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第二部  二年戦争/プラント独立戦争 (C.E.70年-C.E.72年)
64  潮流が生む瀬戸際 2


 レナ達とはプラント政庁内途中で別れた後、ラウと現状について駄弁りつつも、いつもザラ議長に取り次いでくれる件の秘書さんの先導で移動し続けて、国防委員長室に案内された。

 四月に行われた最高評議会の議長選挙では、僅差で、前評議会議長のシーゲル・クラインを破ったと聞いていたのだが、何故に議長室ではないのか?

 この疑問、何故に案内先が国防委員長室なのかということを、すんばらしい御胸の秘書さんに聞いてみたら、ザラ議長が言うには、自分の本分は国防委員長であり、最高評議会議長を兼ねて務めるのは、あくまでもプラントの戦時体制時を整える為に政権運営の主導権を握る必要があったからであり、戦争終結の暁には議長職を辞するので部屋を変える必要はない、なんてことを言ったとか。


 プラントの……、一国の最高権力を手にして、この無欲ぶり。

 議長って、俺が想像していたよりも、遥かに淡白だよなぁ。

 ……。

 あっ、もしかして、あれか?

 夜の営みが充実し過ぎているから、精力が減退しているのか?

 ……。

 今まで本人から聞き出した内容や以前の様子から考えるに……、ありえそうな話だなぁ、おい。


 そんなわけで、御本人に直接聞いてみた。


「で、どうなんです、本当のところは?」
「……若造、来るなり、挨拶もなく、何を言っている?」
「これは失礼。ラウ・ル・クルーゼ、アイン・ラインブルグの両名、お召しとのことで参上しました。……それでですね、ザラ議長が戦争終結までしか議長職を務めないと聞きまして、これはやはり、夜のセイ活が充実し過ぎている所為なのかなと考えまして、是非とも、真偽を聞いてみたいと思いましてですね」
「……ノーコメントだ」

 むぐ、意外な反応。

 だけど、まぁ、前よりも更にヤツレ……精悍な顔で露骨に目を逸らされてしまった以上は、流石に追求できんはな。

 ぶっちゃけ、その顔見たら、答えがわかったし……。

 でも、男として羨ましいよなぁ。

 なんてことを考えていたら、議長の背後に控えていたユウキが口を挟んできた。

「おい、ラインブルグ、このような公式の場ではな、そういうことはあまり聞かない方がいい」
「えー、でもよぅ、議長がこんなに枯れは、もとい、精悍になるんだぞ? あの綺麗な奥さんを見ておいてさ、ユウキ、お前は羨ましく思わないのか?」
「む、それは当然、思うに決まっているだろう」
「だろ?」

 ユウキの賛同を得られた所で、もう一人、別の人物……、ウェーブがかかった長い亜麻色の髪を持つ結構な美人が応接ソファに座っていることに気がついた。

 どうやら目を丸くして、俺と議長のやり取りを見ているようだった。

「議長……、あんなにも素晴らしい奥様がいるというのに……、こんな昼間から女性を執務室に連れ込んだりして…………、まったく…………、このスケベ親父」
「なっ! 若造、貴様、人聞きの悪いことを言うな! 私はレノア一筋だっ!」
「あはは、冗談ですよぅ。いやぁ、それにしても残念だなぁ。今の言葉は奥様に聞かせてあげたかった」
「……ぐっ!」

 こちらを思いっきり睨みつけてくるザラ議長の威圧を素知らぬ顔で受け流していると、自身の心に重たく沈み溜まりに溜まっていた負荷が軽くなっていくのがよくわかる。

 ああ、一時の油断もできない時間から開放されるって、いいよねぇ。

 気持ちよく、日頃のストレスを解消できたので、今更ながらだが、真面目な顔を取り繕って、用件を伺うことにする。

「それで議長、今日の用件は、先の作戦のことですか?」
「き、貴様と言う奴は……、散々、引っ掻き回しておいて……」
「いえいえ、部屋に入ったら、議長が、こーんな感じで、眉間に皺を寄せて、難しい顔をしているのがわかりましたからね。息が抜けない議長のことだから、執務中もずっと、そんな顔をし続けているに違いないと考えまして、流石にそれは、精神衛生上、如何なものかと思いましてですね、はい、小粋なジョーク(?)を飛ばしてみたんですよ」
「……ふぅ。まったく、貴様という奴は……、彼女はそのような存在ではない。とにかく、今は気にしなくていい」

 議長の私生活を揶揄しておいて、上手いこと議長を丸め込んだためか、隣に立つラウが呆れている気配が伝わってくる。ついでに言えば、議長の後ろで立っているユウキは露骨に呆れた顔を見せている。


 もっとも、俺は別に気にしないがなっ!


