第二部 二年戦争/プラント独立戦争 (C.E.70年-C.E.72年)
88 血戦、ヤキン・ドゥーエ 4
「隊長、敵第三波は全部で五群に分かれました。第一群はMA六十で構成され、S-7四にて、第二防衛ライン所属機十一が迎撃中です」
ベルナールの呼び掛けを受けて、S-7四……、今いるS-7二よりも更に前方にある宙域へと意識を向けると、そこだけ他よりもビーム光が多いように感じられた。
それを裏付けるように、モニター脇の戦況図には二十機程の味方MSが防衛線を形成して、敵の第二波に加えて新手の第三波第一群に対応している様子が映し出されている。
「了解した。全機、迎撃はS-三寄りで実施する。マクスウェル、レナ、敵の侵攻進路を予測して、最適な迎撃ポイントを割り出して誘導しろ」
「「了解!」」
「ベルナール、敵の第二群はどうなっている?」
「はい、第二群はMS三十六で、つい先程、第一群と同じくS-7四において、増援に間に合った第一防衛ライン所属機二十五が横撃を仕掛け、足止めに成功しました。それと、クルーゼ隊に出撃命令が出ました」
歴戦のクルーゼ隊は心強い援軍だが、今日の指揮は隊長代理に委任している。隊長であるラウは艦内設備ではプロヴィデンスの整備が難しいからって、ヤキン・ドゥーエ要塞から直接出ると言っていたな。
っと、それよりも今は、敵の動き、……残り三群がどう動いているかだな。
「それで、残りの敵は、突破を図ってるのか? それとも機動戦力の撃滅狙いか?」
「現在の所、残り三群の動きに変わりはなく、突破を目指しているようです」
つまり、今来ている連中は傷口を広げるよりも、深く食い込んでから、食い散らかすつもりなのか。
なら、こっちは食い散らされる前に叩くだけだ、と言いたい所だが……、第四防衛ラインの予備戦力って、もう、ないような?
何とも、悲劇的な現実に思い至っていたら、レナから通信が入った。
「先輩、大凡の進路を予測しました。マクスウェル小隊が先導して、隊を移動させます」
「了解」
既に動き始めている他の機に続きながら、予め、ベルナールに指示を出しておく。
「ベルナール、後方の動きに……新たに出撃してくる、速度がある敵が出てくるはずだ、それに注意してくれ」
「……核搭載機がそれだと?」
「ああ、そちらの観測なら判別できるはずだ。警戒の声一つで、対応も考えられるし、何かに利用できるかもしれない」
「わかりました、注意しておきます。それと、今、複座型が帰艦しました」
「そうか……、一安心だな」
「ええ。あ、増援の第一防衛ライン所属機二十三が間に合いました。S-7三に到着して、敵第三群、MS三十六に対して阻止戦闘を開始しています」
後、残りは二群だが……もう、増援は期待できないだろうなと考えながら、隊形が形成できているかを確かめる。
……よし、この配置と動きなら各小隊長に任せても、大丈夫だな。
「ベルナール、他に増援部隊の充ては?」
「Nフィールドでも圧力が増大している為、第一防衛ライン所属機からはもう手当てできそうにありませっ! S-7三において、敵第四群、MS三十六機に対して、ロメロ隊が阻止戦闘を開始! ……敵の半数以上が止りません!」
そら、三十六対十二なら、間違いなく抜かれるよな。
「各機、気を引き締めろ! すぐに来るぞっ!」
と言っている間に、ストライクダガーの一隊……二十機程をモニターで確認する。
「ラインブルグ隊、交戦開始! ビーム以外も注意しろよっ!」
「了解! リー小隊、迎撃開始!」
「うっす! デファン小隊、迎撃を始めるッすよっ!」
「マクスウェル小隊、牽制を仕掛けます!」
「先輩! 私達も!」
「ああ、ラインブルグ小隊、強襲を掛けて敵隊形を崩した後、援護に回る!」
レナの声に応えて、機の全スラスターを噴射させ、デファン達の迎撃射撃で散開したストライクダガーの一部へ、背後から流れて行くビームと共に向って行くと、相手も俺とレナの動きに気付いたようでビームライフルを撃ち始めた。
徐々に大きくなる恐怖を奥歯で噛み殺し、アドレナリンの分泌からか、遅く見え始めた飛来するビームを左腕のシールドで防いだり、ロールで回避しながら接近を図っていると、ベルナールの声が耳を打つ。
「隊長、敵の第五群がS-7よりS-6に進路を変更した事を確認しました。構成はMS五十一、うち、三機が新型の模様です。この第五群には、クルーゼ隊十七及び第一防衛ライン所属機十四がS-6二において、迎撃に当たります」
「わかった!」
「ッ! 訂正! 第五群の一部が更に進路変更! MS十二機が進路を変更して、直上、ヤキン・ドゥーエ第一艦隊を突き上げます!」
「……おそらく、Cフィールドの迎撃陣に、穴を開けるつもりだ! ……以後の状況把握を頼むぞ!」
「了解!」
その答えを聞いた後は、他の戦域情報を頭の片隅へと追いやり、こちらのビームを遮る大型シールドを忌々しく思いながら、目前に迫った三機のストライクダガーに近接機動戦を仕掛ける。
っと、その中の一機が後方からの援護射撃に運悪く命中したようで、両足をもぎ取られて流されて行った。それに注意がいってしまい、気が付いたら、ストライクダガーに激突しそうっ!
