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この話より先は、男にとって都合の良い、実に〝けしからん話〟となりますので、ご注意ください。
第二部  二年戦争/プラント独立戦争 (C.E.70年-C.E.72年)
103 それぞれの行く先


 C.E.71年11月1日。
 今日、この日、対外的には講和交渉での駆け引きの一環として、内実的には戦力再編の為に、一年以上に渡って一つの部隊として活動してきた、ザフト宇宙機動艦隊所属第13独立戦隊規模艦隊、公称、ラインブルグ隊が解隊された。

 つい先程まで軍事衛星港内で行われていた解隊式では、国防委員会と機動艦隊から偉い人が出てきて、解隊にあたっての訓示を長々と行ったり、俺が隊長としての挨拶を時間合わせ的に短くしたりして、予定時間内で終了している。

 で、今は衛星港内の食堂で送別会……戦隊最後の会食として、ちょっとした立食パーティをしている。

 俺も戦隊の皆に挨拶して回った後は、例の如く、壁際でITIGOオレを飲みながら、ワイワイと馬鹿騒ぎをしたり、別れを惜しんで号泣したり、懲りずに踏まれて悦んでいたり、ここぞとばかりに食いに走ったり、機械談義で盛り上がったりと、それぞれが、それぞれのやり方で今の一時を楽しんみながら、一年に渡って共に過ごしてきた戦友との別れを惜しみ、また、再会を約束している戦隊員達を眺めている。


 ……本当に、戦隊から死者を出すこともなく、無事に、皆を解き放つことができることが、素直に嬉しい。


 それに今日は、以前、戦隊に所属し、左腕を失ってザフトを除隊した、リベラも来てくれている。

 もっとも、左腕に義手を身につけたリベラが挨拶に来た際に苦笑混じりに話した内容……、除隊時にプラント政府から与えられた義手の余りの不出来さを嘆き、慰労見舞金を使って自身の生活が少しでも便利になるようにと、色々と義手の研究をして製作していたら、それが今現在の悲しむべき需要と合致して、社会的に義手製作の第一人者として成功していまったという話には、どう反応して良いのか、困ったモノだった。

 でも、一緒にリベラの話を聞いていたリーの奴が、涙目でうんうんと頷いていたから、きっと良かったんだろう。リーは、リベラにずっと負い目を感じていたみたいだしな。

 ……。

 ラインブルグ隊に所属する隊員百四十九名の内、除隊する者は俺も含めて六十三名であり、残りの者達は、それぞれ、新しい部署に配属される事になっている。
 MS隊に所属する十二名もほぼ全てが残留する事になっており、今後の軍の中核になるべく、役目を果たしていくことだろう。

 MS隊の副隊長を務めていたガイル・マクスウェルは、ハンゼンを中心に新たに結成が予定されている戦隊の戦隊長、つまりは白服への昇格が決定している。
 白服内定の話を受けた後、緊張してガチガチになりながら相談に来た時には、隊長は戦隊員の命を預かった上で、部隊行動の指針を決め、有事の際には果断に決断を下す事とその責任を負う事が仕事だと諭しておいたが、自身の小隊に所属していた二人トマス・コリンとブルーノ・ボッカがMS小隊長として付いて行くし、黒服に昇格して、ハンゼンの艦長と補佐役を兼ねる事になるガンドルフィ副長もいるから大丈夫だろう。

 次にデファン……、フィデル・デファンだが、うちと同じく解隊することが決まったラヴロフ隊の隊長であり、現行主力機であるゲイツの改修を担当することになったイヴァン・ラヴロフが、機械関係に詳しく、また、基本的な操縦技能が高いということも評価して、テストパイロットとして引きこんだらしい。本人も機械関係に大きく関われる環境だけに喜びも一入のようだ。
 また、デファン小隊に所属していた二人、アントン・モーリスとジュリアン・ジョンソンも、それぞれ、人不足が深刻化しているヤキン・ドゥーエ駐留艦隊と世界樹の種駐留艦隊に、小隊長として引っ張られることになっている。

 そして、グエン・リーだが、ユウキから持ち込まれた戦隊長……、白服への昇格話を蹴り、自らMS関係の教官になりたいと望んで、士官学校のMS教導官に着任する事が決まっている。
 そのリーの下、小隊に所属していた二人は、マクスウェルの元でヴォルター・ルッツが一つ残る小隊長席を、ディーノ・ベルディーニが様々な面で隊長を補助するMS隊副官を務めることになっている。

