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第二部  二年戦争/プラント独立戦争 (C.E.70年-C.E.72年)
94  激突する意志 3


 元はジンM型やストライクダガーを構成していたデブリ群に紛れて、慣性でもって静かに足つき級へと接近して行く。

 黒い足つきを中心とする小艦隊を改めてモニターで確認した所、足つき級を中央に、前後を150m級で、両側面をストライクダガーの三機組で挟みこむ陣形を取っていた。

「レナ、斜め後方から仕掛ける。最初の一撃で、邪魔になるストライクダガーを減らすぞ」
「了解!」

 レナの了解もあったので、早速、デブリの陰からビームを……撃つ、撃つ、撃つ!

「敵三機、撃破しましたッ!」

 うぅ、俺が撃ったビーム、一発も当たらんかった。

 い、いや、連合のMSが神憑り的に回避しただけであって、俺の腕が悪いわけではないと、思いたい。

 しかし、レナの奴、三機も立て続けに撃破するなんて……、というか、ストライクダガーが回避する先を読んで、射線を置いてんだから、マジで凄いよなぁ。

 って、折角の好機は活かさないと……。

「よし、俺が前方に出て、連中の注意を引くから、レナは後ろの二隻を落としてくれ」
「わかりました。……先輩、くれぐれも、気を付けてくださいね?」
「わかってるさ。お前も油断するなよ?」
「はい」

 レナの機体へとビームライフルを持ったままの右手を一度だけ振り、お世話になったデブリに感謝の念を送った後、行動を開始する。

 目立つように派手にメインスラスターを吹かしながら、前方の150m級をぉぉぉぉぉっ!!!

 ……あぶねー。

 足つき級が爆雷らしきものを艦付近で爆発させたかと思うと、側面砲をぶっ放してきやがった。

 しかも、今、艦尾や艦橋後方からミサイルが多数って……、ちょ、ええっ!?


 軽く六十を越えるって、連続して撃ち過ぎだろっ!

 じょ、常識的に考えて、一機には多過ぎる数だぞ、おいっ!


 どうしてここまで対処が過激なんだろうと、内心で困惑を抱えながら、150m級を盾にしようとしたら、そちらからもミサイルの嵐が……。


 ……どうしろと?


 瞬間、悩むが、どこに行っても危地であるが故に、自身が信じた最善を取る。


「……こわっ」

 後方から迫ってくるミサイル群には左腕に持っていた打撃武器をデコイ代わりに投げつけておき、正面から狙ってくるミサイル群に対して、バッテリー残量を気にしながらもビームライフルでもって一部のミサイルを狙撃、爆発させた後、開いた穴を目掛けて全力噴射で突き抜ける。

 と、突き抜ける最中、こちらの接近を感知したらしいミサイルが次々にぃっ!

「ぅっぁっ!」

 強力な衝撃と多数の破片を受けて機体情報の一部でイエローが点るのが分ったが、今は無視して、自機の近かった150m級の懐に、近接火砲を掻い潜って潜り込み、ランチャー部と推進部にビームを撃ち込んだ。

 推進部が吹き飛ぶと共に、艦体各所で連鎖的に小爆発を起こし始めた150m級を、デコイで僅かに数を減らしたものの、依然として背後から追尾してくるミサイル群への隠れ蓑にして、もう一隻の150m級を目指す。


 ……背後で、俺を追ってきたミサイル群が、150m級と共に盛大に華開いたようだ。


 これで一安心と思い、軽く息を吐いた所、丁度、足つきの前方に差し掛かった為か、足つき級からのビームが飛来してくる。


「ッとっ!」


 機動が直線的になりすぎていることを自覚して、少しだけ、機位をずらすように姿勢制御バーニアを噴射しておく。


 ……うぇ、主砲のビームがさっきまでの軌道上を走ったな。


 黒い足つきのあまりの腕の良さに背筋が凍り、表情にも引き攣った笑いしか浮かんでこない。


 それでも何とか、引き攣り笑いを不敵な笑みに作り変えて、150m級が構成する近接火砲網の〝穴〟に入り込み、推進部へ向けて、再び、ライフルの引き金を引く。

 先程と同じように、艦体に爆発が広がって行くのを確認しつつ、四つあるミサイルランチャーの一つ、それと艦体が繋がる部分をビームクローで引き裂き、嫌がらせがてら、ランチャー部を足つきの進路上に蹴り込む。

