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第三部  導なき世界の中で…… (C.E.72年-C.E.75年)
09  人を守る礎 -MARASAI PLAN 1


 【MARASAI PLAN】とは、ラインブルグ・グループが軍需参入する為の基本計画であり、参入するにあたっての指針……基本路線を提示した物であり、俺が軍事用に開発する一連の兵器群のコンセプトでもある。
 そして、この【MARASAI】とは、Multipurpose Adaptive Role in Advanced Situation for Achieving Intercept.(高度な状況において、迎撃を達成する為、多目的に適応する役割※注:適当訳)の頭文字を連ねたものであり、決して、前世の某SFアニメで出てきたMSの名前ではない、ないったらない、関係ないんだからねっ、だなんてことを思い浮かべて、元ネタをわかってくれる人がいない事実に肩を落とす。


 ……まぁ、今更なことだけど、寂しいモノだ。


 んんっ、気を取りなおして、先のノルズとそれに使用する三姉妹機も、当然の事ながら、これに沿ったものということになる。

 で、何が言いたいかというと……。


「この度は、皆様のごきょ「アメノミハシラでのノルズ採用決定を祝してっ! カンパーイっ!」だから挨拶をさせろと」


 まぁ、要するに、アメノミハシラにノルズが採用されたって事は、ラインブルグ・グループのMARASAI計画が顧客に理解、評価されたという事であり、また、グループ自体も軍需産業への足掛りを得たという事だ。
 そんな訳で今日は、身内というかグループの重役連中がノルズ採用のお祝いを……、というよりも、自分達がただ単に集って、大手を振って飲む機会が欲しいが為に、再び、宴会を俺の家で開く事になったりしている。

「わはははっ、ほら、あー坊、飲め飲めっ!」
「ちょ、あっ、あふれるあふれるっ!」
「今日もいい日だっ! なんてったって、あのあー坊が初仕事を成功させたんだからなっ!」
「うんうん、俺達ぁ、本当に大丈夫か、ずっと心配してたんだぞっ!」
「それが、まぁ、あの悪戯坊主がこんなにも立派な仕事をしちゃって……」
「本当だな。……それに、こっちにも付随して仕事ができたし、ありがたいこったなぁ」
「でも、早い所、工業や電気だけじゃなくて、早い所、造船の方にも、大きい仕事を回してくれよ?」
「そうそう、うちの商船や奴の保険なんか、海賊被害が増えてきて、このままだと赤字決算になっちまうから、何か考えてくれよ」
「あはははははっ、あー坊! つまりだな、このままずっと、可愛い嫁さん達を囲っていたかったら、もっと仕事を頑張れってことだことになるんだが……、ちくしょうっ! 本当にっ! あの子達、それぞれが魅力的で、羨ましいぞっ! このやろうっ!」
「「「そうだそうだっ! そうだぁっ!」」」

 そして、一応の主催者である俺はというと、前回と同じく、ラインブルグ・グループの重役を務めるおっさん連中に囲まれ、延々と酒を注がれ続けている。要するに、あ~ん、酒は注いでも、俺の返杯は受けねぇってのか、このやろうっ、って奴だな。

 ……ちなみに、今回もまた、親父はベティの親父と共に目立たない隅っこへ避難していたりする。

 っと、ととと、んぎゅんぎゅんぎゅ、ぷはぁ、ってかぁ!

「もう、また、先輩、あんな無茶してる」
「いいじゃない、レナ、今日位はさ」
「なんて言ってるけど、実はマユラさん、また、前みたいな事、狙ってるでしょ?」
「な、何言ってるのよ、ミーアちゃん、そ、そそ、そんなこと、ないよ~?」
「……マユラ、動揺しすぎ」

 きゃいきゃいと、レナ達が三人揃って、やりあっているのも聞こえな~い!

