第三部 導なき世界の中で…… (C.E.72年-C.E.75年)
19 蠢動する世界 -ユーラシア動乱 3
ノルズ計画に続くMARASAI計画の新プロジェクトとして結成されたハガネ計画は、少しでも関わりを持ったり、見聞きした者ならば誰しもが目を見張る程の驚異的な進捗を見せている。
なにしろ、二週間ちょっとしか経っていないのに……。
「おいおい、マジかよ」
……実物が出来上がっていたりする。
俺より若干年上になるプロジェクトリーダーのマラウが満面の笑みで案内してくれているのだが……、さっきから開いた口がマジで塞がらん。
「どうですか! この出来っ!」
「あ、ああ、うん、凄い。……もう、この一言しか、言えないよ」
確かに報告書で組み立てを始めているとは読んでいたんだが、【RSS-051Y】ハガネの完成度を生で目の当たりにすると、口が勝手に開いてしまうよ。
いや、実際には、まだまだ至る所で作業が進められているだが、出来上がりが近いと言っても良い姿なのだ。
そんなハガネの概略を述べると、艦体を横から見て、艦首には艦体中心軸を中心に直径六m、長さ六mのレーダードームがあり、そこから艦尾方向に長さ十m程の間で高さ二十mに至る流線が描かれ、後は直線が艦尾部の推進剤が詰まった推進部手前まで続き、そこからは露出している直径十二m、長さ二mになるスラスター部手前までを包むような形になっている。
また、角度を変えて上から見た姿だが、艦首には先に挙げたレーダードームがあり、そこから艦尾方向に長さ十m程の間で両舷方向にそれぞれ十四mに至るまで広がる形で膨らみ、後は直せ……横から見たのと同じ内容なので省略する。
ハガネの艦体シルエットを手っ取り早く何かに例えるとしたら、よくある潜水艦に似て見えなくもないのだが、水平方向……両舷方向に長い為、ヒラメやカレイとまではいかないのが、つぶれ気味の楕円柱というか……、あ、全体的に上部から圧迫された中身が詰まった1.5ℓサイズのペットボトル……、いや、2ℓサイズのペットボトルと言った方があっているだろうな。
……でも、本当に、よく、この短期間でここまで出来上がったもんだ。
「ほんと、よくもまぁ、ここまで出来たもんだ。……馬鹿な事を聞くけど、プロジェクトに参加しているメンバーの一日って、四十八時間じゃなくて、二十四時間だよね?」
「あははっ、ええ、もちろん、俺達も二十四時間で生活してますよ。あ、そういえば、いつもリ・バイパーとかの差し入れ、ありがとうございます」
リ・バイパーとは宇宙食品が作ってる栄養ドリンクで、古き良き時代のジャパニーズ・ビジネスマン達を支えた黄色と黒のドリンク剤を真似た代物らしい。
「いやいや、気にしないで、それ位は当然のことなんだからさ。それよりも、こんなにスムーズに事を進めるなんてさ、みんな、凄いね」
「実は計画を開始して最初の一歩が上手く嵌ったら、何故か、次々に上手いこと回りだしまして……、あの時はチーム全員には、間違いなく、神が降りてましたよ」
「は、はは、それ、今、目の前に実物があるから、もの凄く納得できるよ」
その神は、絶対、俺には手を差し伸べてくれない、機械仕掛けの神だ、間違いない。
「後、艦上部に艦橋の設置したり、内部設備の調節や機能チェック、兵装等の外部艤装だけですから、来週には外に出て、機動実験や強度チェックをやって見るつもりです」
「うん、わかった。……完成まで後一息だろうけど、今後も事故がないように頼むよ」
「ええ、もちろんですよ」
嬉々とした顔がすぐさま引き締まったのを見て、これなら大丈夫だろうと俺も頷き返した。
◇ ◇ ◇
ラインブルク宇宙造船の活気に満ち満ちた造船ドックから本社に帰って、今日見てきた内容をレナとマユラに伝えると、二人揃って、目を丸くしている。
「そんなに凄いんですか?」
「ああ、もう、ほんとに驚いたぞ」
「なら、私達も見に行こうかなぁ」
「そう言うだろうと思って、資料用に記録してきた。ほら、見てみろよ」
マユラに記録媒体を手渡すと、早速、自分の情報端末に読み込ませ、二人してモニターを覗き込み始めた。
