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第三部  導なき世界の中で…… (C.E.72年-C.E.75年)
17  蠢動する世界 -ユーラシア動乱 1


「幾つか候補を見てきたけど、やっぱり、ベースは60m級小型コンテナ船だな」
「ええ、今現在、与えられている条件で考えるなら、これがベストだと思います」
「他のだと大きく改装することになるから、コストと時間が掛かりすぎるもんね」

 七月末までにとサハク准将から出された新しい〝宿題〟である、新規護衛用艦艇が開発されるまでの繋ぎとして使用する護衛艦を開発して製造するという無理難題を解く為に、フレイ・アルスターが会長秘書として雇われた事で正式に復帰したレナと今まで一人で俺を支えてくれていたマユラの三人で知恵を出し合って、初期ベース案を作り出している最中だ。

 で、今も話していたように急造護衛艦のベースになるのは、宇宙造船が生産している【RSS-05D】と呼ばれる全長60mの小型コンテナ船で、四月馬鹿が起きた後、地球軌道からバリュートを使用して物資を投下する為の運搬ベース船になった代物だ。

 その船の構造を簡略に述べると、船体の中央軸として内部に通路を収めた長さ五十m、幅四m、高さ四mの竜骨があり、その一端である船首に直径十二m、長さ六mの円柱型操船部が、反対側の船尾には直径十二m、長さ十mの円柱型推進部があり、推進剤タンクと二基のスラスターが取り付けられている。
 また、四十二mの竜骨露出部には、両舷方向に長さ十四m、幅二m、高さ二m、上下方向に長さ八m、幅二m、高さ二mの肋材……通称〝梁〟が大凡十m区間毎に一本の割合で四本備えられている。この〝梁〟の部分にコンテナ搭載部を保持する為の接続装置が両舷上下方向にそれぞれ取り付けられている他、外端部には姿勢制御用バーニアが備えられている。
 この〝梁〟に装備されている接続装置によって、バリュート・システムを標準装備した全長四十m、全幅十四m、高さ八mのコンテナ搭載部を接続することで、左右舷上下で合わせて四つのコンテナ搭載部が運べるようになっている。
 地球へと物資を投下する際は、地球軌道において、このコンテナ搭載部をベース船から丸々切り離して大気圏へと突入させ、バリュートでもって摩擦熱を遮断して突破を図るのだ。

 もっとも、このコンテナ積載部の運用開始初期には、バリュート・システムの不具合でバリュートが展開できなかったり、冷却装置が働かなかったりして、突入中にコンテナ搭載部が燃え尽きたり、大気圏へと突破できたとしても、逆噴射装置の噴射タイミングの誤動作で予定落下地よりも大幅にずれた位置に落っこちたり、着陸時にエアクッションが効き過ぎて大きく飛び跳ねてしまい、運搬用トレーラを下敷きにしたりと、色々と大変だったようだが、パーシィによる度重なる改良の結果、非常に高い安全性と落下精度を確保するに至っているそうだ。
 ちなみに、地球に投下されたコンテナ搭載部だが、ラインブルグ・グループが地球で買い付けた代物を運ぶ為にも使われており、地球からマスドライバーで宇宙商船の貨物船の貨物積載部として、或いは、コンテナ搭載部そのものだけが打ち上げられて、軌道上でマスキャッチャーの役割を果たすベース船が回収する等して、再利用されていたりする。

 話を戻して……、俺は急造護衛艦のベースとして、この小型コンテナ船……RSS-05Dを流用しようと考えているのだ。

 そんな事を考えつつ、ディスプレイに表示されているRSS-05Dの船体構造図を指し示しながら、二人に対して意見を述べる。

「丁度、十m区切で一基は接続装置があるから、各部をモジュール化したいと考えているんだが……」
「先輩、その前に操船部が船首部にありますから、防御が厳しくないですか?」
「うん、それに護衛艦にするにはレーダーが貧弱すぎると思うよ?」

 あ、確かに……。

「なら、船首部の操船部を別の場所に移して、代わりにレーダードームでも取り付けてみるか」
「レーダーはそれでいいと思いますけど、操船部はどこにするんですか?」
「それにMSの運用はどうするの?」
「操船部はこれから考えるとして、マユラ、こいつではMS運用を考えてないから、考慮する必要はなしだ」
「えっ、いいの?」
「ああ、仮にMS運用関連装備を考えるとしたら、MSの継戦能力を高める為のバッテリーや推進剤、エアーの補給装置くらいだな」
 