 内心で嘯いていたら、ザラ議長が話を切り出したので、真面目に話を聞くことにする。

「今日、貴様らを呼んだのは、今、若造が言った通り、先の作戦の事もあるが……、実際に前線に立つ者に現在の状況を聞いてみたいと思ったからだ」

 おお、それは素晴らしいことだと思いますです。

「では、クルーゼから頼む」
「はい、では、現状における地上軍の状態に関してですが……」


 ラウの話を物凄く簡単に略すると、各地で地球連合軍の反攻を受けているザフト地上軍は、先の降下作戦の失敗もあって、士気の低下が著しく、カーペンタリア以外は、もう持たないだろう、とのことだった。
 また、話の途中、五月の作戦、オペレーション・スピリットブレイク及びブリッツブレイクの立案とプラント防諜体制の見直しが評価されて、新たに戦術統合即応本部、……一般にはフェイス(FAITH:Fast Acting Integrate Tactical Headquarters)と呼ばれる特務隊の所属となったユウキから、ビクトリア基地の絶対防衛線が破られて、陥落寸前であるということ、現地の混乱からマスドライバーの破壊に失敗する可能性が高いということが補足された。

 俺も宇宙の現状……月やL4の連合軍艦隊に動きがなく凪の状態が続いているが、それは嵐の前の静けさに過ぎないということと、今後の見通し……地上から回される戦力と量産型MSやミサイル搭載型MA及び艦艇の新規建造によって、強化されるであろう連合軍艦隊によるプラントへの圧力増大について、話をした。


「プラントを取巻く状況は厳しさを増す一方だな。……やはり、先月の作戦失敗は大きいということか」
「ええ。ですが、正直に言わせてもらえば、まさか、地球連合軍の総司令部が存在する基地に、大量破壊兵器が……、サイクロプスが仕掛けられているとは、誰も思いませんよ」
「……私も実際に仕掛けられている装置を目にした時は驚きました。しかしながら、月でも危うく巻き込まれそうになった身から言わせてもらえば、あれほど効果的に戦域を破壊する兵器は存在しないでしょう」

 俺の語をラウが引き継いでくれたので俺も、再びラウの後に続いて、発言する。

「ですが、以前、資料で見た限りでは、サイクロプスが大規模な装置であり、かつ、固定式である以上は、事前に用意しなければならないはずです。……議長、先の作戦、……上層部から漏れた可能性はありませんか?」

 ……ザラ議長は瞑目して語らず、代わりにユウキが沈痛な面持ちで答えてくれた。

「ラインブルグの疑念はもっともだと思う。実際、私もその線を疑い、オペレーション・スピリットブレイクが失敗に終った後、直に、評議会周辺の内偵を進めた」
「結果は?」
「……黒だった」
「……そうか」

 最高評議会の議員に選ばれるくらいなんだから、最低限、あの作戦の目的、意味を解って欲しいと思うのはいけないことだろうか?

「誰からだ?」
「……プラント最高評議会議員であるシーゲル・クライン、……前最高評議会議長だ」
「ちょ、……え、おいおい、ユウキ……、それは、本当か?」
「ああ、保安局にいたラインブルグなら知っていると思うが、保安局の特別捜査部が、オペレーション・スピリットブレイクを評議会で説明した時にその場にいた全員を調査し、怪しい線を一ヶ月掛けて慎重にかつ集中的に内偵した結果だ」

 ……保安局特別捜査部が一ヶ月の内偵か、これは、もう、確定だな。

 俺が絶句している横で、代わってラウがユウキに問いかけてくれる

「ユウキ、その情報漏れが前議長だと確定した糸口は?」
「ああ、今年四月にロールアウトした新型機、【ZGMF-X10A】フリーダムが、オペレーション・スピリットブレイクの際に強奪された事件にラクス・クラインが大きく関わっていたことが判明したからだ」
「む、そのフリーダムとは? 型番から察するに、MSのようだが?」
「……ニュートロンジャマーキャンセラーを搭載した、核動力機だ」

 えっ、ニュートロンジャマーキャンセラー?