「ッ!」
……咄嗟に上方へと機位をずらして、激突と近接砲を回避。
ついでに、その機動を活かして、背面に……。
「っと!」
回り込もうとしたが、狙ったストライクダガーの僚機が牽制射撃を入れた為に更なる回避を強いられる。
よって、そのまま大回りで後方に入り込もうとしたら、二機目の敵がこちらを追跡するように機体を回転させ、ライフルを向けようとして……後方から俺を追随していたレナに脇腹を撃ち抜かれた。
仕方なく目標を衝突しそうになった一機目に変更し、相手がレナに気を取られている内に胴体を撃ち抜き、気ままに回避機動を取る。
……数本のビームが機体を追うように流れ去る。
「先輩! 仰角、敵、三機!」
「よし、次は、こいつらだ!」
狙わない相手にモノアイを合わせることで牽制を行いながら、別の機を狙い、回避先も予想して、四回立て続けにライフルの引き金を引く。
三発目が命中して、右腕から胴体を吹き飛ばしたようだがっっっ!!
「先輩!」
……機体近くで発生した爆発の衝撃で姿勢が大きく崩れてしまった。
さっと機体情報に目を向け、アラートが出ていない事を確認した後、無理な制御はせず、AMBACで徐々に立て直していき、……一気に、制御を取り戻す。
と、同時に、流されていた方向とは逆側に切り返す為、姿勢制御用の側面バーニアを右側だけ全て全力噴射させる。
……強烈な横Gを体感する中、流れていた軌道を見ると、予測通りにビームが四本程走っていった。
「大丈夫だっ! それより、レナ、さっきの攻撃は確認したか!?」
「はい! ライフルから実弾が発射されるのを確認しました!」
さっきのが今日、確認された兵装か、等と納得しながら再び敵へと注意を向けると、レナが牽制射撃を加えて、こっちに接近されないように足止めをしてくれていた。
「レナ、助かる」
「いえ、私は先輩の〝パートナー〟ですから、当然の事をしただけです」
……パートナー、相棒か……、確かにレナ以上に俺に合う相棒は、そういないだろうな。
「そうだな。……一度、隊の状況を把握したい。目の前の二機をさっさと潰してしまおう」
「了解です」
「よし、援護を頼む」
どう崩そうかと考えるが、まずは機体のスラスターを吹かせて接近を図り、二機のストライクダガーに圧力を掛けることにする。
その途中……、ふと、思い付き、モノアイをあらぬ方向を向けてから、左腕とモノアイの動きでもって二機のうちの一機を指し示してみる。
すると、左腕を向けた一機は慌ててたように回避行動を取り始め、もう一機も警戒するようにモノアイを向けた方向へと頭部を動かした。
「ッ! そこっ!」
レナの声と共に、連続して射撃が入り、隙が出来た両機の右肩部を撃ち抜き、大破させて戦闘不能にする。
……むぅ、たとえ、どんな強力な兵器に乗っていようが、乗っているのが人である以上、人の反応や心理が大きく影響する、ということかな。
「先輩、どうかしましたか?」
「いや、何でもない。それよりも、少しの間、警戒を頼む」
「はい」
レナに周辺警戒を任せ、各小隊に通信を入れる。
「ラインブルグだ、各小隊、現状を報告しろ」
「こちらデファン! 四機撃破したっすけど、モーリス機がシールドに爆裂弾を喰らって、左腕をもぎ取られて、本人も軽傷を負ったっす! それと、ジョンソンが右足に被弾、機動力が大きく低下しているっす!」
「こちらマクスウェル! 敵一機を撃破しました。全機健在のまま、現在はデファン小隊を援護して、敵五機と交戦中!」
「こちらリー! 三機を撃破しましたが、依然として、敵四機と交戦中! 小隊に被害なし!」
