ブックリスト登録機能を使うには ログインユーザー登録が必要です。
第三部  導なき世界の中で…… (C.E.72年-C.E.75年)
20  蠢動する世界 -ユーラシア動乱 4


 青く輝く地球には似合わない西ユーラシアにおける紛争は何とか局地的な戦闘で止まっているものの、各々の勢力がMSを繰り出し、激しい戦闘が展開されている。ネットの情報掲示板から得られた情報だと、全ての勢力で使用されているMSが大西洋連邦が供給しているストライクダガーだけに、純粋なMS戦術や戦車や歩兵、砲兵、工兵、武装ヘリ、更には航空戦力といった諸兵科との連携、後方支援体制の充実度が勝敗を分けているようだ。

 とはいえ、今の所、戦況は一進一退であり、不謹慎な連中の賭けの対象になりそうな状態なので、兵器を供給している大西洋連邦の高笑いが聞こえてきそうな状況だと言えるだろう。

 一方、ユーラシア東南部で起きていた東アジア共和国と赤道連合の小競り合いは収束に向っているようだ。オーブ本国の主要マスメディアの一つであるオノゴロ通信によると、オーブ在住のマルキオなる人物が両国の争いを食い止める為に奔走した結果、事態が収まり始めたそうだ。

 俺、このマルキオって人の名前、初めて聞いたんだが……、国家間の争いを収める事ができるなんて、有名な人なんだろうか?

 まぁ、何にしろ、身一つ口一つで争いを収めるなんてさ、今は無き地球連合からプラントの外交的勝利を捥ぎ取ったカナーバ議員位、凄い人だと思うよ。実際、マルキオを世界を平和へと導く〝導師〟と称える声も多いみたいだしね。


 次に人の生存を拒む荒野、もとい、宇宙なのだが……、ここしばらく活発に動き回っていたL3の海賊が、更に過激化し始めている。

 具体的に言えば、物資引き渡しを拒否した船に対して、じわじわと甚振るように少しずつ攻撃を加えて沈めたり、貨客船の乗員や乗客に対して悪逆非道を働いた後、生身のままで宇宙に放り出したり、逃げ惑う船を弄ぶように追い回して大気圏に落としたりと、とにかく、外道を働いている。

 この海賊の動きに対する各国の反応なのだが、鈍いの一言だ。

 いや、アメノミハシラはパッツを使ってMSによるパトロールを大幅に増やすなどして、比較的頑張っている方なのだが、月の中立都市群は都市警備隊を持っているものの航路防衛を担えるだけの艦艇を有していないし、L4に駐留している旧連合加盟国……三大国の宇宙軍は互いを牽制しあって動けない状態に陥っており、プラントもまた、一応の活動はしているようだが、戦争が終結したことでザフトの動員が解かれた結果、構成員の絶対数が減っているらしく、穴がありすぎる状態だ。

 このまま事態が推移していくと海賊被害を恐れて、地球圏内航路を行き来する商船の動きが鈍り、地球圏全体の物流が滞る事態になってしまいそうで、宇宙に住む者にとって、非常に憂慮すべき状況と言えるだろう。


 後はアメノミハシラ内部の様子だが、オーブからの避難民や戦災や貧困から逃れるべく一念発起してやってきた他国から移民と建設当初から居住していたり、ここで新しい生活を再建できた元避難民や移民であるアメノミハシラの住民との間、それに、ナチュラルやコーディネイターとの間、それぞれに、特にこれといった軋轢もなく、基本的に平穏だ。

 まぁ、アメノミハシラ自体にまだ居住区画に人を受け入れる余裕もあれば、雇用関係もアメノミハシラが管理要員を、宇宙軍が人員を募集していたり、モルゲンレーテやうちのグループが雇用を少しずつ増やしていたり、居住区画にある様々なサービス業も伸張しているからだろう。

 特にここ最近は天頂部にあるモルゲンレーテのファクトリーが活気に満ちているようだ。

 この前も宇宙商船の方に、南アメリカ向けの積荷を一週間に一回のペースで三ヶ月間、ハガネのベースとなった例の小型コンテナ船を使い、バリュート投下して欲しいとの依頼が入ったそうで、なんと、宇宙軍が臨時パトロールをするなんて、支援までも約束されているって話だ。

 ……つまり、投下する積荷は、場所が南アメリカであり、厳重な警戒も行われる事からわかるように、例のアレであるということだろう。


 ◇ ◇ ◇


「それじゃ、明日はよろしく頼むよ」
「ええ、任せてください」

 ハガネのプロジェクトリーダーであるマラウとがっちりと握手して、宇宙造船が所有している造船所、その内部にある部屋の一室から見送ったのだが……、つい先程まで、明日、サハク准将やオーブ国防宇宙軍のお歴々を招待して行われる予定である、【RSS-051Y】ハガネの初披露会の打ち合わせをしていたのだ。
 その間中、披露会の全てを取り仕切る事になるリーダーの様子を注意して伺っていたのだが、話し方や態度、顔付きのそれぞれに、チームが生み出した物に対する自信と誇り、愛情が見て取れたので、招待客へ素晴らしい応対を行ってくれると確信できた。
 という訳で、後は明日を待つばかりなのだが……、折角なので、艤装も成ったハガネを最終確認をして回っているプロジェクトメンバーの邪魔にならない範囲で見て回る事にした。

