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第二部  二年戦争/プラント独立戦争 (C.E.70年-C.E.72年)
85  血戦、ヤキン・ドゥーエ 1


 9月25日深夜。
 L1宙域に一旦退いていた連合軍艦隊が、月からの補充と再編作業を終えたようで、L5宙域にあるプラント・コロニー群を目標に侵攻を再開した。
 L1宙域内暗礁地帯において、連合軍の包囲艦隊と小競り合いを繰り広げている世界樹の種から、途切れ途切れに届いた情報によると、侵攻してくる連合軍の戦力は大凡三個増強艦隊規模で、機動戦力の基幹となる300m級だけでも九隻が確認されている。
 九隻ある300m級に艦載されているのが、MAとMSのどちらなのかはわからないが、単純にそれぞれが半数の四隻ずつ艦載されていると見積もったとして、最低でもMAは二百四十機以上、MSは九十六機以上、存在していると推測される。それに加えて、三十隻以上は確認された主力艦250m級や百隻を軽く越えていると思われる150m級、MSプラットフォームになっているらしい三十隻以上の双胴型輸送艦等の艦載機が加わるとなると……、かなり恐ろしい強力な機動艦隊戦力だといえるだろう。
 更には、連合軍の一大根拠地と呼べる月のプトレマイオス基地内部においても、未だに大きな熱源が偵察衛星によって観測されているという話だから、まったくもって、プラントにとっては洒落にならない状況だ。


 この連合軍の動きに対して、ザフトは去年の四月にあったヤキン・ドゥーエ要塞前面宙域での防衛戦を参考にして、プラントまでの五重に渡る防衛ラインを構築している。
 ヤキン・ドゥーエ要塞前面宙域に展開した機動艦隊の二個正規艦隊……FFMやDDMH等の艦艇四十隻と艦載MS二百四十機が第一防衛ラインを、ここ二ヶ月で増強されたヤキン・ドゥーエ要塞防衛隊から十個MS中隊百二十機が第二防衛ラインを、以前の防衛戦で砲戦仕様に改造した作業用MSが迎撃で大活躍した経緯から、地上用の砲戦MSザウードをビーム兵装等に換装して火力面で強化させ、新たに放熱システムも付け加えて宇宙に対応させた【TFA-4DE】ガズウートで構成される砲戦MS隊と大小の砲台やミライルランチャーから成る要塞防衛火砲群が第三防衛ラインを、ヤキン・ドゥーエ要塞後方宙域に遊弋する独立戦隊群やボアズ戦から生還した事でボアズを冠することになった分艦隊、プラント・コロニー群付近で別方面からの不意の襲撃に備えている本国艦隊からの分派隊が第四防衛ラインを、各市に駐屯するプラント防衛隊と迎撃ミサイルベースに改造されたランチ等が最終防衛ラインを、それぞれ構築しており、また、他方面宙域の防備を担う本国艦隊も最終防衛ラインの予備戦力として運用される予定である。

 これらの部隊に配備されているMSだが、国防委員会主導によって為されたゲイツの早期増産の結果、半数以上がゲイツへと機種転換されている。
 加えて、機種転換が間に合わなかった残り半数も、現場からの好評を受け入れたFAITHの判断でこれも急遽、大増産されていたジンM型が全体の四分の一を占め、ジンやシグーといった第一世代機は以前よりも目立たなくなっているから、MSの機体性能といった質に関しては、MAも併用している連合軍とほぼ互角だと言えなくもないだろう。


 ……だが、数の差が……きついなぁ。


 艦艇の数だけでも差が大きいのに、機動戦力なんて数の差が大き過ぎである。

 ……なんとなれば、連合軍艦隊の後方に控えている双胴型輸送艦が曲者なのだ。

 以前の任務で鹵獲したことがあるから知っているのだが、あの双胴型輸送艦だけでも一隻につき、補修・修理施設やその為の予備パーツといった本格的な整備環境を求めた場合で、最低でもMSを六機程度、そうでなければ、十二機は確実に載せられる。

 この数字は、MS整備の専門家であるシゲさんに確認したから、まず間違いない。

 で、この数字を元に簡単に計算すれば、六機艦載が三十隻以上なら百八十機以上、或いは、十二機艦載が三十隻以上なら三百六十機以上ってことになる。

 はい、最低でも百八十機以上のMSが間違いなく存在するということですほんとうにありがとうございましたってんだ。

 いや、最低でもMSが百八十機って、これだけでも普通に波状攻撃できるレベルだぞ、おい。

 もしも、最悪の想定で考えた場合は二倍になって、三百六十機以上のMSがあるってことだぞ?

