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第二部  二年戦争/プラント独立戦争 (C.E.70年-C.E.72年)
73  低軌道の嵐 4


 ……嘘だろ?

 何故、低軌道上で戦闘している段階で、打ち上げを強行するなんて無茶を……。

 打ち上げぐらい、今の戦闘が終わって、双方が引き揚げてからでもいいと思うんだが……、まさか、救援なのか? それとも別に何か意図でもあるからか?

 ……わからん。

「隊長!」

 あっ、いかん、呆けてしまった。

「すまん、ベルナール。……それで、打ち上げられてくるアンノウンはどこに上がる?」
「推定では敵艦隊の後方域に上がってくるはずです」

 ……なら、救援に来るつもりなのか?

「では、艦隊司令部や他の独立戦隊は何と……、どう対応すると言っている?」
「はい、艦隊司令部はMS隊や艦砲弾にも余裕がないことから、一部艦艇でのみ、打ち上げ軌道への砲撃を行うことで対処すると通達がありました。他の独立戦隊も予定コースへと砲撃を仕掛ける予定です。……あ、それとモンテルラン隊は艦隊司令部からの要請で前線部隊を補給交代させる為にMS隊を戦域に投入しており、予備の機動戦力は残っていません」

 最後の予備機動戦力であるモンテルラン隊のMS隊が投入済みか……。

「わかった。それでうちの戦隊は? ゴートン艦長は何と?」
「我が戦隊も艦隊や他戦隊に倣い、予測砲撃でもって対処したいとのことです」
「了解した。……艦長に、もしかすると、打ち上げられた艦艇から、MSやMAが出撃してくる場合も考えられるから、無理な接近はせず、十分に距離を取って、常に警戒だけは厳重にするよう伝えてくれ。後、複座の二人にもな」
「了解です」

 一応、他の事も聞いておこう。

「他に何か、状況に変化はないか?」
「ええと……、アルテミス要塞の敵部隊ですが、どうやら再び要塞内に逃げ込んだようです。ムーア、シュタイナーの両隊は引き続き、警戒にあたっています」

 ……となると、アルテミスは戦力の釣り上げを目的にして、部隊を動かしたって所か。

 実際、一度は動いた以上は警戒のための部隊が不可欠になるからな。

「了解、状況に変化があったら、また連絡してくれ」
「了解しました」

 ベルナールとの通信を終えて、直に、前線の戦況を確認する。


 ……戦闘宙域に残っている双方のMSやMAの数とモンテルラン隊の投入でザフトMS部隊に補給が行われる事、敵艦隊がこれからセナ隊に引っ掻き回される事をひっくるめて考えると、ザフトの優勢は揺るがないだろう。


 だから、これはいい。

 それよりも、地球からの打ち上げが気になる。

 あの打ち上げの目的は救援……、連合軍の援軍なのか?

 ……。

 しかし、この今の状況だと地球に落ちるデブリの量も多いし、通常よりも危険度が遥かに高い上に、上がってくる途中で絶対に狙い撃ちにされるだけだと思うんだが……、いや、今、その狙い撃ちに関しては、軌道上に展開している敵艦隊が防御することも考えられるだろうが……。

「先輩、デファン、マクスウェルの両小隊が敵艦隊の護衛部隊と交戦を開始、セナ隊は敵艦隊への攻撃に入りました」
「……あ、うん、わかった」
「先輩?」

 例え、艦隊がこちらの攻撃を迎撃するにしても、基本的に完璧というものが現実に存在しないのと同じで、絶対に何らかの失敗が発生するはずなのに……、何か、攻撃を受けない方法が……、攻撃を受けない自信があるってことなのか?

 もしも、仮にそんな自信があるというなら、少々の攻撃を受けても大丈夫だと確信できる、高い防御力を持つ対応能力に優れた艦があるということか?

「え、あ……れ?」
「……」
「せ、先輩!」
「ッ! ……どうした?」
「ち、地球から上がってくる艦の、先頭の艦だけ! 速度がかなり速いです!」
「なっ!」

 なんだってっーーーーーーー!

 って、そんなリアクションしている場合じゃない!

 急いで戦隊との情報リンクで確認すると、レナの言う通り、最初に打ち上げられた艦が尋常ではない速度で上がってきていた。

 慌てて、エルステッドに呼びかける。

「エルステッド! そちらは状況を把握しているか!?」
「あっ! はい! 先頭で上がってくる敵艦の速度が予想よりも遥かに速く、こちらの迎撃が間に合いません! このままだと、敵艦隊との合流を許すじた……、えっ!」
「って、どうした! ベルナール!」
「た、隊長、敵先頭艦の種類が、は、判明しました。……あ、足つきと同型のようです」

 ちょっ! ここで足つきの同型艦が登場とか、勘弁しろよっ!

