだったようだ。
「え、えとね、ナナ? シゲさんにそんなこと言ったら、絶対に飲んじゃうから、絶対に言っちゃ駄目だからね?」
『……肯定』
確かに、シゲさんなら、それでナナちゃんへの俺の愛が証明されるのならばっ! なんて言って、やりかねんのが怖いところだ。
「ほら、ナナ、シゲさんを仮眠室に運んで、風邪をひいたりしない様に見ておいてね」
『……マスターの言う通りに』
パーシィに促されたナナがシゲさんの足を掴んで、仮眠室がある方向に向い始めた。
「パーシィ、シゲさんの熱い想いは届くんだろうか?」
「う、うーん、そういうことは僕にはわからないよ」
ミーアからITIGOオレを受け取りながら、一人の熱い漢の情熱に満ちた愛が、人間と機械と言う厚すぎる壁を打ち砕く事を祈るしかなかった。
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