 ……。

 文字通りで考えれば、ニュートロンジャマーを阻害する装置ってことか、って!

「おいおいおいおい、まさか、ニュ-トロンジャマーを無効化させる装置か?」
「ああ、そうだ」
「な、なんで、そんな物騒なもんをっ! もしも、その情報が地球連合に流れたら、また、プラントが核攻撃を受ける可能性が出てくるぞっ!」
「……シーゲル・クライン前議長の指示だったそうだ」
「なっ、なn「奴は……」」

 ユウキに更に食って掛かろうとしたところで、議長が改めて口を開いたので、俺も一旦、昂ぶりかけた気を何とか抑え込んで、耳を傾ける。

「シーゲルは……、去年の四月に自分が主導して行った、地球へのニュートロンジャマー散布を……、大量虐殺の引き金を引いてしまったと、常に悔いていた」

 ……。

「……元より、気が優しすぎる男だったからな。自身の罪の意識に耐えかねて、地球の窮状を裏から支援をしようとでも考えて、そのような指示を出したのだろう」

 ……。

「ニュートロンジャマーキャンセラーの開発という、シーゲルの指示を知った私は……、ニュートロンジャマーキャンセラーの情報が地球連合に流出し、再び、プラントが核攻撃を受けるかもしれないという最悪に備えるために、活動制限がより少ない核動力機を、核攻撃に対する迎撃機として、用意することにした。……それが、フリーダムだ」

 ……なるほど、そういう経緯か。

 まぁ、確かに、ザラ議長みたいな鋼の如き精神を持つか、何らかの……、自爆テロを決意した青秋桜の狂信者ぐらいでないと、大量虐殺なんて、普通は耐えられない……、はずだよな?

 一連の流れに、一応の得心をした所で、再度、ユウキが話し始めた。

「だが、さっきも言ったが、そのプラントを護る為のフリーダムが、オペレーション・スピリットブレイクの最中に、シーゲル・クラインの娘、ラクス・クラインの手引きによって、何者かに強奪された。その後、フリーダムは、アラスカでザフト及び地球連合軍を相手に大暴れした後、確たる行方が掴めていない」

 つか、えと、マジですか?

 な、なんなんだ、そのフリーダムの意味不明な行動は?

 ……。

 そ、それにだ、もしも、何かの拍子で、強奪されたMSが…、…ニュートロンジャマーキャンセラーが地球連合に流れたら、いったい、どうするんだ?

 唖然呆然とする、俺の代わって、またまた、ラウが聞いてくれた。

「……聞くが、ラクス・クラインが関与したという証拠は?」
「強奪までの一部始終において、強奪者を手引きするラクス・クラインの姿がはっきりと映った監視映像に加え、開発局からフリーダムの始動キーを得るためにラクスによって提出された偽造命令書も残っていた。それを保安局が指紋等の鑑定にかけた結果、本人と断定されている。後、駄目押しに生きた証人、警備兵の証言もある」
「ふむ……、では、フリーダムの行方は?」
「先程も言ったが、現在は、行方不明だ。一応は、プラント-地球軌道-アラスカ、そして、オーブまで確認しているが、それが最後だ」

 はて、何故にオーブ?

「オーブ?」
「フリーダム追討の任を、これもニュートロンジャマーキャンセラー搭載の核動力機で新型の【ZGMF-X09A】ジャスティスに出した。アラスカ戦後、オーブにフリーダムが存在したという情報は、そのジャスティスから届いた情報だ」
「ついでに聞くが、ジャスティスとは?」
「ああ、ジャスティスは、迎撃機であるフリーダムを護る為の護衛機的な存在だ。付け加えると、ジャスティスに追討命令を出したのは、フリーダムに対抗できるだけの性能を持つのがジャスティスだけだったからだ」

 なるほど、核動力機には核動力機、ってわけか。

「そのジャスティスからの最後の通信で、フリーダムがオーブに存在していたことと六月のオーブ攻防戦に関わった事が把握できている」
「最後の通信……、ってことは、その、ジャスティスはフリーダムに撃破された?」

 一瞬だけ、ユウキが議長を見た気がするが……、気のせいか?

「……不明だ。だが、オーブにいた諜報員からは撃破されたという情報は入ってきていない」

 ……鹵獲された可能性もあるということか?

