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第三部  導なき世界の中で…… (C.E.72年-C.E.75年)
11  人を守る礎 -MARASAI PLAN 3


 今日は仕事場である計画推進室で情報端末を使い、過去三ヶ月間の各国主要メディアのニュースを見たり、メディア紙の電子版や幾つかの情報掲示板を読んだりして、適当に情報を漁っている。
 なんとなれば、この所ノルズ関連で忙しい日々が続いていただけに、少々世界情勢に疎くなっていた事に加え、サハク准将からの〝宿題〟もあったので、現在の世界状況をしっかりと把握しようと考えた為だ。
 もっともザフトにいた頃とは違って得られる情報にも限りがあり、どのような動きがあった、このような動きがあった、というような事しかわからなかったが……、まぁ、何も知らないよりは絶対にマシだろう。


 そんな訳で、俺自身が住んでいる宇宙から……。

 まずは俺の生まれ故郷でもあるプラントだが、先のユニウス講和によって、プラント理事国からの独立とL5及びL1を自らの管制宙域……領域になることが正式に決定して国家体制が成立した。この段階でザラ議長が倒れた直後から特例で運用されていた暫定評議会が戦争中の不手際等の責を負う形で解散し、二年に一度、四月に行われている最高評議員の選出が前倒しする形で行われたようだ。
 で、新たに最高評議員が選出されて発足したプラント新政権であるが、その首班……最高評議会から最高評議会議長として選出されたのが、なんとラウの友人であった、あのギルバート・デュランダル氏だったというから驚きだ。

 どういう過程で選出されたのかと思わなくもないが、元より選挙なるものが存在していないプラントだし、ザフトに所属している人物の中から、ザフト上層部の恣意的な意思、もとい、公正公平な遺伝解析の結果で選んだ結果だろう。

 まぁ、それはともかくとして、デュランダル氏率いる新政権もこれからの国家運営が大変だろう。なぜなら、戦争中の不手際と講和を結んだ事に対する責は前暫定政権が引き受けた事で、市民の不信感も幾分は解消されているかもしれないが、それでも決して無くならずに燻り続けるはずだし、プラント市民にコーディネイター優越主義者が多い現実を考えるとナチュラルに対する蔑視は無くならないと思われるので、今回の十分すぎる程の講和内容に不満を抱き続ける者が多数存在すると考えられるからだ。加えて、地球からの難民とプラント市民の意識の相違から、感情的な対立が必ず噴出してくるだろうしな。

 ……ユウキの奴、心身を壊してないといいけどなぁ。

 友の心身を案じつつも次に移って月だが、中立都市群は戦前戦中と同じく自治を維持しながら、世界各国との貿易を続けている。いや、天然資源庫だなんて立地にあるというのに、オーブ本国と違って、先の戦争で戦火を免れるように、戦禍が及ぶのを避けるように、舵を取りきった指導層には敬意を抱くよ。
 そんな俺の感慨も置いておいて、この月には中立都市群とは別に、大西洋連邦が新しい月面基地を建設し始めている。というのも、先のユニウス講和で月面基地を建設できる条項がある為なのだが、他の旧地球連合加盟国やプラントを差し置いて基地建設を開始した辺り、流石は超大国と言うべきだろう。まぁ、他国よりも先んじて月で資源を確保し、L4の再開発や軍事力の再建を進める腹なのだとは思う。ちなみに、基地の存在位置は先のジェネシスによる攻撃を喰らった事もあってか、L4側のようだ。

 更にL5の反対側に位置するL4だが、一ヶ月に及んだ新星攻防戦で出た被害は結構大きいものだったようで、多くのコロニーで大規模な修復が必要らしく、宇宙工業の方にもBOuRUの大口発注が入ってきているみたいだ。
 ここでもまた、他の旧地球連合加盟国がまごついているのを尻目に、大西洋連邦がL4の再開発を押し進めている。おそらくは先の戦争での反省を生かしての、地球-月間のスペースレーン構築や宇宙艦隊の拠点確保という面が大きいのだろうが、電力が比較的容易に得られる宇宙で本国復興に使用する資材を生産しようと考えているのかもしれない。

