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第二部  二年戦争/プラント独立戦争 (C.E.70年-C.E.72年)
104 混沌への序曲


 戦隊が解隊しても、まだまだ残務処理が残っており、戦隊を立ち上げた時と同じく、アプリリウス軍事衛星港内で一部屋借り上げて、恋人の一人となったレナと共に書類と格闘する日々である。
 いや、今月頭の解隊までは、ザフトに残る連中の異動希望と配属先とのすり合わせや除隊者の慰労金支払い手続き等で忙しかったから、他の諸事が後回しになっていたのだ。その為に、俺の補助を担うレナまで巻き込んで、除隊するのが少しだけ先に延びてしまった。

 とはいえ、地球圏の状況は落ち着いているとはいえない為、まだ、民間人の出国が認められていない事もあり、特に問題はなかったりする。
 加えて、ユウキからも、精々、給料泥棒をしていけばいい、なんて有難い言葉をもらっているので、現在の空白期間を戦争という一種の非日常から以前の日常生活に戻る為のリハビリ的な期間と考えて、未だに緊迫しているザフト内の空気を他所に、定時上がりでのんびりとさせてもらっている。

 まぁ、だからといって、色呆け……、ミーア達とイチャイチャしている訳ではない。

 家に残っているミーア、マユラ、アルスターの三人は引越しの準備……、アメノミハシラに持って行く物の選別や荷造り、家の清掃、ご近所や知り合いへの挨拶回り等で忙しいし、俺の専属秘書と化しているレナも言わずもがなである。

 ……要するに、人様に、特に未恋で無妻男共に自慢したいが表立ってはできるものではない、レナ達との関係だが、何かが大きく変わったというわけではないということだ。

 例えば、レナと同じ部屋で仕事をしていたとしても、フィクションでありそうなオフィスラブに興じているなんてことは、これっぽちもなく、至極、真面目に仕事に取り組んでいる。

 つか、そもそも、まだ、誰にも手を出していない。

 いや、別に俺がヘタレている訳では……、何となく、そういうムードにならないってことは、ヘタレているのだろうか?

 だが、実際、俺がやっていることといえば、レナが仕事をしている姿を眺めていて、極稀に、それに気がついたレナが、仕事をして下さいとの言葉と共に怒る前に、もう仕方がない人だなぁ、的に零す華やかな笑みに、精神的な充実感を得ている位かなぁ。

 ……。

 うーむ、こう考えると、あの浴室での目も当てられない大興奮状態に陥っていたのは、俺の姿を借りた他人だったんじゃないかって、自分でも思うくらいだ。

 本当に、こうも直接的に手が出ないのは、戦争が落ち着いて、生命の危機を感じなくなったから性欲が減退している為だろうか?
 それとも、他人よりも老成してしまっているであろう精神が、共に在ることから来る精神的な充実感を得る方に重点を傾けているためだろうか?

 ……健全な男としては、今後の課題だな。


 って、なんか今、急激に、練乳ワッフルみたいな甘いものが、食べたいような、食べたくないような……、そんな気がしたような気がしないでもなかったが……、別に、他にも甘いものがあるから、ワッフルに拘らなくていいや。


 そんなわけで、地球連合軍による地球軌道の封鎖が一部緩和された為に、再び、市井の者も手に入れられるようになった一口チョコ……常日頃から、非常食として隠し持っている中の一つを、口に放り込んでっと、……うん、久しぶりに食べたけど、天然物は高いだけあって、美味いなぁ。

「もー、先輩、チョコなんて食べて、サボってないで仕事をして下さいよ」
「いやいや、俺、真面目に仕事しているよ? ほら、解隊が終わって、後は除隊するだけなのに、何故か、ユウキの奴から送られてくる講和交渉や地球情勢に関する報告書」
「ッ! そ、それって、特級の極秘じゃないですかっ!」
「だよなぁ。……まったく、いちいち焼却処分しないといけない、俺の身にもなれってんだ」

 ちなみに、俺からも報告書を読んで抱いた自分なりの見解を書いて、一応はユウキに送り返しているが、まぁ、これからもザフトで頑張る同期への義理と給料分の仕事(笑)って奴かね。

