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第二部  二年戦争/プラント独立戦争 (C.E.70年-C.E.72年)
89  血戦、ヤキン・ドゥーエ 5


 デファン小隊を除いた計八機で、クルーゼ隊や増援部隊と新型を含む敵第五群が戦闘している、後方のS-6二に引いて行くと、ゲイツやジンM型で構成された二十機程の部隊が三十前後のストライクダガーの他、青、緑、黒と、それぞれカラーリングされた新型機から成る連合軍部隊と交戦しているのが確認できた。

 やはり、敵の新型機が突出した性能と、連携と言えそうで言えなさそうな微妙な相互支援で、味方機を圧倒しているようだ。

 それでも、何とか均衡を保っていられるのは、一機のMS……装備を追加していたから一瞬、わかりにくかったが、どうやら連合から鹵獲したMSで、確か、汎用タイプのデュエルだったかな、そのデュエルが新型機を全て担当して、他のMSに手を出させないようにしているからだろう。

 実際、一機で新型三機と交戦して、撃墜されることなく拘束し続けているのだから、相当に腕のいいパイロット……エースなのだろう。もしも、パイロットが以前と交代していないのなら、本当に赤服を纏うだけのことはある腕だ。

 ……いや、そもそも、デュエルという機体自体も、流れ弾に中っても無事に大気圏を抜ける事が出来た()運を持っていたんだったな。

 とにかく、そのエースの驚異的な頑張りと運もある殊勲機のお陰で、戦闘前に、新型三機それぞれの機体特性をざっと見て取る事ができたのだから、本当に感謝しきれない。

 で、俺が確認した限り、新型三機のうちで最も脅威なのは、〝緑色〟の機体だろう。

 実弾を弾き返す装甲とビームを歪める両肩部のシールドなんて強力な防御力に加えて、バックパック両端に付いている可動砲に両腕の大型機関砲、果てはバックパックから撃つビームを曲げるなんてトリッキーな攻撃までしてくる。正直、撃破するのは機動戦で持って、相手の隙を見出して、胴体部を撃ち抜く以外の方法は考えられない。

 それにしても……、〝大鎌〟みたいな謎な代物を装備しているけど、よく反作用で柄の部分が折れないよなぁ。

 次に、MA形態に可変する〝黒色〟だが、頭部に装備された強力なビーム砲やシールドと一体化している二連装砲がメインの兵装みたいだけど、シールドとの一体型兵装は取り回しが悪い上に使用方法が難しいって事を現在進行的に経験しているから、それ程の脅威ではないだろう。

 しかし、こいつも〝鉄球〟なんて、漢のロマンを体現させた恐ろしいモノを持っているが……、まぁ、あのワイヤー部分を切れば、何とかなるだろう。

 もしも、こいつがMA形態で一撃離脱的な戦闘に徹すると面倒なことになるが、頻繁に可変を繰り返しては狂的な攻撃を仕掛けてきているし、隙を見出せば落とせるはずだ。

 後、〝青色〟に塗装されている大火力支援機は、両肩の大型ビーム砲にバズーカ、シールドに付いた可動砲に胸部の大出力ビーム砲なんて、砲撃大好き人間が見たら涎を垂らしそうな程に重武装をしているけれど、前に戦ったバスター型みたいにミサイルを装備していないみたいだから、距離を詰めていけば、確実に潰せるだろう。

 幾ら大出力、高威力の武器を装備していても、遠距離だからこそ意味があるモノで、接近してしまえば、どうということはない場合が多いからな。


 で、どうするかだが……、青の支援機にはマクスウェル小隊、黒の可変機にはリー小隊を充てるとしよう。

「先輩っ、指示を!」
「ああ。連中の相互支援を絶ち、それぞれを孤立化させる」
「隊長、担当は?」
「マクスウェル、お前の小隊は支援機を狙え。シールドを破壊すれば、楽になるはずだ」
「了解です」
「リーの小隊は可変機を担当しろ。無理に突っ掛かる必要はないからな」
「了解!」