 ……こうして考えてみると、マクスウェルの新設戦隊にラインブルグ隊のMSパイロットの半分が所属するから、ある意味、後継的な存在だな。

 話を戻して、最後に女性陣だが、ビアンカ・スタンフォードとロベルタ・フェスタは共に士官学校で、複座型の運用で培った経験を活かして、MS教導官となるリーの助教として赴任し、MS戦術論の構築や機体制御技術の指導、情報と通信関連の座学を担当することになったそうだ。
 お互いに離されることがなくて良かったと、スタンフォードは照れながら、フェスタは嬉々と、俺に報告してくれたが、実は、二人が別々の部署に配属される事をユウキから聞き出したリーが……、って、まぁ、リー本人が知らぬ顔をしているし、ここは言わぬが華だろう。

 で、会場の中、ラヴロフのゲイツ改修担当部隊のMS管制官になるサリア・ベルナールと何やら話しているレナ……ヘレーナ・ラヴィネンだが、本国艦隊でMS小隊長をという配属話を蹴ってザフトを除隊し、オーブに移住する俺に付いて来ることになった。


 ……。


 例の風呂場の一件の後、リビングにおいてアルスターの立会いの下、飢えた狼《俺》が入っている風呂場に乱入するという、年頃の乙女として非常に大胆な事をした理由をそれぞれに問いただしたのだが、それがまた、三者三様で、俺としては納得できるものだった。

 まずは、事の元凶というか、件の一件の発案者と名乗り出たミーアなのだが……、何でも、ザラ夫人が相次いで愛する人……夫と息子を亡くした事実を目の当たりにして、人がいつ死んでもおかしくないという事実を思い知らされたらしく、俺に自身の想いを明瞭に伝え、自分の事を妹ではなく、一人の女として認識させたいが為に行動に移したそうだ。

 いや、確かに、ミーアが思い描いた絵図は物の見事に嵌り、俺はミーアが妹ではなく、女だという事を強烈に認識させられました。


 本当に、あの大きく震えル山ハ、オモワズセイフクシタクナル、ミゴトナヤマダッタ、って、いかんいかん、我が息子が起き出してくる前に思考を切り替えないと危険だな。


 んんっ、次にマユラだが……、これまで共に戦ってきた仲間がどのような状況あるかもわからない上、自身の存在を母国から公に否定されてしまった影響で、自覚できるほどに不安定な心理状態にあって、自分がマユラ・ラバッツとして存在しているという事を、また、存在してもいいんだと信じられる確固たるものが、自身の存在を支えてくれる寄る辺が、明確に見える形で欲しかったそうだ。

 もちろん、女としてもアインさんに惹かれているし、好きであることも本当のことだっ、と、本人は断言していたが、マユラがそこまで追い詰められ、自身の身体を使ってまで寄る辺を求めているとは思いも至らず、俺としては猛省しなければならないと思った。

 ……が、その後に続いた証言から、ミーアの日常での言動、特に俺に対する信頼の上に成り立った自信に満ちた言動がその不安を煽り燻らせていたことに気付き、とりあえず、ミーアにはデコピンによる制裁を加えておいた。

 まぁ、その力加減に関しては……、マユラをここまで追い込んだ一番の責任が俺自身にある事に加え、女として十分に魅力的なマユラをこのまま虜に、俺のモノにしてしまえばいいや、なんて正直な己の欲望……、雄の根本にある雌を欲する獣欲が心底で目覚めているだけに、大いに差し引いて、形だけの弱いものだったけどな。


 ……フヒヒ、所詮、男なんて生き物の本性は、皆こんなもんさ、人の弱みに付け込む鬼畜でサーセンね、と、ここまで来た以上は開き直って、誰にも取られないように確保しながら、真に惚れてもらえるよう、男を磨こう、うん。


 げふげふ、……そして、最後にレナなのだが、これがまた、本人にとっては非常に深刻な理由だった。

 レナことヘレーナ・ラヴィネンは、第一世代コーディネイターを両親に持つ第二世代コーディネイターである。その為、プラント政府が成立した一昨年、少子化対策として正式に国策として採用した婚姻統制法と呼ばれる、トンドモ悪法が適応されているのだが……、まぁ、要するに、この婚姻統制法がらみの問題だ。

 レナ本人から聞く所によると、本土防衛戦が終わって三日後、ラインブルグ隊に一週間の休養が与えられて、久しぶりに自宅に帰ったら、遺伝子が適合している相手がレナとの結婚を望んでいるから、結婚して子どもを産め、だなんて趣旨が書かれた通達をプラント資源管理局から受け取ったらしい。

 ……資源管理局が婚姻統制を管轄しているあたり、厭らしいと思うのは俺だけだろうか?