……良かった、まだ、被撃墜は出ていないようだ。
「了解した。リー、すまんが、しばらく耐えてくれ」
「わかりました! こちらで何とか、落としますっ!」
「なら、期待させてもらうぞ。……デファン、二人を連れて、一旦後方へ下がれ。撤退の呼吸を意識させろ」
「うっす!」
「マクスウェルは、俺達が合流するまで、デファン達の後退支援に徹しろ」
「了解です!」
「レナ、行くぞ」
「はい」
マクスウェルに合流する為に位置を把握して、機体を動かし始めたら、俄かにエルステッドから通信が入った。
「こちら、エルステッドです。隊長、聞こえますか?」
「聞こえているぞ、何かあったのか?」
「はい、隊長達の交戦開始後、敵第四波の出撃を新たに確認しました」
「なん……だと……」
いや、数で劣勢なのはわかっていたとはいえ、こうも現実を突きつけられると、精神に来るものがあるなぁ。
……って、いかん、気をしっかり持て。
「第四波はどう動いている?」
「はい、第四波は三分の一がNフィールドへ、三分の二がSフィールドに向っています」
「こちらの予備戦力はもうないのか?」
「いえ、分艦隊のMS隊を迎撃に充てるとのことです」
あれ? まだ分艦隊のMS隊は出撃してなかったのかって。
「けど、二手に分かれている分艦隊では全てをカバーしきれないはずだ」
「はい、前線が押し込まれると厳しい事になります」
「まったく、〝阿呆ども〟の所為で……」
「え、えーと」
「おっと、すまん。……それで、ヤキン・ドゥーエ第一艦隊はどうなってる?」
「Nフィールドからの割いた迎撃機が到着して、敵全機を退けましたが……、十二隻沈められました」
「……そうか」
二十隻中、十二隻も落されたか……。
そうなると、Cフィールドの迎撃態勢に大きな穴が出来た事になるから、ヤキン・ドゥーエ要塞の負担が大きくなるな。
「今後、増援があった場合、総司令部はどうすると?」
「そこまでは通達されませんでしたが、最終防衛ラインの本国艦隊がヤキン・ドゥーエ後方に向けて、移動を開始していますから、これで敵第四波に備えるのではないでしょうか」
「……そうか」
うーん、それだと、別方向に回りこまれたら、拙いような気がするんだが……、現実、主戦場が数の差が埋まらないでピンチなら、仕方がないか。
……となると、そろそろかもしれないな。
「ベルナール、さっきも言ったが、本命の核搭載機が出撃するかもしれないから、注意してくれ」
「了解です」
エルステッドとの通信を切ると、待っていたかのようにすぐにレナからの通信が入った。
「先輩、マクスウェル小隊及びストライクダガー五機をモニターで視認しました」
「……俺も確認した。横撃を仕掛けよう」
「了解」
たまに迎撃されたミサイルや艦砲弾の残滓、流れ弾ならぬ流れビームが飛んで来る為に、周囲への警戒を怠らず、マクスウェル達を半包囲にしようとしている五機の側面に回り込む。
「マクスウェル、すぐに隙を作るから、上手くやれよ」
「了解!」
まずは、マクスウェル達への負担を軽減させるために、攻撃の中心になっていると思しき一機の胴体を狙って一射。
……ライフルを持った右腕に命中するも撃破はできず、五機が五機とも回避機動を開始する。
「……レナ、やっぱり俺の腕じゃ、攻撃しても無駄になりそうだから、後を頼むわ」
「はいっ!」
語気鋭く応えたレナは早くも一射し、回避機動で一番隙が大きかった一機のストライクダガーを撃ち抜いた。
こうやって、回避行動を取る敵にビームが吸い込まれるように命中するのを傍から目の当たりにすると、本当に、レナの腕と感覚の良さがわかる。
……おっ?