「至急、デファンとマクスウェルに足つき型が接近中だと、注意して警戒するように伝えろ!」
「は、はいっ!」
「それと、まだ後続への迎撃は可能なはずだ! 早急に後続艦への攻撃を実施して欲しいとゴートン艦長に!」
「はいっ! 伝えます!」

 まだ、今の状況なら、例え、足つきが迎撃に奮闘したとしても、かなりの敵を削れるはずだ、って、後続も足つきなら、それも無理だな。

 ……一応、確認しておこう。

「ベルナール」
「あっ、はい、聞こえてます」
「先頭の足つきに続くのは……、後方に続く艦は……、足つきと同型か?」
「…………いえ、通常の双胴型輸送艦です」
「全部が?」
「はい、以後に打ち上げが確認されている艦は、全て、輸送艦です」

 ……足つき以外は、戦闘艦じゃない?

 なら、上がってくるのは……、援軍じゃないのか?

 いやいや、待て待て、輸送艦にだってMSやMAを載せることができる以上、この判断は早計だ。

 でも、戦闘宙域に打ち上げるなら、普通、戦闘艦にするはずだが……、むむむ、わからんなぁ。

 ますます、わざわざ危険な状況で艦艇を打ち上げた理由が見えなくなってしまい、悶々としていたら、ベルナールが再び通信画面に姿を現した。

「あっ! た、隊長、低軌道上に到達した足つき型がMSを発進させています!」
「数は?」
「……六です!」
「わかった。……うちはいいとして、艦隊に攻撃中のセナ隊はそれを知っているのか?」
「情報リンクはしっかりと繋がっていますから、セナ隊の母艦から伝達されているはずです」

 ベルナールの言葉を聞き、セナ隊が攻撃を仕掛けているであろう連合軍艦隊を見れば、既にかなりの艦艇が沈んだのだろう、残骸やデブリが赤く輝きながら地球へと大量に落ちて行くところだった。

「セナ隊の攻撃は順調のようだな」
「はい、こちらで確認しているだけで、250m級六と150m級三十一を沈めています」
「わかった」

 ベルナールとの通信を終えて、どう動くか、考える。

 ……。

 セナ隊の攻撃は順調のようだが、足つきからMSが出撃していることを換算すると……、何となく、前方の応援に行った方がいい気がしてきた。

「リー」
「はい」
「この場を任せるぞ」
「……了解です」

 リーから、俺が思った以上にはっきりとした力のある返事が聞けた。

 ……もう、こいつは馬鹿を仕出かすことはないだろう。

「よし、レナ、行くぞ」
「はい!」

 後は、足つき型から出てきたMSが新型じゃないことを祈るだけだ。


 ◇ ◇ ◇


 ビクトリアから打ち上がって来る連合軍艦艇へのザフト艦隊からの攻撃は、セナ隊の攻撃を受けて大きな被害を受けている連合軍艦隊と足つき型によって迎撃されている。特に、セナ隊に掻き回されている艦隊に関しては自艦の防衛すら置いて迎撃を行うという、一種、気違い染みた所業を見せる程だ。
 だが、その我が身を犠牲にしてまで迎撃した成果だろう、大気圏突破中に落とされた輸送艦はこちらが予想していたよりも遥かに少なく、後続の輸送艦が一隻、また一隻と軌道上に展開しつつある。


 もしも、これらの輸送艦から、MSの大部隊が出現したら……。


 そんな最悪な想定に危機感を抱きながら、味方の動きを把握する為、レナに指示を出す。

「レナ! デファン達の座標位置を把握してくれ!」
「はいっ!」

 もちろん、俺も周囲の警戒と共に友軍と敵の動きを把握すべく、視線をメインモニターに走らせる。

 友軍のセナ隊は……、敵艦隊にかなり切り込んでいるな。時折、ビームが走って、大きな爆発光が見えることから、攻撃は成功しているんだろう。

 ……で、敵さんはっと…………、げっ、何隻かの輸送艦から、ちらほら、MSが出ようとしている。けれど、幸いにして、輸送艦にはカタパルトが搭載されていないようで、ここまで上がって展開するまで時間が掛かりそうだ。

 ……。

 うん、ここは連中が大挙して上がってくるまでに、退いた方がいいよな。

 自身の考えをまとめて、セナ隊に通信を繋げようとしたら、レナからの連絡が入った。

「先輩、デファン達は護衛機を落とした後、足つき型から出てきたMSと交戦中です」
「……速いな。こちらに被害は?」
「今のところは大丈夫みたいですけど、例の換装型派生機らしいので、かなり手強いみたいです」
「無理をするなって事と、何時でも退けるように心積もりはしておけって、伝えてくれ。俺はセナ隊に連絡を入れる」
「了解です」

 早い所、連絡入れて、撤収の算段を取らんことには、数に飲み込まれる危険があるな。

 そんなことを考えながら、通信系を先程、セナがこっちに繋いできた回線に合わせ、攻撃を仕掛けているであろう、セナに呼びかける。

「セナ隊長! こちら、ラインブルグ隊のラインブルグだ! 敵の増援を多数確認した!」
「お、ラインブルグか、敵の増援なら、こちらも確認している」
「艦隊は敵輸送艦の迎撃に失敗した上、敵MSが展開しつつあります。数も多いですから、俺達だけじゃ、まず対応はできません。……ここは退きましょう、今なら、確実に退けます」
「……お前の言わんとすることはわかる。だが、この艦隊の旗艦だけは落としておきたい」

 む、むぅ、それは時間的に厳しくないか?

