第三部 導なき世界の中で…… (C.E.72年-C.E.75年)
07 穏やかな日々 -ユニウス体制発足 3
三月に入って、国際社会が戦争が終わったという事実を認識し、平和の有難みを実感し始めた頃、技術研究所内にある第五開発部所管の格納庫で、親父にラインブルグ・グループが軍需参入する為の試金石にもなる軍事用BOuRUの試作機……、というよりも、企画段階でも説明していた、これらを運用する為の【ノルズ(Norns)】、正式名をNearby Operational Reactionary Network-System.(近接作戦用反応システム※注:適当訳)と呼ぶ近接防衛システムをメインに説明しつつ、運用される試作機を見せたのだが、どうやら親父は満足してくれたようだった。
「よし、アイン、これでいってみよう」
「ということは、押し売りできそうか?」
「それはわからんな。私としては、これらの出来に満足しているが、相手が必要としなければ、無用の長物に過ぎないからな」
「それは、確かにね」
需要がないのに供給しても、捨てられるのが落ちだ。
そんな事を考えていると、常日頃から企画室での留守番ばかりだった為、今日初めて自身の目で試作機を見る事になるマユラが、ミーアとナナから説明を受けているのが見えた。
「だが、BOuRUベースでの開発だけあって、コスト面では断然優れている事もあるから、耳を傾けてはくれるだろう」
「まぁ、フル装備のMS一機分で、兵装込みで十二機確保できる計算だからな」
「うむ、それに無人機である事も売りにできる」
無人機を使用する事で、それまで防衛関連の部署にいた人員を減らし、浮いた分の人員を他の部署で有用に動かせる事ができるはずだから、親父はそこを突いて行くんだろう。
正直言って、現状、戦力が少ないアメノミハシラは周辺宙域の防衛だけで手一杯のはずだからな。
「親父、押し売りまで、まだ時間があるんだろ?」
「ああ、四月の中頃辺りを目処にして、話を聞いてもらえるように調整している」
「なら、その間に試作機を動かしたりして、システムや機体の欠陥の洗い出しや設計の見直しとかして、もう少し改良してみるよ。機体の方もシゲさんとパーシィがまだ色々と弄ってるみたいだし、ミーアとナナも無人機に載せる人工知能やノルズの効率化を頑張ってるしな」
「そうか。皆、優秀な子達だからな、期待しておくよ」
「いやいや、そういうのはさ、口だけでなく、目に見える形でもしてやってくれ」
「ふふっ、わかった。なんらかのボーナスを提供できるようにしよう」
うっし、皆のボーナスゲットぉ!
だなんて喜んでいたら、こっちはこっちで、パーシィから詳しい説明を受けていたベティがこちらの視野に入ってきて腕時計を指差した。
「む、どうやら、次の仕事に向かう時間らしい。……やれやれ、久しぶりに現場の空気を吸えたというのに」
「そういえば、親父って、会長になってからはBOuRUに乗ってないんだよな?」
「ああ、乗っていない。……だが、皆の生活を支える為と思えば、仕方がない事だ」
「もしかして、ストレス溜まってる?」
「それはない。なんだかんだ言っても、昔からの仲間が共にいて支えてくれているし……、今はお前もいる」
「おっと、それ以上は恥ずかしいことは言わないでくれよ? ……また、泣きたくないからな」
そうやっておどけてみせると、親父も再び笑みを見せた。
「さて、少々、名残惜しいが……、次の仕事に、アメノミハシラ商工会との会合に行くことにするよ」
「商工会との会合とは、それはそれは、大変ですなぁ、会長殿」
ラインブルグ・グループやモルゲンレーテが街に降ろす仕事を適度に分散調整して、できるだけ多くの企業に振り分けるという、難しい仕事へと赴く親父を送る為に、ザフト式ではない、素人がするような敬礼をして見せると、親父は露骨に呆れた顔をして、こう言ってのけた。
「なんとも、下手な敬礼だな、アイン」
「ザフト式は、もう勘弁だからな」
そう切り返すと、親父は失笑を隠せないようだった。
◇ ◇ ◇
親父がベティと共に次の仕事に向かい、パーシィ達第五開発部の面々も開発部に戻った後も、俺とマユラは格納庫に残って、ノルズで使う為に開発された三機種の軍事用BOuRU兄弟、いや、ここはノルズらしく、あえて、姉妹機と言っておこう……、それら姉妹機を観察しながら、話をしている。
「ウルド、ベルダンディ、スクルドでノルズ、……ノルン三姉妹かぁ、カッコいいね」
「ああ、どうせなら、遊び心も込みで名前をつけてやろうと思ってな」
「ふふ、私、アインさんのそういう所も好きだからね」
「それは光栄」
俺の内で復活を果たした厨二魂が、今のマユラの感想を聞いて、非常に満足し、充実のあまりに、
いいいいいぃぃぃぃぃっっっやあぁっっっほぉっうぅぅぅぅぅぅぅーーーーー!
