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第二部  二年戦争/プラント独立戦争 (C.E.70年-C.E.72年)
74  低軌道の嵐 5


「先輩、セナ隊がっ!」
「ああ、わかってる」

 セナ隊の救援というか、撤退を援護する為に、例のバスター型に向って接近しているが……、見れば見るほど凶悪な武装だ。

 バスター型の特徴である大火力だけでも怖いのに、遠距離での狙撃、中距離でのビームやレールガン、近距離でのミサイルや散弾といった具合に、どの距離にも対応できるなんて、支援型の癖に厄介なことこの上ない。

 しかも、目前の敵はこれらの装備に振り回されず、上手く使い分けているだけに、ますます、手が付けられない。


 現に、セナ隊は、僅かな間に半分まで減らされている。


 たった一機に、部隊の支柱である隊長が落とされた影響で従来の力が出せないとはいえ、戦い慣れた部隊がここまでやられるということは……、あのバスター型が敵のエースである証左だろう。

 拙い状況になったものだと溜息をつこうとしたら、デファン達から相次いで連絡が入った。

「先輩、こちら、デファン! 敵二機を撃破っ! これより撤退支援体制にっ!」
「こちらマクスウェル! 隊長! ボッカ機がシールドをっ! 腕をやられたっ! 至急、支援をっ!」
「デファン!」
「了解っす! マクスウェル! 俺達が行くまで、もたせるっすよ!」
「わかった! だが、早く頼む!」

 うちの連中は緒戦から戦っているデファンやマックスウェルがいるし、他の連中だって、通商破壊任務で多くの実戦を経ているから、ベテランと言っても差し支えない領域に達しつつあるから、なんとかするだろう。
 そもそも、こういう時の為に他隊以上に厳しい訓練を課して、少々のことでは諦めたり、屈しないように心身を鍛えてるんだからな。

「よし、俺はあいつに突っ込むから、レナ、お前は、何が何でも、セナ隊を退かせるんだ。後、情報面での支援も頼む」
「はい、わかりました!」

 レナに応答に頷き返した後、一気に機体に加速を掛けて、敵のエース目掛けて吶喊する。


 機体色が通常色だったらデブリに紛れて、接近して不意打ちを仕掛けるんだけどなぁ、との思いが胸に去来するが、これも給料分の仕事、給料分の仕事と言い聞かせて、小刻みな機動を繰り返しているバスター型をビームライフルで狙い撃ちする。


 ……やはり、俺の腕が悪いのか、当たらなかった上、こっちに気付かせるだけで終わってしまった。


 己の射撃センスの無さを嘆いていると、バスター型は周囲のセナ隊を威嚇する為か、散弾を盛大にぶっ放して連中を怯ませた後、大型ランチャーの連結を解きつつ、こちらに向けて両肩からミサイルを相次いで発射してきた。

 左右合わせて、都合、六発だが……、これぐらいなら、逃げ回る必要は、てっ!

 うあっ、敵も機動戦を仕掛けてきやがった!

 頭部機関砲でミサイルを迎撃しつつ、敵の機動について行く為に、軌道を一気に変更させる。地球に近い影響で、身体に圧し掛かってくるGが、予想以上に厳しいがっ、いつもと同じく、我慢だっ!


 ……変更前の予定軌道上をビームが走る。


 生死の境に直面して、命綱無しのタイトロープをやってる時ってこんな心境なのかねぇなんて事を、状況に対応している己を外から眺めているような俯瞰した意識で考えながら、どこから湧いて来ると言いたくなる位に全身から冷や汗を流しつつ、相手の思い通りにさせない為に妨害を兼ねた牽制射撃をするが……、あまり効果がない。


 ……弾道の予測や咄嗟の判断が上手いのだろう。


 そう考えた瞬間に、左側面のバーニアだけを噴射させて、機体を横滑りさせる。


 ……今度、通り過ぎたのは実弾だったな。


 こちらも後を追いつつ、更にビームライフルで何発か撃ち返すが……、正直、手数がって!


 っ!


 っアッ!


 ……っぐっくっ!


 はひぃ、……ビームとレールガンの連携なんて、正直、避けるだけで、精一杯だっての!