 そんな思いが表に出てしまったようで、セナは露骨に呆れた顔を見せた後、軽く首を竦めて見せた。

「なに、後少しだ。こいつを落とせば、撤収する。攻撃に集中するからな、通信終わり」
「ちょっ」

 血気盛んなのは……、あの訓練校での訓練を受けた以上は仕方がないんだろうが、隊長なんだから、もっと冷静に状況を把握してくれ!

 と、もう一回通信を繋げて叫びたい所だが、セナ隊が攻撃を仕掛けている為、これ以上の妨害をすることはできない。


 それに、よくよく考えれば、客観的に見ても、俺の考え方が慎重すぎる面があるのは事実なのだ。


 ちぐはぐな己の心境に眉間に皺を寄せながら、セナ機が攻撃を仕掛けているであろう300m級近くを確認すると、今まさに、艦体随所で小爆発が起きている300m級の、その艦橋に、隊長機の白いゲイツがビームライフルを向けた所らしかった。


 まぁ、これで300m級が落ちるのは確実だし、セナ隊も退くだろうと考えた。



 ……その時だった。



「ッぇっ!」



 一条の強力なビームが、白いゲイツを貫いたのは……。



 突然の事態に驚き、声が詰まるが、セナのゲイツは爆発する寸前に300m級の艦橋と艦中央部を立て続けて撃ち抜いた。セナ機が爆散するのと同じく、艦内にあるMA用の推進剤か弾薬に引火したのだろう、300m級は艦中央部で大爆発を起こして、艦体をジャックナイフの如く真っ二つに折りながら、地球の重力に引き込まれていく。

 俺もその光景に心奪われかけるが、セナ機を落としたビームの発射元がわからない以上、悠長なことはしていられない。

「レナ、警戒を厳にッ!」
「は、はいっ!」

 自身もセナ機を屠った、狙撃にも似たビームが飛んできた角度と方向から、撃った敵を探すべく、確認を急ぐ。見れば、セナ隊も隊長機が落とされて、動きが止るほど動揺を見せていたが、いつしか、一つの方向に向って、って、いたっ!

 連合軍から鹵獲したMS……、バスターに似たシルエットを持つMSが、バスターが持っているような両手持ちの大型ランチャーを反対側に構え直した所だった。

「おいおい、あれって、バスターの連結ランチャーじゃないだろうな?」

 以前読んだ資料では、バスターの連結ランチャーは戦艦並みの威力がある上に、近距離での制圧用に散弾も撃てるなんて物騒な代物だった。
 今、モニターに映っている、バスターの量産型らしきMSが持っているランチャーが俺の知るものと同じものならば、セナ隊が統率もなく、一直線に殺到して行く現状では、鴨が葱を背負って飛び込んで来るようなもの、いわば、一網打尽なんてことになり、非常に拙いことになる。

 しかも、更に悪いことに、輸送艦から出てきたMSが……、三十機を越える大群が地味に距離を詰めてきている。

「レナ! 撤退の信号弾を上げると同時に、デファン達に撤退信号を送れ!」
「えっ?」
「早く!」
「は、はいっ!」

 ……うちの連中はこれでいい。

 だが、セナ隊の連中は、隊長をやられて、頭に血が昇っているだろうから、言うことを聞かないだろうなぁ。

「あっ」

 ……バスター型が散弾を発射しやがった。

 それをバスター型との距離を、回避機動込みで上手く詰めていた二機のジンM型がまともに喰らって、落ちた。

「……レナ、セナ隊の連中を退かせるぞ」
「えと、セナ隊は大人しく、退くでしょうか?」
「退きたくなかろうが退かせんわけにはいかんだろう。……とにかく、俺があいつを何とか抑えるから、連中の撤退援護を頼むぞ」
「わ、わかりました!」

 でも、あのバスター型を相手に正面から行くと、絶対に狙い撃ちされそうだよなぁ。

 ……。

 ここは何とか不意打ち狙いでって、この機体色じゃ無理か。

 ……はぁ、目立つ色付きの機体なんて、乗るもんじゃないなぁ。
11/02/06 サブタイトル表記を変更。


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