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第二部  二年戦争/プラント独立戦争 (C.E.70年-C.E.72年)
終  ユニウスの講和


 C.E.72年2月16日。
 アメノミハシラに渡った俺達が新生活に慣れ始め、それぞれがラインブルグ・グループ内で仕事に励みだした頃、二年に渡ったプラントと地球連合の戦争は、地球周回軌道を回るユニウス・セブンの残骸跡において、各国代表が講和条約に調印する事で正式に終結した。

 その条文、とは言っても小難しい文章抜きの内容だけだが、以下の通りだ。


 1 対プラント軍事同盟と化していた、地球連合及び地球連合軍を解体する。

 ――これは講和交渉中に、大西洋連邦とユーラシア連邦、それに東アジア共和国の外交代表に随行していた、それぞれの随員の間で些細な諍いから発生した、【ナイロビのOHANASI会議】だなんて、口は悪いが物事の本質を突くネット・ユーザー達に名付けられた、場外大乱闘事件に端を発する、一連の地球連合加盟国間のゴタゴタが一つの終着に至ったという奴だな。


 2 プラントが旧地球連合加盟国の監視の下、ジェネシスを破棄するのと引き換える形で、旧地球連合加盟国はプラントの独立を認める。

 ――これでプラントは当初の目的を果たした事になるが、旧地球連合側から見れば、ジェネシスさえなければ、プラント位はどうとでもできる、という自信の表れでもあるんだろうな。


 3 プラント及び旧地球連合加盟国共に、双方への賠償金はなし。

 ――地球連合にとってはプラントが強力な抑止力を保有した為、プラントは国力の限界、つまりは継戦限界に至った為いう、双方にとって明確な形での勝ち負けのない痛み分けだったという〝建前〟からだろう。


 4 基本、戦犯は国家毎に独自に裁判にかけるが、捕虜虐殺等の一部重大な戦争犯罪は、国連が無くなっても存続している国際刑事裁判所において、人道に対する罪で裁判に掛ける。

 ――実際には実施されるかはわからないが、人として、例え、戦争下にあったとしてもやったら駄目なことを世界に周知させる、俺的には、かなり評価に値する決定だと思う。


 5 プラント及び旧地球連合加盟国は、地球上における占領地を無条件で放棄し、軍事基地は撤去する。

 ――プラントは独立するんだから、地球に領土はいらないだろうということと、各地で占領地を確保していた大西洋連邦への嫌がらせ、所謂、他の加盟国による足の引っ張りだな。


 6 旧地球連合加盟国はL1及びL5宙域をプラントの管轄下に置くことを認める。

 ――実効支配していることへの御墨付きって奴だ。


 7 月面は中立地帯とするが、プラント及び旧地球連合加盟国は月面に新基地を一つずつ建設する事を互いに認める。

 ――巨大な資源庫である月での皆の権益を認めるけど、競争し過ぎると大変だから、程々にしておこうってことかな。


 8 プラントは旧プラント理事国への関税優遇措置と復興支援資材の提供でもって、プラントコロニー群割譲の代価に当てる。

 ――ちょっとした補償というか、これはプラント側の譲歩だろう。


 9 各国の軍事力保有比率を、プラントが1、大西洋連邦が3、ユーラシア連邦が3、東アジア共和国が2、大洋州連合が1、南アフリカ共同体が1、汎イスラム会議が1とする。

 ――今回の条約の目玉でもある軍事力の保有制限だが、過熱して新たな火種になりかねない軍拡を食い止める事と、一大強国である大西洋連邦の侵略と伸張を抑える為だろうな。


 10 MS等の兵器類、軍事利用へのニュートロンジャマーキャンセラーの搭載を全面的に禁止する。

 ――平和利用ならともかく、軍事利用は論外って奴だ。


 11 ミラージュコロイド技術を一部を除き使用禁止にする。

 ――ミラージュコロイドって、かなり凶悪な技術だから、ビームサーベルとかの磁場形成技術とかを除いて禁止されるらしい。


 12 プラント側条約監視団常駐基地や在地球公館の所在地として、カーペンタリア基地の保有を認め、ジブラルタルを有償割譲する。

 ――外交官の派遣と相互監視の一環だが、有償とはいえ、ジブラルタルなんて要地を割譲させるとは、としか言いようがない。


 13 旧地球連合加盟国側の条約監視団常駐基地や在プラント公館として、ジブラルタル割譲の代価にL1とL5に衛星拠点を一つずつ提供する。

 ――これも外交官の派遣と相互監視の一環になる。


 14 地上の国境線および国家を戦前のC.E.70年2月10日の状態に復旧する。

 ――南アメリカ合衆国やオーブ連合首長国の再独立を認めて、大西洋連邦の影響力を少しでも落とす為の、プラントと他の連合加盟国の方策だな。


 15 プラントは旧地球連合加盟国に在住し、プラントへの移住を希望するコーディネイター難民を受け入れる。

 ――住み分け政策の一つだが、コーディネイターの保護だとも言える。


 16 軍事保有比率については、今後、三年の間有効とし、以後の交渉でもって延長の可否を決めるとする。

 ――明確な期限付きにする事で、確実に条約を守らせるようとでも考えたのかもしれない。



 と、まぁ、簡単なコメント付きで紹介したが、こんな条約が成立して、正式に戦争が……、一国の独立運動から始まり、全世界を巻き込んだ、地球圏規模の戦争が終わったのだ。



 ……本当に、良かったよ。



 で、国際社会では、早くもこの戦争に名称が付けられるそうで、四月馬鹿でニュートロンジャマーが地球に無差別投下されたり、大量破壊兵器であるサイクロプスや核ミサイル、ジェネシスといった恐ろしい兵器が相次いで使用されたり、スペースコロニーが数多く破壊されたり、多くの国でインフラに大打撃を受けたりと、戦域が地球のみならず、月や各ラグランジュポイントといった地球圏全体に及んで、影響を受けなかった場所がないことから、【地球圏二ヵ年戦争】或いは【二年戦争】と呼ばれる事になるそうだ。

 まぁ、プラントだと、今後も独立戦争ってのが、正式名称になるんだろうけどな。



 おっと、最後に、一言だけ。



 色々と仕掛けていたのは知っていたけど、実際に、地球連合を解体させてしまうなんてさ、本当、〝プラントの魔女〟って、凄いよね。






 第二部  二年戦争/プラント独立戦争 (C.E.70年-C.E.72年) 了


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