※警告※
この話より先を読む者は、【主人公モゲロ的な意味で】一切の希望を捨てよ、です。
第三部 導なき世界の中で…… (C.E.72年-C.E.75年)
01 新生活の始まり -アメノミハシラ 1
C.E.72年1月4日。
連絡船は海賊の襲撃を受けたり、デブリの衝突を受けたりするといった大きなトラブルも無く、定刻通りにオーブ連合首長国が静止軌道上に建設した宇宙ステーション【アメノミハシラ】が管轄している宙域へと入る事になった。
三ヶ月前までの戦闘によって、地球-月間の宙域ではかなりのデブリが発生している事もあったから、正直、到着は遅れるかもしれないなと思っていただけに、定刻通りの運航は予想外だった。
「あ、兄さん、あれかな?」
隣の席に座っていたミーアの声に誘われて、ミーアの身体越しに連絡船の多重構造窓から外を覗くと、アメノミハシラらしき巨大な建造物と周辺に展開されている太陽光発電や放熱用のパネル群が見えていた。
このアメノミハシラとは、国策として宇宙への進出を掲げたオーブが国家プロジェクトとして推進してきた軌道エレベータ、その宇宙側の基幹部分に相当するらしい。
そのアメノミハシラの構造を、俺が知っている限りで挙げていくと……、エレベータが開港した際は、宇宙船舶の整備点検施設を兼ねた大規模な宇宙港として機能する、球状体にかなりの圧力を掛けて楕円球にするというか、同じサイズの調理用ボウルを二つ、縁で向い合わせに引っ付けるというか……、あー、そうだな、一般的な〝どら焼き〟みたいな構造体と、それに突き刺さる形の将来はエレベータシャフトになる長大な柱状の構造体、そして、柱状構造体に連結されている居住滞在者用の中規模の閉鎖シリンダー型コロニーが二基だったはずだ。
更には、親父が移住する時分に発行されていたパンフレットによると、L3にある資源衛星を、採掘が終わった段階で静止軌道まで運んできて、〝どら焼き〟の先にカウンターウェイトを兼ねた、デブリ排除を担う業者や防衛を担当する軍の基地として、取り付けるとか付けないとか。
むー、このアメノミハシラの外観をわかりやすく何かに例えるとしたら……、地球を地面にして、そこから生えたキノコを想像すればわかりやすいかもしれないな。
傘の部分にあたるのが〝どら焼き〟で、柄の部分に相当するのが柱状構造体とそれを覆う形の閉鎖シリンダー型コロニーって具合だ。
もっとも、マユラから聞いた話だと、先の戦争による社会の混乱やオーブ本国が戦禍を被った為、先の軌道エレベータ計画は中断状態にあり、その代わりといっては何だが、〝どら焼き〟内部にはまさに一大生産拠点とも呼べるような巨大な無重力ファクトリーが建設され、また、モルゲンレーテ社が開発したオーブの主力MS【MBF-M1】アストレイ等の兵器工廠があるそうだ。
その無視できない規模の生産力と恵まれた立地条件の為に、戦争中には地球連合やザフトから、何度かちょっかいを掛けられる破目になったらしいが、その全てを精強な防衛隊によって退けているとのこと。
そして、それを率いる者は、ロンド・ミナ・サハクという人物であり、オーブでは有力な氏族であるサハク家の家長であり、アメノミハシラに司令部を持つオーブ国防宇宙軍の司令官を務め、また、軍政下に置かれているアメノミハシラに住まう者達が敬意を持つ市長的な人物でもあると、先の通信で話した際、親父からは好意的な評価を聞いている。
もっとも、そのロンド・ミナ・サハクへの権力の集中振りには、前世由来の価値観が違和感を訴えてくるが……、オーブ連合首長国自体が君主制というか少数氏族による寡頭制を敷く国家であり、オーブの氏族が、極々簡単に言えば、政治や軍事を担う指導者……貴族みたいなものである以上、ロンド・ミナ・サハクが文武の指導者であってもおかしいことでもないのだ、と言い聞かせている。
「兄さん、どうかした?」
「あ、ああ、いや、こうやって見ると、変わった形だなと思ってな」
「んふふ、ほんとだね。……それに、何だか、兄さんのアレの形に似ているところもあるし」
「ちょ、おまっ! 下品な事を言わないの!」
思わず、吹きそうになっただろうがっ。
「ぷっ、た、確かに似ているかもしれないわね。マユラもそう思わない?」
「うん、大きて太い所が似てるよね」
レナはともかく、マユラまでもが……。
で、でもまぁ、マユラに関しては、アメノミハシラのデータからマユラがオーブ国民であることがちゃんと確認された事もあってか、以前の不安定な精神状態から、より一段と再建を果たしてきているからこそ、って、言えるのかもしれないな。
それに最近だと、恐らくは生来のものであると思われる勝気さというか、負けん気というか、闊達さが少しずつ見え始めていて、レナやミーアに対して、色々と張り合おうとしているしな。
……でも、他にも人が居るっていうのに、堂々とシモ関連を発言しすぎだと、お兄さんは思うの。
いや、ほんとに、俺なんて、自然、羞恥で紅くなってきた位なのに……、普段通り過ぎるお嬢さん達はさ、ちょっと、そっち方面に耐性が付き過ぎでないか?