 で、残っているのは、例の〝緑〟である。

「……ということは、私達は、アレですか?」
「まぁ、単機にしてしまえば、なんとかなるさ」

 連携さえ崩してしまえば、特化機は特色がないのが特色の汎用機に劣るはずなのだ。

 ……まぁ、〝黒〟と〝緑〟に関しては、汎用機に更に上積みしたような機体のような気もしないでもないがな。

「よし、攻撃を開始する」
「「「了解!」」」

 にしても、たった一機で厄介そうな新型三機と渡り合える猛者は貴重だよなぁ、等と考えながら、ビームライフルを敵新型機に撃ち込んで、注意を引く。

「き、きさゃまらぁっ! 何をっっ! これ位っ! 俺だけでっ! 十分だっ! だからっ、下がれぇっ!」
「はいはい、お前さんが無駄な犠牲を出したくないのは、よくわかったよ」
「ッ!」
「こちらはラインブルグ隊のラインブルグだ。まぁ、援軍の押し売りって奴だから、拒否は受け付けない」
「……い、いえ、失礼しました。……援軍、助かります」
「そうかい? まぁ、でも、大したもんだよ、お前さんはさ。……新型を一手に引き受けてくれていたおかげで、味方の損失が少ない」

 レナと一緒に"緑"へと牽制射撃を入れながら、マクスウェル、リーの両小隊が新型機同士での連携を取れないように他の二機をそれぞれが誘導するのを待つ。

「……クルーゼ隊、隊長代理のイザーク・ジュールです」
「ああ、ラウからも聞いているよ。まずは隊長として、隊の状況を把握しろ」
「わかりました」
「リー」
「何でしょう?」
「言うのを忘れていたが、例の支援機からの砲撃は少々離れても届くから、気をつけろよ」
「……了解、マクスウェル小隊から引き離します」 

 っと、緑が両肩のシールドを前面に出してきたか。

「レナ、射撃中止、機動戦を仕掛けるぞ。……潜り込んで、チャンスを窺え」
「了解です」

 まずは、一当たりしてみるか。

 大事を取って、右回り……左手のシールドで攻撃を防御できるようにしながら側面に回り込む機動で接近を図る。

 ……。

 おいおいおい、射撃しながら、レナを無視して、こちらに一直線かよっ!

 つか、バックパックを頭に被んなっ!

 って、突っ込んでる所じゃなかったっ!

「ッ!」

 まさに死神が振るかの如く、〝緑〟が大鎌が振り上げられたので、機体ごと命を刈られてしまわないように、左側面のバーニアを吹かして、回避機動を取る。そして、お返しに右腰部のEEQ7Rを撃ち出す。

「なっ!」

 〝緑〟はこちらのビームアンカーを左肩部シールドの端であえて受け止めると、左腕をこちらに向けて、大口径砲の穴が見えっ!

「先輩っ!」

 レナの声と共に、真下からビームが俺の機体と〝緑〟の間を通り抜けて行く。〝緑〟が咄嗟に回避行動を取った為、引き摺られないようにアンカーを切り離し、牽制の頭部機関砲をぶっ放しながら、急いで距離を取る。

 ……一応、機関砲の弾はちゃんと胴体に中ったのだが、切なくも弾かれてしまった。

「おいおい、レナ、こいつはPS持ちかもしれん。……強いぞ」
「見たいですね。さっき先輩の攻撃を受けた時の反応も半端じゃなかったです」

 レナが撃つ牽制のビームを煩わしそうに〝緑〟が避けていると、件の忌々しい肩部シールドをレナの方向へと向けた。

 よって、今度は俺が、〝緑〟を落とすべく、必殺の一撃を放つ。

 もっとも、〝緑〟だって棒立ちでいるはずもなく、余裕で避けられてしまい、頭に乗せたバックパックからビーム砲を撃ってきた。

 そのビームが歪曲する事を前提に、大きく機体位置を移動させて再び、側面に回り込むべく旋回し始める。

 ……おっ?

 エルステッドからの通しっ、スラスター推力最大っ!

「ッぁあああっ!」

 〝緑〟の腕から断続的に弾がっ、機体の後方を追ってっ!

 いつものように、スーツ内で冷や汗が流れ出たのを感じると、また、レナが〝緑〟への射撃を入れてくれたので、向こうに興味が移ったらしく、機体の向きを変えたようだった。

 ……もう少し噴射するのが遅かったら、〝緑〟の大口径砲の餌食になる所だった、と強制的に冷まされた頭で考えながら、〝緑〟へとライフルを撃ってレナに集中できないように牽制しつつ、エルステッドとの通信を繋ぐ。

「どうしたっ!?」
「あ、隊長! 敵の第四波がSフィールドに一時的に大きく開けた穴を敵核搭載機が突破! 第一艦隊担当のエリアを抜け、大型ミサイルを発射しました!」
「ッ! 攻撃対象は!」
「ヤキン・ドゥーエがメインのようです!」
「了解! ……全機に告げるっ! 今から、何があっても、驚かずに戦闘を続行しろっ!」

 まぁ、俺も含めて、無理だろうけどな。










 ――……ちろっ!