 つか、遠距離砲撃支援に特化しているバスター型との距離のある撃ち合いは、明らかにこちらが不利だ。


 これ以上、ビ-ム砲とレールガンの連携射撃をされないように、小刻みに回避機動を取りながら、接近を図ってみるが……、相手の機動も中々に堂に入ったもので、詰めきれない。


 それどころか、厭らしい牽制射撃もあって、逆に距離を離されてるぐらいだ。


 何とか、接近したいものだと考えた所に、地球に引かれて落ちつつある敵艦の残骸を見つけた。とりあえず、仕切り直す為、また、ついでに周辺状況も知る為にも隠れることにした。

 色と形状から250m級であったろうデブリの陰に隠れて、機体コンディションを確認しながら、レナ機と通信をつなぐ。

「レナ、聞こえてるか?」

 メインバッテリーの残量が……76%……。

「あっ、先輩!」

 で、推進剤は……メインの残量が62%か、予想以上に使ってるな。

「そっちはどういう状況だ?」

 よし、ライフル用バッテリーは、77%だな。

「はい、セナ隊の損傷機の撤退に手間取ってます! うちの隊はマクスウェル小隊が護衛を兼ねて、セナ隊と共に撤退中! デファン小隊が退路の確保、リー小隊が足つきから出撃して、先行していた残りの三機と交戦中です! また、主戦域ですが、味方部隊が敵機動部隊の撃破に成功したようです」

 ……あれ、何か、俺いなくても、上手く機能してなくないか?

 指導者として先達としては喜ぶべきことなんだが……、こう、指揮官としての自分の存在価値と言うか……って、そんなこと考えてる暇はないな。

「了解。それで艦隊の連中はこちらへの増援に来られそうか?」
「サリアから聞いた所、補給がなってないらしいので……」
「無理ってわけだな。……わかった、こっちから見たところ、敵MS隊も動き始めているみたいだし、まずは撤退を急がせてくれ」
「了解です。……ところで先輩、今、隠れてるみたいですけど、本当に大丈夫なんですか?」
「……正直、今日の奴は相手にしたくない」
「うあっ、先輩が弱気だ。……もしかして、そんなに?」
「ああ、手強い」

 砲撃支援機の癖に、あの回避力というか、距離を上手く保てる機動力は反則だと思うぞ。

「その手強い奴さんはどう動いている?」
「……先輩が隠れた場所を見据えて、動きません。あの、先輩、私もそっちに行った方が……」
「いや、お前は下手に触らず、他の連中の撤退を監督しろ」
「でも、先輩は……」
「何、どうとでもするさ」

 幸いなことに、セナ隊の活躍で敵艦隊はほぼ壊滅し、旗艦も落ちた事から組織的な迎撃能力が大幅に落ちている。その為、ザフト艦隊の砲撃を防ぐのに足つき型が忙殺されているし、こちらに上がってこようとしていたMS隊も丁度、この壊滅した艦隊と上がってきた艦隊との真ん中あたりでザフト艦隊からの攻撃を迎撃しているようなのだ。

 よって、一対一の状況がしばらくは続くと考えてもいいだろう。

 それにだ……、俺だって、伊達や酔狂でMSに三年以上も乗っているわけではないし、格上であるエース・オブ・エースのラウや同期主席のユウキと模擬戦をしてきたわけではない。よほどの大群に囲まれない限りは逃げ出せる自信もあるし、一対一なら、相手がエースだろうと何とか対応してみせる。


 流石に、無双なんてことは、無理だけどなっ!


 ……けど、ユウキはともかく、ラウだったら無双をやれそうな気がするのは、実績だよな、きっと。


 こんな具合で思考が逸れ始めた所で、俄かに、デブリの端で爆発を起こり、衝撃が伝わってきた。

「っ!」

 なんだっ、と思って見れば、残骸の一部が吹き飛んでいた。


 ついでに、今、機体のすぐ脇を、ビームが通り過ぎもした。


 ……どうやら、相手が痺れを切らしたようだ。

「ったく、こっちが手が出せないからって、撃ち放題だな」
「……先輩」
「レナ、心配すんな、こんな所でくたばる気は更々ないから、ちゃんと戻るさ。とにかく、俺は勝負を掛けるから、お前は撤退を急がせてくれっ! 通信終了!」

 まだ何か言いたそうなレナとの通信を切り、機体を動かそうとするが……、どうしようか。

 ……。

 おっ?