敵の動揺が大きくなったみたいだな、動きが急に荒くなった。
「マクスウェル、援護と警戒は俺達がするから、畳み込め」
「了解です!」
レナにマクスウェル達の援護を任せて、俺は引き続き、周囲を警戒する。
周辺宙域で煌くビームは未だに衰えを知らず、宇宙は死の瞬きで満ちている。その爆発光が、ミサイルなのかMAやMSなのかと、瞬間、考えるも、今は必要ないことだと思い直して、戦闘宙域を全て見回した後、連合軍艦隊が展開している宙域へと意識を向ける。
……青白いスラスター光が多数、確認できた。
確認の為にエルステッドへ連絡を取ろうとしたら、向うから通信が入ってきた。
「隊長、よろしいですか?」
「ベルナールか。……出撃だな?」
「はい。二隻の300m級より六十程の出撃光を確認しました。おそらくはこれらが……」
「ああ、本命の核搭載機だろうな。……やはり、Sフィールドからか?」
「敵第三波が深く切り込んだ影響で、Sフィールド全体が大きく抉られている状況ですから、その可能性が非常に高いかと」
……連中は、プラント・コロニー群とヤキン・ドゥーエ要塞、どちらを狙うだろうか?
「総司令部からは、何か連絡はあったか?」
「はい、総司令部からは、これらの対応とSフィールドの穴を埋める為、Nフィールドから一部部隊を何とか引き抜き、増援として送るとの連絡がありました。また、最終防衛ラインのプラント防衛隊が所属MSを全機出撃させて、コロニー群への核攻撃に備えています」
プラント防衛隊も大半が……八割が訓練兵とはいえ、ヤキン・ドゥーエ防衛隊と同じく、全百四十四機をゲイツに更新しているから、普通に考えて、プラント・コロニー群は守りきれるだろう。
油断さえ、しなければな……。
「あ、後それと、ユウキ隊長が『核攻撃への第一次迎撃は〝天帝〟で行う』と隊長宛てに伝言を残されました」
「そうか、了解した」
「……あの、隊長、〝天帝〟って?」
「何、直にわかるよ、通信終わり」
……核の対処を、他の奴ならばともかく、ザフト屈指のエースであるラウがプロヴィデンスで担当するのなら、後方へ抜けることはないだろう。
っと、レナか?
「先輩、マクスウェル、リーの両小隊が敵を全て撃破しました。こちらに合流するために、移動中です」
「……了解。損害は?」
「マクスウェル小隊全機のシールドに負荷が掛かっていますが、許容範囲内です。リー小隊には損害はありません」
……ほぼ無傷でほぼ倍の敵を退けるなんて、本当に、頼りになる奴等だよ。
「後、後退中のデファンからも通信が入りました。第五群に対応しているクルーゼ隊及び増援部隊が苦戦中とのことです。また、『新型機が三機、無駄に元気に暴れまわってるっす』とも言ってました」
まぁ、新型込みの三十九と三十一じゃ、流石のクルーゼ隊でも、隊の要でもあるトップエースのラウが不在である以上は、抑え切れないだろうし、仕方がないことだろう。
「……って、あいつらは無事なのか?」
「デブリの振りをして、戦域の隅っこを抜けたとのことです」
「度胸あるなぁ」
「ふふ、デファンは先輩から直接教えを受けた後輩ですからね」
それは君も同じなのですが、という突っ込みは、今は、止めておこう。
「前方は……、ロメロの奴に任せるか。よし、合流したら、後方に下がって、クルーゼ隊を援護し、敵第五群の撃滅を図る」
「了解です」
……。
本音を言えば、プラントの命運が掛かっているだけに、核攻撃の阻止に動きたいという気持ちがあるが……、現実的に考えても、十機に満たない程度のゲイツでは広範囲での攻撃に対応できない。
他力本願で申し訳ないが……、ここはラウに全てを委ねるしかない。
……頼むぞ、ラウ。
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