 その際の反作用を利用して再加速し、今度は迎撃態勢も取らないまま、混乱して右往左往しているらしい、もう一方のストライクダガー隊を排除する為に接近していると、レナから通信が入ってきた。

「先輩! 後方の150m級を一隻落しました!」
「了解、引き続き、頼むぞ!」
「了解です!」

 しっかりしたレナの返事に安堵していると、再度、爆雷らしきものを爆発させていた黒い足つきが側面砲を……。

「もぅ、いい加減、勘弁して欲しいなぁ」

 そう愚痴を口にすると、少しだけ、臓腑から重いモノが抜けたように感じられた。少しだけ気分が晴れたので、足つきに近付いた先程のランチャーを目掛けて、ビームを撃つ。


 ……が、何故か、途中でビームの威力が減退し、撃ち抜けなかった。


 その原因が気になったが、今のチャンスを逃してしまっては意味がないので、とりあえずは究明を後回しにして、何とか破壊できるように頭部近接砲を許容できるぎりぎりまで撃っておく。


「ッし!」


 まだ、運には見放されていないようで、見事に大爆発って、またまた、ミサイルががががぁっ!


 再び解き放たれた大量のミサイルに追われながら、迎撃もせず、こちらを遠巻きにしていたストライクダガーを目指して突き進んで行くと、連中は攻撃を仕掛けてこないまま、それぞれが蜘蛛の子を散らすように、バラバラに逃げ始めた。


 ……あまりにも予想外の行動だった。


 果敢だと思っていた連合軍にも、ああいう連中はいるんだなぁ、なんて思いが生まれてくるが、その逃亡行為に嫌悪感ではなく、ある種の親近感を抱いてしまうあたり、まだ、俺の思考が軍人的なモノに染まりきっていない証左かなとも思う。

 とはいえ、逃げ出したのも偽装撤退のような一時的なものかもしれないし、逆に本当の敵前逃亡ならば、銃殺を恐れて戻ってこないとも限らない、っと、ミサイル群が飛来したビームに薙ぎ払われ?

「先輩、援護します!」

 どうやら、レナが後方の150m級を落として終えて、こちらに合流するべく接近してきているらしい。

「ああ、助かる! レナ、一当たりした感じ、黒い足つきは300m級よりも手強いぞ」
「クルーゼ隊が落しきれなかっただけはありますね」
「まぁ、こいつは同型艦みたいだけどな」

 こんなのが大量生産されていたら、恐ろしい事になっていただろうが……、俺が知る限りでは、三隻しか確認していない。

 たぶん、従来の艦艇よりもコストが大幅に高いんだろうなぁ。

「あれ? でも、足つきクラスの右舷艦尾から推進部まで、かなり破壊されていません?」
「オレオレ! 俺が超頑張った成果だ!」
「はいはい、こんな時に冗談はいいですから、どうやって攻めるんですか?」

 ほ、本当なのに……。

 これが今までの自身の軽率な言動が生み出しまった闇の部分なのか、と厨二めいた事を考えながら、簡略に方針を伝える。

「俺が接近して強襲行動を取るから、レナ、左舷艦尾にあるミサイル発射管付近を狙ってくれ」
「ミサイルが撃たれる瞬間を、ですよね?」
「ああ。っと、そういえば、艦体に当たる前にビームが減退したから、ライフルが使えないかもしれない」
「……なら、機関砲でミサイルを誘爆させろと?」
「いや、何か原因があるはずだし、それを何とかするよ。だから、レナ、チャンスを逃さないでくれよ?」
「了解です」

 こちらの推進剤やバッテリー、残弾といった諸々も厳しくなってきているから、取り敢えずは、残る左舷側を集中して攻める方がいいだろう。

 左舷後方から再接近を図ると、再度、足つき級は艦体側面から発射した爆雷らしきものを爆発させって……あれか?