 ミサイルが爆発した影響でデブリが半分に割れた……って、これを盾代わりにして接近しよう。


 貫通してくるビームだけが怖いが……、半分ぐらいまで接近して、飛び出すしかないか。


 ……運がよければ、生き残れるが…………、正直、……怖いな。


 ……。


 ええいっ、ままよっ!


 自身の弱気な心を鼓舞し、デブリに機体の両手を押し付けて、全力加速を掛ける。


 ……左手はともかく、右手がライフルを持ったままなのだが、これも仕方がないだろう。


 ……。


 あれ、おかしいな?


 何か、時間が遅く感じるし、息も……いつも以上に、荒い。


 ……って、ビームがっ!


 ……ッ。


 ……後、もう少しっ!


 ……くっ、今度は、すぐ脇をビームが通り過ぎた!


 ……。


 っし! ここでっ!


 両手でデブリを強く押し離して、機体の姿勢を制御しつつ、一息置いてから、左側面から一気に飛び出して突撃を掛ける。



 モニターの片隅で、バスター型が撃った高出力ビームがデブリを貫くのが見えた。



「っし! 勝ったっ!」

 薄氷を踏むような恐怖から開放された影響か、一種、高揚した状態で叫びつつ、慌てるかのように大型ランチャーを反対側に持ち替えようとしているバスター型をビームライフルの照準に捉え、引き金を引く。



 ……。



 が、ビームが出ない。


「ックショウ! こんな時に故障かよっ!」

 思わず口から悪態が出るが……、ビームが出ない以上は仕方がない。持っていても邪魔になるだけのビームライフルをバスター型に投げつけて、少しでも動きを妨害する間に左手のビームクローを展開し、一気に接近して……。


 っ!


 避けられたっ!


 こちらが発射した右腰部のEEQ7R……ビームアンカーはバスター型の胴体を貫く事はなく、連結ランチャーで上手く防がれてしまった。もっとも、撃破には失敗したが、アンカーのビームはランチャー内部の弾薬に当たったらしく、ランチャーを吹き飛ばす事には成功した。
 その爆発で先端のビームパイクも一緒に吹き飛んだので不必要になったアンカーを切り離しつつ、改めて、近接格闘戦を仕掛けるために更に加速する。

「って、何でっ、バスターがっ、サーベル持ってんだよっ!」

 だが、仕掛ける相手であるバスター型が、何故か、本来持っていないはずのビームサーベルを持っていた為に、瞬間、混乱してしまう。

 その混乱した一瞬の隙を突かれて、相手からの先制を……、ビームサーベルでの振り下ろしを許してしまった。咄嗟に左腕のシールドでビームサーベルを一旦受けて、サーベルを形成する磁場を掻き乱している間に機体を交差させることで、再びビームサーベルが形成される前に回避する。

 素早く機体を制御して、振り返ってぇッぁっ!

 き、切り替えしが早いっ!

 再度、先んじて振り下ろされてしまったビームサーベルにシールドを当てる事で身を守りつつ、バスター型と交錯する。

 ビームサーベル同士での鍔迫り合いができればっ、って、くそっ、本当に早いっ!


 右かっ!


「がぁっ!」


 ……反転中に相手と衝突した反動を利用して、一旦バスター型に頭部機関砲を撃ちながら距離を置く。


 相手も機関砲の射線をかわしながら距離を取り、ビームサーベルを握り締めたまま、態勢を立て直しているようだ。


 ……俺が前世で見ていた某SFロボットアニメのようには、ビームサーベル同士での鍔迫り合いはできない為、シールドでの防御に集中しないといけないのだ。

 もちろん、こちらも攻撃のためにビームクローを展開させようとしてはいるのだが、攻防一体型であるから、相討ち覚悟の捨て身ならばとにかく、防御と攻撃の両立を実現しようとすると、これが中々に難しい。
 しかも、相手がさっきみたいな衝突も辞さない激しい攻撃をし掛けてくるから、シールドでの防御と回避に全力を注がないと危険な為、難度がより高くなっている。

 今もまた、機関砲の射線を通さないよう、デブリを利用して接近してきたバスター型の体当たりめいた突進と共に振り下ろされたサーベルを防ぎつつ、ビームクローを展開させて、ビームサーベルを持った腕を切るなり、胴体を貫いてやろうと思ったら、勘でも働いたのか、すぐさま離れていった。
 なので、次の交錯では、残弾僅かになった頭部機関砲を撃ち尽くしてでも、何処でもいいから破壊してやろうと手ぐすね引いて待っていたら、急速に接近してきたバスター型の両肩に設えられているミサイルポッドカバーが開き……、彼我の距離がまったくないと言っても過言でもないのに撃ちやがったっ!