「へぇへぇ、マユラちゃん、おばさん、今、ミーアちゃんが言ったことに興味があるなぁ」
「そうねぇ、アイン君があなた達をどう扱ってるのか、知っておかないとね」
「ええ、もしも、性欲の捌け口にしかしてないようなら、とっちめてやるわ!」
「まぁまぁ、落ち着いて……。それよりも、ほら、今は聞き出しましょうよ」
「そうよ、私もアイン君があなた達にどんなことをしているか、興味を引かれるわぁ」

 おくさま連が三人を取りかこんで、しつ問大会をしているのもきこえな~い!

「うぅ、パーシィさんにベティちゃんよぅ、どうやったら、ナナちゃんに振り向いてもらえるんだろう?」
「う、うーん、多分、落ち着いた雰囲気を見せたら、マシになる、と、思わないでもないような気がする」
「あは、シゲさん、そこはこれまで通り、押せ押せでいいのよっ! 女の私が言うんだから間違いなし!」

 シゲさんがじんせいそうだんしているのもきこえながっ! ま、まずいっ! あがってきやがった!

「お、そろそろだな」
「おう、今日は、予め、バケツを用意済みだ」
「ついでに、音源も用意しているから、今回は、他所の迷惑にはならねぇから、安心しろ」

 お、おおっ、さすが、にどめだと、じゅんびがいいねっ!

 では、しつれいしてっと、うぶっ。



 ……なんて具合で、以前と異なり、夜遅くまで祝宴を楽しませてもらいました。


 そのため、限界を超えて飲んでしまい、当然の帰結として、翌朝には……。



「う、う~、マユラ、みず、水ちょうだい」


 二日酔いになってしまった。


「はい、もう準備しているから、飲んでね」
「あ、ありがとう」

 その二日酔いで痛む頭を楽にするためにも、十九番企画室から改めて軍需参入計画推進室へと名前と内装を新たにした仕事場で、水を頂いている最中だ。
 今の醜態からもわかるように、昨晩は確かに、常になく、少々はしゃぎすぎてしまったのだが……、計画というか、ノルズの押し売りに成功して、ラインブルグ・グループに継続的な仕事をもたらしたり、アメノミハシラ全体に新しく雇用が創出できそうなのだから、これ位は容認してもらいたい。

 そんな事を考えながら、水を飲みつつ、装いを新たにした部屋を見渡す。

 うん、前と違って、個人個人の専用机や椅子、情報端末や通信機器も入ったから、オフィスらしくなった。

 このように、ラインブルグ・ホールディングス内に一つの部署として正式に立ち上がった軍需参入計画推進室には、名義上だけ室長になった親父の下、実質的な代表責任者として計画主任の俺と№2になる開発主任のパーシィがいて、事務側にマユラと今はいないがレナが、開発側にシゲさんとミーア、員数外だがナナが所属している。
 もっとも、今は事務側にいるマユラとレナだが、今後、開発を予定しているMSのテストパイロットを務めてもらうというか、俺の中では既に確定していたりする。

 で、この計画推進室が行う仕事だが、ラインブルグ・グループが軍需に提供する製品を定めて参入計画を練ったり、また、今の所は計画期間中だけの権限なのだが、グループ内各所から上がってくる軍事関連の発案や顧客からの要望や要請等を集約し、開発を進めるか止めるか、発注を受けるか受けないかを決めて、進めたり受ける事になった案件に関してはパーシィに伝え、第五開発部が実用化できるか等の可能性を検証をする。
 そして、それらの案件が実用化できると判断されたり、ある程度の叩き台が生まれてきたら、今度は関連企業や他の開発部から担当者を選出してもらい、案件専門のプロジェクトチームを作って、実際に売れるか、採算ベースに乗るかどうかの更なる検証を行うと共に、生産計画の立案や量産試作品の作製を行う。
 このプロジェクトチームで正規量産品の策定を行った後、各関連企業に実際の生産ができ、また改良計画が立てられる体制まで整えてからチームを解散し、プロジェクトに参加していたメンバーを各々の所属企業で案件関連部門の責任者にする、という所まで持って行くというものだ。