で、モニターに映し出されているハガネだが、報告書で読んだり、ついさっき実物を見てきた限りだと、艦の構成は大きく六つの区画に分けられているようだ。
艦首から艦尾に向う形でその六区画を順番に挙げて行くと、艦首にあるのがレーダー区画で、その名の通りにレーダーが納まっているエリア、第一区画と呼ばれる非換装固定部でレーダー区画から次の区画まで傾斜があり逆噴射装置などがあるエリア、第二区画と呼ばれるモジュール換装が容易なエリア、艦橋区画と呼ばれる操船と指揮、通信機能、生命維持、動力といったものが集中している固定バイタルエリア、第三区画と呼ばれる第二区画と同じくモジュール換装が可能なエリア、そして、最後に艦尾になる推進剤タンクとスラスターで構成される推進区画という案配だ。
当初計画ではレーダー区画と推進区画を除いた全四区画十六箇所のモジュール換装を可能にするという事だったが、艦体強度、コスト、見栄え、バランス、性能等々の様々な要素を換算及び考慮して、二区画八箇所に削減されたのだ。
もっとも、固定区画と銘打っているものの、換装区画より竜骨との接続能力やロック機能を強化したり、隣接するモジュール同士の噛み合せ部や連結部を増やしたり、連結に使用する固定ボルトを厳重に溶接する等して、特に頑丈に固定しているだけであり、基本的な仕組みは変わらなかったりするので、その製法というか取り付け方自体は変わらなかったりする。
「う、うわ~」
「ほんとにできてますね」
「な、驚くだろ」
「ええ、報告書を読んで、どれ位進んでいるのかは知ってましたけど……」
「……うん、こうやって見ると、凄いねぇ」
「ああ、あれが二週間で出来たもんとは、絶対に思えない出来だよ」
あれなら、サハク准将に自信を持って見せられる。
「でも、最初にこちらが提示した仕様書とは違うけど、アインさんはそれでいいの?」
「んな細かいことは気にする必要はないんだよ。俺達が用意した案を叩き台にして、元より良い物ができるんなら、大いに結構な事さ」
マユラが言ったように、当初、想定していたものとは異なる仕様になっているのは事実なのだが、納得がいく出来なら、文句なんて言う必要はまったくない。
「ふふ、過程よりも結果ですか?」
「いやいや、もちろん、俺は過程も重視してるよ? 今から、こうやって二人をっ」
「わ、わわっ!」
「ちょ、先輩!」
端末を覗き込んでいた二人を背後からまとめて抱き寄せて、そのままソファがある場所まで行って一緒に沈み込む。
「抱き締めながら、可愛がったりとかするしな」
「も、もう、アインさん! いきなりはなし!」
「そ、そうですよ、先輩! ビックリするじゃないですか!」
「いいだろ~、ちょっと位、はっちゃけてもさぁ。……次善として作っていた迎撃艇も昨日になって、ようやく完成したし、ハガネの建造も順調に進んでいるのもこの目で確かめたんだから、今日はもう、のんびりしようざ」
撫で撫でとレナとマユラの艶やかな髪を撫で触りながら、皆が頑張ってくれてるけど、俺も頑張ったよ、なんて主張すると、二人は互いの顔を見合わせた後、ほぼ同じタイミングで頷き、素直に身を寄せて来る。
左手に座っているマユラは擦り擦りと自身の匂いを染み込ませるように顔を俺の胸にこすり付けた後、胴体に両手で我が侭な両胸を押し付けて抱きつき、右手のレナは肩から胸の前、もとい、胸に至ってさわさわと胸を撫でていた俺の手を自身の手に取り、指と指を絡ませて頭を肩に預けてきた。
……あ~、この温もり、この香り、この感触、幸せだぁ。
「悪かったな、ここ最近、あんまり相手をしてやれなくてさ」
「ん~、アインさんが一生懸命に頑張ってるはこの目で見て知ってるからいいよ」
「ええ、こうやって、時間がある時に甘えさせてくれたら、我慢できます」
「いや、レナもマユラも、別に我慢はしなくていいぞ? むしろ、ウェルカム?」
「ふふ、そんなこと言ってもいいんですか?」
「そうだよねぇ。アインさん、私達、甘える時はとことん甘えるわよ?」
「時と場所さえ意識してくれたら、いつでも受け付けますよ」
そしたら、俺もまた、頑張れるからなっ!