 まぁ、プラント政府と婚姻統制に対する個人的な感想はまず置いておいて……、実際、暗い顔をしたレナから〝きりきり結婚して子どもを産めぃ〟って内容が書かれた通達を見せられると共に、先輩……、私、婚姻統制で、もしかしたら、結婚しないといけないかもしれません、なんて事を駄目押し気味に付け加えられた瞬間、俺からレナを奪っていこうとする相手への明確な殺意というか、いらんことをした資源管理局とトンデモ悪法を潰す決意というか、とにかく、かなり強烈な負の類のものが俺から発せられたらしく、その場にいたレナ以外の三人を無用に怖がらせてしまったよ。
 そんな空気の中、レナ本人は切り出した時の重い空気を一転させ、寧ろ嬉しそうに、相手は同じコロニーに住んでいるんですけど、人格的にも男性的にも、まったく好きではない、むしろ、大嫌いな部類に入る人なんです、だなんてことをのたまった。

 うん、なら、ザフトの制服着せて、ヤキン・ドゥーエ宙域に放り出しておくから、相手の住所を教えてくれ、大丈夫だ、今ならまだ間に合うし、伝手もある、だなんてことを、極自然に口に出したのは、これまでの人生で初めての経験だったよ。


 ……ふっ、俺もまだまだ若いということだな。


 その直後に、比較的冷静だったアルスターに拳骨でもって、思いっきり頭を叩かれて正気に戻らされただなんて俺の醜態は流しておき、要するに、レナは、法律に基づいて結婚して子どもを産めと、国から強制されたのだ。
 もっとも、更に聞けば、この悪法にも良心的な誰かが付け加えた抜け道があって、他に遺伝子が適合している者がいる場合に限っては、選択する事が……、個人の意思を優先させることができるらしい。

 そのことを知ったレナはエヴァ先生に連絡を入れて、俺の遺伝子と自分の遺伝子とが適合できるかを聞いた所、その答えは、俺の遺伝子がナチュラルと殆ど変わらない為、余裕で適合できるらしかった。
 これこそが私と先輩を結ぶ運命の赤い糸なんですっ、と、レナは力説していたが、当初は俺に対して、自分の置かれている状況と遺伝子が適合する事実、そして、女としての想いをどうやって切り出して、変に誤解されないように伝えようかと思い悩んでいたそうだ。

 そんな所に、俺からマユラ関連の用事を頼まれていた事を思い出し、また、自身も目に見えて不安定なマユラの事が心配だったこともあったから、こうなったら、俺の家に居着いて、その場の勢いで想いを伝えようと決意を固めていたらしい。
 でもって、うちに泊まった最初の晩に、ミーアがマユラに囁いていた子悪魔の如き提案……、風呂場への乱入計画を耳にして、この計画こそが先輩の私に対する本心を知り、自分の想いを伝えられるチャンスだと考えて、自分も参加を表明して乗ることにしたとのこと。

 そして、ミーアの主導の下、マユラの常識的な意見を参考に、レナが立案した、風呂場への乱入計画が一晩で計画され、速やかに実行される運びになり、結果、俺は多大な眼福と爆発するような興奮を得る代わりに、男の尊厳を大いに削り取られてしまったようだ。


 ……とりあえず、音頭を取ったミーアの頬を、あはは、こいつめぇ~、と、むぅむぅ、啼き出すまで突いておいた。


 とはいえ、その時に至るまで、レナから向けられている明確な好意に気付いていたのに、もし勘違いだったら、だなんて危惧を抱いてしまい、それまでの関係が崩れる事に恐怖して、気付かない振りをしてきた負い目があっただけに、それ以上は何もできなかったよ。


 ……普段、生を言っているくせに、いざという時に、ヘタレで、ごめんなさい。


 げふげふん、……んでもって、話し合いの最後に、レナの口から、明確に、先輩の事が好きなんです、私もオーブに連れて行って下さい、と、はっきりとその口から告白されたのだ。
 付け加えれば、マユラからは、私もずっとアインさんの傍にいたい、と、ミーアからも、私は昔からずっと言い続けているから、わかるよね、だなんて、同じような趣旨の言葉を頂きました。

 いや、正直、風呂場と告白の順序が逆なのでは少しだけ思ったが……、普通の男ならまず経験できない、得難い経験をさせてもらっただけに、その思いもすぐに消えていったというか、それ以上に、オナゴから告白を受けたという事実に……、この二十数年以上もの間、ミーアがまだ妹的な存在だった時は別として、オナゴに好かれるなどという良縁が無かっただけに、天に羽ばたく程に嬉しかったのだ。