 今回の急造艦のベースとなる小型コンテナ船は、宇宙造船というかラインブルグ・グループが基本思想としているらしい〝質実剛健〟の方針によって、かなり頑強に設計されている。しかしながら、初めから軍用として設計されたものではない以上、通常の軍用艦よりも耐久性や生存性に劣るのが現実である。
 だから、そんな性能で劣る急造艦に乗り込む人数はできる限り減らしたいし、整備や管制、パイロットと乗組員数が増えるMS運用も避けたい。そう、MSの運用に関しては、最初からMS運用を前提に設計されている新造艦やイズモ級、今後、開発するかもしれないMS母艦に任せればいいのだ。

「後、付け加えていけば……、こいつの役割がMAやMSから商船を護衛するのをメインだとすると、対艦仕様に関しても……、まぁ、BIにできるんだから、やってできなくもないだろうが、今のところ、考える必要はない」
「なら、兵装は近接防御火砲がメインということですね」
「そういうこと」

 レナの言葉に頷き返す。

 要するに、今、俺達が考えている護衛艦は、トツカ計画で開発が進められている新造艦が駆逐艦からフリゲートクラスだとすれば、小型フリゲートないしコルベットクラスに相当するという訳だ。

「じゃあ、話を進めるぞ、コンテナ搭載部の接続装置は船首から船尾までにある四本の〝梁〟にあり、左右舷上下の合計で十六箇所ある形だ。その十六ある接続装置それぞれに、規格を統一した兵装モジュールを接続する事で護衛艦としたい」
「モジュール化することで生産期間の短縮や換装等の運用面も楽になりますね」
「うん、BIと同じ方法だよね」
「ああ、後、コスト削減の為にも、兵装もBIで使用している兵装をそのまま流用するつもりだ」

 ビームファランクスを装備したモジュールを八つ位装備したら、ハリネズミになるはずだしな。

「操船部はどうします?」
「うーん、これもいっそのこと、モジュール化してしまうか」
「あ、あはは、凄い艦ね」

 でも、操船部をモジュール化したら、脱出装置にもなるだろうしなぁ。

「よし、初期案はベースとなる船体は艦首部をレーダードームに交換する以外には基本的に弄らず、兵装モジュールを装着することにするな」
「ええ、そうですね」
「うん、短期間だし、それが良いと思う」

 なら、後は正式な企画書類を作成して、パーシィ達に検証や兵装モジュール等々の試作を、宇宙造船や宇宙工業の方にも話を通して、船体や兵装を用意してもらわないとな。

「レナ、第五開発部に新しい案件ができたから検証をお願いしたいって、連絡を入れて日程を調整してくれ。時間がないから最優先でお願いしたいとも」
「わかりました」
「マユラは、宇宙造船と宇宙工業にRSS-05とBIの各種兵装の在庫状況の確認を頼む」
「はーい」

 さて、取り敢えず、今はこれ位かな。

 あー、やれやれと肩を動かして、凝りを解した後、自身の椅子にもたれかかって、天井を見上げる。

 後はパーシィに本当に実現可能かどうかの検証をしてもらって、いけそうなら、技研と造船、工業……、電気に商船、後、保険からも人を出してもらって、プロジェクト・チームを結成することにして、駄目な場合は、どうすれば可能になるかをパーシィやシゲさんと話し合うか、別の方法を……、中型貨物船を魔改造して、船体各所ににょきにょきとビームファランクスを突き出す形にして、ハリネズミ級と銘打ってしまうか、ジャンクのドレイク級にトツカ級に取り付ける予定の兵装を取り付けてみるか、数珠繋ぎにしたBIでもってスネーク級なんて受けを狙いに行くか、パッツの元になった上下両面使用型カーゴ付小型運搬船をベースに魚雷艇みたいな小型戦闘艇を作るかするしかないな。

 次善案を考える為に思考を進めていると、それぞれ連絡を終えたらしい、レナとマユラがクスクスと笑う声が聞こえてきた。

「ん~、どうした?」
「先輩、さっき、音が聞こえてましたよ」
「うん、ゴリゴリって」
「そんなにか?」

 おかしいな、そんな音は聞こえなかったんだが……。

「先輩って、何かに夢中になったり、考え込んだりすると、周りの事が見えなくなりますもんね」
「そうだよね。レナ、前なんてね、私が目の前にいるのに〝女神様達〟に夢中だったんだよ」
「あ、それは酷い。……先輩、私達三人がいるのに、浮気ですかぁ?」
「そう、酷いよねぇ。……今度、おば様たちに、ポロリとこぼしちゃおっか」
「ふふ、先輩が私達以外に〝女〟を作ったぁー、私達三人がいながら浮気したぁー、って?」
「そう、そんな感じ」
「おい、それは勘弁だぞ。下手に伝わったら、奥様連から吊るし上げられて、説教会を開かれちまうよ。……しかも、一人、最低で十分と考えても、二時間以上は確実に正座させられるからな」