「あ、あー、こんな時、どうすればいいんだろうねぇ、俺ぁ」
「取り合えず、笑っておいたらいいんじゃない?」
身悶える俺を他所に、会った当初から、何故か、極自然に会話が成立している、シゲさんとアルスターからも、俺を突き放すような発言がっ!
「ほほぅ、そうなのか? ……ならば、切り取って剥製にして、愛でてやるのも面白そうだな」
更にその背後で、下に恐ろしき事を呟く、ちっこい女医さんまでっ!
「エヴァ先生、それは止めて下さいね」
「うん、困る」
しかも、それをレナとミーアが真面目な顔で注意するので、もう、本格的に居た堪れなくなってきた。
「……」
一人黙っていたマユラも、何気なさを装いつつ、ちらちらと俺の股間を見ては頬を染めているのも、地味に効いているし……。
も、もう、勘弁っ! 頼むから、早く着いてくれっ!
俺達以外の乗客からの視線もあって、一人、見せ物にされた気分で、俺はそう願うしかなかった。
◇ ◇ ◇
約一名グッタリとしていたが、意気揚々とアメノミハシラの宇宙港に降り立った俺達は、順調に身体検査をパスし、わざわざ迎えに来てくれていた懐かしい顔との再会を果たす事ができた。
「久しぶりね、アイン」
「おおっ! お前……、ベティか? ……こ、これまた、本当に、スタイルが良い、美人になっちゃって、まぁ」
「はいはい、お世辞は程々にしときなさいよね。可愛いお連れさん達が剥れるわよ」
「いやいや、ほんとほんと、あの〝つるぺた〟でちょっとしたことで、直に手が出ぶッ!」
「……言っておくけど、今でも、結構、手は出るわよ?」
……無重力空間だというのに、見事なストレートを決めてくれた為、ロビーの端まで吹き飛んでしまったよ。
と、とにかく、場を取り直して……。
俺の目の前に立つ幼馴染二号もとい〝勝気なベティ〟こと、ベティーナ・ラ・トゥールが俺の額を人差し指でもって、穴が空きそうになる位に連続してつつきながら、怖い顔をして、俺を糾弾している。
「まったく、少しはいい男になっているかと思っていたのに! 会った瞬間からお世辞なんて、全然、昔と変わってないじゃないの!」
「なっ、人聞きの悪い事を言うなっ! 昔からお世辞なんて言わない、大人しくて素直で面倒見の良い〝よい子〟だったぞ、俺はっ!」
「どの口で、お世辞を言わない、大人しくて、素直だったなんて言うのよ!? それこそ、嘘を付くなっ! 機会があったら、うちやパーシィの母親にしがみ付いて、歯が浮きそうになるような褒め言葉を並べ立てていたくせにっ!」
げぇっ! ばーれーてーるぅぅっ!
「い、いや、それはな、小さい頃だっただけに、母性溢れる大人な女性に憧れを抱いていたからだよ」
……嘘です。
実は当時、まだ俺と〝俺〟が乖離していた状態だった為、御母堂達が〝俺〟の年齢的に釣り合う年頃ということもあり、遂、自然に、身体と口が動いてしまったんです。
「へぇ、なら、あんたって、年上好みだったんだ?」
「じ、実は……、程よい年上女性には常に憧れの心を、今でも抱いております」
「ふーん、そうなんだ。……まぁ、場所が場所だから、今の所、これ以上の追及をしないでいてあげるわ」
と、のたまうと、ベティはようやく指を引き上げた。
額に穴が開かなかった事に安堵しながら、改めてベティの姿形を観察してみる。
……本当に、幼い頃や引っ越した時からは想像できない位に、綺麗になったよなぁ。
改めて、ベティの見目形を見てみるが……、その顔立ちは、目鼻立ちが鋭くて、結構、硬質な感じがするんだけど、艶のあるブロンドの長髪を左サイドでまとめて縛っているから、それが和らいでいる。
無論、黒のパンツスーツ越しにも測れるロケットみたいな胸や腰の括れも実に素晴らしいし、綺麗な曲線を描く尻の丸みも大人って感じがして、また、歳相応の健全な色気を出している。
「あ、それと、アイン、後ろに気を付けなさいよ?」
「へっ、て、いたたたたっ!」
背中の三箇所から、同時に痛みがっ!
「はぁ~、あんたって、モテルのねぇ」
「は、はは、す、凄いだろう?」
俺の強がりな言葉に、皮肉か嫌味で返してくると思っていたら、意外にもベティは外からでもわかる純粋な笑みを軽く浮かべて見せた。
「ええ、流石は、私の初恋の人ね、ってことにしておいてあげる」
「はっ? って、痛みが増したっ!」
ちょ、マジで怖いから、後が見れないっ!