「…………の仇だっ!」


 悲痛めいた女の叫びが聞こえた気がしたが、気にしてはいられない。

 咄嗟に頭部機関砲の照準を右側のミサイル群に変え、左腕のビームクローを展開しつつ左側のミサイル群を薙ぎ払う、が……。


「アッゥ!」


 何とか、全弾迎撃に成功するも至近距離での爆発、その衝撃で左手や盾先のビームクロー発生装置がいかれてしまったらしく、ビームクローが掻き消えた。
 当然ながら、それ以外のダメージを把握する為、機体情報に意識が向くが、身体は何故か、メインスラスターを全力噴射していた。


 ……前面装甲を大きく破損させたバスター型が、さっきまで俺がいた場所をビームサーベルで横薙ぎに振り払っていた。


 己の無意識的な危機回避能力に驚きと感謝を覚えつつ、残った左腰部のビームアンカーを咄嗟に発射するが、バスター型の胴体から外れてしまい、ビームサーベルを持った右腕を破壊するに止まった。
 だが、バスター型は破壊された腕すら無視するかのように残った手でアンカーを握り、こちらを引き寄せようとしたので、慌てて切り離すが……、って、どうしよう、もう、頭部機関砲も撃ち尽くしたし、攻撃手段が殴り合いしかない。


 さっきと同じように、距離を取って相手の様子を伺うが、どうやら向こうも攻撃手段を失ったようだった。


 だが、そのバスター型の背後からは、どうやらザフト艦隊からの攻撃が止ってしまったようで、敵MSが接近している事を示すスラスター光が見えるというか、そろそろマジで撤退したいんだが、連中の撤退はまだなのかっ!

 そんな焦りに応えてくれるかのように、レナからの通信が入ってきたので、大急ぎで応答する。

「レナ、どうしたっ!」
「先輩! 急いで退避をっ! 艦隊がL4より高速で接近する多数の熱源、少なくとも半個艦隊規模の敵艦艇を探知したそうです! また、残弾の関係で艦隊からの敵輸送艦への攻撃は打ち切られました! 敵MS隊の一部が急速接近中です! 援護しますから、至急、後退してください!」
「他の連中はっ!」
「リー小隊がデファン小隊と協同で先発していた残りの足つきMS隊を全機撃墜して、宙域を制圧! マクスウェル小隊及びセナ隊は全機、撤退に成功しています!」

 ……よ、良かった、ようやく、仕事が終わりのようだ。

「了解……、俺も退くから、援護を頼むわ」
「はいっ!」

 レナとの通信を切り、意識を切り替えてモニターを見てみると、バスター型の背後に映る輸送艦から次々にスラスター光が浮かび上がるのが確認できた。

 これは早い所、引き揚げた方がいいだろうな。

 そう考えた後、ガッツ溢れる強敵への敬意……、というか、ある種の気まぐれ的に、バスター型に対して機体の手を振らせてから、全力で逃げ出すことにした。


 ……リアクションはないようだ。


 まぁ、それが当然だよねぇ、なんてことを考えながら、じっとこちらを注視しているように動かないバスター型に背を向けて、迎えに来てくれたレナ機を目指して機体を加速させた。


 ◇ ◇ ◇


 エルステッドに着艦し、最後の激しい戦闘で早くも一戦目から前面装甲がボロボロになってしまった機体の整備をシゲさん達に委ねた後、現状を把握する為にも、レナが気を利かせて渡してくれたITIGOオレとタオルを手に持って、艦橋に上がることにした。
 全身汗塗れになったから非常に汗臭いはずだが、気密性と吸収性が高いパイロットスーツだから、外に臭いが漏れることはないだろう。