「……先輩、本当に、ザフトを辞められるんですか?」
「心配するな、十二月の頭か、遅くても今年一杯で辞められる予定だ」
「本当に、ですか?」
「ああ。……レナ、そんなこと言ってもさ、そもそも、アメノミハシラに移住しようにも民間用航路がまだ開放されていないんだからさ、焦っても仕方がないだろう?」
「確かに仕方がないかもしれませんが、何となく、このままだと、抜けられないような気がして……」
「大丈夫だって、つか、そんなカリカリしているのは、疲れて、糖分が欠乏しているからじゃないか?」
「べ、別にそんなこと、ないですよ? ちょっと疲れている私も、久しぶりにチョコが欲しいだなんてこと、全然、思ってませんよ?」

 とか言っているものの、俺が〝魔法のポッケ〟から新たに取り出したチョコ、白いからホワイトチョコだな、それに目が行っているあたり、わかりやすい。

 レナも女として、カロリーを気にしているのかもしれんが……、あのスタイルなんだから、そんな心配、無用だと思うんだがなぁ。

「本当に、欲しくない?」
「ほしっ……くないです」
「なんか、無理してないか?」
「そ、そんなこと、ないですよ」
「久しぶりのチョコなんだろう?」
「……まぁ、せ、先輩がどうしても、って言うなら」
「いやいや、俺も流石に、そこまで無理強いはしないって」

 チョコを巡って、ここまでやり取りをするのは馬鹿らしいかもしれないが、これも平和になった証左だし、当事者……、特に俺が楽しかったりするから構わないだろう。

「レナが素直に、先輩、チョコが欲しいです、って言えば、すぐにあげるって」
「ッ!」
「……ほれほれ、素直になれって、甘いぞ、美味いぞ、カロリー半分だぞ?」
「せんぱ……、異議有りっ! 非常食として持っているはずなのに、カロリー半分はおかしいですっ!」

 ばばんと、効果音がなりそうなレナの糾弾は、まったくもって、その通りです。

「いや、レナが素直になれる魔法の言葉のつもりだったんだが?」
「む、むぅ、ちょっと当たってるだけに、悔しいなぁ」

 後、一押しかな?

「ほら、今、素直になるなら、特典もつけるぞ」
「……特典?」

 ……どうやら、特典と言う言葉に興味が移った様子。

「どうする?」
「じゃ、じゃあ、……先輩、チョコが欲しいです」

 どことなく恥ずかしげだったが、ちゃんと言ったので、特典をつけることにしましょう。

 特典を提供する為、チョイチョイとレナを手招きすると、首を傾げながらも、可愛いワンコのような感で、素直に従って近づいてくる。いつも以前より性格が悪くなったなどと揶揄しているが、本質は出会った頃から変わっていないようで、まだまだ素直で、可愛いと思う。

「先輩?」
「はいはい」

 そんなわけで、チョコの包装を解いてっと。

「ほれ、口を開いて」
「え、えと……、これが特典なのかという、ガッカリ感が少しだけあるといいますか、何か、子どもみたいで恥ずかしいんですが?」

 な、なんと!

 この特典が気に入らないと! 子どもみたいで恥ずかしいと申しますかっ!

 ……むむ、ならばっ!

「いいから、ほれ、あーん、しろって」
「……あ、あーん」

 ……今、レナが薄目でこちらを窺いながらも、小さく口を開いたんだけど、何か、ぐっと来たわ。


 とりあえず、指先に摘んだチョコをレナの口に……。


「はぐっ?」


 ……運ぶと見せかけて、自身の口に放り込む。


「う、うわ、先輩、ひどっぅむぅっ!」


 そして、ちょっと強引に抱き寄せたレナの唇を己の唇で塞ぎ、半開きだった口内に舌先と共に速くも溶け始めたチョコを押し流し込む。
 ついでに、驚きで固まっているレナをリラックスさせるためにも、レナの舌にご挨拶した後、チョコを間に挟んで、絡めるように舌を動かす。