 最後にL3だが……、なんというか、ヒャッハー、●物は消毒だぁっ、なんて世界に近い一種の無法地帯になってしまっている。要するに、海賊やならず者、脱走兵に傭兵崩れ、不心得なジャンク屋、更には犯罪者といった連中が集う、力こそがジャスティスの、非常にフリーダムな宙域ということだ。
 それらの数はメディアの報道や宇宙商船、宇宙保険から得た情報だけでもかなりの規模になっており、下手をすれば、一個艦隊ができるほどの数が存在しているかもしれない。いやはや、宇宙を行き来する商船の被害が増えるのも頷ける話だ。

 これらが宇宙の状況なのだが、明らかに浮いているL3以外は、戦後再建……プラス方向に走り始めていると言えるだろう。

 しかし、L3の現状……、戦争中に抱いた懸念が当たってしまうとは、本当に悲しい事だ。


 ……はぁ。


 んんっ、気を取り直して、今度は地球についてなのだが……、どこから見ていけばいいものか?

 うーん、まずは……、仮にも所属国だから、オーブ本国から入ろうかな。

 オーブ連合首長国は俺が今住んでいるアメノミハシラの本国であり、南太平洋に浮かぶソロモン諸島に存在する小国である。先の戦争中、マスドライバーを欲する地球連合軍……大西洋連邦軍に攻撃された後、占領されていたのだが、ユニウス体制が成立した事を受けて、再独立を果たしている。で、今は大西洋連邦から援助を少しずつ引き出しつつ、戦後復興に当たっているようだ。
 もっとも、戦火と偉い人の一身上の都合で、モルゲンレーテ本社や工場、マスドライバーが破壊された影響は非常に大きく、オーブ経済を下支えしていたモルゲンレーテが機能不全に陥っている事から景気は落ち目であり、波及して関連や取引企業の破綻も増えているようだ。また、復興支援にしても、社会基盤の修復に回されている為、直接的に市民にまでは行き渡らないようで、かなりの数の難民が発生しており、アメノミハシラや他国へと流れ始めている。加えて、これまで居住していたコーディネイターにしても、オーブを援助している大西洋連邦……というよりは、反コーディネイター勢力が強い連邦議会がオーブへの援助を認める際に圧力を掛けろと迫ったらしく、月に一度は必ず役所に出頭しないといけない等、行動を制限されており、住み難くなってきているようだ。その為、コーディネイターもまたオーブ本国を離れ、プラントや月面都市、アメノミハシラへと流出しているとのこと。

 いや、戦中も思ったけど、前首脳というか代表首長だったウズミ・ナラ・アスハはさ、もっと、自身のホコリとか、リネンとかじゃなくて、国民や、その生活を一番に考えるべきだったんじゃないのかなぁ。

 ホコリでは腹は膨らまぬでゴザル、リネンでは見栄えを飾るだけでゴザル、ってか?

 げふげふ、まぁ、オーブ本国については自分達の力で何とかしてもらうしかない。アメノミハシラだって、流れてくる難民を受け入れるだけで精一杯だからな。

 次にオーブの復興を支援している大西洋連邦だが、大西洋連邦経済界のドンであるアズラエル財閥の会長に、先々代の後見を得た先代の子が名目上の会長に就任した事で表立っての後継者争いが収まり、先代が残した新規発電事業開発の継続とニュートロンジャマーキャンセラーの民間転用で原子力発電の復活を図ることが決定されたようだ。また、軍需関連よりも復興資材等の民需生産が優先して行われるようになったらしく、国内経済も好転し始めているようだ。
 一方、ユニウスの講和で手痛い敗北を喫した外交では巻き返しを図る為に、剛柔両方での攻勢を仕掛け始めている。目に見える例を挙げると、南アメリカ合衆国やユーラシア連邦、東アジア共和国へのMS等の軍事関連物資やニュートロンジャマーキャンセラーの輸出制限や南アメリカ統一機構や汎イスラム会議、オーブ本国への復興支援、プラントを支援し続ける大洋州連合への経済制裁といった所だ。
 無論、こういった経済力の回復に併せて、軍事力の増強だって行っているはずだろうが、流石にそれは表立っては見えてこないのが現状だ。