だなんて歓喜の雄叫びをあげたのは放っておいて……、わざわざ、足りない頭を絞りに絞って、無理無理に、それぞれの名前をノルン三姉妹に当てた甲斐があったってなもんだ。
で、このノルズで使用される軍事用BOuRUだが、早くも【BI(Battlefront Interceptor)】という型番が定められており、気が早いというか、まだ、採用される所か売込すらしていないのに、宇宙工業では生産ラインに使用する空間の確保や効率的なライン構築の検討が始まっており、直にでも、生産に取り掛かれるように前準備が進んでいるらしい。
この先走った動きも俺への信頼から来るのかもしれないが、少々、プレッシャーを感じてしまうのは仕方がないことだと思う。もっとも、逆に、俺個人の気の持ち方、考え方次第でプラスにもなるのだから、そちらに傾くように考えておこうとも思う。
「で、どうだ、マユラ。現物を見て、どう思った?」
「それぞれの機体にしっかりとした特色と役割があって、いいと思うよ」
「そりゃよかった。M1のテストパイロットを務めた人に言ってもらえると自信になる」
「あはは、でも、テストパイロットって言っても、私は本当に動かしていただけだから」
「謙遜謙遜、それに選ばれる事自体が一つの資質だよ。それだけ、癖のない素直な操縦をするって、上層部や開発陣に思われていたってことだからな」
開発する機体に、最初から変な癖を付けたら駄目だからな。
そんなことを思って褒め言葉のつもりで言ったのだが、当のマユラは恥ずかしそうでいて、微妙な顔をしていたりする。
「……う、うーん、アインさんにそう言ってもらえるのは嬉しいけど、本当に、実際は違うと思う」
「えっ、違うのか?」
「うん、M1の開発主任がね、軍に入る前に通っていた学校の講師で何かと面倒を見てもらったり、色々と助けてくれた人だったから、その関係で引っ張ってくれたんだと思う」
「へ、へぇ、そうなんだ」
……その開発主任って、男じゃないよね?