 しかも、これで300m級や250m級の艦載分を含めない輸送艦分だけなのだから、俺、もう涙目である。

 いくら、ボアズ要塞へと核攻撃が再び為された影響で、ザフト内部……ザフト隊員の間で復讐に猛って叫び、戦意、気力共に満ち満ちているからといっても、MSのバッテリーや推進剤、エアー、弾薬といったものは消耗するし、もちろん、自身では感じられない疲労等もあるのだから、戦場にずっと出たままで、全ての波状攻撃に対応できるわけがないのが現実だ。

 この辺は、司令部あたりがが上手くローテーションでも作って、動かしてくれたらいいんだけど……、ザフトの隊員って、直情熱血型が多い影響か、暴走しやすいからなぁ。

 付け加えると、例え、多大な犠牲を払って、今現在、侵攻してくる連合軍艦隊を退けたとしても、後方拠点のプトレマイオスに最低でも二個艦隊規模の戦力が控え、L1とL4にもそれぞれ一個艦隊が展開しているんだから、もう、通常戦闘では絶対に勝てない。

 そこに駄目押しの核攻撃が入るとなると……、はぁ。

 まぁ、だからこそのジェネシスなんだけど……、これも確実に撃てるのが、一射だけって制約がある以上、最も良いタイミングで撃ってもらわんと絶対にやばい。

 ジェネシスでの攻撃判断を下すザラ議長やその補佐をしているユウキが上手いタイミングを見極めてくれる事を祈るしか……、いや、任せるしかない。

 そんなジェネシス発射の一つの大きな基準となる連合軍の核攻撃だが、ボアズ戦に参加していた部隊から得た情報では、大量に投入されたストライクダガーとメビウスによって均等に均された前線を、一部の強力なMS部隊でもって強引にこじ開けて、その穿たれた穴から核ミサイルを搭載したMAが突入して、対象へ向けてぶっ放す、という過程を経ている事が判明している。

 これの対策としては、穴が開いた部分を延々と塞ぎ続ければいいだけという、至極、単純な話なのだが、絶対的な機動戦力数の差から、実現は不可能だろう。

 ……ならば、そこを逆手にとって、前線に穴が開くことを前提に考えて、後方で待ち構えておけば、核ミサイルの迎撃は上手くいくかもしれない。

 幸い、うちの戦隊は第四防衛ラインだから、プラントへの核攻撃を防げる位置にいるし、広範囲への対応が可能なラウの核動力型新鋭機(プロヴィデンス)もある。

 うん、これならプラント・コロニー群への核攻撃だけはなんとか……、いや、必ず阻止できる。


 ……去年の二の舞は御免だ。


 ◇ ◇ ◇


 9月26日未明。
 ザフトはヤキン・ドゥーエ要塞前面宙域からプラント・コロニー群までの間に構築された五重にわたる防衛線の全てで部隊の展開を終え始めており、第一種警戒態勢の下、即応態勢も整いつつある。

 制服からパイロットスーツに着替えた俺もエルステッドの艦橋で、自戦隊や同じ防衛ラインに所属する他部隊、この防衛戦で総合指揮を行うザラ議長と共にヤキン・ドゥーエ要塞に腰を据えた総司令部から入ってくる情報を、隊長席に設えられている端末を使って目を通している。

 前日に通達されたのだが、今回の防衛戦では少ない戦力で効率的な迎撃を行う為に、戦域を細かくエリア分けしている。
 具体的に言うと、ヤキン・ドゥーエ要塞から連合軍艦隊が展開すると予測される宙域までの間を、要塞側から一、二、三と番号を振って九つに、また、要塞から連合軍艦隊を結ぶ線の水平直交ラインも、左から1、2、3とナンバーが割り当てられ、要塞より左側が1から3、要塞前が4から6、要塞より右側が7から9と、それぞれ区割りされている。
 同時に、垂直軸方向も要塞に面する幅をC(Central)フィールドとして、Cフィールドから見て上方……天頂側をN(North)フィールド、下方……天底側をS(South)フィールドと大きく三つに分けられており、これら三つの表記を組み合わせることでエリア表記とし、宙域の把握をよりわかりやすく行うって寸法だ。