 ……ああ、何か、レナの唾液とも絡まっている所為か、チョコが常に無く、甘く感じるなぁ。


 そんな思いを抱いていると、瞬時に色白な肌を真っ赤に染め上げたレナが、拙い動きだが、それでも俺の動きに合わせるように、恐る恐る、舌で応え始めた。

 それからしばらくの間、……具体的にはチョコが消えてなくなってからも、ちゅるくちゃ、にちゃくちゅ、ぴちゅくちゅと、いつの間にか俺の背中に手を回して身体を固定し、頑張って対抗しようとするレナの舌を弄びながら、歯茎や舌の裏等をじっくりねっとりと舐め回していると、突然、レナの身体がビクリと跳ね、こわばりが解けると、こちらに全身を預けるような形で崩れてきた。

 なので、レナの唇から己の唇を離してみると、……唇同士を繋ぐ若干白い粘性の糸が伸びて、俄かに途切れた。

 一瞬、それに気を取られてしまったが、改めて、レナの様子を窺うと、顔中を紅く染めて、また、ぼんやりと熱に浮かされたように薄目を開いた状態のまま、唇の端から互いの唾液と溶けたホワイトチョコを零しながら、時折、痙攣染みたひきつけを起こしていた。

 ……むぅ、手ずから食べさせるのが子どもみたいで嫌だと言うから、大人風にアレンジしてやってみたんだけど、やりすぎたかなぁ。


 あれ、そういえば、チョコを食べさせている間、レナの奴、呼吸をしていなかったような?


 少しだけ焦り気味にレナの呼気を確かめると、ちゃんと呼吸している事が確認できて、ホッとする。

 で、ぼんやりと虚ろに意識をどこかに飛ばしているレナなんだが、そのまま放り出して放置するのは酷すぎるから……、とりあえずは、部屋備え付けのティッシュで口周りを拭き取って綺麗にして、また、自身の口周りも拭いた後、ゆっくりとレナの身体を反転させ、後から抱きすくめる状態に移行して、自身の椅子に腰掛ける。

 うん、レナの意識がはっきりするまで、この体勢でいこうかな。

 胸の内に好きなオナゴを収め、存分にその柔らかさや香りを味わえ、更には両手で男にはない膨らみを好きなだけ弄れるという自身の仕事に満足した後、頭の中を切り替えて、ユウキから送られてきた講和に関する情報を思い出す。


 戦争の後始末……、プラントと地球連合の講和交渉は、ゆっくりとだが、確実に進んでいるようだ。


 今の段階でも、プラントにとっては最大の目的であった独立を、ジェネシスの破棄と引き換える形で確保できているし、L5及びL1宙域をプラントの領域に……、管轄下に置く事にも成功している。

 もっとも、その分だけ、地上における占領地と軍事基地の無条件放棄を飲ませられているし、プラントコロニー群割譲の代価を、旧プラント理事国への関税優遇措置でもって、充当していくことも取り決められている。
 それらに加えて、双方が賠償請求権を放棄することや、一部戦争犯罪に関しては国際法廷を開く、といった基本的な合意が得られているとのことだ。

 で、今は、残る最大の問題として、安全保障……、保有兵力に関する問題が焦点となっているらしい。

 そして、この保有兵力を巡って、地球連合内で、対プラント最強硬派である大西洋連邦と比較的に穏健的な立場を取るユーラシア連邦や大幅な譲歩も視野に入れている東アジア共和国との間にごたごたが、不協和音が起きているそうだ。

 ……報告書の片隅にあった、ユウキが自ら書き添えたと思われる、俺達同期、その一部のみが知る暗号文によると、カナーバ議員がユーラシア連邦と東アジア共和国相手に個別交渉を秘密裏に行っている、とのことだから、恐らくは、連合内というか、世界で一番の強国である大西洋連邦との離間を狙っているんだろう。