 俺が応じてみせると、レナとマユラがコロコロとまた笑っているが、正直、俺にとっては笑い事ではないので釘を刺しておく。

「後、おば様連の説教に時間をとられたら、それだけ、レナとマユラの相手をする時間が減るからな」
「うーん、それは嫌だなぁ」
「そうね。……でも、先輩、ミーアちゃんの相手をする時間が減らないのは、どうしてですか?」
「そりゃ、当然、レナやマユラと違って、ミーアは心優しいし、俺をいじめないからさ」

 俺がそういうと、レナとマユラは口元にニヤニヤとした笑みを浮かべながら、口々に反論する。

「へぇ~、アインさん、そんなこと言ってもいいの?」
「そうです。毎朝、起こしに行ってあげている私達に、そんなことを言ってもいいんですか?」

 ……毎朝、起こしに、ねぇ。

「どちらかと言えば、毎朝、布団に潜り込みに、だろ?」
「うぐっ」
「むぐっ」

 朝、目が覚めたら、必ず、レナかマユラかのどちらかが布団の中に潜り込んで、俺の腕を枕に寝ているか、俺を抱き枕にしているか、逆に俺の抱き枕になっているのだ。

 いや、抱き枕はいいんだけど、腕は後々痺れるから、せめて肩辺りにして欲しいと思うのは贅沢だろうか?

「えと、その、アインさんの懐に潜り込むとね、身体がポカポカしてきて、安心できるから……」
「私もマユラがやっているのを見て、興味本位でやってみたら、病み付きになってしまって……」
「あー、あれはあれで、俺も目覚めがいいし、別に怒ってはいなけどさ。ミーアも混ぜてやれよ」

 朝、俺達が布団の中で互いの温もりでホカホカしている頃、ミーアは朝食の準備をしていたりする。

「いえ、それが……」
「うん、ミーアちゃんが言うには、朝や昼、仕事中は譲るから、風呂だけは独占させろって」

 な、なんと、そんな話が通っていたとは……。

「……そういえば、マユラ。最近、ミーアちゃんのお肌の艶、いいよね」
「……うん、肌に張りもあるし、胸も、前より絶対、大きくなっている」

 ……え、えーと、何故に二人とも自分の胸を見て、俺の手を見るんでしょうか?

「先輩が揉んだら?」
「胸大きくなるの?」
「ちょ、待て待て、二人とも落ち着けって、何故、そんな疑問が出る」

 俺が反論すると、レナとマユラは極自然に言葉を繋いでくる。

「先輩なんだから、ミーアちゃんと一緒にお風呂に入っているのに……」
「うん、アインさんなら、ミーアちゃんの胸を揉まないわけがないわね」
「お前ら、俺をそんな目で……」
「先輩がエッチなのは、一目瞭然じゃないですか」
「うん、物凄くエッチなのは、当然の認識だよね」
「…………否定できないのは、男として誇っていいことなんだろうか?」

 ちょっとだけ悩んでしまうが……、三人と同時に付き合ってるんだから、確かに今更な事か。

「で、実際はどうなんですか?」
「いや、全身を洗う時に、マッサージの心算で揉んでやってるのは確かだな」
「マッサージ?」
「ああ、血行を良くする為のマッサージ。……ミーア曰く、冷え性らしいから、体質改善に協力してる」

 ……その過程で、自然、甘い声をあげさせているのも事実だけどね。

 その時に微かに垣間見えるミーアの艶姿を思い出してしまい、内心でにやけていたら、じー、と俺の手を見つめていたレナとマユラが口々に話を切り出してきた。

「あの、先輩……、ちょっと試してみたいかなぁ、って、思ったりしてるんですけど」
「もちろん、私も同じく、結構、興味があったりするんだけど……」
「今日の仕事……、さっきの案を企画書に纏めたり、今後、プロジェクト・チームで必要になる人員選出の依頼書や予算計上する為の必要経費の概算とかができて、時間が余ればそういうこともしていいだろうけどさ」

 実際には今日中には無理だろうし、明日に完成させるつもりでぼちぼちと……。

「先輩! 早く、企画書を書いてください!」
「あ、レナ、私が依頼書書くから、経費の算出よろしくね、これがBI兵装とか装甲材の原価表で、あっちにあるのが細々とした各種部材の分よ」
「ええ、わかったわ」

 えーっ、ちょ、動き、早っ!

「ほら! 先輩、早く早くっ!」
「アインさん! 気合が! 気合が足りてないわよっ!」
「……は、はい」

 そんな訳でレナとマユラに追い立てられる形で仕事を頑張る事になり、見事なまでに今日中に終わる事ができました。


 ……まぁ、その後で、疲れきった手を更に疲れさせつつも、心身を癒す事ができたからいいんだけどね。


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