 それにしても……。


 ――ラインブルグ隊のMS隊全機の整備が終了、即時出撃可能により、即応態勢に移行。

 ――クルーゼ隊、ラヴロフ隊が即応態勢中、チェニス隊、モンテルラン隊、ロメロ隊が即応態勢へ移行中。

 ――ボアズ分艦隊は即応態勢中、本国艦隊分派隊は展開に若干の遅れ。

 ――C-2五及びC-7五に展開中の第一防衛ラインに第二種戦闘配置が発令。

 ――ヤキン・ドゥーエで待機中の第二防衛ラインは出撃態勢を完了済み。

 ――ヤキン・ドゥーエ表面に展開中の第三防衛ラインは起動済み。

 ――最終防衛ラインの各防衛MS中隊は即応態勢中、迎撃ミサイルベースは展開中。

 ――地球方面を警戒中の本国艦隊からは異常報告なし。

 ――敵予測展開宙域において、敵先遣隊と第一防衛ラインの阻止任務部隊が交戦中。


 ……さっきから、情報が更新される度に違和感を感じるのは何でだろう?


 まぁ、困ることでもないし、いいことなんだけどね、という呟きを声に出さぬまま、喉奥で消化した後、得られた情報内容について考える。

 ……今のところ、防衛ラインの展開状況は、一部の部隊に若干の遅れがあるけど、許容範囲内だろう。

 そう結論付けて、モニターに後方のプラント・コロニー群を映し出す。

 現在、プラントでは最高評議会議長による非常事態宣言と共に全市、全コロニーで保安局や港湾局といった公職員を除いた全市民に対して、脱出艇を兼ねたシェルターへの避難命令が出されている。
 この避難命令が発令された際に、最高評議会を批判する集団やクライン派を支持する一部市民が暴れたりしたそうだが、ボアズへの核攻撃も表に出ているから、一般市民の避難自体は進んでいるそうだ。

 今頃はミーアもアルスターを連れて、近くの避難シェルターに避難していることだろう。


 ……いつも通り、兄さんが帰ってくるのを待ってるからね、か。


 出撃前に時間を作ってミーアに連絡を取った際に、ミーアが端末越しに言った言葉だが……、あの時のミーアの顔、絶対に無理して、普段通りの顔を意識して作っていたよなぁ。

 あんな顔をさせる位なら連絡取らない方が良かったかなぁ、なんてことを考えていたら、近くに座るゴートン艦長がこちらに目配せしているのに気が付いた。

「隊長、新しくヤキン・ドゥーエの総司令部から情報が送られてきましたよ」
「あっと、ありがとうございます、艦長」

 呆けた状態をそれとなく止めてくれたゴートン艦長に感謝した後、端末表示を更新して、最新情報を映し出す。


 ――敵予測展開宙域における阻止戦闘は敵本隊の到来を持って終了。

 ――交戦敵先遣隊戦力、改装250m級四隻、改装150m級四隻、150m級十二隻、MS三十六機。

 ――敵先遣隊への打撃、改装250m級一隻、改装150m級一隻、150m級五隻を撃沈、MS十六機撃墜。

 ――阻止任務部隊戦力、ゲイツ十八機、シグー二機、ジンM型九機、ジン七機。

 ――阻止任務部隊損害、ゲイツ三機、ジンM型一機、ジン四機が被撃墜、ゲイツ二機、ジンM型二機が損傷。

 ――当阻止戦闘における撃墜及び被撃墜から分析された情報より、当初情報を以下に修正せよ。

 ――敵量産型MSの主兵装に、実弾系武装が追加されており、注意が必要。

 ――敵艦艇の個別防衛能力及び小型ミサイルの脅威度を上方へ一段修正。

 ――敵量産型MSの単体脅威度、集団脅威度を上方へそれぞれ一段修正。

 ――敵艦艇及びMSの連携の脅威度を上方へ一段修正。


 ……あっ、わかった。


 さっきから何か違和感があるな、って思ってたら、総司令部から届く情報が以前よりかなり速い上にマトモなんだ。

 今まで感じていた違和感の正体がわかり、スッキリした気分で頷いていたら、艦長が苦笑しながら話し掛けてきた。

「その顔を見るに、どうやら、気付いたみたいだね」
「え? あ、ええ、恥ずかしながら、今、気付きました。以前より情報の伝達が速くて多いみたいですね」
「うん、そうなんだよ。……いや、俺もね、最初、総司令部から次々に最新情報が届いた時、困惑したよ」