 むぅ、これが上手く成功したら、カナーバ議員は地球連合と大西洋連邦にとって、災厄をもたらす〝魔女〟になるな。

 ……。

 魔女ルックのカナーバ議員か、何か、似合ってるかも。

 って、馬鹿なこと考えていたら、俺もカナーバ議員に〝マジック〟を掛けられてしまうかもしれないから、ここまでにしておこう。

 んんっ、そんな交渉の席の外でも、地球連合内というか、旧プラント理事国である三大国では問題が多発している。

 まず、大西洋連邦に焦点を当てると、今月に入ってから、一昨年、併合した旧南アメリカ合衆国に駐留している大西洋連邦軍が、ある一人の男の主導によって武装蜂起した旧南アメリカ合衆国軍と激戦を繰り広げているのだが、それの鎮圧に手間取っているらしい。
 しかも、今週に入っての事なのだが、赤道連合に亡命していた旧南アメリカ合衆国の前大統領が帰国し、地元市民の熱狂的な支持と支援を受けて、ブエノスアイレスにおいて暫定政府を樹立。同時に国家再建の宣言と旧合衆国軍を国軍として正式に認定した為、旧……、いや、南アメリカ合衆国軍の勢いは増すばかりで、装備に勝る大西洋連邦軍を各地で打ち破っているそうだ。
 また、国内でも、社会を支える基本インフラの一つである電力関連で、多様な発電所を建設する事でリスクの分散を推進していた大西洋連邦経済界の雄であるアズラエル財閥が、何故かはわからないが、ヤキン・ドゥーエの最終戦でカリスマ的な総帥を失った為、俄かに後継者争いが発生したらしく、酷い混乱状態に陥っているらしい。その結果、発電所の新規建設計画が幾つも流れてしまっているらしく、経済状況にも重い暗雲を落しつつあるようだ。

 次に、東アジア共和国だが、先のアラスカ戦において、ユーラシア連邦と共に守備隊を担っていた派遣軍が、ザフトの新兵器ではなく、地球連合軍上層部が秘密裏に仕掛けたサイクロプスによって壊滅させられたという事実と地球連合は大西洋連邦の傀儡に過ぎないとする風評が、ここ最近になって市民の間に急速に浸透し、戦闘が下火というか静まった影響か、反プラントよりも、反地球連合、反大西洋連邦の声の方が大きくなってきているらしい。
 同時に、地球連合に所属していながら犠牲を出すばかりで何の権益も確保できなかった政府への不満も大きく高まってきており、その動きに併せるかのように、共和国内で分離独立を求める勢力が四月馬鹿からの復興が遅れている地域において活動を活発化させていて、市民社会に不穏な空気が広がっているそうだ。

 最後は、ユーラシア連邦になるが、ここもまた、先の東アジア共和国と同じく、アラスカ戦の真相と地球連合の悪評が市民の間で広まって、反地球連合、反大西洋連邦の声が強くなっており、唯々諾々と地球連合と大西洋連邦に従うだけだった連邦政府に対して、離脱を希望する加盟国が出てきているらしい。
 特にその動きは西ユーラシア地域において大きく、欧州に位置する諸国は俺の"前世"にあった欧州連合のような組織を立ち上げようとしていたり、中東各国は汎ムスリム会議(※注1)へと流れる動きを見せるなど、中央にあたる連邦政府を刺激して、大いにきな臭くなってきている。
 また、その影響から、アフリカ共同体やスカンジナビア王国、旧インドを中心とする赤道連合(※注2)といった周辺国は飛び火を警戒して、神経を大いに尖らせているそうだ。

 ……。

 この三大国の混乱、〝魔女〟の影がうっすらと見えるような気がするなぁ。

 おっと、〝魔女〟はどこで見聞きしているかわからないから〝魔女〟なんだし、静かにしていないと、俺も怖い目に合いそうだから、黙っておこう、……というのは冗談で、真面目な話、かなり取り扱い注意な話だから、レナ達には黙っておかないとな。


 ……おっ、レナが目を覚ましそうだ。


「……ん、せんぱい? あ、んんっ!」

 いかんいかん、手に力が入りすぎたか?

「っと、すまん。……で、大丈夫か、レナ?」
「……」

 あれ、返事が無い所を見るに、無理をさせすぎた所為で、ちょっと調子が悪くなったのかな?


「すまん、レナ、ちょっとやりす「……ちょこ、もういっこ、たべたいです」……そうですか」


 ……どうやら大丈夫みたいだし、ここは呆けてあどけなく、それでいて色気を感じさせる顔を晒しているレナのご期待に応えることにしましょうかね。








 以下は注釈と言う名の捏造

 ※注1 汎ムスリム会議の領域(現時点)について
 原作と異なり、中央アジア南部地域+パキスタン+アフガニスタンとなっている。

 ※注2 赤道連合の領域(現時点)について
 原作と異なり、東南アジア地域+南アジア地域(インド以東+セイロン島)となっている。


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