 打ち合わせに参加していたリーダーと数人のプロジェクトメンバーに挨拶をしてから部屋を出て、明日の披露会を静かに待っているハガネの元に向う。途上、先程まで顔を合わせていたプロジェクトメンバー達の生き生きと輝いていた顔を思い出し、是非にも採用されて欲しいよなぁ、なんて考えていると、ハガネがある造船エリアのゲートが見えてきた。

 そのゲートを通り抜けると、全艤装が終わったハガネの2ℓペットボトルのような姿が視界に入ってくる。

 ハガネは当初計画通り、船団護衛を目的とする近接防衛に特化した艦艇だ。目前にあるハガネも護衛を務める際の一般的な兵装……ビームファランクスを八基、30㎜連装ビーム砲を四基、12.5㎜近接防御機関砲を三基を装備した通常護衛艦タイプとなる。

 第一区画である固定傾斜エリアに装備されているのは、回転砲座に装備されたビームファランクスだ。これが両舷上下に一基ずつで計四基あり、主に前面から左右両舷及び上下面方向をカバーする事になる。
 ここで使用されている回転砲座なのだが、実は俺とシゲさんが迎撃艇を作る際にBIを流用して作っていた回転砲座だったりする。たまたま、俺に用事があって尋ねてきたプロジェクトメンバーの目に止った結果、建造にかかる時間を短縮させる為にも即決で採用されたのだ。
 世の中、何が幸いするか分らないものだが……、ハガネでも採用された事だし、折角だからということで、トツカ級の開発を進めているモルゲンレーテにも近接防衛用砲座の候補として回しておいた。

 次に第二区画の換装エリアだが、オーソドックス……とは言わないかもしれないが、少し口径が大きめで威力もある30mm連装ビーム砲をこれまた両舷上下で計四基装備した。

 このベルダンディの主兵装でもある30㎜連装ビーム砲は四連装式であるビームファランクス程の速射性はないが、それを補うだけの威力……ビームライフルの三分の一程度の威力を持つ為、対ビームコートがされていない部位に命中すれば、MSと言えども大破ないし撃墜させることが可能だ。
 要するに、ビームファランクスが脅威を接近させない、或いは迎撃する為の兵装なら、この30mm連装ビーム砲は脅威を積極的に排除する為の兵装と言えるだろう。

 更にこれも換装エリアとなる第三区画には、第一区画と同じく両舷上下に一基ずつで計四基のビームファランクスを装備しており、艦艇の大きな弱点である推進部がある、後方面から左右両舷及び上下面方向を主にカバーする事になる。

 残る12.5㎜近接防御機関砲CIWSは、元々のコンテナ船で使われていた船橋を流用、補強して、艦体上部に設置した艦橋と潜り込まれ易い艦底を守る為、艦上両舷と艦底に一基ずつ設置されている。

 後、これは兵装というわけではないが、艦橋があるバイタルエリアと推進部には、対ビーム及び実弾への防備に、スクルドで使用されている電磁式対ビームシールドが左右両舷及び上下面に装備されている。

 先の戦争では艦橋や推進部を狙って、150m級……ドレイク級を沈めてきた経験から取り付けたのだ。

 試験でもM1アストレイで使用しているビームライフルをぶっ放しても受け散らす事に成功しているから、これが稼動してさえいれば、不意にビーム攻撃を受けての一撃死、なんてことは免れることができるはずだ。もっとも、最大出力で稼動させた場合はこちらのビームも使えなったりするので、運用前に注意を促す必要があるだろう。

 この通常護衛艦タイプは今まで見てきたように、武装をビーム兵装に頼りすぎている面があるのだが、ハガネが宇宙軍に正規採用された場合には、第二、第三区画用モジュールとして、BIで使用している六連装ミサイルポッドを装備した対MS制圧タイプや回転砲座に重散弾砲を装備した実弾タイプ、VLS(Vertical Launching System:垂直発射システム)仕様のミサイルセル搭載し、対艦ミサイル或いは航宙魚雷を装備した対艦タイプの開発が予定されているから、これらの組み合わせによっては、よりバランスの良い武装をしたタイプができるだろうと考えている。
 ついでに付け加えるならば、遭難救助用のランチや医療施設を装備させた救急救命タイプや前線や非常時にMSへと推進剤やバッテリー、エアー等が補給できるMS支援タイプの開発も検討されていたりするが、まぁ、このあたりは実際に使う側の要望に合わせて、作っていったら良いんじゃないかなとも思っている。