 ……ここばかりは、流石は超大国としか言えないよなぁ。

 そんな大西洋連邦から再独立を果たしたものの、軍需関連物資の輸出制限で圧力を掛けられている南アメリカ合衆国だが、復興に関しては元より発電比重が原子力よりも水力や風力といった自然エネルギー系が大きかったお陰か、それなりの速度で進んでいるようだ。
 それよりも頭が痛いのは、先にあったように、大西洋連邦が軍需関連で輸出制限で圧力を掛けてきている事だろう。流石に、自国の国防の根幹に関わるだけに、苦悩している状態だと思う。

 ……いや、本当に、自国で使用する兵器を対立国が生産するなんて笑えない冗談にしかならない。

 また、同じく大西洋連邦から輸出制限を受けた東アジアは、原子力に代わる発電施設が少ない事で各地の復興が遅れている。これに加えて、全世界の五分の一の人口が集中することもあり、国民の生活水準が著しく低下している状態だ。とはいえ、四月馬鹿絡みで出た死者の半分は東アジア共和国で発生している現実を考えると、元から困窮していた国民も多かった面もあるだろう。
 更には分離独立を求める勢力の活動が活発化している事もあり、ただでさえ遅れている復興が遅れに遅れ、それがまた、生活改善にも大きく影響が及ぼしている。結果、不満の矛先が弱者や政府に向けられている為、国内には殺伐とした空気と不穏な雰囲気が満ちているそうだ。
 この不満の矛先を逸らす為だろうと俺は考えているが、最近では隣国である赤道連合に分離独立を求める勢力を支援しているだなんて、いちゃもんをつけ始めており、両国間の関係は悪化する一方だが……、案外、東アジアは赤道連合のエネルギープラントを狙っているのかもしれない。

 ……まぁ、これも昔からある、国内で発生した不満の矛先を外に向ける為の常套手段じゃないかとも思わなくもない。

 同じく三大国の一つで大西洋連邦の一番のライバルに目されているユーラシア連邦は、元よりあった地熱発電プラントに加え、新規地熱発電プラントの建設でエネルギー事情は好転し始めている上に、先月にはプラントからニュートロンジャマーキャンセラーが数基供与されており、原子力発電も復活が期待されている。
 とはいえ、何しろユーラシア連邦はその領域が大西洋から太平洋に至る程に広い為、そのエネルギー配分を巡って、内部で大きな対立が起き始めていたりもする。
 特に、西ユーラシア連合や中東イスラム同盟のような組織内組織と、先の戦争中において、地熱エネルギープラントを確保していた事で連邦の主導権を握っていた旧CIS(独立国家共同体)が、ニュートロンジャマーキャンセラーをどこの原子力発電所に取り付けるかで激しくぶつかっているようだ。今の所、プラントと渡りでもつけているのか、西ユーラシア連合や中東イスラム同盟が優勢らしい。

 ……むぅ、プラントもこれを見越して、ニュートロンジャマーキャンセラーを提供を申し出たのかもしれないな。

 次は、アフリカ大陸に目を移すと、北アフリカにあるアフリカ共同体が非常に大変な状況のようだ。何しろ、先の戦争に巻き込まれた影響というか、実質、ほとんどの地上戦が国内で展開されたのだ、国土が荒れに荒れているのも無理はない。エネルギー事情も深刻な状態だろうから、復興までの道のりは遠く、一筋縄ではいかないだろう。
 そんな北アフリカに対して、アフリカ大陸南部にある南アフリカ統一機構は、大西洋連邦の支援を積極的に受け入れて、復興を進めると同時にその軍事力を増大させている。南アフリカ統一機構はその名称に統一と銘打つようにアフリカの統一を目指している為、相手が弱っている今が好機とばかりに、国境近くで軍事演習を行って、アフリカ共同体に圧力を掛けているようだ。

 そんなアフリカ大陸から再度ユーラシア大陸に目を戻して、地球連合に途中参加していた汎イスラム会議だが、意外なことに復興は上手く進んでいるようだ。なんとなれば、ここもまた、大西洋連邦からの支援を大々的に受けているから、国内状態に余裕が生まれて為だ。よって、その余力を使って、頻繁に中東イスラム同盟に属する国家と会合を設けて、色々と話し合っているようだ。ここも中東及びイスラム国家をまとめるのが目標みたいだから、張り切っている状態だと言えるだろう。