 左舷艦尾から発射されたミサイルや近接防御火砲に追われながら、試しに、ビームを艦体へと撃ってみる。

 ……ビームは途中で目に見えて減退し、装甲に当たると掻き消えた。

「レナ、爆雷だ」
「ええ、さっき爆発させた奴が原因みたいですね」
「おそらく、爆雷の中にビームを防ぐ為の何かが含まれているんだろう。……そいつの発射装置を狙うか」
「でも、装甲内部に埋め込んでいるみたいです」
「……だよなぁ」

 むぅ、打つ手なし、だな。

「……あ、先輩、エルステッド、ハンゼン、それにロメロ隊母艦が砲撃と対艦ミサイルの発射を開始したみたいです。足つきクラスから退避するようにと、サリアが言ってます」
「足つき……紛らわしいな、〝黒いの〟の座標情報が伝わってるのか?」
「ええ、複座型の二人が捕捉しています。それとロメロ隊の母艦も攻撃を開始しました」
「……なら、そいつに期待しよう」

 うちの戦隊員と複座型の錬度なら、よっぽど神憑り的な操舵手が〝黒いの〟にいない限り、間違いなく中るという確信がある。

 だから、戦隊からの砲撃が終わるまで、一端、〝黒いの〟から遠ざかり、質量兵器というか、打撃武器あるいは重斬刀を探す為に、デブリが多い宙域に紛れ込むことにする。

 むぅ、万能鈍器であるシャベル、或いはスコップさえあれば、こんなことをしなくてもいいのに……。

 もしも、頑丈な戦艦の装甲すら打倒できる程に気合の入ったMS用のシャベルが、何物にも屈することも折れることもなく、PS装甲すら突き破れるスコップがあるのなら、今すぐ買いにっ、……いかん、俺、疲れてるみたいだな。

「先輩」
「っと、レナか。……〝黒いの〟はどうしている?」
「こちらが退くのを見て、迎撃行動を中止しました。……気になりますか?」
「ああ、後追いのミサイルとかがなかったから、気になってな」
「右舷後方部が中破といってもいい損傷具合でしたから、向こうも余裕がないのでは?」

 中破規模って、あの攻撃、そんなに効いていたのか。

「やれやれ、そう期待したいもんだ。それで、お前の機体状況はどうだ?」
「機体バッテリー残量と推進剤が半分を切ってます、ライフル用バッテリーも残り三分の一程度です」
「まだ、マシだな。俺なんて、間接部にはイエローが点ってるし、推進剤以外、バッテリー系全部が三分の一だぞ?」
「いえ、自慢になりませんよ?」
「くく、確かにな、っと、連中の様子も聞いておくか」

 ……危うく忘れるところだった。

「こちらラインブルグだ、マクスウェル、デファン、リー、状況は?」
「マクスウェルです! コリン機が右腕に被弾、本人も負傷した為、後方に下げました!」
「デファンっす、こっちは何とか、やってるっす!」
「こちら、リー! ベルディーニが限界でしたので下げました!」
「……コリンとベルディーニか」
「ええ! リーと計って、ベルディーニに護衛させつつ、コリンを連れて帰らせました! 残った俺達は合流して、四機編成でやってます!」

 今までにやってきた想定訓練が役に立っていると言った所かな。

「で、マクスウェル、そっちは押さえ込めているのか?」
「何とかですが、ね」
「了解した。こちらも何とかするから、引き続き、そっちも何とか頼むぞ」
「了解!」
「うっす!」
「了解しました!」

 いやはや、死人が出ていないのは幸いだ。

「コリン達、無事に帰れるといいんですけど」
「そうだな。……お、こいつは使えそうだ」

 上半身だけが奇跡的にも形を留めているシグー、その背部スラスター側面にマウントされれたままの重斬刀を発見した。

「……もらうぞ」

 モノアイの光を失っているシグーに一声だけ掛けて、頂戴することにする。

「……先輩、そろそろ到達時間です」
「ああ、わかった」

 さて、休憩ついでに高みの見物……は拙いか、とにかく、状況の変化を期待させて頂こう。

 ……おや?