 後、艦内部なのだが、各区画を貫通している竜骨内部にある内部通路に戦闘隔壁を設けて、戦闘が始まった際には全てを閉ざし、人が存在しない場合はエアーを抜くなどして、被弾の影響を少なくできるように考えられている。
 また、各兵装に使用するエネルギーに関してだが、基本、兵装モジュール部にはバッテリーしか設置せず、バイタルエリアに設置している動力源、燃料電池と艦体の一部に付けられている太陽光発電パネルで常時充電を行うことになっている。簡単な話、燃料電池で使う液体水素や液体酸素といった危険物を一番安全とされている箇所で一括管理しているってことだな。

 ちなみに、これで使用する燃料電池は、今後、開発するMSで使用するものと同じものだったりする。技術開発の神秘もとい進歩は凄いと言うことだな。

 でも、何で、MSの動力源に燃料電池使わないんだろう?

 ……うーん、初代のジンがバッテリーを使用していたから、それを元に開発した影響だろうか?

 案外、設計の制約というか、スタイリッシュでエレガンスでスマートな〝ふとましくない〟機体を作ろうと考えているからだったりしてな、って、幾らなんでも、それはないよなぁ、あはは。

 ……。

 パーシィなら、そんなコンセプトで開発しないよな?


「……先輩、いきなりどうしたんですか、そんな引き攣った顔をして」
「いや、今、パーシィが設計を詰めているMSに関して、ちょっとな」
「何か、不具合でもあったの?」
「いやいや、まさか、パーシィに任せておいたら、安心安全で信頼に満ちた機体ができあがるさ」

 ……と言うよりも、本社で留守番をしていたはずのレナとマユラが何故ここに?

 中空に浮かんで、ハガネを見下ろしていた俺の近くに、こちらも上手く浮かんでいる社服姿のレナとマユラに問い掛ける。

「で、二人とも留守番はどうしたんだ?」
「はい、余りにも暇なんで、〝目安箱〟を設置して出てきました」
「え? ちょ、レナ、おまっ」
「あはは、嘘だよ、う・そ。ほら、時間を見てよ、アインさん」

 ありゃ、ハガネを見て回ってるうちに、定時を過ぎてたみたいだな。

「定時、過ぎてたんだな、ハガネに夢中で気付いてなかったよ」
「レナ、予想通りだったわね」
「ふふ、確かに予想通りね」
「いや、お前ら、人の行動を読むなって」

 なら、今後は予想外の行動をしてみようと、天邪鬼な決意しつつ、話を続ける。

「それで、わざわざ迎えに来てくれたのか?」
「ええ、先輩が予定時間を過ぎても帰ってこないから」
「うん、連絡もないから心配して見に来たのよね」
「……あ、それは悪かった。それで、今日は書類が回ってきたり、他所からの連絡は入らなかったか?」
「今日は特にこれといったものはなかったです」
「うん、こっちで対応できるものばかりだったから、安心してね」

 なら、今日は戻らず、直帰するか。

「……なら、今日はこのまま帰るか」
「もちろん、ミーアちゃんの所に顔を出してからですよね?」
「当然だろ。……じゃないと拗ねるからな」
「あ~、ミーアちゃんに言ってやろうっと」
「マユラ、それは勘弁だ。ミーアの奴、本格的にへそを曲げると元に戻るまでが長いからな」

 もっとも、長かったのは昔の話で、最近はお風呂場で念入りな応対をすると関係修復もあっという間だったりする。

「なら、明日も早いし、引き揚げるとするか」
「は~い、わかりました」
「ええ、そうですね」

 二人を出入り口方向に押してやった後、俺も四肢を使って進行方向を調整し、出入り口を目指す。その途上、首だけ振り向いてハガネを見る。

 ……本当に、短期間で開発したとは思えない程に、良い出来だ。 


 このハガネが採用されれば、少しは俺も…………、いや、まだまだ、これでは足りてないな。


 ……んんっ、とにかく、それなりに買ってもらえたら良いんだけど、こればかりは先方の都合だからなぁ。

「あ!」
「せんぱっ!」

 っッぅーーーーっ!

 か、壁に衝突した!

「……先輩、大丈夫ですか?」
「……アインさん、前見てないからだよ?」

 うぅ、これはハガネが何らかの障害にぶつかるという暗示か?

 ……。

 い、いや! これはハガネがヒットするという暗示だ、そうに違いないっ!

 そうプラス方向に考え直して、涙目のまま、レナとマユラに引っ張ってもらいながら、造船所を後にした。


+注意+
・特に記載なき場合、掲載されている小説はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
・特に記載なき場合、掲載されている小説の著作権は作者にあります(一部作品除く)
・作者以外の方による小説の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この小説はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この小説はケータイ対応です。ケータイかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。
小説の読了時間は毎分500文字を読むと想定した場合の時間です。目安にして下さい。