 ……って? 今、ラウの声が?






 ッ!






 強烈な光が……、かつて、ユニウス・セブンで見たあの光には及ばないものの、幾重にも重なり合い、擬似的な太陽がそこに生まれたかのような、強い閃光がCフィールドで断続的に広がって行く。






 ……未熟……不完全核爆発で、これかよ。

 恐ろしい威力だな、おい、連合の核ってのはよ。

「っと」

 俺達と同様、核爆発に気を取られていた〝緑〟に向けて、ビームライフルを撃つ。


 ……っし! 〝緑〟の右腕と大鎌をもぎ取った!


「……せ、先輩…………今のは?」
「気にするな、ただ核攻撃を迎撃しただけだ」
「ちょっ! 核攻撃って! 気にしますよっ!」

 ぎゃーぎゃー、とレナが喚いているが無視して、〝緑〟への攻撃を続けるが、相手も立ち直りが早いようで、いつものように例のシールドを……って、また通信か?

「こちら、ラインブルグだ」
「じゅ、ジュールです。……ら、ラインブルグ隊長、……今の迎撃は、誰が?」
「お前さんの所の隊長だよって、ほれ、噂をしていれば、来たぞ」

 亀のこ……げふげふん……ドラグーンシステムを背負ったプロヴィデンスが、何事もなかったように、こちらに向かってくるのがわかった。

 ……むぅ、こうやって動いている姿もまた、迫力があるなぁ。

「クルーゼ隊長!」
「む、イザークか? それにアインも?」
「よう、お疲れさん。……さっきの迎撃、流石だな」
「ふっ、あれ位、止った的と同じだ、どうということはない。……それよりも、苦戦しているようだな」
「ああ、ちょいとやっかいな奴等がいてな、梃子摺ってる」
「ふむ、そうか。……プロヴィデンスでの対MS戦闘も試したいのだが、アイン、私が相手をしてもかまわぬか?」
「もちろん、かまわないよ。というか、正直、楽ができて助かる。……早い所、家に帰りたいし、手っ取り早く終わらせてくれたら、ありがたいな」

 俺の明け透けな言葉を聞くと、ラウは苦笑を浮かべ、ジュールは口を大きく開けて唖然としているようだ。

「そうか。……ならば、早々に終わらせるとしよう」

 ラウのその言葉と共に、両腰部からドラグーンシステムの小型端末が飛び出して行く。

 好い機会なので、ドラグーンを使った戦闘を周辺を警戒しながら観戦してみる。


 プロヴィデンスが射出したドラグーンの数基の小型端末は、〝緑〟の周囲に展開したかと思うと、一時も止ることなく飛び廻り、次々にビームを撃ち出しては〝緑〟の装甲と武装を削り取っていく。
 〝緑〟が小型端末へと対応に大童になっている間に、ラウ自身……プロヴィデンスが急速に接近すると、大型ビームライフルでもって胸部へと止めの一撃を加えて、落としまった。


 ……実に、三十秒にも満たない一方的な戦闘だった。


 爆散した衝撃で飛んで来た〝緑〟の肩部シールドを、咄嗟にシールドの取っ手を離した左手で受け止めていると、ドラグーンの端末を呼び戻したプロヴィデンスが悠々とこちらに接近してくる。

 その威容というか存在には、既に〝天帝〟の名に相応しい風格が……。

「ふむ、これだけでは物足りぬな」
「む、あれだけではお腹一杯にはなりませんか? ……でしたら、後二杯程、活きの良いのがいますが、いかがします?」
「ふふっ、ここは乗せられて、〝お代わり〟と応えておこうか」
「よし。……マクスウェル、リー、そちらはどうだ?」
「こちらマクスウェル、支援機の癖に、中々の機動力で詰められません!」
「リーです! こいつも動き回って、拘束するのがやっとです!」

 ……だとしたら、誘導は難しいな。

「アイン、こちらから動く。……乱入する故、連携を乱さぬように伝えてくれ」
「おっ、そうか? なら、そう伝えるよ」
「では、行ってくるとしよう。イザーク、部隊は任せるぞ」
「りょ、了解です!」