 〝黒いの〟が回避行動と迎撃の為にミサイルや火砲を発射し始めたが、右舷推進部をやられているせいか、動きが少し鈍いように感じるな。

「ミサイルは迎撃されているみたいですね」
「だが、その分だけ、レールガンの迎撃には回せない。……見ろよ、命中した」

 レールガンによる砲撃は、初弾こそ回避されたが、避けた先を想定して放たれていた次弾が〝黒いの〟の左舷艦首に命中して、大爆発を起こしている。

 だが、〝黒いの〟のも大したもので、それ以降は艦砲弾も対艦ミサイルと同じように、順次、迎撃ミサイルや側面砲、両舷上部に据えられた主砲のビームによって迎撃したり、宇宙港に入港する際に使用する側面スラスターを利用して回避しているようだ。

「先輩、ロメロ隊母艦及びエルステッド、ハンゼンによる攻撃が終了します」

 ……レールガン用のバッテリーが尽きたか。

 だがっ! お、おおっ? 迎撃し損ねたミサイルが命中して、左舷艦尾が吹き飛んだな。

「流石だな」
「皆、優秀ですからね」
「ああ、本当に良い仕事をしてくれたもんだ。こちらも頑張らんとな」
「ですね」

 これで、〝黒いの〟の推進系に大打撃を与えたし、ミサイルベースも破壊した事になるから、後の攻撃が非常に楽になる。

 レナに声を掛けて、更に〝黒いの〟に追い撃ちを掛けようとすると、エルステッドのベルナールから通信が届いた。

「隊長、新しい情報が入りました」
「……何かあったのか?」
「後方の連合軍艦隊へと浸透したクルーゼ隊及びロメロ隊のMS隊が核攻撃機の母艦らしき300m級を捕捉、撃滅したとのことです」
「ッ! そうか!」

 おお、これでプラントへの核攻撃の脅威度が激減したぞ!

「これが原因なのかはわかりませんが、戦線に対する圧力が弱まっており、前線に若干の余裕が生まれています。また、月軌道外方面に展開していた連合軍別働艦隊の攻勢も下火になっており、分艦隊規模の戦力をこちらに回すとの事です」
「それは助かるな」
「そうですね。後、総司令部からの通達で、所属不明の勢力は、その動きからジェネシスの破壊を目指していると判断される為、敵性勢力として排除するように、とのことです」
「了解、それに関しては、そちらから他の連中にも伝えておいてくれ。これから、〝ちょっと〟忙しくなるんでな」
「了解です」
「あ、それと、ロメロ隊とうちの対艦攻撃は足つき級に甚大な打撃を与えたって、ロメロ隊と皆に伝えておいてくれ」
「わかりました、伝えておきます」

 何となく、戦争が……少なくとも、今日の戦闘は終わる気配がしてきた。

「レナ、どうやら、後少しのようだ」
「ええ、頑張りましょう」

 レナの返事に頷き返して、再度、〝黒いの〟を見るが……、本当に、足つき級は凄い艦だな。

 普通の宇宙艦艇ならば、大破と判定されて後方に引き揚げるなり、退艦命令が出されるなりしてもおかしくはない程の損傷を受けているはずなのだが、ダメージコントロールがよほど優れているのか、或いは、バイタルパートが健在で機能を喪失していないか、はたまた、不屈を旨とする精鋭揃いの乗組員なのか、……とにかく、本体に据えられているスラスターを使用して、未だにジェネシスを目指すのを諦めていないようなのだ。

 これ程の闘志を見せている以上、完全に沈めるのは大仕事になるだろう。

 まぁ、何が言いたいかと言うと……。

「レナ、右舷艦首と主砲と破壊して、〝黒いの〟の無力化を目指す」
「無力化……接近戦で破壊するんですか?」
「ああ、それが一番手っ取り早い」

 そのために拝借してきた重斬刀である。

「私はどうしましょう?」
「俺の援護と近接火砲に対する囮、加えて、装甲が破壊された部分ならビームも通るはずだから、例の爆雷が爆発していなかったら、狙ってみてくれ」
「わかりました」

 では、〝黒いの〟との二回戦を始めよう。


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