 要するに、軍需参入への足掛りを作る事と、短期間の権限だが、軍事関連限定の取捨選択と顧客からの要望対応、案件毎のプロジェクトチームの結成をするってところかな。んで、そのプロジェクトが終わって、良い結果が出た場合は、チームに参加していた連中は所属している企業に戻って、その案件の担当責任者になるって寸法だ。

 ちなみに、計画推進室立ち上げ直後に、宇宙軍から早速、もしも、MSを作る時はこっちも協力するから連絡してね(意訳)との言葉を頂いていたりする。おそらく、先のノルズが〝使える〟と評価されたから、MS開発も技術的に可能かもしれないと判断されたという事だろう。
 

 っと、頭の痛みが引いたな。

 ちょっとの間というか、自らの仕事について考えているうちに頭の痛みが消えている辺り、俺もコーディネイターなのだと実感する所だ。

 二日酔いの苦しみをほんの僅かで済ませてくれるなんて、親父と天上に住まう母上、本当に、ありがとうございます。

 そんな感謝を胸中で捧げていたら、マユラが俄かに声をあげて、俺に話しかけてきた。

「そう言えば……、アインさん、来週のスケジュールに宇宙軍側の責任者とノルズの納入時期についての協議が入る事になったからね」
「あれ、ノルズの納入関連は宇宙工業の担当者がするんじゃないの?」
「ううん、そちらはそちらでするって話だけど、元々の計画立案者であるアインさんにも、一度来て欲しいって、向うの担当者から連絡があったって、こっちに連絡が来たの」
「でも、俺はあくまで企画の起案を担当しただけに過ぎないし、実際の生産や以後の改良に関しては、宇宙工業に一任しているはずなんだけどな?」
「そう言ったんだけど、向こうが、是非一度、お会いしたい、って熱心に請われたらしくて、断りきれなかったみたい」

 ……なら、仕方がないか。

「わかった、なら、そのつもりでいるよ」
「うん。……でも、アインさん」
「なんだ?」
「ノルズの軍向けプレゼンテーションから思っていたんだけど、普通、ああいう席って、計画立案者が説明したりするのが一般的なのに、どうして出席しなかったの?」
「いや、俺の前歴が前歴だからさ、今の所はできるだけ目立たない方がいいんだよ」
「あっ……、そういうことなんだ」

 いや、親父からは堂々と出席すればいいって言われてはいたんだが、俺の前歴がザフト隊員だったことを理由に、今回というか、しばらくの間は勘弁してもらうことにしたのだ。

 社会的……、国際社会的に考えると、ザフト隊員として先の戦争を戦ってことは、ザフトというかプラントが地球に対して為した無差別攻撃や戦争中に為した戦争犯罪とかもあるだけに、あまり良い目では見られない。だから、ザフト隊員であった俺が表に、しかも、戦争が終わった直後に出てしまうと、グループ全体に大きなマイナスイメージが付くなんて、デメリットしかないのだ。

 とはいえ、結局は問題の先延ばしに過ぎないだろうし、会長の息子がザフト隊員でした、だなんて発覚した時には、スキャンダラスな事実を隠蔽していたとも受け取られるかもしれない。
 ……まぁ、その時はその時だというか、その先に延ばした時間を使って、地道にこつこつと働いて、迷惑を掛けた社会に貢献なり、会社での実績を残せていたら、マイナスベクトルも多少は緩むのではないか、とも考えた故の判断だ。

「もっとも、俺がザフトの隊員だったなんて、ザフトか知り合い、身内以外じゃ知られていないだろうけどな」

 外交筋や連合軍でも有名だったという話もあったが、ここ最近は講和交渉とかでごたごたしていたから、過去の事って言うか、既に忘れ去られているだろう、なんて事を思っていたら、マユラが不思議そうな顔を見せた。

「そうかな? 私、オーブ本国にいる時から、アインさんの事は知ってたよ?」
「はっ?」
「ザフトには黄色い機体を駆る、気高き黄狼って二つ名を持つ凄いエースがいるが、こんな軍人に、パイロットになれよって、MS隊でも言われてたみたいだし」
「ぶはっ!」

 ちょっ、隠したいというか、忘れたい過去がわざわざ追い掛けて来たよ!