 それは、まずいな。

 こうなったら、最悪を……、ニュートロンジャマーキャンセラーが完成した段階で、前議長が地球に情報を流している可能性もあるから、ニュートロンジャマーキャンセラーの情報が連合に流出していると考えた方がいいな。

 そう考えながら、俺は事の元凶を呪……、もとい、封印すべく、その名と対策を口に出した。

「なぁ、ラクス・クラインってさ、前にも、色々と現場に迷惑と面倒を掛けてくれただろう? 逮捕するには……、プラント社会への影響が大きいな、とりあえず、自宅に軟禁でもした方がいいんじゃないか?」

 俺が十割真剣にいった言葉に、ユウキや議長、それにソファの女の人まで、苦い顔をしている。

「え、えーと、その反応はいったい?」
「……ラインブルグ、フリーダム強奪に関わったラクス・クラインは、現在、行方知れずになっている」
「……へ?」

 なにそれ?

「行方を追っている保安局も人手不足の中で頑張っているんだが、ラクス・クラインの仲間……、いや、言葉を誤魔化さずに言えば、クライン派が匿っているようで、見つからないのだ」
「本当ですか?」
「ああ、忌々しいことにな」

 また、眉間に縦皺を刻み込んだ議長の肯定を受けてしまい、頭を掻き毟りたくなる。

「な、なら、ユウキ、前議長は? 情報が漏洩したラインは割れているのか?」
「それは大丈夫だ。前議長に関しては外部から二十四時間態勢で監視しているし、漏洩したラインも特別捜査部の綿密な調査の結果、実際に情報を外部へ洩らした者を割り出して拘束、保安局拘置衛星で拘禁状態に置いて、尋問を続けている」

 うん、それは良かった。

「で、どういうラインだったんだ?」
「……あの時、オペレーション・スピリットブレイクを説明する最高評議会に出席していた評議会議員シーゲル・クラインからラクス・クラインへ、そして、クライン派の一部へと伝わり……」
「外に漏れて、地球連合に流れたってか?」
「ああ」

 あー、もう、やってられんわぁ。

「その結果、アラスカに降りた連中は死んで、プラントは戦争を終結させる為の大博打に負けたってか?」
「……アイン、言葉が過ぎるぞ」
「だがな、ラウよ。上に立つ人間の口が軽いってことは、ただ、それだけで、十分に罪だぞ?」
「それは、私もそう思うが……」

 ……ああ、もうっ、収まりがつかないっ!

「なぁ、こっちはさ、戦争を少しでもマシな状況で、上手い落着点を探って終わらせるために、後方が頑張ってくれていると信じて、命賭けて……、自身の死や、仲間の死を覚悟して、戦場に立ってるんだぞ? それを……、それを…………、簡単に、裏切ってくれるなよ」

 ……俺達の意志を、死んでいった奴等の遺志を、無駄にしてくれるなよ。

「……だいたい、アラスカで死んだ連中やその遺族に、なんて言えばいいんだ? 間抜けにも上層部が、それも議長を務めたような人間が情報を漏洩しました、その結果、あなた達やあなたの大切な人は天に召されました、とでも言えばいいのか? いや、それよりも、クライン派はさ、そもそも、何を考えてるんだ? この戦争を起こしたのは誰だよ? プラントが独立を勝ち取る為って理由をつけて、自分達も一緒になって、戦争になるのがわかっていて、自分達から引き金を引いたんだろう? なのに、今更、自分達の業から目を背ける様な訳のわからんことをしやがって! 本当に、自分達がしたことの意味が解ってるのか!? もしも、戦争に負けたら、これまでの犠牲が無駄になるどころかっ、プラント自体の存続、いや、ここに住む住民が皆殺しにあう可能性だってあるんだぞっ!? 何のために! 何のためにっ! 何のためにっ!! この戦争で、敵味方関係なくっ! 多くの犠牲を出したんだっ! もしも、この騒動の原因がっ! ただ単に、クライン派が権力を持ちたいだなんて考え方ならっ! 今すぐっ! 俺がっ!! 連中にっ!!! 引導を渡しに行ってやるっっ!!!!」
「お、落ち着け、ラインブルグ!」

 落ち着いてなんて、いられるか、ちくしょうめっ!

「若造」
「……何かっ!」
「貴様の気持ちはわかった。……だから、少し、落ち着け」

 ザラ議長に、苦笑と一緒に、何か、大人の貫禄を見せ付けられてしまった。


 むぐぅ、精神的には、俺も同じぐらいのはずなのに……。
11/02/06 サブタイトル表記を変更。


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