 しかも、三人から同時に受けたもんだから、もう、今すぐ死んでもいいって思うくらいに、有頂天になってしまっていたんだよ。


 だから、つい調子に乗ってしまって……。


「三人の気持ちは有難く思います。でも、正直、三人とも魅力的過ぎて、一人だけを選べないというか……、いや、もうっ、お前ら全員っ、俺の女だっ!」


 ……なんて自らの本音を堂々と宣言してしまった。


 そんな現代社会的に最低な答えを出した後に、非常に拙いことを言ってしまったことに気付き……、せめて、もっとオブラートに包んだ表現で……、誰もが魅力過ぎて選べないから時間を置きたいと言うべきだったと、後悔しつつ、これで俺は生涯独身確定か……、等と真っ青になってしまったのだが、何故か、三人が三人とも怒り出すようなことはなく、一目でわかるほどに、物凄く、ほっとした表情を浮かべると、お互いによかったよかったと晴れやかな笑顔を向け合っていた。

 その不可解な反応を不思議に思って、おそるおそる、俺、三人の中から一人を選ばなくてもいいのか、なんて、とてもデリカシーに欠ける事を口に出してしまった。


 対する答えだが、三人揃って大きく頷きながらも口を揃えて曰く、元々、独り占めするつもりはなかった、それよりも、全員が想いを受け入れてもらえ、誰も俺を失わなかった事実が嬉しい、とのことだった。


 な、なんて、男にとって都合がいい話だ、まったくもって、実に、けしからんっ!

 けしからん、けしからん、今の社会に喧嘩を売る、本当に、けしからん話だぞっ!


 なんてことを心の中でお題目に唱えながらも、鼻の下を緩めたのは仕方がないだろう。



 でもね、男というか雄って存在は、基本、みーーーんな、こんな生物だと思うんだ……。



 誰かへと言うよりは、自らの良心と社会通念へと心中で、必死になって言い訳の言葉を紡いでいたら、遂に長きに渡る禁を破ったらしく、休憩室では許されている無煙タバコを咥えたゴートン艦長が声を掛けてきた。

「今日までお疲れさんだったね、ラインブルグ君」
「いえ、ゴートン艦長。こちらこそ、これまで本当にお世話になりました」

 ゴートン艦長もザフトを除隊し、以前、務めていた商船会社の伝手で、火星往還貸客船の船長への就職が決まっている。きっと、飄々としながらも常に安全な航行を約束する、素晴らしい船長になることだろう。

「これで、皆とも、エルステッドとも、お別れだねぇ」
「まぁ、それぞれが新しい道を歩き始めると思えば、良い事だとも思います。それに、エルステッドも廃艦になる訳じゃないですから、また、見ることができますよ」
「うん、そうだね」

 戦争開始当初からずっとお世話になってきた【FFM-113】エルステッドは、前線から退き、士官学校の教習艦として、プラントを守る次代を育てるという大切な役目が待っている。これからも出戻る形となるフォルシウス艦長の元、多くの人材を輩出していくはずだ。

「リュウ副長は世界樹の種駐留艦隊で艦長を、トライン君は再編中の本国艦隊で副長を、アヤセ班長も防衛隊に移って、司令部の情報管制室で副室長をやることになったし……、うん、皆、それぞれの場所で頑張ってほしいねぇ」

 ちなみに、ハンゼンの自称〝男前〟班長達は、エンリケがエルステッドで、ジェルマンがハンゼンで、それぞれ副長を務める事になっている。なんでも、こいつらは野放しにするのは危険だと、フォルシウス艦長とガンドルフィ副長が判断してのことらしい。

「ラインブルグ君、精神的には苦しい日々が続いたけど、本当に君に出会えて良かったよ」
「こちらこそ、ですよ。ゴートン艦長がいなかったら、俺は隊長なんて仕事、放り出していました」
「はは、そう言ってもらえると、嬉しいよ。……うん、また、会える日が来るのを楽しみにしているよ」
「ええ、俺も、その日が来るのを楽しみにさせてもらいます」

 ある意味、最後の締めとなる敬礼を互いに施しあった後、しっかりと力強く握手して、ゴートン艦長はいつものように飄々と去っていった。

 ……俺も、あんな風になれたら、いいなぁ。

 そんなことを思いながら、終わりの時間が来るまで、これから殆ど会う機会が無くなるであろう会場の皆の顔を目に焼き付けた。


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