 嘆きと羞恥の余り、机に倒れ込む。

 つか、そもそも、どういう意味で、凄いんだ?

 ……恥ずかしい名前、っていう意味での凄いなら、認めてやるよ。

「……アインさん、大丈夫?」
「うぅ、封じたい過去が、俺を追い詰める」
「あ、あはは、……でもね、私、その名前を知っていたから、遭難していた時に、アインさんに身を委ねる事ができたんだよ?」
「へっ、そうなのか?」
「うん。アインさんならわかると思うけど、戦時に女が捕虜になると、碌な目にあわないでしょ?」
「あ、あー、まあ、なぁ」

 ……確かに、厳しい規律がある軍隊ですら、戦時においては、高い頻度で、女性捕虜に対して性的な虐待を主とした碌でもない事が起きる。

「あの時ね、死にたくなかったけど、身体を汚されるのも嫌だったから……、私、真面目に、自決すら考えていたの」
「……」
「本当に、あの時は……、誰にも助けられなくて、独りでこのまま苦しんで死ぬのか、誰かに助けられたとしても、相手を信じられなくて、嬲られる恐怖の前に自決するのか……、どっちにしろ、死がすぐ傍まで来ていて……、本当に、怖かった」
「……そうか」

 身体を起こして、マユラを見ると、じっと俺の顔を見つめていた。

「だから、私を助けてくれた時、アインさんの名前を聞いて……、気高き黄狼だって気付いて、私、助かるかもしれないって、本当に安心したの」
「でも、噂は噂に過ぎなかったんだぞ?」
「そうかもしれないけど、何も知らないよりも、判断材料になるんだもの、断然、いいわ」
「そんなもんかな?」
「うん。それにね、実際のアインさんも噂に違わず、ずっと、私の監視をレナかローズ先生、女性隊員だけにしてくれたし、私をオーブに戻す為に……、見ず知らずの私の為に、動いてくれたわ。私が、オーブ本国から切り捨てられた後も見捨てないで、ずっと傍で抱き締めて、励ましてくれたしね」
「んなこと、当然のことをしただけさ」
「……うん、そうやって、普通に言えるアインさんだから、私は、好きになったの」

 な、なんか、照れる。

「だから……、極限状態だった私にアインさんを信じさせてくれたから、私はアインさんの二つ名が好き」

 俺にとって、軍隊での二つ名とは、結局は殺しの腕を褒めている事に過ぎないと思っていたから、少々、意外な評価だった。

「そうか、なら黄狼という二つ名も悪くない、か。……けど、中立国にいたマユラにまで、その名を知られているとはなぁ」
「あは、どこの軍でもMSパイロットなら、少なくとも、一度位は聞いた事があると思うわ」
「……となると、今後も、そう呼ばれる可能性もあるってことか」
「多分ね」

 そうなると、これからもずっと、ザフト時代の事で、色々言われるんだろうなぁ。

「まぁ、それでも、さっきの二つ名はできるだけ、表で出さないでくれよ? ……俺は、恥ずかしがり屋さんだからな」
「ふふ、アインさんが本当に恥ずかしがり屋さんなら、小さい頃に、おばさん達が入っているお風呂場に嬌声を上げて突入したりしないはずよ」

 あがっ!

 お、俺の恥ずかしくも助平な過去の一端がっ、マユラに伝わってるっ!

「い、いや、小さい時特有の、羞恥心というものが足りなくての行動さ」
「ふーん、じゃあ、そういうことにしておいてあげるね」

 うぅ、誰から伝わったんだろう?

 ……。

 こういうのを漏らすのは、ベティ一択だよなぁ。

「んんっ、マユラ、そろそろ仕事に取り掛かろうか」
「はーい、今日も頑張りまーす」

 マユラを促しつつ、ベティに何らかの報復を決意して、俺はBI用主兵装の改良に関する書類を読み始める。



 ……よし、報復として、ベティ最後の寝小便の話を三人に吹き込んでおくとしよう。


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