「そうなの? ……じゃあ、早速」
「って、むぐっ」
「あっ、マユラ、ずるいっ!」
素早く身を起こしたマユラが腕で俺の頭をがっちりとホールドすると、でぃーぷな接吻を……。
しかも、こっちの口内に舌先が侵入までしてきている。
このまま好きに暴れ回らせるのを許すのは、男、否、俺の沽券に関わる以上、……この〝ホームでの戦い〟は絶対に負けられない!
だから、過去のMS戦術訓練を思い出しながら、牽制、囮、誘引、逆撃強襲、ってな感じで、攻め入ってきた〝熱い軍勢〟に反撃を加えていると、ホールドしていた腕の力が徐々に弱まっていき、遂には糸を引きながら唇が離れて行った。
「ぅう、……まけた」
そう呟いたマユラの、色気に満ちた、ぽや~とした表情に目を奪われていたら、急にムッとしたレナの顔がアップに現れて……。
「んむっ!」
れ、〝連戦〟となっ!
なんて嬉しい! ……じゃなくて、かつて、このような過酷な〝戦い〟が過去にあっただろうか、いや、あろうはずがない!
なので、侵入してきたレナの〝尖兵〟を懇切丁寧に迎撃するべく、半包囲からの蹂躙殲滅戦を仕掛けてみる。
「んぁっ! んっむっ!」
お、おおっ! レナも反撃に出るとは、以前よりもやるではないかっ!
なので、開放されていた両手を使ってレナの身体をホールドし、〝戦闘〟場所をアウェーに移動させる。
「ぁん、ぁぁあぅっ!」
あ、陥落した。
……ちょっと、早くないか?
……。
れろん。
「ンぁっ!」
むぅ、……少々名残惜しいが、これ以上は〝戦闘〟ではなくなるので、唇を離すしかないな。
これだとちょっと暴れたりないなぁ、ってな具合に、内心でぶーぶーと文句を垂れていると、レナが可愛い敗北宣言を出した。
「ぅ……ま、まら、まけら」
「ふふん、そりゃ、先輩だからな、負けませんとも」
「ぅぅ~」
呂律が回っていない口調に加え、普段はお目にかかれない、拗ねた顔を見せる幼さと女の色気が絶妙にブレンドされた表情が愛くるしくて、さっきまでの不満も忘れて口元を緩めていると……。
「アインさん! 今度は負けないからねっ!」
俺の左太ももを跨いで座り、十全に戦闘態勢を整えたマユラが再挑戦をっ!
「ははっ、また返り討ちだな」
「むっ、まだこれからよっ!」
強気に出ているマユラだが、その口元が緩んでいたりする。
そんな訳で、気合が入ったマユラとの二回戦を始めたのだが……。
「ぁんぅ!」
再挑戦での奮闘も虚しく、マユラは、へろん、と俺の肩にもたれて、呆けております。
だから、激しく鼓動を波打たせながらも女の表情を曝け出すマユラがますます愛しく感じて、思わず左腕で抱き締めてしまうのは仕方がないだろう。
マユラの我が侭な胸の感触に鼻の下を緩めていると、復活がなったらしいレナも俺の右太ももに跨いで座り、両の腕を俺の首に絡めてきた。
「せんぱい、わたしも、もういっかい、ちょうせんします」
まだ、ちょっと呂律が妖しいが……、今日はもう自重しないことにする。
「激しさはどれくらいだ?」
「……めいっぱいで」
なら、意識が飛ぶくらいに……。
「……ふぅ」
満足のあまり、溜息を漏らしてしまったアインです。
俺の右肩を枕に気持ち良さそうにお眠状態なレナを右腕で抱き締めていると、俄かに、我が息子が、親父、いい加減、俺は腹が減ったと語りかけてきた。
その切実な訴えに、我が心中に住まう獣君も我が意を得たりと大きく頷いていたのだが、レナとマユラが見せている満足げな表情を窺った後は急速に大人しくなってしまった。なので、我が息子にも、もうしばらく辛抱だと言い聞かせて、本日もお預けということになりました。
……要するに、これ以上の事は、今のような仕事の合間、仕事場ではなく、もっとゆっくりとした時に、もっとリラックスできる場所で、ということだな。
そんなことを考えている癖に、俺の手が勝手に二人のお尻を撫でたり、感触を楽しんだりしているのはご愛嬌と言うことで……。
・夜書いて、朝読んだ、筆者的疑問
……俺、何を思って、後半部分を書いてたんだろう? orz
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