 力強い機動で颯爽と、大きな背中を見せて、プロヴィデンスが去って行く。

 まったく、男でも惚れるんじゃないかって思わせる位の漢振りだよなぁ。

 実際、声が裏返って、頬が高潮していたジュールなんて、〝ほいほい〟と付いて行きそうだった。

 ……っと、馬鹿なことを考えてないで、連絡しよう。

「マクスウェル、リー、強力な援軍が行くからな。……余りの強さに思わず見惚れて、連携を崩すなよ?」
「了解、気をつけますよ」
「わかりました。特にベルディーニにはよく注意して言い聞かせておきます」

 さてと……、エルステッドに連絡を入れて、全体の戦況を聞いてみるか。

「レナ、警戒を頼むぞ」
「……むぅ、それ位、さっきからやってますよ」

 あらら、さっき、ちゃんと相手をしなかった所為か、少し不機嫌だな。

「後で、ちゃんと構ってやるから」
「別に、拗ねてませんっ」

 ……はい、どう見ても拗ねてます。

 レナが見せた年相応の〝愛嬌〟に、口元が思わず緩むのを自覚しながら、エルステッドに連絡を入れる。

「こちらラインブルグだ。エルステッド……ベルナール、聞こえるか?」
「はい、こちらエルステッドです。隊長、敵攻撃機による核ミサイル攻撃は、クルーゼ隊長のプロヴィデンスによって全弾撃墜に成功、完全に阻止できました」
「ああ、こちらでも確認している。……それで、プラント方面には、核ミサイルは向わなかったのか?」
「そちらに向いそうなものもありましたが、それらも含めて、全てをプロヴィデンスが落としています」

 流石はラウ、やることにそつがない。

「了解。それで、今の戦況はどうなっている?」
「前線はこちらが盛り返しています。やはり、核ミサイルへの迎撃が成功した影響が大きいようで、敵機動戦力が動揺しているみたいです。後、それに関連してだと思うのですが、N、S両フィールドより、敵部隊が撤退を開始しています」
「わかった。他には何かないか?」
「あ……、少し待ってください。……はい、伝えます。隊長、総司令部より、今、通達が来ました。新兵器を投入するため、追撃は控えるように、とのことです」
「……了解した」

 通信を切り、これから使用される新兵器……ジェネシスの恐ろしい威力を思い、また、それを使用する決断を下したザラ議長が被る責……大量殺戮という業を思う。

 ……最もその業は、四月馬鹿の件と同じように、俺も、間接的には背負わないといけないものだ。

 だから、見届けないといけないだろう。

 ……。

 キリっ、なんて擬態語が聞こえてきそうな事を考えてしまい、何となく気恥ずかしさを感じてしまった所へ、機嫌を直したらしいレナからの通信が入った。

「先輩」
「ん、どうした、レナ」
「はい、マクスウェルとリーから通信が入りまして、クルーゼ隊長が、敵新型二機を立て続けに撃破したとの事です」
「はっ?」
「……驚くのも無理はないと思いますけど、クルーゼ隊長、敵の新型二機をまとめて撃破したそうです」

 ……は、早っ!

 というか、早過ぎっ!

 俺達があれだけ散々苦戦していたのに、本当に驚きの早さだっ!

「え、えーと、先輩?」
「あっと、すまん、あんまりに早かったんで驚いたんだ」
「ふふ、その気持ち、私もわかります」

 ラウとプロヴィデンスという組み合わせの凶悪さ、もとい、突き抜け具合は俺の想像以上だ。

「それで小隊に損害は出ているのか?」
「幸いな事に無傷です。ですが、両小隊とも推進剤やライフル用バッテリーの余裕がないそうです」
「……そうか。なら、一度、補給の為に退いた方がいいかもしれんな」
「そうですね。敵も退却していきますし、今のうちに補給しに戻った方が良いと思います」

 レナの肯定意見もあるので、マクスウェル達に引き揚げを伝えようとした、その時……。



 ヤキン・ドゥーエ要塞の陰から、赤く輝く一筋の光が、まるで長大な槍が勢いよく突き出されたかのように虚空を穿ちつつ、射線上に存在した連合軍のMSや艦艇を吹き飛ばしながら、月へ向かって突き進んで行った。


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