 昔の司令部、特に機動艦隊の司令部は、おし、皆、突撃だっ! はっ、敵の出方? こちらの作戦? はっ、んなもん、俺達コーディネイターならナチュラルの真似なんてしなくても、指先一つで余裕に決まってんだろ、つべこべ言わず、さっさと攻撃に行きやがれっ! ってな感じだったからなぁ。

 一年以上前の事を思い出して、感慨に耽っているとゴートン艦長もしみじみとした表情で不精髭が生えた顎をさすっていた。
 やはり、血の巡りが良過ぎて暴走していた当時の司令部を相手にしていたこともあって、艦長も今の状況に思う事があるんだろう、っと、今はそんな事を考える時じゃないか。

「どうして、こんなに改善がいきなり進んだんですか?」
「さっき、横の繋がりで教えてもらったんだけどさ、君の同期のユウキ君がFAITHを動かして色々と頑張ったみたいだよ。これまで総司令部の大部分を構成していた機動艦隊司令部の連……要員を、各艦隊からの引き抜きで人員が不足した本国艦隊に放り込……回して、新しい人員を地球での実戦経験者や地球軌道を獲られて仕事がなくなった軌道爆撃艦隊司令部から引き込んだらしいんだ」
「へぇ、あいつも思い切ったことをするもんだなぁ」
「だよねぇ。まぁ、総司令部の仕事が速くて正確になったから、現場としてはありがたいことだって、艦長連中は皆喜んでいるけどさ、……彼、今回の事でかなりの敵を作ったみたいだよ」

 ……敵、か。

「わかりました。ユウキには注意を入れておきます」
「うん、頼むよ。彼みたいな改革者は今後のザフトには不可欠な存在だと思うからさ」
「……ええ」

 俺も貴重な友人を失いたくないからな、保安局や黒服さんにも相談しておこう。

 相談する面子を思い浮かべていると、艦長が顔を引き締め、改まった様子で口を開いた。

「隊長、話は変わりますが、戦隊の戦闘配置への移行はいつ頃にする予定ですか?」
「第一防衛ラインが戦闘を開始したあたりで、とは考えてますが?」
「……となると、二、三時間後位ですね」

 偵察衛星で観測されている連合軍の展開状況を見た感じ……、確かにそれ位が目処かもしれない。

「ならば、一度、小休止を取られることをお勧めします」
「ですが、それだと気が抜けてしまいませんか?」
「いえ、ずっと気が張り詰めたままでは、隊員に余裕がなくなります。……いやね、ちょっと、横目でトライン君を見てやってよ」
「……あれ、まぁ」

 班長所定位置に仁王立ちしたアーサーが、これからの戦闘を思って、自身で自身にプレッシャーを掛けてしまっているのか、顔を真っ青にしていた。確かに、普段の少し抜けた様子が欠片も見られないとなると、拙い状態なのかもしれない。

 ……いや、よくよく考えたら、国家存亡の危機に立っている瀬戸際だというのに、普段通り、飄々としているゴートン艦長や普通に受け答えしてる俺が異常なだけなのかもしれない。

 艦橋を見回してみれば、俺の考えを肯定するかのように、いつもよりも管制官達の立ち居振る舞いがぎこちないように見える。

「そうですね。少し休憩を入れましょう」
「では、半舷で三十分ずつで取りたいと思います」
「それでお願いします。もちろん、ハンゼンにも」
「ええ、伝えておきます」

 いや、そういった細かな事に気付けなかったとなると、俺が鈍感な事以外にも、これからの戦闘に気を取られ過ぎて周りへの注意度が落ちているのかもしれない。
 艦長から休憩を通達され、フラフラと班長用スツールに腰掛けたアーサーを見ながら、出撃するMS隊にも気をつけないと駄目だな、なんて考えも浮かび上がってきた。

 これは後でアーサーに感謝しておくべきだな。

 ……。

 戦闘まで後少しか……。

 うん、プラントに被害がいかないように、そして、戦隊から犠牲者が出ないように、俺は俺のベストを尽くそう。


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