 ……しかし、南アフリカと汎イスラムは、まさに北風と太……いや、何も言うまい。

 で、汎イスラム会議の更に東隣に位置している赤道連合だが、先の戦争においても開始から終結に至るまで、プラントに組する事も侵攻を許す事もなく、また、地球連合の有形無形の圧力に抗い続けた中立国の雄である。国内の復興にしても、原子力よりも水力や地熱、太陽光といった発電施設が多かった為に、三大国程の酷い影響を受けることもなく、逆に経済が伸張しているようだ。
 もっとも、何も問題がないわけではなく、国民の間では宗教絡みの対立もあるし、地域毎の経済格差だって生じている。しかも、それらの問題対応に忙殺されている状況の中で、東アジアからのいちゃもん、もとい、分離独立勢力への支援は我が国に対する謀略である、だなんて非難声明が行われたのだから、堪らないだろう。よって、今現在も、赤道連合と東アジア共和国の国境線には両国軍が展開しており、睨み合いが展開されていたりする。

 ……二年に及ぶ戦争が終わっただけに、ドンパチはやめて欲しいものだがなぁ。

 そして、最後に目を大洋州連合、プラント支援する唯一の地球国家に目を向けると、プラントに食糧や水資源等を提供する一方で、ニュートロンジャマーキャンセラーやMSの供与を受ける等、一層の関係強化に動いているようだ。しかしながら、国内にはこの関係強化に反対する動きもあり、反政府勢力が結成されたとの情報も入ってきているから、これからの政情不安や治安悪化が懸念される所である。

 ……この反政府勢力が結成される動きもまた、四月馬鹿が地球に刻んだ遺恨なのかもしれない。

 うん、たぶん、これで漏れなく全ての世界の状況を網羅した気がするんだが……、あ、後、火星かな?

 火星については、正直、現地でコロニーを築いて、開拓を頑張ってしていることしか知らない、以上。


 さて、これで今現在の世界の状況を簡略に纏めたのだが……、やはり、戦争と四月馬鹿の影響が大きいと言えるだろう。本当に、各国が自国の戦後復興を果たす為に何とかしようとしているのがよくわかる。

 ……。

 では、今のこんな状況で、アメノミハシラが本国以外で支援を求めるとするのならば、どこだろうか?

 ……過去、オーブやアメノミハシラを攻めた旧地球連合の加盟国やプラントを除くと、対象となるのは、アフリカ共同体と南アメリカ合衆国、赤道連合、大洋州連合、月面都市群の五つになる。

 だが、この五カ国にしても、アフリカ共同体は自国ですら儘ならない状況である為、とても支援できるような余裕はないだろうし、大洋州連合はプラントとの繋がりを重視しているから、これも期待できそうにないと考えられる。また、余力がある月面都市群にしても、何処とも組まない事で自治を維持している以上は、今以上の関係を求めるのは難しいはずだ。

 だとすれば、有力候補は南アメリカ合衆国と赤道連合となる。

 けれども、今現在において、赤道連合と東アジアの両国が軍を国境線に展開させて睨み合うだなんて一色触発な空気に包まれている以上は、余計な口出しや手出しをするのはリスクが大きいと言えるだろう。

 ……要するに、戦争が終わったばかりなのに、また戦争を引き起こしてしまいそうな刺激を与える事は避けたいのだ。

 だとすれば、大西洋連邦に距離を置こうとして、圧力を掛けられている南アメリカ合衆国に支援を要請する方がまだリスクが小さいはずだ。どちからといえば、アメノミハシラやオーブ本国が大西洋連邦からとやかく文句を言われる可能性の方が高いだろう。

 今、支援や援助を引き出すとしたら、南アメリカ合衆国だな。


 世界情勢の整理と確認のついでに、サハク准将からの〝宿題〟の一つを自分なりに解いた事で、閉じていた目を開き、意識を現実に戻すと……、企画室の仮眠ベッドも兼ねている応接ソファで、レナとマユラが互いに寄りかかって眠っていた。

 そんな二人の、まだあどけなさの残る寝顔に頬を緩めながら時計を見てみると、もうすぐ日が変わる時刻だった。これは二人に悪い事をしたなと思って、揺すり起こそうとしたのだが……、中々起きてくれない。

 いや、二人とも起きてはいるのだが……、何かを待っているようだった。

 なので、その何かに応えるべく、二人に顔を寄せていき……、後のことは割愛するが、待たせたお詫びにはなったことは確かなようだった。


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