なんて嫉妬めいた思いが表に透けて出てしまったのか、マユラがちょっと面白そうで、若干、嬉しそうな顔で言葉を続ける。
「……アインさん、その人が気になる?」
「あ、いや、そ、そんなことは、ないったら、……ないよ?」
「そう? ……本当にぃ?」
「ほ、本当に」
でも、ちょっと、胸の中で、こう、ムヤムヤっていうか、モヤモヤっとした、ムズムズする感覚が次々に湧いて来るんだが……、嫉妬は独占欲の表れとはよく言ったモノだなぁ。
何気に動揺を隠せていないらしい俺の様子に満足したのか、マユラはニコリと曇りのない笑みを浮かべると、気になる答えを述べてくれた。
「あはは、その人は結婚して子どももいる女の人だから、安心してよね。……そ、それに、前の、あの時が、わ、私、ふぁ、ファーストキスだったし……」
「……あの時は、本当にご馳走様でした。マユラの唇は、弾力と甘味に満ちていて、すっごく、美味しかったです」
「ッ! も、もうっ! アインさん、そんな言い方はしないでよっ!」
なんとか形勢逆転ができたので、照れ隠しで怒って見せるマユラをあしらいつつ、ちょっと真面目に、それぞれの機体について考える事にする。
まずは、三姉妹の一番機となる【BI-01:ウルド(URD)】。
ウルドは、Unmanned Rapid Defender(無人早期防衛ユニット※注:適当訳)の略称から命名しており、ノルズと共に、他の二機にも関連する名をこじつけようと考えた切っ掛けでもある。
で、このウルドだが、ノルズの防衛圏において一番外側を担当する、警戒と索敵、初期迎撃、侵入妨害を目的とした機体だ。その為に、センサー系及び通信機能の強化が図られており、探索範囲を広める目的で小型プローブが一機搭載されている。
無論、迎撃行動に必要な兵装も備えられており、主兵装としては、技研第五開発部と宇宙電気、宇宙工業がモルゲンレーテ製の兵器を参考に共同開発した12.5mm四連装ビームガン、正式に量産する際にはビームファランクスと名付ける代物を一門、また副兵装としては、アメノミハシラというか、国防宇宙軍が近接機関砲として採用する予定のモルゲンレーテ製12.5mm近接防御機関砲を二門装備している。
その他にも、シゲさんが来た事で開発に成功した多目的吸着剤、所謂トリモチと俺が遊び心で発案書に混ぜておき、パーシィも楽しそうに作った、侵入者警告用の発光及び赤青信号機を装備している。
そんなウルドの外観を述べれば、BOuRUのオペレーターが乗り降りしているハッチを前面と考えて、機体の前面中央部分に主兵装となるビームファランクスを嵌め込み、天頂部に通信用ブレード、天底部に小型プローブを装備、また、左右舷にはそれぞれ一門ずつ、12.5mm機関砲が装着される形になる。
背面には、スラスター用ランドセルが取り付けられており、機体の推進力を強化したり、攻撃時の姿勢制御を安定させたりする役目を担っている。
無人仕様となった為、操縦席や生命維持関連装置を取り払って生まれた内部空間には、BOuRU本体に使用する燃料電池とは別に、ビームファランクス用の冷却剤や大型バッテリーの他、機体を制御し、届いた命令を実行したり、平時は自身で判断を下して行動する為の人工知能、ミーアとナナが頑張って創り上げた簡略なAIが搭載されている。
次に、三姉妹の二番機になる【BI-02:ベルダンディ(VERDADI)】だな。
ベルダンディは少々長い名前だが、Voluntary Encounter Reactive Drone for Attack in Near Defensive Intercept.(無人防衛用機動攻撃ユニット※注:適当訳)の略称であり、ノルズの防衛圏において、機動迎撃と敵の排除を主目的とする、いわば主力に相当する機体だ。
その為、三姉妹の中では最も武装が施されており、主兵装として、これも第五開発部と宇宙電気、宇宙工業が共同開発した30mm二連装ビーム砲を一門、副兵装として、ウルドと共通になる12.5mm近接防御機関砲を二門、更には、MSが登場して以来、ずっと第五開発部が研究し、宇宙工業と共同で開発してきた、〝こんなこともあろうかと〟印の対MA・MS用重散弾砲や装弾総数二十四発の対MS用六連装小型ミサイルポット、対艦用二連装中型ミサイルランチャーといった装備の中から、二つ装備できる仕様になっている。
このベルダンディの外観を述べれば、ウルドと同じく、機体前面中央部に主兵装となる30mm連装ビーム砲を嵌め込み、左右舷には12.5mm機関砲が各一門装備されている。そして、天頂、天底部には先の強力な重火力兵装を取り付ける事となる。