 艦橋に入ると、真っ先にゴートン艦長が声を掛けてくれた。

「お疲れさんだったね、ラインブルグ君」
「ええ、凄腕とやりあう破目になるなんて……、まったく酷い目に会いました」
「でも、艦隊のMSが半数近く落ちた中でも、ちゃんと自分も含めて、全機を帰還させたんだから、誇っていいと思うよ」
「……はは、艦長にそう言ってもらえると自信になりますね」

 隊長補佐としてではなく、私人として語りかけてくれたゴートン艦長の対応に、戦闘で張り詰めていた緊張が少し和らぐのを感じた。

 やはり、ゴートン艦長のこういった気配りは、流石だと思う。

 ……でも、だからこそ、この人に支えてもらえるに足るよう、自らに与えられている責任を果たさないといけない。

 そう自身に言い聞かせて、意識を一MSパイロットから隊長へと切り替える。

「それで、艦長、連合軍に動きは?」
「地球軌道上に展開していた連合軍艦隊は、250m級三を中心に残余を再編成中のようです。これを、地球から上がってきた部隊が五十機近いMSを展開させて、援護しています」
「艦隊司令部はどうすると?」
「二次攻撃は行わず、ボアズへの撤退を決定しました」

 ボアズ艦隊及び独立戦隊群は、先の戦闘において、地球軌道上に展開した連合軍艦隊とその機動戦力の撃滅に成功していることから、勝利したと言えるだろう。
 だが、連合軍が地球から新たな戦力を、それも大規模な戦力の打ち上げを成功させ、L4から増援の艦隊を半個規模とはいえ派遣しているのに対し、ボアズ艦隊は機動戦力の半数近くを喪失し、前もって行われていた砲撃戦の影響もあって、ミサイル等の艦砲弾の消耗も激しい上、月との睨み合いの関係でプラントやL1からの増援も期待できない為、これ以上の戦闘継続は難しい状況なのだ。

 故に、ボアズ艦隊は、地球軌道の確保は困難だと判断して……。

「地球軌道を放棄、確保を断念する、ですか?」
「表面上は上手く取り繕っていましたけどね」
「……やれやれ、数で勝る連合が本領発揮、ということか」
「ええ、そういうことでしょう」

 まったく、連合軍の奴等め、数の有利を活かした王道を行くなんて、ウラヤマシスギル。

「それで、俺達、独立戦隊群は?」
「余力のあるムーア隊とシュタイナー隊、モンテルラン隊及び我が隊に殿軍を務めて欲しいとの要請がボアズ艦隊司令部よりありました。今のところ、我が隊は隊長不在を理由に返答を保留しております」
「……では、要請を受諾するとの返答を送ってください」
「すぐに……、トライン班長、要請を受諾すると、司令部に連絡して」
「アイ、艦長!」

 アーサーの威勢の良い返答を聞きながら、更に艦長に尋ねる。

「後、他に何かありますか?」
「……L4からの増援が到達するのは後四半日は掛かりそうですし、アルテミスも動く気配はないです。地球軌道の部隊も再編成中ですから、無事に逃げ切れると思います。ですので、一度、戦闘配置を解除し、一種警戒に落とすことを進言します」
「そうですね、一種警戒に落しましょう。その旨の伝達もお願いします」
「了解です」

 ……ふぅ、こんなもんかねぇ。


 そう思った瞬間、一気に虚脱感が襲い掛かってきた。


 ……やはり、強敵との生死の境界線上での戦闘は、身体と精神に相応の負担を強いたようだ。


 むぅ、まだまだ、鍛え方が足りないということか……、なんて、格好良い事を考えるが、断続的に誘惑してくる睡魔があまりにも魅力的で、目蓋が落ちそうになる。

「……ラインブルグ君、とても疲れてるのはわかるけど、もう少し、頑張ってちょうだいな」
「ええ、安全地帯までは何とかします」
「うん、頼むよ」

 ゴートン艦長の生暖かい視線が痛い!

 何とか、その視線から逃れるために、地球軌道を映し出すモニターに目をやる。


 ……地球の夜面に、以前よりも更に多くの光が見えた。


 その光から、戦争をしながらも地球の復興も同時にしている地球連合の巨大な力を、つくづく、思い知らされる。


 今日の戦闘でも実感したが、戦略の王道を行く地球連合から、戦争で勝利を得ることは絶対に不可能だろう。


 ……だからっ!


 マジで頼みますね、カナーバ議員。
11/02/06 サブタイトル表記を変更。


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