だ、誰でもいいから、助けて~!
そんな俺の祈りが、珍しくも天に届いたらしく、助けの声が耳に入ってきた。
「アイン、何やってるの?」
「おおぅっ、パーシィっ! 久しぶりぃっ! こ、これは、より良い男になる為の、し、試練って奴だなっ!」
「あはは、相変わらずの負けん気と減らず口だね」
「それ位じゃないと、プラントじゃ、心が折れるからなって、ほんとに、なんか、痛気持ちよくなってきたっ!」
「それは流石に拙いんじゃないかな?」
昔と変わらぬ、暢気で緩い受け答えを展開するのは、幼馴染一号と呼ばれる〝暢気なパーシィ〟じゃなくて、パーシィこと、パーシバル・ウィングフィールドだ。
こっちは昔の印象とあまり変わることなく、ブラウンの髪や大人しい少し丸みを帯びた顔かたち、タレ気味の目、気が良さそうに開いた眉毛、ニコニコと微笑んでいる口元に加えて、昔も今も、ベティの身長よりも若干低い上、ちょっと小太り気味なシルエットまでもがそのままだった。
「確かに拙いかも、……あ、あー、後で絶賛抗議行動中のお嬢さん方、苦情の受付と不満の埋め合わせは後ほど、ちゃんとしますので、今は何卒、平に御容赦を」
との言葉をかけると、あら不思議、すぐさま、三つの痛みがなくなりました。
「……見事な条件闘争ね」
「ああ、アインちゃんも、ちょっと安請合いしすぎだよね」
もはや解説役と化している、アルスターとシゲさんの声が聞こえてくるが、この場を収める為には仕方がないことだと思うんだがなぁ。
「んんっ、と、とにかく、今日は、わざわざ迎えに来てくれて、ありがとう。また、以前と同じくというか、今後ともよろしく」
代表して、二人に声を掛けると、それぞれがそれぞれの声で、ベティとパーシィに対して挨拶をし始めた。
ちなみに、連絡船を降りるまで同道していたエヴァ先生だが、迎えの人が来ていたらしく、先に宇宙港を後にしていたりする。
一通りの挨拶と自己紹介が終わった後、再び、パーシィに問い掛ける事にする。
「で、これからの予定は?」
「うん、まずは居住区画に行って、住んでもらう家に案内するよ。確か、単身用が一つと世帯用の一つでいいんだよね?」
「ああ、そうだったはずだ」
世帯用は、俺、ミーア、レナ、マユラが、単身用は、シゲさんが使用する予定だ。
残るアルスターだが、もっと状況が落ち着ついて、アルスターの親類と連絡が付いた時点で、実家がある大西洋連邦に帰す予定だから、以前と同じように俺達が住む世帯用住居に泊まってもらうことが決まっている。
もちろん、親父と住むことも考えたが、もう独立しているんだから、別々に住んだ方が互いに気楽だろうということで、前もっての通信連絡で話はついている。
その連絡の際には、一緒に住む恋人が三人できましたので、世帯用をお願いします、との希望を述べた瞬間に、アイン、お前、戦争で疲れているんだな、こちらで良い精神科医を紹介しよう、だなんて即答した辺り、流石は我が親父だと思ったものだ。
ならばと対抗して、三人を画面に出したら出したで、まさか、お前がここまで反社会的に育ってしまったとは、なんと言ってリナに詫びれば……、だなんて事をほざいたので、三人に耳打ちして、皆に〝おとうさま〟って呼ばせたら、一瞬でコロリと転んで、うむ、でかしたぞ、アイン、こちらでの彼女達とお前の関係についての説明やフォローはこの父に任せておけ、娘も欲しがっていたリナもきっと喜んでくれるはずだ、だからなぁ。
「案内した後だけど、夜にはおじさん主催の歓迎会を開く予定だから、それまで、自由にしてくれたらいいよ。……あっ、でも、悪いけど、アインだけ、おじさんが自分の所に来て欲しいって言ってたな」
「いいけど、皆の相手は?」
「大丈夫よ、私がするから安心しなさい」
ベティが歓待役となると、過去の悪事をばらされそうで、嫌な予感しかしないんだが……。
「ふふ、大丈夫よ、アイン。私からは絶対、変なことは吹き込まないから」
なら、安心……。
「でも、どうしても聞きたいだなんて請われた時は、歓待する役目上、〝仕方なく〟話してもいいわよね」
……できないっ!
って、ああ、お嬢さん達の目の色が危険な位に輝いて……。
「はは、アインも大変だね」
「ま、まぁ、な」
和やかに笑ってくれるパーシィだが……、俺としては、帰って来た時が今から怖いです。
そんな思いを胸に、俺は一人、今晩には到来するであろう黄昏の時を覚悟するしかなかった。
とりあえず、前半が詰まってきたので、更新を再開します。
まずは週一の更新で進行したいと思いますので、今後とも、よろしくお願いします。
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