機体内部に関してはウルドとまったく同様の仕様というか、基本的に内部は、三姉妹機全てに共通している部分が多かったりする。
背面のスラスター用ランドセルに関しては、ウルドよりも大型化されて通信系を装備している他、推進力がかなり強化されており、管轄宙域を飛び回れるだけの機動力を与えている。
最後は、三姉妹の三番機となる【BI-03:スクルド(SKULD)】だ。
これもまた、Shielder of Keeping Unmanned Last Defense.(無人防衛用防御ユニット※注:適当訳)の略称から命名したもので、ノルズの防衛圏では最終防衛を担っており、攻撃からの防御と援軍や迎撃機が到着するまでの時間稼ぎに特化した機体となっている。
スクルドの一番の特色としては、先の二種とは違って主兵装を持たず、電磁式の対ビームシールドを装備している所だろう。この第五開発部と宇宙電気が共に開発を進めてきて、シゲさんが来た事で実用化できた、電磁式対ビームシールドはシールド前面に機体サイズ以上に大きな磁場を形成し、磁場内に金属粒子を撒き散らして粒子層を構成、飛来するビームを磁場と金属粒子で大きく減退させて、防護対象の一撃死を防ぐのだ。また、本体シールドには非常に高価な対ビームコート塗料ではなく、スチール合金と水、セラミックで構成される複合材を二重に重ねた装甲で受け散らす仕組みになっている。
他には、微細な氷というか水粒子と磁気を帯びた金属粒子を利用するアンチ・ビーム爆雷が収まったポッドが二基装備されており、これもまた、ビームに対する防御手段として使用される予定だ。直接的な攻撃及び防衛兵装としては、一応、他の二機同様に12.5mm近接防御機関砲が二門装備されている。
このスクルドの外観は先の二種とは異なり、機体前面に機体直径と同じ大きさの対ビームシールドをマニピュレーター等も使用して保持している為、前面はのっぺりとしている。もっとも、左右舷には例の如く12.5mm機関砲が一門ずつ、天頂、天底部にはアンチ・ビーム爆雷ポッドがそれぞれ一基ずつ、装備されている事から、兄弟、もとい、姉妹機であることは見て取れるはずだ。
また、内部に関しても若干異なり、先の二種では主兵装に使用されている冷却システムの換わりに、磁場式対ビームシールドに使用される金属粒子が詰まったタンクが二本載せられている。
背部のランドセルにはスラスターの他に、センサー及び通信系が取り付けられており、その影響で、推進力に関しては先の二種よりも劣る物になっている。
まったくもって、この短期間で、よくこれだけのものが出来たものだと思うが……、地道な研究の成果である〝こんなこともあろうかと〟のパーシィ印が捺された兵装設計図やBOuRUの簡略な機構といったもののお陰で、搭載するAIの設計を除いて、兵装の試作はスムーズにいき、本体にしても既存のBOuRUを僅かな改修しただけ済んだ為、あっ、という間に試作機を組上げることができたのだ。
ちなみに、試作された兵装もそうなんだが、BIで使用される装備品や兵装は、ほぼ全てがモジュール化されており、簡易に交換する事が可能になっている。その為、現場での改装でスクルドをウルドに仕様変更したりといった事が可能だったりするから、運用も楽なはずだ。
まぁ、これも一つの売りだなって、突然、マユラの顔が目の前にっ!
「んぐっ!」
マユラからの突然のキスに、何事だと混乱していると、唇を離したマユラが、ちょっと口を尖らせながら文句を言い出した。
「アインさん、目の前の〝女神達〟に気を取られるのも仕方がないかもしれないけど、それでも、ちゃんと、私の方を優先してよね」
「はは、女神様に嫉妬って奴か?」
「ッ! そぅ……」
マユラに皆まで言わせず、その口をしっかりと塞ぎましたアインです。
……まぁ、女神様達が見ている前でなんですが、一時休憩ということですな。
+注意+
・特に記載なき場合、掲載されている小説はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
・特に記載なき場合、掲載されている小説の著作権は作者にあります(一部作品除く)
・作者以外の方による小説の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。
この小説はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この小説はケータイ対応です。ケータイかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。
小説の読了時間は毎分500文字を読むと想定した場合の時間です。目安にして下さい。